2023年08月04日 09:30
弊社は私の祖父が起業しまして、当初は商品を卸すのとあわせて製造も行っていました。しかし太平洋戦争の空襲で社屋が焼失し、海外にあった自社工場も没収されたんです。それからは再建のために卸売業一本に特化し、ここまでやってまいりました
当時の私は取締役東京支店長だったのですが、正直なところ『会社は潰れる』と思いましたね。あのころはちょっとズルい気持ちもあって、『こんなに辛いことが続くならいっそのこと潰れたほうがええのに、、、』と思っていた別の自分もいました(苦笑)。まだ30代前半だったので、やり直しもきくし、実際東京でも社員が辞めていったり、社内には下り坂の暗い雰囲気が漂っていました。でも2代目の父は融資を受けられない中でも、自己資金を投入したりして、なんとか会社を建て直そうと全力を尽くしていたんです。そんな中、娘が生まれまして、自分も『これはしっかりと頑張らなアカン』と覚悟を決めました
先代の創業当時から取引のある武田精機株式会社(※1)さんが、アパレル向けの小さなプラスチック製ホックの開発に成功されたんです。そこで我々は、これはベビー服にいいんじゃないかと考えました。それまでのベビー服のホックは、すべて金属製だったんです。長年ほかに代わるものがなかったから、金属製を使われていたのだと思いますが、実は問題点も多かったんです。赤ちゃんがケガをする可能性もありますし、ホックが外れての誤飲や金属アレルギー、アトピーの問題もある。それがプラスチック製に置き換わると、それらの心配がなくなる。ただ製品を手にした瞬間に『これはいける!』と思ったかというと、そうではなかったですね。『どうなるか、わからない』というのが正直なところでした。でも社の状況を考えても、もう我々はこれにかけるしかない。これに集中し、やっていくんだという感じでしたね
自分たちのやっていることは、世の中のためになっている。とくに赤ちゃんのためになっているんだ、そういう強い思いがありました。赤ちゃんが自分のことを表現するには、泣くか笑うかくらいしかないじゃないですか。たとえば金属は熱を持って熱くなったり、あるいは冷たくもなります。そうなっても赤ちゃんは『熱い』『冷たい』とは言えません。昔からベビー服に金属製のホックが使われているのは、ただ単に大人の勝手なエゴや、周りに代替品がなかったから使っているしかないのではないか。プラスチックホックを販促し始めてから、赤ちゃんには絶対にこっちのほうがいいと確信していたんです
今はもうなくなってしまった大手アパレル会社なのですが、そのベビー服担当で品質管理の課長さんがプラスチック製ホックを見て『これからは、こっちになる』と言ってくれたんです。それでその会社が赤ちゃんを育てているお母さんを集めて、モニターテストを開いてくれました。従来の金属製のホックがついたベビー服と、プラスチックホック仕様とを試していただいて、結果は10名中8名の方が『子どもには、プラスチックホック仕様を着せたい』と選んでくれたんです。残りの2名は『どちらでもいい』。つまりは、全員がプラスチックホックを選んでくれたことになります。これで『いける』と思いました。このモニターテストの結果は、すごく我々の背中を強く押してくれましたね
結果的に、そうだと思います。ウチみたいな小さい会社が、本当にニッチなところでですけどね。金属しか付いていなかった赤ちゃんの服にプラスチックを付けたのはウチだと思ってますし、もちろんその自負はあります
新卒の採用時に、まず最初に『ウチは社員旅行とかバーベキュー大会、忘年会とか行事があるで。僕は好きやし、社員もみんなそれが好きなヤツが入ってるから。それが嫌やったら、やめとき』と言っています。会社の行事やイベントに参加しない方は、採用しない方針なんです
社員みんなが同じ方向を向くことが大事じゃないかと思っています。考え方は多分、それぞれで違うと思うんですよ。でも会社の理念や方向性とか、社員全員で決めた18条からなる社員憲章もあります。その中身に共感してくれて『僕もそう思う。私もそっちに行きたい』と思う人といっしょに走るほうが、やっぱり力が出るんですよ。遊ぶときはいっしょに遊ぶし、仕事もひとりではできないので、人といっしょにやるって大事じゃないですか。僕らのような中小企業だと、なにか目標を決めて、みんなでいっしょに同じ方向に向かってやろうという姿勢は、とくに大事だと思うんです
ベビー服が弊社の中心であることは、変わりません。日本は残念ながら少子化に進みますが、今後5~10年は大丈夫だろう。だけど30年後とかになると市場は本当にシュリンクするので、求める先は海外でしょうね。アジアはまだ人口が増えますし、赤ちゃんも増える。とくに東南アジアやインド、バングラデシュなど、これから人口が増える地域は親日国が多く、我々が現地に行ってもけっこう受け入れられるんです。とはいえビジネス面に先駆けて、まずは我々が提供する、安心安全なベビー服を身に着けて欲しい思いが先立っています。目指すのは世界中のベビー服に付いているホックが、金属からプラスチックに変わること。そうして世界の赤ちゃんの笑顔に貢献したい。それが弊社の、いちばんの目標です