病院食から生まれた健康献立・レシピを全国に提供するオンリーワン企業
株式会社グローカル・アイ / 代表取締役 田﨑和弘 氏
おいしい食事で健康づくり――そんな願いを込めて国立病院の管理栄養士らとタッグを組み、病院食をベースにした健康献立やレシピを全国に提供しているグローカル・アイ(大阪市西区)。同社のブランド「からだデリ」のロゴを付けたお弁当も、全国各地のスーパーなどで売られるようになっている。超高齢化が進み健康志向が高まる日本に極めてマッチした取り組みだが、田﨑和弘氏は「環境にもやさしい献立づくりを進め、日本食を海外に広めたい」と大きな夢を描く。

全国の国立病院の管理栄養士と連携して健康食のデータを収集・配信
「からだデリ」の最大の強みは、全国国立病院管理栄養士協議会との連携だ。同協議会には163施設に勤務する管理栄養士約650人が所属、ネットワークは全国に広がる。その管理栄養士たちが、それぞれの病院で出される献立・レシピの栄養価などを算出。これらを元にして味のバランスなどを考えて改良を加え、デジタル化して配食・中食事業者などにデータ配信するのが、独自に創り上げた「アイ・システム」だ。

病院食はまずいとよく言われますが、もともと、病院食は栄養バランスがいいうえにおいしいものだったんです。多くの病院で外注業者が食事を提供するようになって、経済性を求めざるを得なくなったため、味が落ちていったという背景があります。
私たちが管理栄養士協議会と連携するようになったのは、国立病院の多くが今も自家調理しているためです。そこで培われてきた献立をデータ化することで、病院同士や製造業者さんとの共有が容易になりました。大阪市立大学医学部附属病院など共同研究の相手も広がったうえ、冷凍弁当や総菜なども手掛けるようになり、生活習慣病や在宅療養者をはじめ健康食に強い関心をお持ちの方々に広くお届けしています。
パートナー企業通じてスーパーなどで販売、宅配弁当にも活用
提供する献立は、主食・主菜・副菜の組み合わせで、厚生労働省が提唱する「日本人の栄養摂取基準2020年」の基準に適合するよう、1食あたりのエネルギーは550キロカロリー前後、塩分は2.5グラム未満、野菜は120グラム以上のほか、たんぱく質や脂質、炭水化物も含めて適正な栄養バランスを維持するものになっている。それらの献立の配信を受けて実際に製造販売するのが、パートナー企業で、北海道から九州まで約40社が契約している。
パートナー企業さんは企業・施設や宅配向け及び小売店向けの製造販売を行っており、各社が製造した食事やお弁当は、5年前に販売が始まったスーパーマーケットだけでなくドラッグストアやデイサービス施設、学童保育などに届けられ、宅配弁当にも利用されています。
地域の食材や郷土料理も取り入れ、地域によって変化にとんだ食事を楽しんでいただけるよう工夫しています。これも全国の病院管理栄養士さんと連携しているメリットの一つです。面白いことに、検診率の高い地域ほど、「からだデリ」のお弁当などがよく売れているんです。
献立は1800!1カ月続けても変化に富んだ食事を楽しめる
日本人の平均寿命は毎年伸びて、今も女性が世界第2位、男性が同3位の長さだが、健康寿命との差は男性で約9歳、女性で約12歳もある。つまり、この間、自力で健康な生活を送ることが難しく介護が必要ということになり、平均寿命と健康寿命の差を小さくすることが高齢社会日本の大きな課題となっている。そうした背景もあって健康志向は年々高まり、拡大を続ける中食市場においても栄養バランスに配慮した弁当や総菜が求められるようになっているのが現状だ。
健康寿命の延伸は各自治体にとっても共通課題です。たとえば大阪府なら「V.O.S(野菜たっぷり、適油、適塩)」メニューの普及を図って、基準に合うお弁当や飲食店のメニューにはロゴマークの使用を認めていますが、こうした取り組みとも連携しています。
献立は約1800にのぼります。1カ月間の日替わり献立も作っていますから、そのまま活用するだけで飽きることなくおいしい食事をとっていただけます。また、オメガ3が豊富な亜麻仁油入りの高栄養お菓子もあり、デザートにお勧めです。
また、通常は捨てられる野菜のくずを大豆に混ぜたり、大手酒造メーカーの酒かすを使ったりするなど、環境にやさしい食事にも意識的に取り組んでいます。
AIを活用した栄養サポートで世界の食卓に日本食を
新しく始めた取り組みが、AIを活用した栄養サポート。大量の相談事例や献立のデータ、効果の評価など多くの情報を集約し、個々の相談者と類似の相談事例を即座に検索、効果の高い健康食レシピを自動提案することを目指す。
従来、当社の管理栄養士が電話で栄養相談に応じてきたほか、地方の管理栄養士さんとパートナー企業さんに組んでもらって栄養相談を担当してもらうようにしました。ただ、どうしても時間がかかるので、応じられる件数は限られています。
このシステムができれば、その人に最適な献立・レシピを即座に提案できるようになります。積み重ねれば、季節や地域、症例ごとに選べるようになり、より精度が高まるでしょう。さらに、日本食をベースにした栄養バランスのいい食事を、世界各地に適応したものにアレンジして提供できるようになると期待しています。

満面の笑顔で語る田﨑氏。
すべての人が元気であれと願っているのだろう。
そのまなざしは遠くを見ているようで、おそらく海の向こうに向いていた。