創立100年に向け、新規事業や社内変革に取り組む老舗ゴム会社の3代目

オオサカジン運営事務局

2024年09月11日 13:00

錦城護謨株式会社 代表取締役社長 太田泰造 氏

                                                                  



「護謨」を「ゴム」と読める人はあまりいないだろう。多くの会社が社名をカタカナやアルファベットに変えていく中、「錦城護謨」は1936年の創業時のままだ。
2009年に3代目社長に就いた太田泰造氏も変えるつもりはない。
しかし、ゴム製品の製造販売と地盤改良という2本柱で進めてきた社業においては、新しいジャンルと定めた福祉事業の開拓や社員の意識改革など、会社創立100年に向けて着々と手を打っている。




多品種、多用途なゴム。取り扱うアイテム数は家電用をはじめ約5000種類


一口にゴムと言っても、天然ゴムと合成ゴムがあり、合成ゴムも材質によってさまざまに分かれる。そして、それぞれが持つ特性によって、用途も多岐にわたる。特に電気に水は禁物なため、電化製品には防水性の高いゴムが多く使われている。

当社はゴム商社として創業したのですが、戦後、製造に乗り出し、家電メーカーに販路を広げていきました。今でも、炊飯器のパッキンは50%がうちのゴムですし、世界で初めて水洗いを可能にした髭剃りには全部当社のものが使われています。オリンピック選手に水泳キャップも提供しました。
当社が扱うゴムのアイテムは約5000種類。3~5年で入れ替わりますので、次々に新しい製品が生まれています。一定の温度で色が変わるゴムや、暗いところで光る蓄光性を持ったゴムなどもあります。






点字ブロックの弱点を解消し、視覚障がい者の歩行を助ける「歩導くん」


そんなゴムの新しい役割を見出すことになったのが視覚障がい者歩行誘導マット「歩導くん」だ。
視覚障がい者と言えば点字ブロックだが、障がい者がつまずいたり車いすなどの通行を妨げたりするほか、水に濡れたときに滑りやすいなどの問題点が指摘されている。ゴム製マットで作られた「歩導くん」は、こうした点字ブロックの弱点を解消するものだ。

考案されたのは視覚障がい当事者で、知人に紹介されて営業をお手伝いすることになったのです。改良を重ねて、現在は幅44センチの「歩導くん Plus」と、点字ブロックと同じ幅30センチの「歩導くん ガイドウェイ」の2種類を販売しています。どちらも最薄部は高さ1ミリと薄いのですが、白杖でたたいた時の音の違いや足裏の感触で床との違いがはっきりわかります。 また、表面にシールを貼り付けることで文字や矢印を表示できます。製品周囲に緩やかな傾斜をつけていますので、視覚障がい者だけでなく、お年寄りや子ども・車いすの人でも安心してご利用していただけます。両面テープで床に貼るだけですので設置も簡単です。さらに、ガイドウェイは様々な床色とコントラストが取りやすいようカラーバリエーションも豊富で、建物のデザイン性を損なうこともありません。





世界のデザイン賞で認められ、福祉事業に乗り出すきっかけに


このガイドウェイ、2015年のキッズデザイン賞を皮切りに、世界3大デザイン賞の「iFデザイン賞」でゴールドアワードの受賞、ドイツの「German Design Award」、「IDEA賞」でブロンズ賞を受賞するなど、世界で認められた優れものだ。

社長になって、積極的にいろいろな賞に応募するよう指示しました。第三者の評価を得ることで自分たちの商品の持つ意味が社員にもわかります。世界を目指していますので海外の賞にも応募するようにしたのですが、受賞は社員の大きな自信になっています。 併せて、創立100年に向けて、成熟社会において何で貢献できるかという視点から、ターゲッ トに環境・健康・防災・福祉を据えてアンテナを張ってきました。「歩導くん」はまさにそのターゲットに合致したもので、すでに国内1000カ所以上に納入されています。
困難はありますが、「歩導くん」に続いて福祉分野での取り組みを強めていきたいと考えています。



ガラスより透明なゴムをグラスに。新しい価値を生み出していきたい


こうした取り組みの背景には、永年積み上げてきた工場力にさらに磨きをかけ、「産み出す事で世の中の当たり前を変えたい」との思いがある。そしてそれは、ゴム事業においても新たなチャレンジにつながっている。

製造業はモノを作ることが使命ですが、それによって社会に貢献し、新しい価値を生み出せてこそ意味があるというのが私の考えです。
実は、当社にはガラスより透明度の高いゴムがありました。成型が難しく、どう活用するかに悩んでいたのですが、成型と金型の技術を駆使して、グラスにすることに成功しました。見た目はガラス製とそっくりですが、落としても割れません。ワイングラスや、日本酒とコラボできないかと考えています。今後はこうしたシーズを、より積極的に活かしていこうと思っています。





モノづくりの楽しみを子どもたちに。「みせるばやお」で地域に貢献


社会への貢献には、地域貢献も入っている。本社がある八尾市の中堅・中小企業や工場が一体となって、モノづくりの魅力を子どもたちに伝える場として「みせるばやお」を設立し、代表理事を務める。こうしたさまざまな取り組みが評価されて、2019年には大阪府経営合理化協会が主催する「学生に教えたい〝働きがいのある企業〟大賞」の府知事賞を受賞した。

地域が元気でないと企業も元気になれません。ワークショップで子どもたちが楽しんだり驚いたりする顔を見て、社員も元気をもらっています。
社長になってから人材戦略を企業のかなめとして考え、採用や研修・育成方法も変えてきました。魅力ある会社であることを多くの人に知ってもらい、一緒に働く中で社員も私も向上していきたいと考えています。



錦城護謨株式会社
本社:〒581-0068 大阪府八尾市跡部北の町1丁目4番25号
オフィシャルサイト:http://www.kinjogomu.jp/



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