株式会社福井プレス / 代表取締役 福井 伸 氏
東大阪で染め直し業を営む
株式会社福井プレス。
以前この社長インタビューコーナーにご登場いただきました。
https://shacho.osakazine.net/e731490.html
代表の福井 伸(のぶ)氏から
「きのこラボ開設のお知らせ」の案内が編集部に届き、早速お話に伺いました。
福井プレスは親子3代続くクリーニング店を引き継ぎ、その後様々な人のご縁があり、元のクリーニングの設備の転用で染工場へ事業転換します。
染める材料は多岐にわたります。
珈琲豆、チャフ(焙煎した時にでる焼けた薄皮)、クラフトビールの麦芽粕、花屋さんの花びら、飲食店のアボガドなどなど。
事業者から廃棄される排出物を染料の資源にしています。
様々な染料が、ずらりと
珈琲染めは福井氏が5年前、東京で親族が経営する小さな珈琲焙煎所を訪れた際に見つけたチャフを知ったことからスタートしました。
クリーニング店は染工場に、更にきのこ栽培へ。
福井氏が試行錯誤していく中、福井プレスは今や
産業廃棄物の再生事業に変わっていました。
福井氏本人もこの経緯に不思議がっていますが、今回お会いしたその顔には一歩一歩進んでいる感触と覚悟が見えました。
福井プレスが
染工場が再生事業に変革したことは他に類を見ない事業転換事例として、多くの大手企業から注目されました。
大阪の有名百貨店からはサステナビリティの催事販売の出展依頼があったりしました。
その後、福井氏は
染め物の廃棄物からきのこが育つことを知り、その研究する大学との産学連携にも動き出します。
当時、世間がSDGsやサステナビリティ(持続可能性)と叫ばれている中、福井プレスはすでに目の前の事業活動でその実践が成されていることに、著者は驚きました。
最初お会いした当時は
きのこの実証実験を繰り返しているところでした。
あれから2年。
遂に
「きのこラボ(ラボラトリー、以降ラボ)」が開設です。
染 食 還
福井プレスは東大阪市西石切、国道170号外環状線沿い。
高級車ベンツがずらりと並んだYANASEのショップの西裏にあります。
世界のベンツのその裏店(だな)に、「きのこラボ」。
福井プレスが考える
「染 食 還」はこうです。
珈琲店の廃棄物を再利用
↓
珈琲を使って染色
↓
きのこ栽培キットを製作 →きのこ染料、建材・製品、バイオコークス(※)
↓
家庭で栽培
↓
栽培後の菌床の再利用
↓
土に還る
(※)バイオコークス:バイオマスの固形燃料。バイオマスは再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものをいう。
循環型社会の縮図がここ、福井プレスと言えます。
事業コンセプト図
解説します。
珈琲店の廃棄物を再利用
・賞味期限の切れたフードロス豆やドリップ後のカスを染料として再利用
・産業廃棄物となるチャフ(豆の薄皮)も再利用可
珈琲を使って染色
・限られた資源を染料として有効に活用する
・浸染(しんぜん:液体の中にひたして染める)、捺染(なっせん:布に色模様を染め出す)の併用可能(どちらも珈琲100%)
・天然染めとしては品質の高い堅牢な色に仕上がる
きのこ栽培キットを製作
きのこ栽培の研究をしているため、菌床に適する培土を珈琲カスで再現、再利用化できる
⇒染色後の珈琲カスを再利用し、キットの培土を製作する
家庭で栽培
喫茶店などできのこ栽培キットを購入し、家庭で栽培
栽培後の菌床の再利用
栽培後の菌床を、家庭菜園などの肥料や除草剤に再利用
土に還る
文字通り “土に還る”サイクルです。
珈琲豆の「染 食 還」
きのこラボに向かうその横に、フードロスの珈琲豆がドンゴロス(自然素材の麻袋)の袋にどっさりと積まれていました。
袋の中の豆の感触を知りたくて、軽く手のひらを置いてみますと、油が、、。
手のひらが瞬時に油まみれになりました。
珈琲豆は相当な油が出るんですよ!
と福井氏が語る。
本来廃棄されるこれらのフードロス豆が染料になり、残りカスがきのこの培地(きのこを育てるための土)に生まれ変わるのか。
感慨深く袋の山を眺めました。
部屋のカウンターにコンクリートブロックのような物が置いてああります。
それがきのこ建材です。かなりの強度がありますね。
ブロックはかなりの硬さです。
きのこ建材とはきのこ菌床、つまり培地内に網目状に菌が増殖した状態になり、これを乾燥するとまるでレンガのように硬くなるのだと。
様々な形の「きのこ建材」
この上のランプの傘、これもそうですよ。
穏やかな光が降りそそぐ
きのこ建材の傘に包まれたランプの光は不思議に、環境にやさしく感じました。
この硬さに反して、かなり軽量化されており、従来の化石燃料から新しい代替品の可能性が高いようです。
更に私は棚に置いてあった高さ30センチほどの焦げ茶色のい円柱に目が行きました。
これは何?
珈琲コークスです。
バイオコークスと言われるもので、あらゆる植物から形成できる固形燃料ですね。
珈琲豆を染料として使用した後の珈琲の残りかす(残渣)をバイオコークスの原料とする事で、珈琲の香りが残る珈琲コークスが製造出来ます。
このコークスを使って珈琲豆を焙煎したり、アウトドアでバーベキューや焚火の燃料に利用できます。
可能性に満ちた珈琲コークス
私は次から次に出てくる珈琲の変身物に驚いていると福井氏は次に、チョコレート色した硬いプラスチックの板のようなものを見せてくれました。
プラスチック成型品の原料となるペレットです。珈琲染色に使用した後の資源の残り(資源残渣)を使い、従来のPP(ポリプロピレン)との配合で作り上げます。これはプラスチック製造会社とのコラボレーションです。
染料の残りがプラスチックに化ける?
それが
珈琲ペレットでした。
完成品には資源の残りカスの持つ色味や香りが残り、無機質な従来のプラスチック製品に比べ、品質にまさに!味があります。
染料の残りが、プラスチックに!
きのこラボとは
さて、
きのこラボです。
現在、ラボは建設段階でした。
なぜラボが必要なのか?
きのこ栽培は
クリーンな環境が必要とのことです。
きのこの菌が雑菌に阻害されることなく成長するために、無菌状態で作業するための装置(オートクレーブやクリーンベンチ)で滅菌し、クリーンな環境下で作業を行います。
このため、専用のラボがいるのです。
見学させていただいたラボの部屋は大枠で仕切られており、その部屋の壁にはきのこの生育状況が見れたり、展示ができるお洒落な棚も出来上がっています。
あとは様々な機材の納入待ちの状況です。
8月プレオープン、10月本格オープン予定。
期待に私の胸も高まります!
まだ空間だが、夢で一杯になる「きのこラボ」
福井氏がきのこ建材の話しているときに言ってました。
自然が本来持っている特徴を生かしたきのこ建材。最後には土に還ることは言うまでもありません。
繊維業界に属する染工場は石油業界に継ぐ2番目の環境汚染産業と見られています。
従来の生産活動を続けて行く事に疑問を感じ、私たちのポジションでこれからの社会に必要とされるスタイルは無いだろうか・・。
そんな考えから導き出した答えが<染食還>としての活動でした。
地域社会に必要とされる染工場にならなければなりません!
福井氏が発した
「土に還る」。
この言葉が「染 食 還」をわかりやすく翻訳してくれたのよう感じました。
きのこの世界観に魅せられた者たちのドラマはこれからです。
SDGsでのプロダクト
福井プレスは現在スタッフは11名。
その全員が染め物もきのこ栽培研究も、そして事業・商品のブランディング、そのデザインコンセプトからWEBサイトや印刷物まですべてを担っています。
WEBも印刷物もデザイン性が実に高く、聞けば武蔵野美術大学卒が2名も在籍しているとのこと。
著者は長年、採用事業に携わっていましたが、優秀な人材確保は社名の知名度でも会社の規模でもなく、
その事業者の人格や夢が人を呼び寄せるのです。
正に現在の採用の成功事例を目の当たりにしました。
彼ら彼女らがつくる商品一覧です。
持続可能な生産サイクルから生れました。
珈琲染めTシャツ
濃染プリントの独自技術で天然色素100%。珈琲の消臭効果が期待できる。
プリント用の型紙を切り抜くワークショップでオリジナル作品の制作も可能に。
珈琲染めエコバッグ
レジ袋有料化に伴い、活躍の機会が格段に上がったエコバッグ。
抗ウィルス加工も施し、時代に則したアイテム。
蜜蝋ラップ
珈琲染めを施した生地に天然油脂の蜜蝋をコーティングした布ラップ。
繰り返し使用可能。使い捨てされない環境に配慮したアイテム。
きのこ栽培キット
染料として再利用された珈琲カスを培土とし菌床をつくる。
小スペースの都市部でも、生産可能な農産物を生産し、世界的な食糧問題解消に向けた提案となる製品。