株式会社夢職人 代表取締役 辻陽平 氏

1本1,000円もする歯ブラシ、あなたは使ったことがありますか？
歯磨き粉を使わず、水だけで歯がツルツルになる歯ブラシの『MISOKA（ミソカ）』は日本国内に留まらず今や世界で愛されるプレミアムな歯ブラシです。
MISOKAを製造販売している株式会社夢職人は、歯ブラシの製造だけでなく、超微細加工技術の研究や生産技術の確立、大学との共同研究といった誰も到達できなかった領域へのチャレンジを常に継続している企業です。物に感謝する気持ちや人と人とのつながりが希薄になっている今の時代だからこそ、商品への責任や人同士の信頼関係をもっと大切にしていきたい。モノづくりを通して人づくりをしたい。そんな想いを世界に届けるために今日も歯ブラシをつくり続ける株式会社夢職人 代表取締役 辻陽平氏に、コロナ禍を生き残るビジネスの在り方と今後の展望についてお話を伺いました。

『心からの感動』をお届けすることで、人々の暮らしをより快適で豊かなものに

ナノシオンドリーム加工というミネラルコーティング技術によって、水だけで磨ける歯ブラシ『MISOKA』。毛先1本1本にミネラルコーティングを施すことで気になる汚れをしっかり除去し、歯の表面をツルツルにして次の汚れを付きにくい状態に仕上げます。磨く・守る・リペアすることを目指して開発された、科学的機能性も確認された全く新しい発想の歯ブラシです。

最初は、「こんな技術あるよ」と異業種交流会で出会った仲間に、ミネラルコーティングをした歯ブラシを配るところから始めました。会社はその異業種交流会で出会った友だちに出資してもらい、1,000万円集めて設立したんです。社名は夢を持った職人集団になるような会社がつくれたらいいなということで、『夢職人』です。

元々は1,000円ではなくて600円くらいで売ろうと思っていたんですけど、ある方に『君を基準に物事を考えたらあかんで』とアドバイスをもらって。600円のものを1,000円で売るのはあかんけど、1,000円で売れるようにしたらええんや、と。
1,000円で売るために、最初は2週間しか持たなかったミネラルコーティングを、ミネラルを細かくすることで1ヶ月まで伸ばし、歯ブラシの透明度やパッケージ、デザイン、全てを見直し、こだわって今の形になりました。ミネラルを細かくするだけで、1〜2年かかっています。

悲しいくらいに見向きもされなかった最初の数年

今や海外でも大人気の『MISOKA』ですが、発売当初はなかなか売れず、かなり苦労されたそうです。

最初は東急ハンズに12本納品しましたが全く売れず、土・日に実演販売をさせてもらいに行ってました。それでも売れなくて…。朝から晩まで実演販売して6,7本。箕面から心斎橋の往復交通費、昼食代、コーヒー代で売上は飛んでいってましたね（笑）。

売れなくて暇だったんで、東急ハンズに来店されるお客様が購入する商品をチェックして、売り場の商品を勉強していました。でもそうすることで、段々とニーズがわかってきたんです。売り場を勉強して、お客様のニーズにあわせた提案をして…を続けるうちに、お客様に適切な言葉を投げかけられるようになったんです。
そのあたりから段々と売れるようになって、TV番組『知っとこ！』（ TBS系列で毎週土曜日の朝に生放送されていた全国ネットの情報番組）で取り上げられてから一気に火がつきました。

『百貨店行くなら、あの歯ブラシ買ってきて！』

歯ブラシを提供するというよりも、化粧品を提供する感覚でお客様にご紹介させていただいている、という辻さん。『百貨店に行ったら買ってきて！』という商品として、いかに認識してもらうかが大切だそうです。

『あそこ行くんだったら、あのパン買ってきて！』っていう商品があるじゃないですか？
でも行かないからといって、わざわざ取り寄せてまで買わないですよね。梅田行ったら買ってきて、みたいな。そのポジションだったんです、この歯ブラシの当初は。

大打撃だった新型コロナウイルスの影響

誰もが影響を受けた新型コロナウイルスの影響。ネット販売ではなく、主にイベントや店頭販売に力を入れていた『MISOKA』もやはり大きな打撃を受けました。

コロナ前までは年末の職人フェアで説明販売するイベントで紹介していたんです。イベントで認知して頂き初めて買ってもらって、次から常設売り場で買って頂く、と。でもコロナの影響で百貨店や東急ハンズやロフトなどに今は行きずらいですよね。対前年比で見たら売り上げは半分以下ですよ。

去年も「ぜひオンラインに！」と言われていたんですが、10年以上百貨店や東急ハンズ、ロフトにお世話になってきたわけですよ。急に手のひらは返せないですよね、どこも苦しいわけですから。元に戻る日まで耐えよう、とずっと我慢していたんですが、もうあかん！と。このままいったら俺たちも倒れる、となったので2021年になってネットショップにも本格的に力を入れ始めました。育ててもらった筋もあるので我慢していたんですが、会社の存続あってこそですよね。

今まで自社サイトはあったんですけど、通りに出さないと気付いてもらえないということで自社サイトだけでなく楽天市場にも店を置いて。そこから一気にまた売れていきました。

介護用歯ブラシで挑む　『TEAM EXPO 2025』

2025年大阪・関西万博では、多様な人たちがチームを組み、多彩な活動で大阪・関西万博とその先の未来に挑むための参加型プログラム『TEAM EXPO 2025』
夢職人は、共創チャレンジの取り組みの中で『使いやすく、効果的なオーラルケア』で『環境に優しく全ての人の健康寿命の延伸』実現を宣言しています。

ナノシオンドリーム加工が施されたMISOKAの介護歯ブラシは『TEAM EXPO 2025』プロジェクトに認定されています。
介護をされている方は自分で歯が磨けません。そういった人たちは、自分の命を人のケアに依存しているんです。歯が悪かったら様々な病気に影響するにも関わらず、障害をもたれたり介護状態にある方は、介護する人の歯磨きに自分の命を託している。しかし命を託されている歯をケアする側の人はお給料で仕事をしているので、1時間あたりのやるべきことが決まっており、効率よく歯を磨く必要があります。そんな時、この介護用歯ブラシなら手にはめて磨くので、磨きやすいですよね。効率も良いです。もちろん、歯磨き粉を使わないのでSDGsとしてもいいんです。

14年前からの働き方改革

長時間労働の是正や柔軟な働き方がしやすい環境の整備などをすることで、仕事とプライベートの両立を図ることを SDGsでは目指していますが、SDGsが叫ばれるよりもずっと以前から労働環境は整えてこられたそうです。

弊社の就業時間のコアタイムは9時〜13時。なのでお子さんがいらっしゃる方は、『いってらっしゃい』と送り出して、『おかえり』と迎えることができます。これは14年前からずっとそうですね。女性の活躍やSDGsの取り組みなどと言われる前からやっていました。

14年前はわかっていただけなかった働き方が、やっと理解いただけるようになりました。生み出す商品も環境に優しいし、生み出す経緯も人々に優しい。働きたいと思ってもらえる会社で、パートさんがいて成り立っています。

「MISOKA」ブランドは上質の『モノ』と『コト』の生活ブランドへ

歯ブラシを売るだけではなく、先進的なミネラルコーティング技術を軸とした製品を開発、製造する中で、会社としてどんな未来をつくりあげていくのかをお話していただきました。

うちのお客様と他の商品を掛け合わせていこうというのを進めています。唐突に色々提案するのではなく、今まで買ったことがあるものに、うちの技術をかけ合わせたものを売っていく展開を考えていきます。
今までみたいに小売店に任せておけば勝手に売れていく…ということはもうなくて、売る努力から僕らがやらなきゃいけないんです。

近々の展開は？

もうじき米を売りますよ。新潟県長岡の契約農家で田植えから稲刈りまで関わり、そこで取れたお米を社長のお取り寄せということで買ってもらうんです。今年は米を買ってもらい、来年からは田植えの見学に来て欲しいし、田んぼの水棲昆虫を見た後は花火を見て、稲刈りをして新米を届けて、年末はおもちをお届けして・・・と。
米を通した『コト』を提供できたらいいなぁと。



コロナのおかげで今まで通りには行かなくなったので、売り方から変えていく。お客様との関わり方から変えていく。そして会社の在り方も変えていく。打撃が大きかった分、考える時間もじっくりあったので、これからは新しいことをやっていこうかなと。コツコツとものづくりをやっているからこそ、色んなことができるんですよ！と伝えたいですね。

世間を驚かせた歯ブラシだけに留まることなく、新たな『コト』への挑戦。ますます世界を広げていく未来を笑顔で話してくださる辻氏。
今までも、これからもチャレンジの連続を楽しんでいるように感じました。

株式会社 夢職人
〒562-0044　大阪府箕面市半町 3 - 14 – 13
オフィシャルサイト：https://www.misoka.jp/