2022年04月15日 09:30
近頃、糖質ダイエットなどの影響もあって白米を食べなくなっています。お米を毎日2合以上食べていた高度経済成長期までは、肥満や糖尿病の方はほとんどいませんでした。私は、白米を主食に一汁三菜の食生活に戻ることで、肥満や糖尿病などの生活習慣病が減るのではないか、食生活の歴史を振り返り、現代の食生活に生かす工夫をすること「不易流行」が、健康長寿の秘訣と考えています。
そうは言っても、時代の流れやお客様の声を反映させながら事業を変化させていくことは大変重要です。2021年に私たちは『美和堂(びわどう)』というブランドを立ち上げ、新しい食の提案をスタートさせました。私はこれを、舞昆におけるバージョン3.0の展開として位置付けています。
私は学生時代とんこつラーメンのスープづくりをしていました。その経験から、ガスの直火釜にレンガを貼ることで余熱で炊けるように工夫して、ホタテなどの魚介類と昆布をコトコト煮込むことで旨味をぎゅっと染み込ませた塩昆布を生み出しました。その商品がなんと農林水産大臣賞に輝きました。それはもうご飯を何杯でもおかわりしたくなる美味しさなんです。
先代の創業当時はレンガのかまどで炭火の炎による直火仕込み製法の超とろ火で6時間煮炊きをおこない、その製法で汁気が無くなり柔らかい食感になるまで煮詰め、昆布のうま味や栄養を余すことなく染み込ませることができるようになりました。
“こうはらさんの塩昆布があると、主人が美味しくてごはんを食べ過ぎてしまう。食べ過ぎは健康に悪いと言ったら夫婦喧嘩になってしまい、それ以来買うのを控えているんです”と言われるんですね。美味しすぎて夫婦喧嘩になるとは…、どうしたものかと考えました。そこでひらめいたのが“発酵”です。食品は発酵させると栄養価が高くなり、健康に良いと重宝されるようになります。味噌や納豆がそうですよね。同じように、発酵によって昆布の栄養価を高めれば、お客様の“健康に良くない”という悩みを解消できるのではと考えました。
まずは、世の中に昆布を発酵させた事例がなかったので、酵母を探すところから始めました。試行錯誤しながら見つけたのがアケビの花が持つ酵母です。なかなか安定して発酵させることができなかったので、途中から大阪府立大学の協力を得ながら開発を進めたんです。最終的に、パイナップル・リンゴ・発酵玄米・桑の葉・菊芋などの発酵原料も加え、美味しく健康的な発酵塩昆布を完成させることができました。この発酵昆布に黒舞茸を合わせて作ったのが『発酵塩昆布・舞昆』です。私はこれを、舞昆のバージョン1.0の段階と呼んでいます。
2020年に入ってから、舞昆の発酵原料に枇杷(びわ)を加えてさらに機能性を高めました。この段階の舞昆を、私はバージョン2.0と呼んでいます。枇杷が発酵すると血糖値の上昇を穏やかにする効能があるといわれるコロソリン酸が生成されるんです。ですから、バージョン2.0の舞昆とごはんと一緒に食べれば、自ずと血糖値への気遣いができるというわけです。
商品のほとんどは、親類やお客様の声をきっかけにして作っています。足が痛くて歩きにくいというお客様や、耳鳴りがひどくて電話が苦痛だという方、アトピーやうつ、認知症などもご飯を主食にすることで予防することができるのではないかと考え、白米を食べる習慣になってもらいながら、舞昆に薬効のある素材を加えて発酵できないかと考えるのです。商品開発の始まりは、いつもお客様の声からですね。馴染みの常連客の声がきっかけとなって看板商品の舞昆も作られたことから、身近な人の悩みや困りごとに寄り添う鴻原氏の親身な気持ちが「舞昆のこうはら」の商品作りの原点になっている。
ごはんを食べなくなった平成以降の世代に向けておかずが主食のポジションに置かれているために極端に炭水化物や食物繊維・ミネラルが不足しがちです。これでは腸内環境が悪く、便秘がちで、脂質やビタミンなど腸内細菌が作り出せず、どうしても食事のバランスが悪くなるんです。
そこでおかずの“お供”を作ろうという発想で生まれたのが「おかずジュレ」です。主食を美味しくするための“お供”というコンセプトは、ごはんのお供の舞昆に対峙しますね。また、おかずの味付が貧弱だとごはんが進まないという側面もあるので、おかずを濃厚に美味しく食べてもらい、“ごはんが食べたい”と思ってもらえるよう、旨味を凝縮しました。舞昆とは違った米食へのアプローチだといえるでしょう。これが舞昆のバージョン3.0の段階です。
経営塾では、開発・製造・販売を一貫して自社で行う私たちの経営手法なども伝えています。コロナ禍によって業態転換を迫られている飲食店や街中にある小売店舗の経営者の方に、食品小売という新たな販路を開拓するきっかけにしてもらいたく、さらに経営塾で学んだことをすぐに実践できるよう、美和堂をビジネスモデルとしたのれん分けを考えています。店舗オーナーのお店の地域に根ざした伝統食材や伝承料理のご当地舞昆をそのお店と一緒に開発して、地元市町村のふるさと納税返礼品にも掲載します。地域のイベントにも出店し、地域の名家として地元自慢の味として受け継がれる老舗になるような、のれん分けオーナーを募っているんです。
専門分野にこだわらず、お客様の生活に関わるさまざまな領域にも踏み込んでいける人材を求めています。例えば管理栄養士として入社した社員には、食事の栄養以外にも運動や睡眠といった生活全般に対する見識を身につけていただく為に抗加齢※1指導士の資格も取得してもらってますし、開発担当者であれば、サイエンスに裏付けられた商品開発にも目を向けてもらっています。
これからは、昆布のヌルヌルに魚の卵と昆布の種を仕込み、大阪湾の海底に流しこんで、昆布の森を作って海を豊かにしようという研究にも取り組んでいます。昆布由来のバイオプラスチック※2などは、石油系資材の使用量を削減するのに役立ちます。また、紙ストローを補強するのに昆布のヌルヌルを染み込ませた開発にも取り組んでいます。北極や南極に近いところほど未利用の昆布があります。せっかく昆布が光合成で炭酸ガスを固定化してるのに、未利用のために海底で分解され炭酸ガスに戻っているといったもったいない状態が続いていました。家畜や養殖の飼料だけでなく建築や土木、燃えないリチウム電池の副原料として、またひび割れしないセメントなど、食品以外にも使用することによって、炭酸ガスを固定化させるなど環境に優しい素材にもなりうるでしょう。
また私たちは鳥取県にある自社の農地で稲作をしていますが、精米をするときにたくさんの米ぬかが出ます。米ぬかを昆布と発酵させた機能性素材も開発しています。やりたいことが多くて、寝ている時間がもったいなく、短時間で熟睡して体力を回復できるサプリも作って実験をしています。