天秤、分銅を製作して1世紀以上。「社会の根幹を支える」誇りが脈々と

株式会社村上衡器製作所 / 代表取締役 村上 昇 氏

株式会社村上衡器製作所の「衡(はかり)」は「度量衡」の衡。度は長さ、量は体積、そして衡は重さを指す。つまり同社は、重さを測る天秤や分銅を製作しており、特に小学校などの教材用上皿天秤は8割以上と圧倒的なシェアを持つ。長さや重さの単位を統一することは国際商取引や貨幣の鋳造において必須。日本では尺貫法という決まりごとがあったが、現在は国際基準に合わせてメートル法に統一されている。「貨幣と計量は国の根幹」と言う4代目の代表取締役 村上昇氏は「より精度の高いものを作っていきたい」と淡々と話す。

天秤、分銅を製作して1世紀以上。「社会の根幹を支える」誇りが脈々と

厳しい国の認可基準をクリア。企業所有の天秤の検査も行い、正確さを維持



村上衡器の創業は明治39(1906)年。120年近い歴史を刻んでいる。村上氏の曽祖父にあたる初代村上佐助氏が、秤(はかり)の職業訓練所のようなところに入って技術を身に着け、35歳で天秤専門メーカーとして創業したのだ。2代目が製品の改良・考案に努めて事業を拡大して確固たる地盤を築き、戦後株式会社に改組した。天秤の製造には国の免許が必要で、初代が厳しい審査の末この免許を取得する。現在の村上氏の名刺には「※①一般計量士」の肩書が印刷されているが、これも国家資格で、同社には3人の計量士がいる。

※①一般計量士:一般計量士とは、計量法に基づく、経済産業省所管の国家資格であり、質量、長さ、体積などの計量を専門とし、工場などの設備・機械の計量や計量器の点検・管理などを証明するのに必要。
天秤、分銅を製作して1世紀以上。「社会の根幹を支える」誇りが脈々と
この業界はどこも社歴が長いですね。逆に言えば、新規参入があまりない業界です。市場規模はそれほど大きくないですが、天秤や分銅は商取引や製薬などの仕事においては欠かせない機材ですので、コンスタントに売上を挙げています。当社の売上は、分銅が4割、秤が1割、残りがサービスという割合になっています。分銅は使っているうちに摩耗するなどして重さが変わってきますので、定期的に検査(校正)をしなければなりません。変動していた場合、お客様のご要望があれば修理します。これらがサービスの仕事で、こちらも国の認可を受けた業務となっています。


国際キログラム原器からプランク定数へ。基準が変わっても頼りになるのは職人技



重さがものによって、あるいは測るたびに誤差があっては困ったことになる。たとえば、調剤する場合には正確な分量が分からなければ安全で効果のある薬も作れない。では、そもそも重さの基準はどこにあるのだろうか――。
1キログラムは水1リットルの重さ、ということは多くの人が知っているだろう。実際、重さの単位が世界の国や地方で異なっていた約230年前にフランスで「キログラム」という単位が定められたとき、1キログラムの定義は水1リットルの重さとされた。しかし、その後の科学技術の発展で、この定義では誤差が生じることが分かり、1889年に「国際キログラム原器」が作られた。白金とイリジウムの合金で、高さ、直径がそれぞれ39ミリの円筒形の分銅だ。日本ではこれの複製を「日本国キログラム原器」として大切に保管され、日本での重さの最高基準として使われてきた。しかし、原器自体が1年に1マイクログラム(1000分の1ミリグラム)ずつ重くなるとされる。そこで2019年から国際的な重さの基準として、物理学で使われる※②プランク定数というもので定義されるようになった。

※②プランク定数:プランク定数は、光子のもつエネルギーと振動数の比例関係をあらわす比例定数のことで、量子論を特徴付ける物理定数である。 量子力学の創始者の一人であるマックス・プランクにちなんで命名された。 作用の次元を持ち、作用量子とも呼ばれている。

天秤、分銅を製作して1世紀以上。「社会の根幹を支える」誇りが脈々と

当社には日本国原器の孫にあたるような分銅(特定二次標準分銅)があって、これを重さの基準にしています。2019年にプランク定数が採用されても、当社の特定二次標準分銅が引き続き基準として利用できることが確認できたことで、ほっと胸をなでおろしました(笑)。現在、国内および国際規格において規定されている分銅の最小質量は1ミリグラムですが、当社で作っている最軽量の分銅は0.1ミリグラム~0.5ミリグラムのサブミリグラム分銅です。耐腐食性に優れたチタンのごく薄い板をカットしたもので、最大許容誤差は±0.003ミリグラム。当社はこの領域で日本で初めての登録校正事業者として認定をされました。精密さを実現するのは、最終的には職人のハンドスキル。職人は先輩から教えられて技術を習得していきますが、5年くらいはかかります。分銅は高い精度が求められますので、仕上げには柔らかい素材で磨き上げるバフ研磨という工程があるのですが、最後は職人の感性とこだわりが重要になります。


「信用」を売る質実剛健な社風。従業員待遇も手厚く


村上氏は大学の機械工学科卒で、産業用機械の設計に3年間携わり、イギリスに語学留学した後、2004年に入社。入ってすぐに、分銅の国際規格が変わるというので、外国の論文などを翻訳してこの世界の知識を蓄えていったという。同社も2009年に新JISマーク表示制度における「分銅」の認証を国内で初めて取得するなど、その技術と製品の精度の高さには定評がある

天秤、分銅を製作して1世紀以上。「社会の根幹を支える」誇りが脈々と

分銅も天秤も買っていただいた会社で正確かどうかは調べられません。当社を信用して買っていただいていますので、我々は信用を売っていると思っており、ものづくりには愚直な姿勢を貫いています。作っているものが正確・精緻なものですので、社風も質実剛健というか、決して華美なものではありません。採用を新卒だけにしているのですが、これもうちのカラーに最初からきっちりとなじんでほしいためです。一方、従業員には物心両面で手厚くするという社風が脈々と生き続けています。給与面はもちろんなのですが、休日は年間130日あります。加えて有給休暇も最低3日は必ず取得してもらっています。

正確な計量は「文化の向上に寄与する」ことを信じて



※③計量法は第1条に、「計量の基準を定め、適正な計量の実施を確保し、もって経済の発展及び文化の向上に寄与すること」を法律の目的とすると定めており、村上氏はその文中の「文化の発展に寄与する」というくだりに、衡器製造会社としての誇りを強く感じている。

天秤、分銅を製作して1世紀以上。「社会の根幹を支える」誇りが脈々と

※③計量法:計量法は計量の基準を定め、適正な計量の実施を確保し、もって経済の発展及び文化の向上に寄与することを目的とする日本の法律。経済産業省が所管する。

私は質量計測のさまざまな規格を愚直なまでに順守する技術力こそ、工業立国日本を支える真の力になると信じ、我々の仕事は地味ではございますが社会の根幹を下支えているんだと強く感じています。今後も、最も高い精度が求められる※④E1級の新しい分銅の開発に、国と共に連携して取り組んでまいります。

※④E1級:JIS B7609:2008「分銅」では、質量の公称値 が 1mg から 5,000kg までの分銅について、精度等級が(E1 級,E2 級,F1 級,F2 級,M1 級,M1-2 級,M2 級,M2-3 級,M3 級)にわかれておりその最上級がE1 級。

さらに村上氏は計量・計測の分野で1世紀以上必要不可欠な会社として受け継がれてきた村上衡器製作所を、次の100年に引き継いでゆきたいと心に念う。

株式会社村上衡器製作所
本社:〒535-0005 大阪市旭区赤川2丁目10番31号
オフィシャルサイト:https://www.murakami-koki.co.jp/

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