ありそうでなかった、左右サイズ違いのシューズ販売  そのビジネスの可能性と創業者の思い

オオサカジン運営事務局

2024年10月16日 09:30



株式会社DIFF. / 代表取締役 CEO 清水雄一氏

                                                                                                 

人間の足の左右のサイズは同じ。多くの人がそう思っているだろうし、むしろ当たり前すぎて意識すらしていなかったという人も少なくないのではないか。しかし、スポーツ用品メーカー大手の株式会社ミズノ(以下ミズノ)が保有する人の足型のデータによると、左右で足の大きさが違う人はおよそ5%ほど存在するのだという。その点に着目し、新たにビジネスを展開しているのが株式会社DIFF.の代表取締役 CEO 清水雄一氏。左右で足のサイズが違う人が一定数いることに注目、これをビジネスにしようと思い立ったきっかけは、自身の経験からだった。



実は私も、左右で足のサイズが違うんです。学生のころからサッカーをしていまして、自分に合うシューズを選ぶことが難しかったんですよ。ずっと大きいほうの足に合わせて、シューズを買っていました。その状態でプレーすると、小さいほうの足がシューズのなかで動いてしまって、ずっと親指の爪のところが内出血している状態でした。それがひどくなると、親指の爪が剥がれてしまう。爪を剥ぐという、不毛なスキルばかりが身に付いてしまいました(苦笑)。なんとかしようと小さいほうの足に中敷を入れたりしましたが、しょせんはごまかしなんですよね。それに片方にだけ中敷を入れると、左右で足裏の厚みが変わってしまうので、感覚もおかしくなるんです。当時は、仕方がないことと諦めていました





高校時代からサッカーシューズを作る職を志し、大学卒業後はミズノに入社、志望通りの仕事に就く。そして2019年に社内で新規事業のプログラムが立ち上がり、当初は違うプランを提出していた。それと並行しながら靴選びの悩み事について周囲に話を聞いてまわると、足の左右のサイズ差で困っているという人に一定数、出くわした。

話を聞いていくと、左右でサイズが違う人がある程度いることがわかりました。それでミズノにあった、たくさんの足型のデータをひっくり返してみると、だいたい5%くらいの人は左右で足の大きさが違っていたんです。これくらいの人が悩んでおられたり、悩みを抱える可能性のある予備軍がいらっしゃるのなら、その人たちのシューズの悩みを解決するところがあれば、喜んでもらえるはずだと思いました。そもそもプロでは左右別サイズで自分に合わせたシューズを履いていますが、アマチュアはそういうことはまだ浸透していません。プロアマ問わず左右別サイズで、正しく自分に合ったシューズを履くことの大衆化に挑戦するのは面白いんじゃないか。そう思ったのが、構想のきっかけですね。




左右別サイズで靴を買うという、世の中になかった価値を当たり前にしていこうとするなら、ミズノの靴だけでは達成するのが難しいのではないかと考えていました。ミズノのなかで他社のシューズを買ってきて売るのは、現実的にはあり得ませんから。だったら外に法人を作るのが望ましいし、会社を辞めて起業するのもパターンとしてはあると考えました
「ですが」と言って、清水氏は話を続ける。
ミズノでは、新規事業の社内公募プログラムの事務局をやっており、社員が新しいことに挑戦できるような風土を作っていき、それによってもっと新しい価値が生まれてくるのではないかという思いがありました。それもあって『ミズノは挑戦を許容する会社だ、いっしょに示していきませんか』と、ミズノからの出向起業を提案しました


企業に属したままスタートアップできる
「出向起業」を活用して事業を立ち上げ



出向起業(※1)というあまり聞き慣れない職務形態。その実態は会社員が企業に属したままスタートアップができる、新しい起業の方法である。社員にとってはリスクを軽減して起業ができ、企業にとっては起業の経験を通じて社員の成長が見込める。両者にとって、メリットの多い制度だといえる。所属企業の理解もあり、この制度を利用して清水氏はDIFF.社を立ち上げた。

※1 出向起業とは https://co-hr-innovation.jp/

とはいえ、ターゲットになるのは全人口の5%ほど。そんな小さなマーケットを相手にして、商売が成り立つのかと疑念を抱く声も上がるだろう。それに対して、清水氏は明確な答えを携えている。
日本サッカー協会に登録している選手は、約400万人います。その5%といえば、20万人。全員がこのサービスを利用してくれることはないかもしれませんが、たとえ選手全体の1%でも4万人です。4万人を対象にできるビジネスで、ほかに代替がないものであれば、決して悪くないかなと思っています

DIFF.社のサービスは左右サイズ違いのシューズを仕入れ、ユーザーのサイズに合わせて左右を組み合わせる。卸値に利益分をのせた売価に、3,480円のサービス料プラスして販売する。これが、基本的な流れ。つまり別サイズをもう1足買うよりは、各段リーズナブルなサービスだ。これまではネット通販が主体だったが、この夏には小売店と連動しリアルに店頭で販売するイベントを実施。足型測定を行って左右差があった方にDIFF.社のサービスを紹介し、1ヶ月弱で20名余りの販売実績を残した。同じ悩みを持つサッカー元日本代表の大津祐樹氏(※2)を招いてのイベントも行うなど、リアルの世界にも積極的に進出している。

※1 大津祐樹は、茨城県水戸市出身の元プロサッカー選手。柏レイソルでプロデビュー、その後ドイツのボルシアMGやオランダのVVVフェンローでプレー。現在は会社経営者として活躍されています。



これまでにないサービスなので、まったく知らない人がオンライン上で買ってくれるのかはある意味、冒険的なところもありましたが、今では買ってくれた人のリピートも、少しずつ増えてきました。やはり届けるべき人に届けられたら、買ってくれるんだということがわかってきました
店頭のイベントでも、ビジネスを展開していくうえでの新たな知見が得られたという。
購入者のなかには、初めての体験なのでオンラインで買うのに不安がある人もいると思います。そんな方に対面で接客が受けられて、実際に両足で試して買って帰れるシューズがある世界を用意してあげる。そうすると、左右サイズ違いで買っていただけることもわかってきました。オンライン販売でアプローチ出来る全体の1%だけじゃなくて2~5%の人たちに対しても、アプローチの仕方によってはきちんと掘り起こしていける方法が、見えてきたかなと思っている状態です

慣れ親しんだサッカーの世界で足場が固まれば、ほかの競技へと進出していく構想も頭のなかにはある。
柔道や水泳など裸足で行う競技もありますが、ほとんどのスポーツではシューズを履きますよね。それらの競技人口に5%という数字を掛け合わせれば、市場はもっと広がります。さらに市民ランナーは1000万人以上いると聞きますし、そういったジョギングやウォーキングも対象にできる。また普段履きのスニーカーや革靴、婦人靴へと広げられます。販売のスキームなどをしっかりと構築できれば、横に広げていけると思っています


可能性広がるビジネスの根底に
あるのは、創業者の熱い思い



現在の課題のひとつは、左右サイズ違いで販売するため、残った左右のシューズをいかに次の販売につなげるか。ここのマッチングが上手く機能しないと、在庫の山を抱える危険も潜んでいる。2年前に起業してからさまざまな検証を重ねてきたが、そろそろひとつの方向性を定める時期に差し掛かっている。

これまでは我々のサービスに、本当にニーズがあるかの検証に注力をしていました。それが一定の販売実績も得て、今はいくつか余ってきているシューズもあります。今後はこれをどうするかが、我々の生命線なんです。たとえば今まで足型を取ってきた人たちに『こういう組み合わせで、あなたに合ったシューズがございます』というような働きかけに力を入れていく必要があるかもしれません。その一方でランダムに来たユーザーさんにしか捌けないのではなく、いろんなユーザーさんがおられ、両足別サイズを希望される方が納得のゆくシューズが選べる、そういった機能を備えていくことが必須になっていくだろうと思っています。それが本当にできるのかを、2024年内くらいで検証していこうと考えています



大手のメーカーや小売店であれば、市場の95%にねらいを定めるのは当然のこと。5%にターゲットを絞るのは、DIFF.社のようなベンチャーにしかできない。しかもその5%には潜在的な販売が期待でき、なおかつ大手メーカーや小売店とバッティングしないという、非常によく考えられたビジネスモデルだ。
しかし、忘れてならないことがある。DIFF.社が展開するサービスの根底にあるのは、清水氏と同じような悩みを抱えてほしくない。左右の足のサイズが違っていても快適にプレーができ、痛みを覚えることなく生活を送ってほしい。それこそが清水氏の心の底からの熱い思いである。


株式会社DIFF.
本社:大阪府大阪市北区梅田1-1-3 大阪駅前第3ビル 29階1-1-1号室
オフィシャルサイト:https://corp.diff-shoe.com/




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