ロールケーキ旋風の火付け役「堂島ロール」の新たな展開

株式会社Mon cher(モンシェール) / 代表取締役 金 美花 氏

                                                                

2000年代初頭にロールケーキの一大ブームを巻き起こした洋菓子店・モンシェール(本店:大阪市北区堂島浜)。たっぷりのクリームをふわりと焼き上げた生地でひと巻きした「堂島ロール」は、発売から20年以上経つ今も多くの人に愛される同社の看板商品だ。現在は、焼菓子・ゼリー・プリンなどの製造・販売も手掛けており、国内に加え海外にも店舗を持つグローバルブランドへと成長している。
同社で代表を務める代表取締役 金 美花氏は「自分が作ったお菓子で、家族や友だちが喜んでくれるのが嬉しくて」と、創業の原点にある子ども時代の思い出を語る。もともと小学校教諭だったという金氏。どんなことをきっかけに経営者としての道を歩み始めたのだろうか。事業の変遷や今後の展望とともにうかがった。

ロールケーキ旋風の火付け役「堂島ロール」の新たな展開

教師から経営者へー 自分の可能性に挑戦



モンシェールの創業は2003年。当時大阪市北区にあった「堂島ホテル」の一角を借り、金氏自身がケーキを販売することから始まった。なぜ金氏は、洋菓子の製造販売という事業で起業しようと思ったのだろうか。

起業する前は小学校の教師をしていました。生徒たちにはいつも「自分を信じて頑張っていれば、思い描いた夢は必ず叶う」と説き、一人一人が立派な大人になれるようにと精一杯教育に当たっていました。そんな中、「夢は必ず叶う」と言っている私自身はどうなのだろうかと、ふと思ったのです。私という人間は、社会に出てどれだけのことができるのだろうと。

自分の可能性に挑戦してみたいー。金氏は内側から湧き上がる自分の声に従い、新たなキャリアを求めて教師を退職。29歳の時だった。ただ、想いはあるもののすぐ実行に移せるような事業計画があるわけではなく、「やりたいこと」の輪郭が明確になったのは、2カ月間にわたるヨーロッパ旅行での経験を得てからだった。

ロールケーキ旋風の火付け役「堂島ロール」の新たな展開

教師を辞めた後、かねてから行きたかったヨーロッパへ友人とともに旅行に出かけました。2カ月かけて10カ国を回った中で、特に圧巻だったのは世界の名立たるラグジュアリーブランドが軒を連ねるパリの街並みでした。洗練されたジュエリーや時計が飾られたショーウインドウの数々には心底魅了されました。でも、私には到底買うことができないような値段のものばかり。「いつかは手にしたい」と思いつつ、私たちは近くのカフェに入り、そこでスイーツをいただきながら街の景色を眺めたものです。その時間がとても心地よくて。

何十万円もするブランド品を買わなくても、スイーツが私の心を優雅な気分にさせてくれる。金氏はパリのカフェでの体験を通じ、「おいしいスイーツこそ、人の心を幸せにする “手の届く贅沢”」だということに気づく。
ここから「スイーツを通じて幸せなひと時を届ける」ことを事業の根幹に持つ「モンシェール」の構想が始まることとなる。

偶然の出会いから「堂島」に出店



私が具体的な事業内容について思案している頃、たまたま堂島ホテルの運営に携わる方にそれを話す機会がありました。「スイーツで人を幸せにしたい」という私の想いに共感してくださり、「それなら一度ホテルに出店してみないか」と、トントン拍子で一号店の開業が決まりました。

2003年11月、金氏は堂島ホテルの一角に洋菓子店をオープンさせた。当初の看板商品は、ロールケーキではなくミルフィーユだったという。
開業直後はオープニングセールを行ったこともあり大盛況となりました。シェフの自信作だったミルフィーユを売りにしていたのですが、作るのに手間がかかるためお客様にの注文に追い付かなくて。そこで始めたのがロールケーキです。こちらも大変な人気が出て、ミルフィーユよりも注文が入るようになりました。そうすると、今度はロールケーキの製造も間に合わなくなったのです。せっかく足を運んでいただいたのだから、一人でも多くのお客様にケーキをお渡ししたい。そんな想いから、ロールケーキ1個当たりに使う生地の量を減らしてひと巻きで作る「堂島ロール」が誕生しました。


ロールケーキ旋風の火付け役「堂島ロール」の新たな展開

通常は渦巻き状にして生地とクリームの層を作るロールケーキだが、金氏はたっぷりのクリームを生地でひと巻した新しいロールケーキを創り出した。従来のロールケーキよりもクリームの比率が高くなるため、クリームのクオリティこそが全体の味わいを大きく左右する。そんな「堂島ロール」の要となるクリームには、どんなこだわりがあるのだろうか。

じつは私、口に残るようなくどさのあるクリームの味が苦手で。「堂島ロール」には、そんな私でも「おいしい」と感じることのできるクリームを使いたいと考えました。バターのような濃厚な味わいではなくて、搾りたてのミルクのようなフレッシュな味わい。それを「堂島ロール」のクリームに求め、試行錯誤を繰り返したんです。


ロールケーキ旋風の火付け役「堂島ロール」の新たな展開

金氏のこだわりにより作られたクリームは、ミルクならではのコクとクリーミーさに加え、口溶けの良さと、後味の軽さを持つ独自の味わいで人気を博していくこととなる。また金氏はただ来店を待つだけではなく、自身も外に出向いて顧客開拓に力を注いだ。

堂島の近くには高級繁華街の北新地があります。店舗の営業が終わった後に、そこで働く女性にケーキの試食をお願いしによく足を運んでいました。食べてもらえば味に納得してもらえる自信がありましたし、実際「おいしい」と評判になり、注文いただけるようになり、お店を利用する男性の方にも口コミで広がり、取引先用の手土産などにも利用いただくようにもなりました。

オフィス街に店舗を構えたことが功を奏し、「堂島ロール」はビジネスシーンでの菓子折りとしての需要を掴んだ。さらに行列ができるスイーツ店としてテレビや雑誌など多くのメディアに取り上げられることも増え、評判を聞きつけたバイヤーから声がかかることが多くなった。

中でも大きな転機となったのが阪急百貨店様への催事出店です。ロールケーキ800本分の整理券が20分でなくなり、開店すると1階から7階まで続く長い行列ができたのです。その光景を前に、思わず涙してしまいました。その後、銀座三越様のバイヤーの方からもお声かけをいただき、1週間の催事期間内で毎日500本を完売させたことから、そのまま常設店として出店することが決まりました。


ロールケーキ旋風の火付け役「堂島ロール」の新たな展開

関西から関東、そして世界へ



2006年9月に開業を控えていた神奈川県のラゾーナ川崎からも出店依頼の打診があり、関東へと店舗展開を広げていく。さらには2010年開催の上海万博からもオファーが届き、金氏は世界を舞台に「堂島ロール」を通じて日本品質のスイーツを発信することにチャレンジすると、現地のバイヤーからすぐに出店依頼があり、同地で初の海外店舗開業を果たすこととなる。香港で販売する「堂島ロール」のクリームにも日本の店舗と同様とことんこだわり、北海道産クリームをメインに数種類ブレンドして作った自家製クリームを空港便で届けているという。そして2010年にはモンドセレクション(※1)金賞を受賞し対外的な評価を高めた。さらに韓国でもテレビ番組に紹介されたことをきっかけに出店し、現在は国内23店舗・海外40店舗以上を展開するまでに成長している。

※1 モンドセレクションとは、ベルギーに本部を置く国際品質評価機関であり、食品、飲料、化粧品などの市販製品の技術的水準を審査し、優秀なものに賞を授与するコンテストです。 モンドセレクションで評価されるということは、国際的にも高い品質の製品を作り、管理することが出来るという指標ともなります。

ロールケーキ旋風の火付け役「堂島ロール」の新たな展開

顧客にも社員にもスイーツで幸せを届ける



経営理念に「私たちは幸せお届け産業です」を掲げる企業として、顧客だけではなく社員に対しても幸せを届けたい。金氏のそんな想いから、パティシエの個性やアイデアを生かせる新ブランド「27℃」を24年7月大阪市肥後橋に開業。モンシェールでの経験を経て独立した元社員の店舗手伝いなどのサポートにも力を注ぎ、スイーツ業界の活性化に貢献している。

ロールケーキ旋風の火付け役「堂島ロール」の新たな展開

スイーツを通じて地域の活性化と環境保護



福岡・岡山・北海道など地方にある店舗は、その土地ならではの素材を活用した商品開発も推進している。「モンシェール シーズンズ 博多阪急店」では、福岡県産の小麦粉「ちっご祭り」や宮崎県高千穂牧場の発酵バターを使用した「シーズンズ フィナンシェ」、九州産の生乳やクリームで作ったオーム乳業の「九州クリームチーズ」と「堂島ロール」のクリームを合わせた「白い九州チーズケーキ」などのオリジナルスイーツを販売。北海道には自社で運営する牧場「モンシェール・ファーム」を通じ、酪農業の活性化に寄与している。

ロールケーキ旋風の火付け役「堂島ロール」の新たな展開

「モンシェール・ファーム」は未来式循環型牧場です。牛の健康と美味しいミルクのために、牧草は自家栽培で行っています。牛のゲップや排泄物などによるメタンガス排出量を削減するための栄養分を与えるなど、温室効果に及ぼす影響を低減することにも配慮しています。また、糞をバイオ燃料に変えることで電力として資源循環させています。美味しさを追求すると同時に、環境への負荷軽減にもつながるミルク。それがこれからのモンシェールが理想とするクリームの在り方です。このクリームを生かして、新しいスイーツの提案の仕方もいろいろと考えています。私たちは環境にもやさしいスイーツを通じて、今よりもっと多くの人に幸せを届けていきたいですね。

身近な人に笑顔で菓子を作っていた少女は、その想いを基に「堂島ロール」という世界を魅了するロールケーキを創り出した。大きな成功を得た金氏。新たなチャレンジとして、さらなる美味しさと環境保護を実現するための新しいスイーツ作りに日々取り組んでいる。

株式会社Mon cher(モンシェール)
本店所在地:大阪市北区堂島浜2丁目1-2
オフィシャルサイト:https://www.mon-cher.com/


同じカテゴリー(大阪市北区)の記事画像
一代で「ホルモン焼肉」というものを定着させ 全国にFC店を生んだナニワの焼肉師匠
2026年に20周年を迎えるみんなの寄席!「天満天神繁昌亭」の軌跡
《みんなわくわく、明日もわくわく。》 世代を超えて愛される場所に! 長居公園を未来につなぐリーダーの思い
ありそうでなかった、左右サイズ違いのシューズ販売  そのビジネスの可能性と創業者の思い
企業価値を左右するISO規格認証サポートの業界トップ企業が放つ、世界への「矢」
困難な状況の人や子供を助けたい!全国展開を実現した探偵業のパイオニア
懐かしい日本の味を未来へ!米一粒「もったいない」精神が生み出した『箔米堂』
リピート顧客7割!足の悩みを抱える人に寄り添い、靴とオーダーメイドインソールで足元から健康をサポート
同じカテゴリー(大阪市北区)の記事
 一代で「ホルモン焼肉」というものを定着させ 全国にFC店を生んだナニワの焼肉師匠 (2025-04-10 10:00)
 2026年に20周年を迎えるみんなの寄席!「天満天神繁昌亭」の軌跡 (2025-03-27 10:00)
 《みんなわくわく、明日もわくわく。》 世代を超えて愛される場所に! 長居公園を未来につなぐリーダーの思い (2025-02-17 10:00)
 ありそうでなかった、左右サイズ違いのシューズ販売  そのビジネスの可能性と創業者の思い (2024-10-16 09:30)
 企業価値を左右するISO規格認証サポートの業界トップ企業が放つ、世界への「矢」 (2024-09-20 09:30)
 困難な状況の人や子供を助けたい!全国展開を実現した探偵業のパイオニア (2024-09-13 09:30)
 懐かしい日本の味を未来へ!米一粒「もったいない」精神が生み出した『箔米堂』 (2024-07-12 09:30)
 リピート顧客7割!足の悩みを抱える人に寄り添い、靴とオーダーメイドインソールで足元から健康をサポート (2024-06-28 09:30)