株式会社ブロードエンタープライズ 代表取締役社長 中西良祐 氏

2000年に設立された株式会社ブロードエンタープライズ（大阪市北区）は、インターネットが今ほど普及していなかった時代に、いち早くマンションへのインターネットサービスの導入を進めて急速に成長。スタート時に4人だった社員は約150人に増え、「マンション管理をIoTでスマート化する」をスローガンに、実績と手厚いフォロー体制で高い評価を得ている。
しかし、それ以上に際立っているのが、社員に対する福利厚生の手厚さと幅広い社会貢献事業への取り組みだ。
起業時に「社員が働きやすい会社に」と決意した代表 中西良祐氏の思いは、20年以上たっても全くブレていない。

加速し始めたITにいち早く目を付けた「先見の明」

創業した2000年といえば、「国民が情報通信技術を活用できる日本型IT社会を実現する」との構想の下、IT基本法が成立した年。Googleが日本語の検索サービスを開始し、日本で初のネット銀行が開設され、インターネットの人口普及率が37.1％にまで伸びたものの、社会全体で見ると、ビジネスや行政でITの活用が徐々に加速し始めたころだ。ブロードエンタープライズはそんな時代に、インターネットに目を付けた。

企業でようやくLAN（同一の敷地・建物内等に構築されたネットワーク）を引くようになった程度で、パソコンもまだ1人1台行き渡ってはいない状況でした。でも、まったく不安はありませんでしたね。まだ26歳で結婚もしていませんでしたから、貯金の50万円をはたいて、自宅マンションを事務所に会社を立ち上げました。20代だからよかったんでしょうね。30代だと守りに入って、思い切ったことはできなかったかもしれません。

　

全戸にインターネット網をつなげ、マンションの満室経営をサポート

ブロードエンタープライズの主要な事業は、マンション向け高速インターネット「B-CUBIC」と、IoTインターフォンシステム「ブロロック」の販売。「B-CUBIC」はマンションの全室に共用部から配線をつなぎ、インターネット利用を可能にするシステム。初期導入費用がかからずWi-Fi対応も可能なうえ、入居者からの問い合わせには自社運営のコールセンターで応じるサービスもあり、マンションオーナー様の負担を大きく軽減している。
「ブロロック」はマンションのエントランスをオートロック化するインターフォンシステムで、スマートフォンと連携しているため、どこにいても来客や宅配業者への対応が可能だ。こうしたシステムの導入によってマンションの付加価値を高め、空き室を極力少なくすることで、マンションオーナー様の経営をバックアップする狙いがある。

2003年が転機になりました。NTTがマンション向けに「Bフレッツ」を入れることになって声をかけていただいたのです。NTTの電話回線を使ってインターネットを各部屋に引き込むVDSLモデム（デジタル加入者線。加入者線とは電話局から家庭に引かれている電話線のこと）を、オーナー様に頼んで置いてもらう仕事です。ただ、NTTの対象が20世帯以上のマンションだったのですが、多くの管理会社にアクセスしたものの20世帯以上を扱っているところが少なかった。それで、独自に20世帯未満のマンションを対象に、2005年から「B-CUBIC」の販売を開始し順調に業績を伸ばしていくことができました。
導入マンションは現在までに約6500棟13万室にのぼります。新築は少なく、ほとんどが既存のマンションです。「ブロロック」の販売開始は2019年ですが、こちらも既存マンションへの後付けが可能で、設置からアフターフォローまで一貫対応しています。

社員が働きやすい会社でなければ、起業の意味なし

中西氏は大学卒業後、2つの会社勤めを経験している。最初は教材販売会社だったが、今で言うブラック企業。強引な販売や劣悪な職場環境のため人が長続きしない会社で、中西氏も早々に退職。2つ目は通信関係の会社で、OA機器や複合機の販売が主な業務だった。売りやすく成果が出やすい会社だったが、せっかくの良さが生かされていないと感じて上司に改善を提案したものの全く変わらなかったため、転職を決意した。この会社勤務時代の体験が、「働きやすい会社」を最優先する思想を生んだ。

家庭の事情で、小学生のころから祖父母に育てられたことも背景にあったと思います。祖父母は何でもやらせてくれましたが、やはりさみしいという思いはありました。ですから、うちの会社に来た子たちを家族のように大事にしたい、会社をつくるならそんな会社でなければダメだと考えたのです。
当社の経営理念には「CS（顧客満足）、ES（社員満足）、社会貢献」を掲げていますが、従業員が一番と思っています。もちろん、お客様のためという気持ちは大事にしていますが、CSがうまくいけば収益につながり、それは社員に還元すべきものだという思いです。

充実した福利厚生。ペットの医療費まで会社が負担

その思いは、同社のホームページにしっかり表現されている。代表あいさつや企業理念と並んで「福利厚生」の項目があり、そこには「いのちだいじに」「しっかりやすめ」「みんながんばれ」「みんななかよく」「おかねはたいせつ」の5つの編ごとに、社内の各制度が網羅されている。たとえば、「いのちだいじに」編では、予防接種や健康診断の費用、医療費を会社が負担することを紹介しているが、健康診断は社員の奥様も対象。医療費はペットの分まで負担するというのだ。

私も犬と猫を飼っているのでよくわかるのですが、ペットも家族なんです。休暇制度では、誕生日や結婚記念日など、年に1日「アニバーサリー休暇」をもうけていますし、有給休暇は取りにくいという考え方を壊すために、社員が1日有給休暇をとると、会社が様々な団体に募金する制度もあります。そして、何より給料は一番大事です。定期昇給制度や各種手当はもちろん、売上が増えれば可能な限り社員に還元しています。売上は「喜び料」だと位置づけ、仕事で頑張って売上を伸ばすことは、社員一人一人の喜びを大きくすることだという意識で、経営陣も社員も同じ方向を向いていると思っています。このほか、スキルアップ支援やお菓子のプレゼントなどもあります。

時代の変化とは真逆の道を進む「ワンワン経営」

日本の企業社会は、長年続いてきた年功序列が崩れ、社員の意識もみんなで群れることを嫌うように変化してきているが、この会社はこうした変化の真逆を行くと言ってもいいだろう。中西社長自身、ワンマン経営ならぬ「ワンワン経営」だと認める。つまり、犬が群れで暮らすように、社員がみんな家族のように仲良く支え合える経営を目指しているというのだ。

会社には野球やフットサルなどのチームがあり、土日にはチームで遊んだりしています。採用にあたっても、温かい会社を求める子が来てくれます。僕たちも、家族のような会社づくりという方針をはっきり伝えますので、入社後にミスマッチだったと後悔することはありません。僕はこういう経営しかできないんです。

「私たちは社会に支えられて生きている」――社会貢献活動にもつながる思い

こうした会社の運営方針は社外にも向けられ、社会貢献活動にも力を入れている。その取り組みは優に10を超える。ペットボトルのキャップを分別収集し発展途上国などでのワクチン購入費に充てる▽アジア植林友好協会の植林代行サービス「MｙTree」を利用して、毎日の募金でたまったお金で植樹する▽「Table For Two」プロジェクトに参加してアフリカの子どもたちの給食費を寄付する――などのほか、より身近な地域の清掃活動や、不登校のこどもを持つ親たちでつくる「フリースクール　フォロ」への支援活動も続けている。

私たちは社会に支えられて生きていることを忘れてはいけないというのが私の信念です。こうした活動を行うことによって、社員もさまざまな気づきを得ます。たとえば、全支店で地域の清掃活動をしていますが（コロナの影響で現在は休止中）、それによって喜んでくれる人がいることを知ります。自分たちの行為が人の役に立つことの喜びを感じられるわけです。フォロ様からは、定期的にお手紙と子どもたちの写真が届きますが、それを読み、見るだけで、つながりが感じられます。コーポレートスローガンに「ひとくふうで笑みを。」と掲げていますが、仕事上の工夫を凝らすことにとどまらず、人、即ち社員が誰かのために工夫することで、誰かが笑顔になるんだということを示しているつもりです。
これから会社がもっと大きくなっても、こうした思いが置き去りになるようなことだけはしたくはありません。

2021年12月 上場セレモニー

　

株式会社ブロードエンタープライズ
大阪市北区太融寺町5-15　梅田イーストビル9階
オフィシャルサイト：https://broad-e.co.jp/

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