カレー粉国産化第1号の誇りをもって これからもカレーと共に歩み続けます。
ハチ食品株式会社 / 代表取締役社長 高橋慎一氏
カレーほど日本人に愛されている料理はないでしょう。スーパーに行けば、欧風・インド・タイなどレトルトカレーが種類豊富に並び、カレー専門店も百花繚乱。特に大阪は、「大阪スパイスカレー」という新ジャンルが確立されたほどの“カレー王国”です。しかし、大阪に日本で初めカレー粉を国産化した会社があることをご存知でしょうか。1845年創業の『ハチ食品』です。「カレーと共に これまでも これからも」をキャッチフレーズに掲げ、スパイスの新たな可能性を切り開く同社の代表取締役社長・高橋慎一氏にお話を伺いました。
カレーを日本の国民食に押し上げた
カレー粉国産化第1号企業
子どもの頃、夕暮れの家路を急いでいると、どこからともなく漂ってくるカレーの匂い。クンクンと匂いを辿って着いた先が自宅だとわかった時どんなに嬉しかったか、数十年経った今でも覚えています。
ある時はカレー粉と小麦粉を炒めたルウから作ったものだったり、ある時は固形ルーを溶かしたものだったり。手間のかけ方は違っても、「今日の晩ごはんはカレー」というだけで心躍ったものです。
今や、常に小学校給食の人気メニューランキングでトップに挙げられるカレー。スーパーに行けば、固形ルウもさることながらレトルトカレーが多種多彩に並びます。日本の国民食の一つと称されるのも至極当然のような気がします。
「日本で初めてカレー粉を国産化したのは弊社の二代目今村弥兵衛で、1905年のことです。『蜂カレー』という名で売り出しました。日本全国にカレーが広まったのは、カレー粉が国産化されたことも要因の一つではないかと。そう考えると、現在のカレー人気に弊社も少しは貢献しているのかなと思いますね」。
国内工場の徹底した品質管理で加工から製造・包装まで。
スパイスの強いこだわりと秘伝の調合・ブレンド技術。
日本におけるカレー粉のパイオニアと呼んでも過言ではない「ハチ食品」。スパイスへの数々のこだわりは、“日本の国民食カレー”の礎を築いた企業としての矜持といえるのではないでしょうか。
新鮮で風味豊かな旬のスパイスを世界各地から厳選するのはもちろん、スパイスの特性に合った加工を施し、独自のブレンド技術をもって、コク深い味わいに仕上げていきます。
「一言でスパイスと言っても、世界で数百種類もあり、利用部位も葉・実・種・茎…というように様々、粉砕加工も高速粉砕やロール粉砕等、それぞれスパイスに合った方法で粉砕し、数十種のスパイスを秘伝の調合で仕上げていくんです」。
用途やニーズに合わせて調合した後は、焙煎です。より風味豊かに、より味わい深くするため、スパイスの投入順序・焙煎温度・焙煎時間などを細かく調整し、徹底した品質管理のもとで商品化するのです。
宍粟工場 兵庫工場
駒ヶ根工場 レトルト殺菌機
「大手から中小まで同業他社は数多くありますが、弊社のようにスパイスの加工(粉砕、焙煎)からカレー粉の調合、ルウの製造、レトルト商品の製造まで国内の自社工場で一貫して行っているところは少ないと思います」。
加工したスパイスを使って行うカレー粉やルウ・レトルト・各種スパイス製品などの製造や包装も国内工場で行う徹底ぶり。美味しいプラス安心・安全が「ハチ食品」のスタンダードなのです。
創業は江戸末期。
薬種問屋から「蜂カレー」誕生
「ハチ食品」の歴史は、江戸時代末期までさかのぼります。1845年、初代今村彌兵衛が現在の大阪市中央区瓦町に薬種問屋「大和屋」を開いたのが始まりです。そして1905年、二代目今村弥兵衛が日本で初めて国産カレー粉を製造し、「蜂カレー」と名付けて販売するのですが、「決してハチミツが入っていたからではありません」と高橋氏。
『薄暗い蔵の中でカレー粉を作っていた弥兵衛。ふと顔を上げると、窓に1匹の蜂が止まっていて、その蜂に朝日が注がれ、黄金とも飴色ともいえるような輝きを放っていた。その輝きが何とも素晴らしい光景に見えたため、弥兵衛はこのカレー粉を「蜂カレー」にしようと決めた』というエピソードが語り継がれています。
今村彌商店(現:ハチ食品)
「カレー粉自体はイギリスで生まれて明治の文明開化の頃に日本に紹介されていました。弥兵衛はカレーがどんなものかを知っていたので、蔵の中にしまってあったウコンや唐辛子といった漢方薬を自分で調合して作ってみたんだと思います」。
スパイスの調達に苦労した戦中戦後を乗り越えて、1957年には社名を「蜂カレー株式会社」へ。1968年に現在の「ハチ食品株式会社」へと変更されました。
優れた開発力と機動力で
細分化されたニーズに応え続ける
スパイスの特性を活かし切る確かな技術力と、時代や顧客の細かなニーズに対応できる柔軟性。これらの強みを活かして「ハチ食品」は様々な取り組みを行っています。
一つ目は、コラボ商品。2019年には生活情報誌「レタスクラブ」と協力して大きな具がゴロッと入ったレトルトカレーや、乳酸菌や食物繊維が入ったカレールウとカレー粉を生み出しました。そして今年は旅行雑誌「るるぶ」とコラボした商品をリニューアル。大阪・北海道・沖縄・京都をイメージした“食卓で旅行気分を味わえるカレー”を発売予定です。
「OEMやプライベート商品の生産が多いのも弊社の特徴です。弊社の開発力や機動力に注目してくださるところからお声をかけていただきます。企業ブランドをさらに定着させることにもつながりますので、コラボ商品はどんどん取り組んでいきたいです」。
二つ目は、オリジナル商品のブラッシュアップ。スパイスの特徴をさらに活かし、際立たせた商品を開発中です。また、大豆ミートを使ったり、グルテンフリー商品を発売するなど、細分化されたニーズへの対応も行っています。
さらに、「これまでは他社とすみ分けるためにディスカウントストアや100均ショップなどで販売する低価格帯商品が主流でしたが、これからは中価格帯商品にも力を入れていこうと考えています」。
カレー粉国産化第1号の誇りを胸に、カレーと共に歩み続ける「ハチ食品」。
大阪人(オオサカジン)としてはこれからも応援せずにはいられません。