日本初の廃棄予定食品店舗の開発。“販売・寄贈・啓発活動”のサイクルで「食品ロス」減少に取り組む代表理事の願い

NPO法人 日本もったいない食品センター 代表理事 高津博司 氏


食べられる食品が廃棄される「食品ロス」。日本では612万トンもの食品が捨てられている(2017年度推計)。国民全員が毎日茶碗1杯分のご飯を捨てている計算になる。一方で、世界人口の9人に1人に当たる8億人以上が食糧難から栄養不足に陥っているという現実がある。
この問題を正面からとらえ、食品衛生上問題のない廃棄予定品を買い取り、市中での販売や生活困窮者に対する支援を行っているのが「NPO(特定非営利活動)法人 日本もったいない食品センター」(大阪市福島区)だ。代表理事の高津博司氏は「知ってもらうことで意識を変えたい」と、啓発活動にも力を入れている。

日本初の廃棄予定食品店舗の開発。“販売・寄贈・啓発活動”のサイクルで「食品ロス」減少に取り組む代表理事の願い


食品ロスはお金を捨てるようなもの


食品ロスは世界的な課題だ。国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)のターゲットの一つとして、2030年までに小売・消費レベルにおける1人当たりの食糧の廃棄を半減させることが盛り込まれた。日本でも食品リサイクル法で同様の目標が設定されている。
日本での食品ロスは、事業系328万トン、家庭系284万トン。事業系では小売店での売れ残りや飲食店での食べ残し、規格外で流通ルートに乗らないなどの理由で廃棄されている。

食品ロスはお金を捨てるのと同じ。廃棄に約2兆円もかかっているのです。スーパーなどで売られている野菜は形の整ったものばかりですが、それは形や色が悪いものは規格外として除外されるからです。味は全く変わらないのに。賞味期限が来る前に廃棄されるケースもあります。賞味期限は消費期限と違い、期限が過ぎても安全に食べられます。そういった食品までもがすぐに廃棄される現実を、みんなが考え直す必要があります。


日本初の廃棄予定食品店舗の開発。“販売・寄贈・啓発活動”のサイクルで「食品ロス」減少に取り組む代表理事の願い


「もったいない」の気持ちを取り戻したいと啓発にも注力


事業系食品ロスの背景の一つに、製造・卸・小売りにまたがる「3分の1ルール」という商慣習がある。たとえば製造から賞味期限まで6カ月の食品の場合、製造後2カ月を過ぎた商品は入荷しない、さらに2カ月、つまり賞味期限まで2カ月を切った商品は販売しないというものだ。また、先に入荷したものより前の賞味期限のものは入荷しないという慣習もある。

3分の1ルールの期限に合理的根拠はありません。国の指導や業界の取り組みで、納品期限を2分の1に緩和する方向が打ち出されるなど、少しずつ改善に向けて動いていますが、消費者の側にできるだけ賞味期限まで長い商品を選ぶ傾向があるだけに難しい問題です。ただ、逆に言えば、消費者が正しい知識を得、「もったいない」という気持ちを思い起こすことが、一番大きの力になるのではないでしょうか。ホームページなどでは、こうした啓発にも取り組んでいます。

日本初の廃棄予定食品店舗の開発。“販売・寄贈・啓発活動”のサイクルで「食品ロス」減少に取り組む代表理事の願い



雑貨販売から総合商社へ。元公務員の挑戦


高津氏は元国家公務員。業績評価も高かったが起業する。「もったいない」活動に取り組むまでには、さまざまな事業変遷があった。初めに手掛けたのは雑貨の輸入販売。個人営業の限界を感じ、「1年間だけ勝負をさせてくれ!」と妻に頼み込んで総合商社を設立し、事業の拡大を図った。
雑貨は工夫すれば高く売れるのが面白かったですね。海外送金の経費が高く、国内事業に切り替えたのですが、個人なので問屋さんから相手にされない。それで会社組織にしました。そのころには流通の仕組みが分かるようになっていました。初年度は卸中心で売上は6000万円。翌年からは2億円、4億円、7億円と増えていきました。海外の仕入れルートや国内メーカーの特価品ルートを探しまくって、仕入れの幅を広げていきましたね。


食品を手掛け、ネット販売で手ごたえ


しかし、好事魔多し。社員が商品を横流ししているのが分かって全員辞めさせたら、次には貸し倒れが頻発。従業員にやりたいことをやらせたら赤字垂れ流し状態に。このころ、高津氏は会社を他の役員に任せ、自らは会長になって食品を扱う仕事に取り組み始めていた。
食品はいっぱい入ってくるのですが、薄利なうえ賞味期限があって、どうしてもロスが出る。ただ、大量購入や賞味期限が近いもので仕入れを安くし、物流を工夫すれば売値も安くなります。売れない分は寄付しようと考えて、営業社員にもらい手を探させたのですが、量が多すぎるとか賞味期限の問題で全部断られたんですよ。
一方で、ネットサイトを通じた個人相手の小売には手ごたえを感じました。リピーターがついてきたので、これはいけると思いましたね。


日本初の廃棄予定食品店舗の開発。“販売・寄贈・啓発活動”のサイクルで「食品ロス」減少に取り組む代表理事の願い


NPO設立。食品小売りの「ecoeat (エコイート)」で仕入れ・販売・寄贈のしくみ確立


食品事業は軌道に乗り、小ロットでも入るようになったうえ、寄贈申し入れを繰り返すうちに受け入れられるようになる。社会福祉協議会などの勧めもあって、2017年2月にNPO法人の認可を受けて、寄贈事業はNPO法人で扱うようになった。

日本初の廃棄予定食品店舗の開発。“販売・寄贈・啓発活動”のサイクルで「食品ロス」減少に取り組む代表理事の願い


NPO法人化したといっても仕入れは不安定で、赤字が出ることもあったのですが、そこからフードロス削減ショップ「ecoeat(エコイート)」が生まれました。買うだけで社会貢献ができるお店です。当店の売上(剰余金)は食品ロス削減の活動費や生活困窮者らへの寄贈に要する費用に充てており、NPOが自立でき継続的に食品ロスの削減と生活支援のサイクルができあがりました。


日本初の廃棄予定食品店舗の開発。“販売・寄贈・啓発活動”のサイクルで「食品ロス」減少に取り組む代表理事の願い


若者の関心の高まりに期待。教育事業の展開も視野に


「ecoeat(エコイート)」は、問屋やメーカーから安価で仕入れた食品を安価で提供する店舗。安全に食べられることを確認したうえで、賞味期限などを明示して店舗に陳列している。現在、関西だけでなく関東や高知・沖縄も含めて10店を展開しており、さらに拡大を目指している。

同じ目的意識を持った人を仲間にして、必要とされる地域に広げていきたいですね。
移動販売も計画しています。有事の際には無料配布できるルートにもなります。
講演などで学生と接する機会が多いのですが、食品ロスに関心を持つ若い人が増えており、大いに期待しています。今後は、子どもの貧困の連鎖を止めるための教育事業にも取り組みたいと思っています。
食品の製造過程から消費されるまですべてを学ぶのです。それを知れば新しい視点も生まれ、行動にも結び付いていくと考えています。


日本初の廃棄予定食品店舗の開発。“販売・寄贈・啓発活動”のサイクルで「食品ロス」減少に取り組む代表理事の願い


NPO日本もったいない食品センター
本社:〒553-0004 大阪市福島区玉川4-12-3 1階
オフィシャルサイト:https://www.mottainai-shokuhin-center.org/

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