人気ライフスタイルカンパニーが挑戦する、 子育てファミリーのための街づくり

オオサカジン運営事務局

2021年11月19日 09:30

株式会社ノースオブジェクト 代表取締役 南大助 氏

84万835人。これは厚生労働省が発表した2020年の日本における出生数だ。
前年比で24,404人減少し、統計開始以降最小の値となった。減少傾向に歯止めがかからない原因のひとつに、育児にかかる経済的負担の大きさがある。日本で子ども1人を大学卒業までさせるには数千万円が掛かると言われており、経済基盤の弱い若年夫婦などは、“生まない”というより“生めない”と考えて育児を諦めてしまうのだ。そんな現状に対し、「年収500万円の4人家族がマイホームを持ち、心身ともに豊かな生活を送れることを自社のビジネスで実証したい」と語るのが株式会社ノースオブジェクト代表取締役の南大助氏だ。



同社は「手に届く豊かな暮らし」をテーマに、子育てママ向けの服飾雑貨販売や飲食店運営などを行っている。商品企画やデザインも自社で手掛け、北欧の暮らし手づくりの文化を加えた独自の世界観が30~40代の女性を中心に支持されている。南氏は穏やかに、しかし熱のこもった口調でこう続ける。
このビジョンを実証するために、現在大東市と連携して『morineki(もりねき)』という地域再生事業を進めています。本事業を開始するにあたり、大阪市内にあった本社を大東市に移転もしました。既存事業に加え住宅販売やママの起業支援なども展開し、子育て世代のライフスタイルに役立っていきたいと思っています。



南氏が本社移転までして注力する『morineki(もりねき)』とは、いったいどんな事業なのだろうか。

「手に届く豊かな暮らし」を集結させた『morineki(もりねき)』


『morineki(もりねき)』は、JR四条畷駅から徒歩5分のところにある、市営住宅跡地を活用して創ったコミュニティエリアの名称です。大東市がPPP(公民連携)(※1)手法を用いて推し進めている『北条まちづくりプロジェクト』の一環で、同市が課題とする公共施設の老朽化や、生産年齢人口の減少などの解決を目的としています。エリア内には、住宅・公園・複合商業施設があり、一体感を醸成するためエリアごとの境や壁を設けていないのが特徴です。私たちはその中にある500坪程の複合商業施設『Keitto(ケイット)』を運営し、服飾雑貨店・ベーカリー・レストラン・ものづくりスペースといったライフスタイルショップを展開しています。今まで私たちが手掛けてきた事業を集結させたような施設だといえるでしょう。『憩い、つながり、高まる。普段暮らしのエンターテイメントパーク』という副題を付け、日常生活の中でもちょっとした工夫で豊かさを感じることができる体験の場を提供することを目指しています。

『Keitto』はフィンランド語でスープという意味です。色々な食材が融け合い、それぞれの養分が活かされることで滋味深い美味しさとなるスープという料理のイメージに、私たちが担う役割や意味を重ね合わせました。
実はこの案件に出合う少し前から、自社で『子育てママ応援プロジェクト』を立ち上げ、私たちの事業を長年支えてくれるママたちに何か恩返しできないかと色々模索していました。想いはつながるというか、ちょうど同時期に大東市の『morineki(もりねき)』構想も動き始めていたんです。話を聞きに行くと、私たちがやりたいことと方向性が合致していて、悩んだ末参画を決めました。

(※1)PPP(公民連携)手法:公共サービスの提供に民間が参画する手法を幅広く捉えた概念で「官民連携」とも呼ばれる。



「なぜ?」から始まった子育てママのためのものづくり


1999年、南氏は2人のデザイナーとともにノースオブジェクトを創業した。15年にわたるアパレル企業での営業・ものづくり経験を活かし、子育てママ向けの衣料品の卸売販売からスタートさせた。南氏が「子育てママ」にターゲットを絞ったきっかけは、自身の体験にあるという。
当時、私と妻の間に2歳と0歳の子どもがいたんですが、家族で数時間街を歩くだけでも、子育てママの大変さに気づかされることが多くありました。
お店に入っても今のようにベビーカー置き場や授乳室はないですし、そもそも通路が狭くて入店できなかったり。子どもが泣いたり走り回ったりして、周囲のお客さんに白い目で見られることもありました。子育てママは、一息つきたくてカフェに行ったとしても気が休まらないんですね。また、子育て世代って金銭的にそんなに余裕がないんです。だからママは自分のオシャレにお金を掛けることができないし、かといってその頃ママ向けのマーケットもほとんど無くて。私はそんな妻や周りの子育てママが置かれている状況に対して疑問を持ちました。『なぜ、命を育てる大切な仕事をしている人たちなのに、こんなにも窮屈な思いをしながら生活しなければならないんだろう』と。この問いを原点に、私たちはママの暮らしに寄り添い、役立ち、そして喜びにつながるような服作りをしていきました。

生地が丈夫で洗濯しやすい服。出産や育児で変化した体型にフィットする服。配色が美しく羽織るだけで心華やぐ服。手頃で躊躇なく買える服。南氏は「子育てママが求めているものは何か」ということに耳を傾け、その声をノースオブジェクトの服で表現していった。そして次第に、服飾店だけでなく雑貨店で販売する服も作るようになっていった。

私たちは今まで培ってきた服飾のノウハウを活かし、例えば “キッチンをテーマにした雑貨感覚の服” という新しい服のあり方も提案しました。ストーリーのある服づくりは、生活雑貨と親和性があったのです。その結果、“カジュアルウエアとしてのファッション性と機能性を兼ね備えた服”として多くのママたちから支持され、『雑貨店で服を売る』という新しい販路開拓にもつなげることができました。




その後南氏は、さらに生活に寄り添った事業を展開しようと考え、生活の根幹にある“食”の分野へも着手した。
まずはテイクアウトメインのベーカリーを立ち上げ、次にイートインスペースを充実させたカフェやレストランを作りました。手頃な価格でありながら手間をかけ、ちょっとした工夫を加える作り方は服や雑貨と同様です。食の場合は健康への配慮を必要とする点が他の事業との違いでしょう。今後は健康面や地球環境に配慮した取り組みも考えています。




ディテールに込めた“ゆみこさん”


ノースオブジェクトの商品は、ディテールに対する精度の高さに大きな特徴がある。同社はポケットの形やステッチの入れ方だけでなく、後付けされる値札のデザインも徹底して行う。こうした細部へのこだわりは、直感的な品質の良さやブランドイメージの一貫性。デザイン意図の明確化や他社商品との差別化などに反映され、独自の「ノースオブジェクトらしさ」を創り出している。またディテールへのこだわりは、商品開発前段階に作成する「ラボ」と呼ばれるペルソナブック(※2)にも及んでいる。
(※2)ペルソナ:商品・サービスの仮想的な人物像のことで、マーケティングにおいて活用される概念。実際にその人物が実在しているかのように、年齢・性別・居住地・家族構成・職業・年収・趣味などリアリティのある詳細な情報を設定していく。

私たちは3つのアパレルブランドを展開しており、それぞれに詳細なペルソナを設定しています。『north object de petit…(ノースオブジェクトプチ)』というブランドのペルソナは“ゆみこさん”です。奈良県在住の37歳で、旦那さんと2人の子どもの4人暮らし。趣味は手芸とガーデニングで、旬の食材を使った料理が得意。その他旦那さんの職業や子どもの好物、家の間取りや車種なんかも決めています。これを私たちは「ラボ」と呼んでいて、それをベースに月ごとの暮らしのテーマを決め、ペルソナの行動を詳細に描いています。最近だと「家族でZoom音楽会をし、おじいちゃん・おばあちゃんにも披露する」なんていう時代に則したエピソードも加えています。



また、ゆみこさんファミリーの月ごとの暮らしで中心となる予定を「Keitto」で実際にイベントとして実施しています。つまり、2次元の出来事を3次元の出来事として具現化させるのです。「ラボ」で描いたストーリーを現実世界で表現することで、お客様にとってよりリアルな場を体験できます。私たちにとっては、企画を具現化した後の現実を検証し、お客様のニーズとズレがないか検証する機会にもなっています。社員間で検証の結果を共有し、各部署で次の企画作りに活かすようにしています。


「衣・食・住・遊・育・働」。紡いでいくストーリー


子育てママの暮らしに寄り添いながら事業を展開してきた南氏。これからは寄り添うだけでなく、暮らしそのものを提案していきたいという。

『morineki(もりねき)』は『自分でつくったまちに住む』という開発理念のもと、住宅地域の再生をメインとした事業です。今後はその事業と連動させながら、私たちのミッションである『手に届く豊かな暮らし』を実現するための住宅提案をしていく予定です。『豊かな暮らし』は、日常を楽しく過ごすためのちょっとした工夫やアイデアによって創り出すことができます。四季を楽しんだり、子どもの成長を祝ったり、1人でお茶を楽しんだり。そうした些細なシーンに、なるほどとなるようなアイデアと工夫を加えていく事で日常は彩られていきます。今まで私たちは、そんな豊かさの提供をアパレル事業や飲食事業を通じて展開してきました。

これから始める住宅事業は『どんなふうに暮らしていくことが本当の豊かさにつながるだろうか』といったことをママやそのファミリー(=サポーター)と共に考え、それを一つひとつ具現化し、最終的には地域全体の街づくり事業へと発展させていきたいと考えています。
今あるものに工夫を凝らして、豊かに暮らせるママやパパのもとで育った子どもたちはさらに工夫のある豊かな暮らしができる。
私たちの事業を通じて、そんな次世代が育っていくことを思い描いています。




子育てママのため服を作り始めたノースオブジェクト。
今その展開は「衣・食・住・遊・育・働」とママの暮らし全てに及ぶようになっている。
やりたいことはまだまだ尽きないという南氏。
その視線の先には、ママたちが満面の笑みをたたえながら暮らしを謳歌している姿が見えた。


株式会社ノースオブジェクト
〒574-0011 大東市北条3丁目8-1
オフィシャルサイト:https://northobject.com/


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