「ありがとう」が苦難を乗り越える鍵になる 日本初の電気錠メーカーが切り拓く新時代

株式会社JEI / 代表取締役社長 山之口 良子 氏

ありがとう」という気持ちがあれば、どんなことでも切り拓いていけます。

快活な口調でそう断言するのは、株式会社JEI(旧社名:日本電子工業株式会社)代表取締役社長山之口良子氏。同社は1962年に山之口氏の父・宮崎長生氏が創業し、国産初の電気錠メーカーとしてあらゆる建造物の電気錠関連機器を手掛けてきました。現在はウィズコロナ対応の非接触電気錠換気電気錠など、時代に則した商品の提案にも力を入れている。山之口氏は輝いた瞳で前を見ながらこう続けます。
「ありがとう」が苦難を乗り越える鍵になる 日本初の電気錠メーカーが切り拓く新時代

今でこそ「感謝経営」を弊社の指針として掲げてはいるのですが、代表着任当初の私に一番欠けていたのがこの「ありがとう」という感謝の気持ちでした。その頃の私は会社がうまくいかないのを周りのせいにし、創業者である父や従業員を責めてばかりいました。しかしそれは間違いで、全ての原因は自分自身にあったのです。そう気づけたことで、私の人生観や経営指針は180度変わりました。

山之口氏は何をきっかけに心境を変化させ、「感謝経営」を掲げるまでになっていったのだろうか。父・長生氏との思い出や、代表着任後の紆余曲折とともに語っていただきました。


生命(いのち)を守る製品を世に


株式会社JEIの創業は1962年。日本の多湿な気候で劣化しやすかった海外産の電気錠に着目した山之口氏の父・長生氏が、自身で開発した完全密閉型の電気錠「フリーロック」を販売したことから始まりました。堅牢な品質で評判と信用を得たことで、公共施設や企業ビルなどのほか、日本銀行・裁判所・警察の交通管制室・核物質管理室といった、高い機密性を必要とする重要機関でも採用されるようになっていきます。
「ありがとう」が苦難を乗り越える鍵になる 日本初の電気錠メーカーが切り拓く新時代

現在は高齢者施設3,000か所・オフィスビル1,000棟・精神病院200棟でもご使用いただいてます。また弊社の電気錠は、施錠と解錠をシステムコントロールできる強みを活かし、火災や地震を感知し一斉自動解錠できる機能を標準搭載してるんです。阪神淡路大震災の時には、この機能がお客様のお役に立てたことをほんと実感しました。地震で扉が歪み開けられなくなる前に自動解錠し、お客様の避難経路確保に貢献することができました。このように、防犯だけでなく防災にも注力することが、命を守るものづくりを使命とする私たちの役目だと考えています。父は広島の原爆によって弟を亡くす経験をしました。そこから「命を守るものづくりをしたい」という父の想いが生まれ、この株式会社JEIという会社が創られたのです。この原点は、これから先も変わることなく今も事業の根幹にあり続けています。

第二次世界大戦末期となる1945年8月6日、広島に人類初の原子爆弾が投下され、強烈な熱線・放射線・爆風によって街は一瞬にして灰塵に帰し、無差別的に多くの人命が奪われました。広島を疎開先としていた父長生氏は弟とともに被爆し、爆心地近くの勤労奉公先にいた弟が命を落としました。想像を絶する惨状と弟の死を体験し、長生氏は戦禍を生き延びた者としての使命を生涯にわたって抱き続けることになります。JEIが掲げる「命を守る技術を拓く」という企業スローガンの背景には、長生氏のそんな想いが込められています。


年商2倍分の借金とともに引き継いだ事業


山之口氏が実際に代表となったのは2007年でした。当時の会社には年商2倍分の借金があり、倒産寸前状態に陥ってました。堅調に事業を拡大していたにも関わらず、なぜ借金が収益を上回ってしまったのだろうか。
借金の原因は父の膨大な研究費でした。事業化には至らなかったのですが、父は電気錠のほかに自動車のブレーキシステムの開発に情熱を注いでいたんです。電気錠の事業が安定してきた90年代頃からでしょうか、父は会社に出社することなくそちらの開発に没頭するようになっていきました。開発に必要だといって歯止めなく会社のお金を使うので、私は父とよく対立をしてました。父の研究開発費によって会社の借金が年商の倍に膨らみ、このまま行けば倒産しかないという状態になったのが2007年です。「世の中の交通事故を無くし人の命を守るんだ」という父の純粋な想いは十分理解してましたが、会社を立て直すためにも半ば無理やりに、やむなく父に代表を退いてもらいました。

「ありがとう」が苦難を乗り越える鍵になる 日本初の電気錠メーカーが切り拓く新時代

世のために」という高い志を持ち、寝食忘れて研究に身を捧げる父の姿を間近で見ていた山之口氏。できれば研究を成就させてあげたかったが…と複雑な胸の内を語りました。


限りある生命と限りある身体


父・長生氏と激しく対立した後、倒産寸前の会社を引き継ぐことになった山之口氏だが、着任直後にガンを患っていることがわかり、実務に就く前に入院を余儀なくされます。
代表になったもののすぐ入院することになり、その後1~2年間は入退院を繰り返していました。家族の支えで今は寛解していますが「健康」とは当たり前のことではないのだと痛感しました。それでいつ死ぬかわからないなら、前からずっと行きたかった「盛和塾」(※①)へ行こうと決めたのがこの時です。
※①盛和塾:京セラ創始者の稲盛和夫氏が塾長を務め、若手経営者に対して自身の経営哲学を伝えることを目的として設立された経営塾。1983年から2019年までの開塾中に約1万5千人が入塾、現在第一線で活躍している多くの経営者に影響を与えた。


「全てあなたの責任です」という言葉


2008年山之口氏は盛和塾の門を叩いた。そこで得た一番の学びは「感謝の気持ち」だったという。
「ありがとう」が苦難を乗り越える鍵になる 日本初の電気錠メーカーが切り拓く新時代
入塾して間もない頃、先輩塾生に自分の会社がいかに大変かを話したことがありました。すると「それは全てあなたの責任です。経営者としてあなたの心が高まっていないから、そうした悪いことが起こるのです」と諭されたんですね。こんなに頑張っているのに全て私のせいなのかと、その時はショックで涙が出るほどでしたが、学びを深めていくうちに言葉の真意が理解できるようになっていきました。
同じひとつのものでも、光の当たる方から見るか影になっている方から見るかで、全く見え方が変わりますよね。それと同じで、会社の経営に無頓着な父への怒りの反対側にあるものを見ようとすることで、これまで父が愛情を持って私を育ててくれたことや、苦労しながら事業の礎をつくってくれたことへの感謝の気持ちが自然と湧いてくるようになりました。「視点を変える」という本当に些細なことなのですが、それだけで気持ちがガラリと変わりました。それまで父に言えなかった「ありがとう」が言えるようになったんです。
また塾長が「息をしていることに感謝する」と話された際もハッとさせられました。病気をして健康が当たり前ではないことは身にしみて感じていたのですが、息をすることや生きていることさえも、よくよく考えたら当たり前ではないんですね。こうやってあらゆることに感謝できるようになると「感謝できる」ということ自体も幸せなことなのだと思えるようになっていきました。お客様・従業員・家族、全てに対して「ありがとう」の気持ちで接する私の「感謝経営」は、ここから始まりました。
山之口氏は盛和塾を終了した後も稲盛経営哲学を北大阪経営塾で学び続け、自己研鑽のため倫理法人会などの勉強会にも参加し。自身の心を高めていった。


「感謝の心」で危機を乗り切る


病状が安定して会社に復帰すると、今度はリーマンショックという世界規模の金融危機が山之口氏の前に立ちはだかります。
弊社の事業は、主に新築建造物への電気錠導入で収益を上げていました。ですから新築が建たなくなったこの時期はかなりの苦境でした。幸運だったのは、私が盛和塾を受講した後だったということです。「起こってもいないことを心配するな」という塾長の教えがあったので、先行きを無闇に心配することはしませんでしたね。今がどん底だからやればやった分だけ上へ行ける、そんなふうに捉えていました。私は従業員に経営状態をありのまま見せ、誰かが何かしてくれると思わず、自分が会社に何ができるかを考えてほしいと伝えました。そうすると、ありがたいことに従業員全員が会社のために奔走してくれたんです。営業経験のない技術担当者が「お客様のところへ行ってきます」と言って動いてくれたりもしました。

「ありがとう」が苦難を乗り越える鍵になる 日本初の電気錠メーカーが切り拓く新時代

従業員みんなで危機を乗り切ろうと手を尽くしたことで、既存顧客のアフターフォローに高いニーズがあることが見えてきた。これを機に山之口氏は、長期使用機器の代替えや修理、定期検査といった既存顧客に対するサービスを強化していった。現在はそうした既存顧客向けの事業が収益の半分を占めるようになっているという。

2020年から始まったコロナ禍も、事業を見直す契機となりました。弊社には「ケアロック」という自社オリジナルの採風電気錠があるのですが、これを換気電気錠としてコロナ禍に則した新しい価値で提案するようにしたのです。

「ありがとう」が苦難を乗り越える鍵になる 日本初の電気錠メーカーが切り拓く新時代

ケアロック」は、窓を13㎝ほど開けた状態で施錠できる電子錠で、主に高齢者施設での使用を想定して作られた。窓から身を乗り出せない幅で施錠し、入居者の徘徊や転落を防ぎながら外気を室内に取り入れることができる仕組みです。この「ケアロック」を新型コロナウイルス感染症防止策となる「換気電気錠」として、幅広いニーズに応えられる切り口に変えて提案が始まっています。
カードキーや顔認証キーなどについても、非接触ニーズに応える電気錠として問い合わせが増えています。そのほか3密回避に配慮した室内定員の管理システムなども、コロナ禍によってニーズが増加しています。間接的な遠隔操作や管理が可能な電気錠の特性が、新しい生活様式に見事に合致したため、もともとあった弊社の既存品やサービスが改めて注目されるようになったのです。


念ずれば花開く


創立60周年を前にした2020年、山之口氏は本社を生野区から阿倍野区へと移転しました。その新社屋入り口に、ひとつの詩碑が建てられています。
「ありがとう」が苦難を乗り越える鍵になる 日本初の電気錠メーカーが切り拓く新時代

詩碑に書かれた「念ずれば花開く」とは、愛媛の詩人坂村真民先生(※②)が「いつも母に言われていました」と仰っていました。その詩碑を見て私はいつも励まされています。
※②坂村真民:日本の仏教詩人。本名昂。一遍の生き方に共感し、癒やしの詩人と言われる。特に「念ずれば花ひらく」は多くの人に共感を呼び、その詩碑は全国、さらに外国にまで建てられている。

そう話す山之口氏に笑顔がこぼれます。父との対立・自らの病・経営危機といった様々な試練を乗り越え、それら全てに感謝できるようになった山之口氏は、花が開いた時のような明い輝きを放ち続けています。

株式会社JEI
本社:〒545-0023  大阪市阿倍野区王子町4-1-83
オフィシャルサイト:https://www.jei.co.jp/


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