職場の仲間の所得を上げたい一心で立ち上げた事業

オオサカジン運営事務局

2022年12月23日 09:30

株式会社S&S / 代表取締役 川見清豪 氏

大東市にある株式会社S&S代表取締役 川見清豪氏は、理学療法士としてリハビリテーション病院などで多くの実績をあげてきた。しかし、同じ職場で働く仲間の給料がなかなか上がらないことに憂い、「なんとかしたい!」「職場の仲間や部下の給料を上げないと」その一心で2012年に起業、翌年には訪問看護事業を開始した。経営理念は「やさしさと思いやりで、人生に彩を与える」である。わずか5人でスタートした訪問看護事業に加え、障がい児通所支援事業、障がい者相談支援事業、障がい者相談支援事業、居宅介護支援事業、介護事業や児童支援事業のコンサルティングなど多岐に亘り、現在は、5つの事業を9か所で展開している。


起業のきっかけは、理学療法士の給料がなかなか上がらないし、結婚して子どもを養っていくには厳しい。「みんなの給料をあげたい」という気持ちで、元々の部下達と訪問介護事業を立ち上げたんです。

サラリーマン時代から起業したい思いはあったという川見氏だが、独立する前に理学療法士として勤めていた病院では、リハビリの部下が50名から60名おり、かなり忙しく責任もある地位にいた。しかし、「このままでいいのか」と、自分にムチを入れた。病院では早期退院を促すため、退院しても在宅でのリハビリが必要になってくる。高齢者の増加で病院もパンク状態で訪問看護も増やさなければならない。このような看護事業の環境を肌で感じていた川見氏は、小さな会社組織でもやっていけるはずであると判断する。加えて訪問看護に関わる制度の改正(※1)も後押しとなった。

(※1)訪問看護に関わる制度の改正
2012年「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」:利用者が可能な限り自宅で自立した日常生活を送れることを目的に、定期的な巡回や随時通報への対応など、利用者の心身の状況に応じて、24時間365日必要なサービスを必要なタイミングで柔軟に提供する制度が開始される。その後「複合型サービス(2015年:小規模多機能型居宅介護へ名称変更)」として小規模多機能型居宅介護と訪問看護が組み合わされたサービスとなる。




2012年の12月に法人として株式会社S&Sを設立、翌年の4月に「リハビリ訪問看護ステーションファミリア」を大東市でスタートさせた。訪問を主体にした看護、リハビリテーションサービスの提供である。驚いたことにスタート時は、なんと役員全員同じ給料だったという(現在も同じ)。それもひとえにみんなの待遇を改善したいという思いから。株式会社S&Sの社名は、川見清豪氏の名前の頭文字のSと部下は息子のようなものという気持ちで「息(SON)」のSから名付けた。大東市でスタートさせた訪問看護ステーションは、東大阪市・門真市・神戸地域と徐々に訪問エリアを拡大、右肩上がりに成長していった。給料が上がらないと悩んでいた元部下たちも、待遇が改善され結婚ができ、家も建てられたと喜んだそうだ。


祖母のリハビリを助けてくれた理学療法士を目指す



今でこそ、理学療法士が医学的リハビリテーションの専門職であることは広く認識されているが、川見氏が理学療法士を目指した頃は、まだ理学療法士の数は少なく、世間にさほど認知されていなかった時代である。そもそも理学療法士になったきっかけはなんだったんだろうか。
高校の時に、入院中だった祖母のリハビリの手助けをしてくれてた理学療法士のすがたを見て、将来は医療関連の仕事に付こうと決めました。基本、人が好きなんです。高校の先生に「リハビリの学校に行きたいと」言ったら先生は知らなかったくらいです。当時自分の免許は7,000番台でした。35年以上前のことです。理学療法士になって、こんな人のためになる仕事があるんだと思いました。



2022年の理学療法士国家試験の合格者数は10,096人(※日本理学療法士協会調べ)である。当時の理学療法士の数は、毎年行われる理学療法士の合格者数にも満たなかった。高校の先生が知らなかったのも無理のないことかもしれない。高校卒業後は医療専門学校へ進み、理学療法士になってからは、高槻の社会医療法人愛仁会理学診療科病院 現在の愛仁会リハビリテーション病院(※1)で仕事の基礎を学んだ。その後、いくつかの病院でキャリアを積み、部下の指導にも当たった。しかし、リハビリ病院を退院後多くの人は、在宅でリハビリを続けられずに困っているのを目の当たりにする。川見氏が、起業した背景には、そんな在宅で困っている人に寄り添うことが必要な時期が来ているという思いがあった。サラリーマン時代は、立ち上げや経営改善を中心に着手してきた川見氏は、今、必要とされているものは何か、人材を活かすためにはどうすればいいかと常に考え、実践してきた。M&A先の病院で経営改善にもかかわった。わずか5人で始めた会社は、時代が必要としていること、求められていることを実践していくことで、進化していくこととなる。

(※1) 社会医療法人愛仁会リハビリテーション病院


人は適材適所、人に合わせて作っていったら増えてきた



最初は、こじんまりやりたかったんですが、以前に勤めていた病院を辞めた人が一緒に働きたいと訪ねて来はじめたんです。その中に発達障害に詳しい子どもの施設で働いていた理学療法士がいて、彼のキャリアを生かせる施設が必要だと思いました。それで、2017年に障がい者相談支援・居宅介護支援センター ファミリアを立ち上げました。実は生まれつき、新しいことを立ち上げることが大好きなんです。




元々、新たなことを始めるのが大好きと笑顔で語ってくれた川見氏だが、一緒に仕事をしたいというだけで、得意な分野を活かせる新事業を立ち上げてくれる社長はそんじょそこらにはいないはず。人に寄り添う川見氏の生き方に、背筋が伸びる思いで仕事をする社員はきっと多いに違いない。こうして、発達障害に詳しい理学療法士のために立ち上げたのが0歳から6歳の就学前までのお子さんを対象にした「児童発達支援デイサービス ファミリアキッズ」である。ここでは、子どもの発達を見守るだけでなく、家族に寄り添い「丁寧に⼦育てを学べる場」として療育サービスをしている。子どもたち一人一人の特性を大事にし、気持ちが不安定であれば、クールダウンのための個室の確保、知的な遅れのあるお子さんのためには、制作過程を視覚的に説明する教材の用意、注意散漫なお子さんには、目移りするものを出来る限り無くした施設環境と、一人一人に寄り添うきめ細かい療育計画を立てている。





ファミリアキッズは、結果、3か所に増やせました。発達障害は早期教育が重要なんです。いいところを伸ばして社会性をはぐくむための療育をしています。勤めていた頃の仲間を受け入れるために新規事業や事業所も増やしました。人は適材適所、人に合わせて新規事業を作っていった結果、増やすことができたのです。

こうして、5人で始めた訪問看護事業は、次々新規事業に着手し、現在の従業員は85名(うち非常勤が9名)、来期には100名に達する予定にまで成長した。


人を生かす経営から事業承継へ


サラリーマン時代からいろんな仕組み作りをしてきました。多くの人がせっかく才能があるのに環境に合わずに実力を発揮できない若者がいっぱいいます。環境と仕組みが整えば、経営改善になる。働く人がいきいきできるためにはどうすればいいか。そのためには、ちゃんとした経営の仕組みが大切です。こういう仕事はホームページなどで宣伝することも大事かもしれませんが、うちの場合、利用者が集まるのは口コミの結果です。他の事業者さんとの違い、それは一人一人が親身になって療養者に寄り添っていることです。



インタビューの間、何度となく「人が好き」という言葉が川見氏から出た。「人は城、人は石垣、人は堀」(※2)という武田信玄の言葉は、経営の指針になっている。趣味のゴルフは人と出会えるから選んだそうだ。ツーリングも1人では寂しいそうだ。以前1人でツーリングに出かけたものの寂しくなって急遽、友達を誘ったぐらい。「一緒に働きたい」と言って戻ってきたメンバーは、ひとりとして裏切りはない。雇って失敗したということもない。今後は経験が少ない人をしっかり育て人材不足の改善をしていこうと動いている。人を生かす経営から事業継承へと移行しつつある。すでに、1年前からは、保険外事業として児童の発達障害のデイサービスの立ち上げのサポートをしている。川見氏の人と人が寄り添い、お互い様だという起業したときの思いはこれからもぶれることはありません。

(※2) 「人は城、人は石垣、人は堀」:戦国武将,武田信玄の名言として残されている言葉です。 「りっぱな城があっても人の 力がないと役に立たない。 国を支える一番の力は人の力であり,信頼できる人の集まりは 強固な城に匹敵する。」 という信玄の考え方や生き方を表しています。

株式会社S&S
本社:大阪府大東市氷野3-3-17アスカハイツ405
オフィシャルサイト:https://www.familiar-ns.com/company.html



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