2023年10月13日 09:30
私の祖父が創業者で、艦船用のボルトを作ることから始まりました。その後はオイルショックやプラザ合意による急激な円高などに見舞われて、輸出が非常に苦しくなったんです。当時から輸出が非常に多かったのですが、それが半分くらいになってしまいました。それまでの一般品を大量に生産して販売するやり方では厳しくなり、同じボルト作りにしても、やり方を変えようということで大きく方針転換をしました。そこで研究と開発に力を入れ、生み出したのがタケコートシリーズです
私は3人姉妹の長女で、3代目社長だった父親は、私に竹中製作所への入社を望んでいませんでした。ところがある日、父親の態度が一変し、入社する2~3年前から私に打診してきたのです。やっぱり家業なので『私、知らんよ』とも言い切れませんので、いろいろと考えた末に入社したのが2009年です
私がここに来ていちばん驚いたのが、会議の中身なんですよ。リーダー以上の一定レベルの役職者が毎月、会議を行います。そこで決められた報告はみんなきちんと行うのですが、意見交換が全然ないんです。質問もない。言われたことを言われた順番に言っていって、あとはお葬式かなというほど静かなんです
「意見や提案を出したり、なにかを考える。自分が会社を良くするには、どうすればいいのか。そういう思考が、なかったんです。『そういうことは経営者が決めるんでしょ。私らは、言われたことをやるんです』みたいな体制だったんです。これはちょっとまずいなと思って、自ら行動してもらうような活動をやり始めました」その活動の目的は、社員たちの自発的かつ能動的な行動を促すこと。
各グループのリーダークラス以上を月に1回程度集めて、懇話会を開きました。より良い竹中製作所になるために、竹中製作所が持続的成長企業になるためには、こんなことをする必要がありますよねといったことがテーマです。例えば、CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)や、ES(Employee Satisfaction:従業員満足度)の向上。あるいは主体性の向上などテーマをいくつか出して、それに対してグループごとに取り組んでもらったんです。テーマに沿っていたら、どんなやり方でも構わない。自分たちで考えて取り組んでもらって、私はあれこれ言わないと
当初から発表されたことに対して、私はほとんど否定しませんでした。ちょっと外れていようが、まずは自分たちで考えて行動してねという趣旨で、だんだんと社員から『こうしよう、ああしよう』という意見が出てくるようになりました。発表会の中身も、だいぶとこちらが思っていたようなことが出るようになってきています。各社員が自分で会社を良くすることを考えてやっていることが、こちらにも感じ取れるようになりました。
『独自製品や差別製品で、他社との差別化を図って利益を出しましょう』という考えは浸透していたんです。だけどこれから成長していくためには、利益を出すだけがいい会社ではないでしょうと思うんです。私はテーマとして、持続的成長企業を掲げています。今は良くても来年、再来年、さらに5年後、10年後も会社が良い状態にあるとは限りません。しっかり時代のニーズなどを察知して、それに対応できる会社にならないといけない。そのためにはやはり、みんなが自分で考えて行動することが大事なんです
パワーエレクトロニクスは、得意分野ですね。中小企業で開発から設計もやって、モノ作りもできるところはほとんどなくて、うちくらいなんですよ。モノ作りだけ、設計だけをする中小企業はあります。大手さんにとっては何ヶ所かに依頼するより、1ヶ所で開発から設計までやってくれるほうが当然、楽ですから。大手さんも、採算が合う量産品は自分たちでやられます。でも100個未満など小規模のものは、自分たちでやられても利益が出ない。そういう単位の依頼が、うちに来ます。技術力があって開発から設計、モノ作り、品質保証までできることが、電子機器事業部の強み。順調に伸びてきていますし、今後も発展の一途ではないかと思っています
海外工場の第1弾を、アラブ首長国連邦に作りました。ボルトの輸出先のお客様が、中近東に多いんです。現地は砂漠地帯では昼間の気温が50℃もあったりするうえに、朝晩の寒暖差が激しい。それにプラントが海沿いにあるので、塩害で腐食が非常に激しいんです。現地のお客様にはタケコートを輸出していたのですが、日本で作って船で運んでと納期が1ヶ月半はかかってしまう。それに日本の鋼材を使っているから、価格も高い。それで性能は違いますが、近隣諸国の類似品を使われるようになって、この10年くらいはすごく注文が減ってきたんですよ
それで即納体制ができるよう、2016年、アラブ首長国連邦に工場を出しました。鋼材を現地で調達して、コーティングも現地でする。鋼材やボルトなどは現地のものを仕入れているので値段は安く、タケコートという弊社オリジナルのコーティングのクオリティはそのまま。それでいて、納期は早い。お客様からの要求に答えてくれたということで、あらためてその地域の注文が取り返せつつあります。これを機に近隣諸国の仕事も増やしていきたいですし、それも含めてこの先は海外展開が重要になる。今後はアジアを中心に、これから発展する国をどんどん開拓していこうと考えています
国内ではこれまでに考えられないほどの猛暑になったり、海外では大規模な山火事が発生したりと、今の世界には気候変動をはじめとした環境問題があります。そうなっているのはCO2の増加など、いろんな問題が積み重なっていると思うんです。次世代のためにそういうことを食い止めるのは、今の私たちの責任でもあります。弊社の製品作りにおいても、環境に良い作り方をしないといけない。
そのとおりです。海外に力を入れていくなら、環境に良い製品であることはキャッチフレーズというか、他社との差別化にもなりますしね。ここはぜひ、推進していきたい。とはいえ性能を落とすわけにはいかないので、環境に配慮したと口で言うのは容易いですが、なかなか難しい話です。イチから手探りでやっていかないといけませんので、時間はかかるかと思っています。それでも、そういう方向にしていかないといけない。簡単なことではありませんが、これからやっていくべき事ですし、やりがいのある取り組みと捉えています