爪先から心も体も美しくする ジェルネイル先駆者の新たな挑戦

オオサカジン運営事務局

2022年12月09日 09:30

株式会社マーズデザイン / 代表取締役社長 田ノ本知乎(たのもと さとこ) 氏

探して無いなら自分の手で新しく創り出せばいい。そんな発想から今の事業を始めました。

そう話すのは、株式会社マーズデザイン(大阪市淀川区)の代表取締役社長・田ノ本知乎(たのもとさとこ)氏。同社は2007年に化粧品原料のみで作った爪に優しい日本製ジェルネイル「ジュエリージェル」の開発・製造・販売を行い、同カテゴリーの先駆者としてジェルネイル市場を切り拓いてきた。現在は自社ブランドとOEMサービスの両輪で事業を展開し、品質の良さや多彩なカラーバリエーションで支持を集めている。創業前は「爪に何か付けることに違和感があり、ネイルへの関心は全くなかった」という田ノ本氏。なぜ自身の事業としてネイル業界を選択したのだろうか。事業変遷と今後の展望を交えながらうかがった。




不動産事業に魅了された時代


田ノ本氏とジェルネイルの出合いは、不動産業に携わっていた頃に遡る。
実は起業する前はネイルとは無関係の不動産業に従事していました。短大を卒業した後20歳で結婚し、主婦業の合間にできる仕事がないかと探していたところ、知人に不動産業を紹介してもらったのです。とりあえずやってみようと軽い気持ちで始めたのですが、マイホーム購入という人生の節目をお客様と供にできることにやりがいを感じ出すと、次第にのめり込んでいきました。仕事に力を注ぐほど、そこに住まう全員の理想を形にした家をつくりたいという気持ちが強くなり、建設を依頼する工務店や関連企業に対してさまざまな要望を伝えるようになりました。でもその要望を「できない」「無理だ」と聞き入れてくれないことが多々あり、当時は大変もどかしい思いをしてました。何十年ものローンを組んで念願のマイホームを購入するお客様に、最善の提案ができない自分に悔しさを感じ、自分に施工技術や建築知識がなかったので、彼らがなぜ「できない」ということすらわからなかったんです。ならば「自分で知識を身につけてちゃんと理解をすればいい」と考え、建築学部のある大学に進学することを決めたました。



田ノ本氏は仕事を続けながら社会人学生として大阪工業大学建築学部へ入学。多忙な業務を17時までに終え、その足で大学に向かい建築を学んだ。

建築を学んでいくうちに、今まで工務店に「無理だ」と突き返されていた案件が、実は不可能ではないということがわかってきました。コストバランスに配慮したり設計上の工夫を施したりすれば、お客様の要望に応えられることばかりだったのです。

知識を身につけることで、「できない」とされていたことが「できる」ようになる。それを実感した田ノ本氏はさらに勉学に励み、在学中にインテリアコーディネーターや住環境福祉コーディネーターなどの資格を取得。そして卒業後には2級建築士の合格も果たした。


起業のきっかけは顧客の声から


建築に対する見識を深めると、以前に増して幅広くかつ細部まで突き詰めた提案ができるようになった田ノ本氏。そんな同氏を信頼し、まわりの人は不動産以外の相談事も持ちかけるようになっていった。
ある時、ネイルサロンを経営する知り合いから「外国製のジェルネイルは刺激が強くて爪に負担がかかるものが多い。爪に優しくて安心安全な日本製の商品がないだろうか」と相談を受けたんです。本業とは全く関係のない事でしたが、困っているのなら、力になりたいと思い、人に聞いたり調べたりしながら方々を回りました。

ジェルネイルはゲル状の樹脂を爪に塗り、専用のUVライトなどで硬化させて仕上げるネイルを指す。「ポリッシュ」と呼ばれる液状の塗料で仕上げるマニキュアと比較すると、速乾性に優れているので施術しやすく、発色やツヤの持続性が高い特徴がある。南アフリカ原産のゲル素材をもとに、同国ブランド「カルジェル」が1981年に商品化したことを起源とし、日本では2002年に代理店を通して初めて登場した。田ノ本氏が「日本製の良質なジェルネイルがないか」と相談された当時(2005年)「ジェルネイル」という言葉を知る人はほとんどいない状況だったという。


国内で発売して間もない頃だったため、ジェルネイルを製造する日本企業はどこを探してもありませんでした。ただ、このまま「作れるところがない」では終わらせたくありませんでした。そこで「無いならば理想のジェルネイルを自分たちで作ればいい」と考えました。それが「マーズデザイン」の始まりです。



これを機に、伝のあった摂南大学の中室克彦薬学博士(※1)の協力を得ながら、のちにマーズデザインのヒット商品となる「ジュエリージェル」の開発がスタートした。

(※1)中室克彦(ナカムロカツヒコ):摂南大学理工学部教授
専門分野:環境毒性学、水道衛生学、公衆衛生学; 水道水の生成化学的研究、環境汚染物質の毒性評価に関する研究、オゾンの環境分野におけ る利用に関する研究、オゾンの医療分野における利用に関する研究。

中室博士も急に「ジェルネイル」と言われてもまったく見識がないわけです。ただ、既存の薬品などを応用すればきっとできるはずだと頼み込み、なんとか協力していただきました。完成したのは2007年。爪への優しさを追求し、化粧品原料のみを使用することなどにこだわりました。化粧品登録したネイルとしては日本初の商品となります。選ぶ楽しさも提供できるよう、発売当初からカラーバリエーションを100種類用意しました





爪に対する負荷の少なさや豊富は色彩ラインナップを持つ「ジュエリージェル」は、ファッション感度の高い女性の心を見事に射止め、瞬く間にヒット商品へと成長していった。不動産業と二足の草鞋を履いていた田ノ本氏も、ここからネイル事業一本に絞り込み経営に専念するようになる。


順風満帆だった事業から一転


事業そのものは順風満帆だったのですが、発売から4年経つ頃に詐欺に遭い、経営が一気に傾いてしまいました。それが発端で誹謗中傷や風評被害も生じ、販売先となるディーラーからの売上げもガクンと落ち込んで、身に覚えのない批判を受け、暗闇にいるような苦しい時期が数年続いたんです。事業をやめようと思えば簡単にやめることはできますが、でも私には会社のために一生懸命頑張ってくれる従業員を守る責任があります。彼ら彼女らのためにも、前を向いて進んでいかなければならいと気持ちを切り替えたんです。
そして田ノ本氏は、ここから新たな道を拓いていく。
自社工場を持ち、開発製造も手掛ける当社ならではの強みを活かし、一般消費者向けの商材として「ワンステップジェルネイル」の販売を開始しました。ベースとカラーとトップを1本にまとめ、気軽にセルフネイルを楽しめるようにしたことが功奏し、BtoC(※2)という新たな販路開拓に成功しました。爪をケアする観点から、生ケラチン・ビタミン・コラーゲンなど、トリートメント効果が期待できる成分を配合した点も高く評価され、今も当社の人気商品となっています。
(※2)BtoC:BtoCとは「Business to Consumer」または「Business to Customer」の略で、いずれも企業と消費者間の取引を意味します。またBtoBとは「Business to Business」の略で、メーカーとサプライヤー、卸売業者と小売業者、元請け業者と下請け業者など、企業間で行われる取引を指します。




品質の良さは口コミを中心に広がり、次第にOEM受注も増えるようになった。最近は噂を聞きつけた海外バイヤーからのオファーも舞い込むようになりました。

実は先日、中国でサロン経営をしているオーナーから「気に入ったので全色ほしい」と注文が入ったんです。中国では個人経営者でも100店舗規模で展開している方が多いので、今後大きな取引先になるだろうと期待をしています。

海外とのつながりが広がる中、日本で知られていない多彩な美容商材に出合う機会も多くなっていった。肌のキメを整えるといわれる成分「CICA(シカ)」(※3)を含むフェイスパックを製造する韓国企業との出合いもその一つだ。

(※3)CICA(シカ)とは、別名・「皮膚再生アイテム」と呼ばれるスキンケア成分のこと。また、この名称は「CICA-CARE(シカケア)」が由来となっています。シカ成分には「肌再生」や「肌の損傷回復」が期待できると言われていて、ニキビ、シワ、シミなど、さまざまな肌悩みの改善が期待できる、スキンケア成分です。


韓国で人気の「ユリコス2inシカ フェイシャルシートマスク」(※4)の国内総代理店を務めるなど、現在は輸入販売事業も始めています。美容大国とも呼ばれる韓国には、高品質でリーズナブルな美容品が数多く出回っています。そんな商品を日本にも広めていきたいですね。
(※4)ユリコスシリーズ、話題のシカ配合の韓国直輸入のフェイシャルマスクパックです。


医薬部外品カテゴリーを開拓


田ノ本氏は今、自社の強みである「技術力」で新たな事業展開を目指している。


これからは医薬部外品に該当するネイル用品の開発に力を入れていきたいですね。爪がボロボロになってしまった人や、生まれつき爪が弱い人のために、塗れば塗るほどきれいになれるようなネイル用品を届けたいんです。第一弾として、近日中に爪美容液を販売する予定です。皮膚科医さんにもお勧めしたい完成度になっているんですよ。また、高齢者の人たちにもネイルを楽しんでもらえる新たな取組みをしていきたいです。美容には見た目だけでなく心を明るくする力があります。80代になる私の母にネイルを施すと、パッと華やいだ表情に変わるのがいい例です。自分の顔は鏡を見ないと確認することができませんが、爪はふとした仕草のたびに目に入るもの。ネイルの力で、あらゆる人の心と体を元気にしていきたいですね。

田ノ本氏の「ないものは作ればいい」というのは「人の幸せを形にしたい」という純粋な想いから始まりました。マーズデザインは、これからも多くの人の爪先に幸せを描いていくに違いありません。

株式会社マーズデザイン
本社:〒532-0011 大阪府大阪市淀川区西中島3-3-2
オフィシャルサイト:https://www.mars-design.co.jp/


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