アイデアと開発力でリードするネジ業界のパイオニア

株式会社九飛勢螺(きゅうぴせいら) / 代表取締役社長 新城公生氏

一口にネジと言ってもさまざまな種類がある。その業界において、下穴を開けずに打ち込めるドリルネジで独自の製法を考案「「ピアスビス」のブランドで成長したのが大阪市住之江区にある株式会社九飛勢螺(きゅうぴせいら)だ。現在も新しいネジの開発・販売で業界をリードし、年間生産量は約10億本にのぼる。ドイツをはじめヨーロッパ等、海外にも販路を確立している。「開発魂にあふれた」父を継いだ2代目の代表取締役社長 新城公生氏は「アイデアを考えることはとても大切ですし、新しいものへ挑戦を続けることは宿命だと思っています」と話す。

アイデアと開発力でリードするネジ業界のパイオニア

確立した「ピアス」ブランドに頼らない心意気を示す社名



やはりまず気になるのはこの社名。「きゅうぴせいら」と読む。2013年の設立だが、前身は鹿児島県で1972年に設立された製造会社「株式会社九州新城」と、その販売会社として10年後に生まれた「ピアス販売株式会社」。両社が合併し生まれた。新社名をどうするかで、かんかんがくがくの議論の末、若手社員からポッと出た「九州とピアスだから『きゅうぴ』でいいんじゃないですか」という意見が採用された。

実は「ピアス」はブランドとして浸透しているうえ、九州の名前をなくすのは、九州の社員に申し訳ないという思いの一方で、「ピアス」から脱却できないとすそ野を広げられず、ぬるま湯から抜け出せないという意識がせめぎあって、なかなか決められなかったのです。漢字表記については、「ぴ」と読める漢字が少ない中、「飛躍」につながる「飛」にし、「せいら」は、業界では「精螺」という名前もあって、それをもじって「勢い」を示すために「勢螺」と置き換えました。ちょうど、20年に1度行われる伊勢神宮の式年遷宮の年であったことも影響しています。

アイデアと開発力でリードするネジ業界のパイオニア


ネジメーカーの多い台湾の会社に間違われることも



「ピアス」と言えば、耳に穴を開けてつける装身具を思い浮かべる人が多いだろうが、ピアスには「突き刺す」「貫通させる」といった意味があり、そこから先代が、自社製品に「ピアス」と名付けた。英語表記で「九飛」を「QP」と表記するのも面白い。後付けのようだが、「Quality」と「Performance」につながるとの意味合いもあったそうだ。

遊び心で付けたと言われれば、そうした一面も否定できないかもしれませんね。付き合いの長い社長からは、「そんなわかりにくい社名やめといたら」と言われました。ネジメーカーは台湾に多く、初めて商品展示会に出展したときは、また台湾に新しい会社ができたのかと思ったと言われもしました。いまだに分かってもらえないことも度々あります。でも「元ピアス販売なんです」と言うと、「あのピアスさんですか」と返ってきます。それだけ、ブランドとして広く知られるようになっていたことには誇りを感じます。


削りかすを出さず安定した製品を生み出すプレス式製造のドリルネジでブレーク


「九飛勢螺」が得意とするドリルネジは、もともとアメリカで生まれた。日本のメーカーがライセンスを得て製造販売していたが、ピアス販売株式会社が開発した「ピアスビス」は、アメリカ製とは決定的な違いがあった。アメリカ製は削って作るため、時間とコストがかかるうえ、削りかすが多くて製品のバラツキが出やすかった。これに対してピアス販売はプレス式製造にしたため、そのアメリカ製の弱点をクリアしていた。

アイデアと開発力でリードするネジ業界のパイオニア

プレス式を採用したのには、先代の技術者としての信念とこだわりがあります。先代は10代半ばの戦時中、軍需用のナット工場で働いてました。途中、嫌になって逃げだしたことがあったそうなんですが、それは毎日出る大量のスクラップと削りかすを捨て続けることにうんざりしたから。その後軍需工場は終戦で解体されましたが、何年か後、再びネジの製造に携わるようになり、先代は2つのことを誓います。一つは逃げないこと。もう一つは、スクラップと削りかすを出さないことです。プレス式だと製品のバラツキが少ないうえ削りかすが出ないため、スクラップを極力抑えられます。さらに先代は製造機械を自分で改良して作ったため、同様にプレス式を試みた他社が相次いで失敗する中、唯一成功します。下穴を開ける必要がないため省力化できて作業スピードが格段に上がり、建築・設備業界でたちまちブレークしました。


「ピアスビス」から11年後に開発し、今も主力製品となっているのが「ピアスタ」。軸と頭部はステンレス、先端は焼き入れ鋼を使った硬度の高い複合金属製(※1)バイメタルネジだ。ステンレスはさびにくく美観を保てるが弱い。先端を強度のある鋼にすることで、強く打ち込めるという利点が生まれる。難点だった2つの金属をきっちりくっつける技術を自社で確立したことで複合金属製ネジのパイオニアとなり、現在も会社を牽引するネジのひとつとなっている。

(※1)バイメタル:バイメタルとは熱膨張係数の異なる2種類以上の金属または合金を、堅固に接着して仕上げたもの。

アイデアと開発力でリードするネジ業界のパイオニア

ピアスタがヨーロッパで受け入れられているのは、バイメタルのパイオニアとしての技術力と製品への信頼に加え、長年の実績で築いてきたブランドの力が大きいと思っています。九州新城は、自動車用ナットの製造から派生したのですが、車のナットというのは品質管理が非常に厳格なんです。バックボーンにそれがありますから、製品の安定性が生まれ、ブランド力につながっていったと思っています。
先代の時代は、新しい製品を作るとき、基本設計はすべて先代の頭の中で描かれ、それを技術者が形にするという具合。常に新しいアイデアを求めていた先代には、私が社長になってからも「ネジでとことんやり通したのか、やってないことまだまだあるやろ」と言われました。 


クギ打ち機で打ち込めるドリルネジ「ピアスバレット」。テレビで紹介され大反響



そして、「九飛勢螺」は2021年、また新たな製品を世に出した。市販のクギ打ち機を使って電動ドリルよりもっと短時間で打ち込めるドリルネジ「ピアスバレット」だ。MBSテレビで日曜朝に放送されている「(※2) がっちりマンデー!!」で2022年10月に取り上げられ、大きな反響を呼んだ。番組ではビデオ分析の結果「たった0.03秒で締まるネジ」と紹介された。ネジなのに、なぜ叩いただけで打ち込めるのか。そこにも多くの試行錯誤があった。

アイデアと開発力でリードするネジ業界のパイオニア

(※2) がっちりマンデー!!:『がっちりマンデー!!』は、TBSテレビ制作で、毎週日曜の午前7:30 - 8:00に放送されている生活情報バラエティ番組。正式タイトルは『応援!日本経済 がっちりマンデー!! 日曜に勉強!月曜から実践!』。出演者:加藤浩次、進藤晶子、他
ある展示会の案内を見ていて、クギ打ち機で打ち込めるネジの出展が目についたんです。早速展示会に行きました。ただ、このネジは木材用だったため、鋼材用が中心の当社には向きません。そこで、出展者と当社が連携して鋼材用ネジの開発に取り組むことになりました。ポイントは、ネジ山の角度。水平に近いほど抵抗が増しますので、クギ打ち機で打ち込むには角度を緩くしないといけません。でも、そうすると、ネジ山の数が少なくて固着する力が弱まります。それを補うため、4本のネジ山をらせん状に巻く工夫をして商品化に至りました。テレビ放映後問い合わせをたくさん受けており、何とかいろいろな要望に応えていきたいですね。

アイデアと開発力でリードするネジ業界のパイオニア


「ネジなら何とかしてくれる」と思ってもらえる、大きくなくても頼りになる会社に



単にブランドを頼るのではなくアイデア・工夫・開発力が「九飛勢螺」を支える原動力であることを如実に示している。同社のもう一つの特徴は、「従業員満足」を企業目的の前面に掲げていることだ。新しく社長になったときに、こう変えたという。

先代は開発力に富み、みんなを引っ張る力がありました。営業に行かなくても、そのネジを買わせて欲しいと言ってきてもらえるほどでした。でも私は違います。社長を継ぐ前、4年間ほど当時あった中国の工場で勤務をしたのですが、その時工場の人たちと懇意になって信頼をされ、組織を動かしていくことが自分の持ち味だと気づきました。製品開発にしても、各セクションに強い社員をバランスよく配置・組み合わせて行うやり方にしています。そのためにも社員が誇りとやりがいを持って、喜びと満足を得られる企業になる必要があると思ったのです。
もちろん、私も常にアイデアを思索しています。その為にもお客様が困っていること・探しているものがとても大切なんです。ネジのわからないことなら何とかしてくれると思われるような会社にしていきたいと考えています。「大きくなくても頼られる会社」それが我々の目指すところです。

アイデアと開発力でリードするネジ業界のパイオニア
アイデアと開発力でリードするネジ業界のパイオニア

そう語る新城氏は(※3)NHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」をいつも楽しみにしているという。なんとなくヒロインの舞ちゃんと新城氏の「あきらめず、前向きに何でも取り組む」姿が重なってくる。「ネジ」の中でさらにチャレンジを続ける九飛勢螺は飛躍するに違いない。

(※3)NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』:
『連続テレビ小説』は1961年度から放送されているNHKのテレビドラマシリーズ。通称:朝ドラ。『舞いあがれ!』のヒロインは福原遥!向かい風を受けてこそ、高く飛べる!空を見上げて飛ぶことをあきらめないヒロインの物語を通し、明るい未来への希望を届けます!

株式会社九飛勢螺(きゅうぴせいら)
本社:大阪市住之江区新北島4丁目3-44
オフィシャルサイト:https://www.qp-seira.jp/

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