2025年02月27日 10:00
コックさんを何人か雇いまして、父がお店を始めました。当時の周りは工業地帯で大手の企業さんもあり、そこにお弁当を配達していたりもしましたね。そうしながらも父は、もっとお客様に喜んでもらえることがないかと、ずっと考えていたんです。そのころミナミに鉄板焼きのお店が1軒ありまして、そこに行って『これや!』と。お客様の前で会話しながら調理するのは、いい演出になる。それで鉄板焼きの専門店に業態を変更したんです。洋食店の開業から、5~6年が経ったころですね
父は包丁すら、使えない人でした。調理人ではなく、真の経営者。マネジメントする力、先を読む力がありました。それにお客様に心から喜んでもらいたい、自分が損をしても『お客様にとっていいことなら、それでエエやん』という人だったんです。そういう相手を気遣う心を持っていたから、長くやってこられたんだと思います
建物を作るのがすごく好きで、円形の鉄板をどのように作って配置するかとか、いろいろと考えていましたね。椅子の幅も普通は70cmですが、優雅な気分を味わっていただけるよう90cmに。また、お客様が店内をどういう動線で動くのか。コックが厨房に入ったら、どういうふうに動くのかといったことまで考えて作っていました。ただおいしい料理を食べていただくだけではなく、建物も料理のひとつだと捉え、食べる空間も含めて演出するもの、という考え方でした
獣医になるつもりで学校を出て、何年かはインターンをやっていました。修業に行った動物病院は、動物は言葉を話さないから、飼い主さんへの問診をしっかりとやりなさいという方針だったんです。それに従って飼い主さんの話をよく聞いているうちに、これはサービス業ではないか。父がやってきたことと、同じだと思うようになったんです。それが、きっかけですね。私には、父と同じ血が流れてるんやって。格好良く言えば、ですけど(笑)。それで自分から進んで、会社に入らせてくださいと言いました
父は自分がなにか言えば、私は『はい』と言って聞くものだと思っていたのでしょうね。だけどそのころの私はすごく未熟でしたし、頭でっかちでつねに噛み付いていました。私は反抗することが自分の仕事みたいに、誤解していたんですよ。父が言うことに『それは古い』などと思っていましたが、今思うと父がいちばん社員のことを考えていたし、お客様のことも考えていたと思います。今でも私は、まったく及ばないです。喧嘩しているときは全然、そんなふうに思えませんでしたけど(笑)
その当時、父は会長で私は社長になっていました。父と喧嘩すると、私の機嫌が悪くなるじゃないですか。それで社員のひとりが、こう言ってきてくれたんです。『みんな社長の顔を見て、雰囲気を見て仕事してますよ』って。もう、ハッとなりました。みんなに、そんな思いをさせていたのかと。それからは自分からみんなに積極的に挨拶をするようになっていきましたし、だれの話もまずは聞こうという姿勢になりました。父との対応の仕方も時間はかかりましたけが、まずはやってみようとなって、少しずつ変わっていきましたね
初めて来られたお客様でも、お馴染みさんみたいに、どこか懐かしくて安心する。そういう、お店であり続けないといけない。これほどの歴史があるだけに、余計にそう思います。子どものころに親に連れてこられた子が、自分の子どもを連れて来られることもよくあります。4世代にわたって来ていただいてる、お客様もいらっしゃいますからね。そういう意味でも、南海グリルの根本にあるお客様を大事にする精神は、変わらずに守り続けないといけないと思っています
宮崎牛は松坂とか神戸、近江なんかの元牛なんですよ。仔牛が宮崎で作られていて、それが競りにかかり、それぞれの産地で育てられるんです。松形知事は宮崎牛というブランドを持つことにすごく熱心で、父は自分も熱い人だから、そういう人が好きなんですね。味にも人にも惚れて、南海グリルは宮崎牛で行くと決めたんです。世界に羽ばたく宮崎牛と謳っていて、世界的にも非常に評価が高いんですよ。肉質はきめ細やかで、味ももちろんいい。ハレの日に食べるなら宮崎牛と、自信を持ってお勧めできます
娘は自分からやりたいと言って入社してきてくれたので、上手く継承していきたいと考えています。やり方は時代によって変わってもいいと思いますが、心というか、南海グリルの精神は変えてはいけない。お客様を大切にする。そして、社員を大切にする。このふたつは、絶対に変えてはいけないことです
人が成長するために大事なのは、素直であること。私は、そう思っています。素直を間違って受け止めると、指示待ちになりかねません。そうではなく、自分がどうやれるか。それは、なんのためにやるのかを考えることが必要。失敗してもいいんです。なのにみんな、失敗しませんから。失敗するなら、やらないほうがいいと思っているのかもしれません。でもそれって、本当に面白いのかと思うんです
やってみてアカンかったら助けを求めたらいいし、一生懸命にやっていたら必ず、だれかが助けてくれるんですよ。だからとにかく、一生懸命やってみること。それはなんのためかと言えば、お客様のためだし、それから社員のため。ひいては、自分のためなんですよ。なにごとにもチャレンジしていくのは、本当に自分の成長につながる。そのうえで私はみんなに『後悔はせずに、反省はしていこう』と言っています。振り返る必要は、あると思うんですよ。そこで間違いや失敗に気付いたら、次に活かせる。でも立ち止まって後悔していたら、前には進めません。失敗したりアカンことをしたら、すぐに謝って、次に進んだらエエんです(笑)