絶体絶命の倒産の危機に瀕しながら、 小さな資材で未来を切り拓いた100年企業

オオサカジン運営事務局

2023年08月04日 09:30

株式会社カジテック / 代表取締役社長 梶浦 昇 氏

長堀橋に本社を構える株式会社カジテックは、主にアパレル用副資材を取り扱う商社。その歴史の始まりは大正11(1922)年にさかのぼり、昨年創業100周年を迎えた。そんな社の歴史を4代目 代表取締役社長である梶浦 昇氏が語る。



弊社は私の祖父が起業しまして、当初は商品を卸すのとあわせて製造も行っていました。しかし太平洋戦争の空襲で社屋が焼失し、海外にあった自社工場も没収されたんです。それからは再建のために卸売業一本に特化し、ここまでやってまいりました


100年という長い歴史を振り返ればこの太平洋戦争をはじめオイルショック、バブル経済の崩壊など、さまざまな試練に見舞われたが、それらを乗り越えてきた。しかし1998年。社の根幹を大きく揺り動かす出来事が訪れる。最大の得意先だった大手ゴム靴メーカーが倒産したのだ。その年の総売上高20億円に対して、回収不能になった負債額は2億2,000万円。さらに半年後には8,000万円を貸し付けていた別の取引先も倒産と、追い討ちをかけられる。カジテック社も、連鎖倒産の危機に瀕した。



当時の私は取締役東京支店長だったのですが、正直なところ『会社は潰れる』と思いましたね。あのころはちょっとズルい気持ちもあって、『こんなに辛いことが続くならいっそのこと潰れたほうがええのに、、、』と思っていた別の自分もいました(苦笑)。まだ30代前半だったので、やり直しもきくし、実際東京でも社員が辞めていったり、社内には下り坂の暗い雰囲気が漂っていました。でも2代目の父は融資を受けられない中でも、自己資金を投入したりして、なんとか会社を建て直そうと全力を尽くしていたんです。そんな中、娘が生まれまして、自分も『これはしっかりと頑張らなアカン』と覚悟を決めました


倒産の危機のなか、ある新商品との出会いが
社の運命を劇的に変えた



カジテック社は強烈な逆風にさらされて奔走するなか、翌1999年にある新商品と出会う。これが社の運命を、劇的に変えることとなる。



先代の創業当時から取引のある武田精機株式会社(※1)さんが、アパレル向けの小さなプラスチック製ホックの開発に成功されたんです。そこで我々は、これはベビー服にいいんじゃないかと考えました。それまでのベビー服のホックは、すべて金属製だったんです。長年ほかに代わるものがなかったから、金属製を使われていたのだと思いますが、実は問題点も多かったんです。赤ちゃんがケガをする可能性もありますし、ホックが外れての誤飲や金属アレルギー、アトピーの問題もある。それがプラスチック製に置き換わると、それらの心配がなくなる。ただ製品を手にした瞬間に『これはいける!』と思ったかというと、そうではなかったですね。『どうなるか、わからない』というのが正直なところでした。でも社の状況を考えても、もう我々はこれにかけるしかない。これに集中し、やっていくんだという感じでしたね

※1 武田精機株式会社:八尾市にあるプラスチックホックのパイオニア企業、国内プラスチックホック市場において、武田精機は95%と圧倒的なリーディングポジションをとっている。 アパレル製品から雑貨まで幅広い製品に取り付けるプラスチックホックを製造。

このプラスチック製ホックを手に、ベビーアパレル各社を訪ねて売り込みをかけた。しかし当初は「割れるんじゃないか」「安っぽい」「金属製のほうが高級感がある」などと、厳しい声が多かった。それでも、カジテック社のプラスチックホックに対する熱い信念は揺るがなかった。



自分たちのやっていることは、世の中のためになっている。とくに赤ちゃんのためになっているんだ、そういう強い思いがありました。赤ちゃんが自分のことを表現するには、泣くか笑うかくらいしかないじゃないですか。たとえば金属は熱を持って熱くなったり、あるいは冷たくもなります。そうなっても赤ちゃんは『熱い』『冷たい』とは言えません。昔からベビー服に金属製のホックが使われているのは、ただ単に大人の勝手なエゴや、周りに代替品がなかったから使っているしかないのではないか。プラスチックホックを販促し始めてから、赤ちゃんには絶対にこっちのほうがいいと確信していたんです

そんな厳しい状況を変えたのは、ある大手アパレルメーカーの担当者だった。

今はもうなくなってしまった大手アパレル会社なのですが、そのベビー服担当で品質管理の課長さんがプラスチック製ホックを見て『これからは、こっちになる』と言ってくれたんです。それでその会社が赤ちゃんを育てているお母さんを集めて、モニターテストを開いてくれました。従来の金属製のホックがついたベビー服と、プラスチックホック仕様とを試していただいて、結果は10名中8名の方が『子どもには、プラスチックホック仕様を着せたい』と選んでくれたんです。残りの2名は『どちらでもいい』。つまりは、全員がプラスチックホックを選んでくれたことになります。これで『いける』と思いました。このモニターテストの結果は、すごく我々の背中を強く押してくれましたね




消費者の声を、メーカーが無視するわけにはいかない。一方でカジテック社も、メーカーから求められる厳し過ぎるまでの厳格な品質管理にも、武田精機社ともども全力で取り組んだ。そこからはベビー服に取り付けられるホックが金属製からプラスチック製に置き換わるのに、そう長い時間はかからなかった。カジテック社の信念は、アパレル業界をも変えたのだ。

結果的に、そうだと思います。ウチみたいな小さい会社が、本当にニッチなところでですけどね。金属しか付いていなかった赤ちゃんの服にプラスチックを付けたのはウチだと思ってますし、もちろんその自負はあります


社内イベントに参加しない人材は必要ない
その意図とは……!?



そんなカジテック社は新卒採用の際の会社説明を梶浦氏自身が行い、最終面接にも参加する。そこで採用にあたっての条件を、自らの口で明示しているのだという。

新卒の採用時に、まず最初に『ウチは社員旅行とかバーベキュー大会、忘年会とか行事があるで。僕は好きやし、社員もみんなそれが好きなヤツが入ってるから。それが嫌やったら、やめとき』と言っています。会社の行事やイベントに参加しない方は、採用しない方針なんです




温和で快活な性格の梶浦氏が、そういったイベントごとが好きなのは事実。とはいえこの採用方針は、ただ単にトップが自分の趣味嗜好を押し付けているのではない。社を束ねるものとして会社と社員の向かう方向を定め、一体感を醸造するため。協調性を要求しているのではなく、共感し合える関係を求めてのものなのである。

社員みんなが同じ方向を向くことが大事じゃないかと思っています。考え方は多分、それぞれで違うと思うんですよ。でも会社の理念や方向性とか、社員全員で決めた18条からなる社員憲章もあります。その中身に共感してくれて『僕もそう思う。私もそっちに行きたい』と思う人といっしょに走るほうが、やっぱり力が出るんですよ。遊ぶときはいっしょに遊ぶし、仕事もひとりではできないので、人といっしょにやるって大事じゃないですか。僕らのような中小企業だと、なにか目標を決めて、みんなでいっしょに同じ方向に向かってやろうという姿勢は、とくに大事だと思うんです


次の時代に向けてリーダーが目指すは、
世界中の赤ちゃんを笑顔にすること



100周年の節目を過ぎ、リーダーの目線は次の時代に向けられている。
ベビー服が弊社の中心であることは、変わりません。日本は残念ながら少子化に進みますが、今後5~10年は大丈夫だろう。だけど30年後とかになると市場は本当にシュリンクするので、求める先は海外でしょうね。アジアはまだ人口が増えますし、赤ちゃんも増える。とくに東南アジアやインド、バングラデシュなど、これから人口が増える地域は親日国が多く、我々が現地に行ってもけっこう受け入れられるんです。とはいえビジネス面に先駆けて、まずは我々が提供する、安心安全なベビー服を身に着けて欲しい思いが先立っています。目指すのは世界中のベビー服に付いているホックが、金属からプラスチックに変わること。そうして世界の赤ちゃんの笑顔に貢献したい。それが弊社の、いちばんの目標です





梶浦氏によると、国内ではおよそ7割くらいのベビー服はプラスチック製ホックに置き換わっているという。その波は中国、台湾、香港など東アジアにも及び、先の言葉のように東南アジアからインドへと伸びると梶浦氏は目している。一方で欧米製品は、いまだ金属製ホックが主流。経営者としてアジアにビジネスチャンスを見出しながら、その根底には安心で安全な製品を世界に広めたい思いがある。梶浦氏が率いるカジテック社は、指の先にも満たない小さな小さな資材で日本のアパレル業界を変えた。そう遠くない将来に、今度は世界のアパレル業界に変革を起こすかもしれない。

株式会社カジテック
本社:大阪市中央区南船場2-4-8 長堀プラザビル8階
オフィシャルサイト:https://www.kajitech.jp/


関連記事