社長就任直後に火災。それでも国産つまようじにこだわり、再建の道を歩む

菊水産業株式会社 / 代表取締役 末延秋恵 氏

つまようじ製造が河内長野市の地場産業であることを知る人は少ないのではないだろうか。またつまようじの材料は、シラカバや※①クロモジ等があり、最盛期市内では黒文字の製造会社は大小合わせて50事業者にのぼり、つまようじ作りは昔、農家の内職として重宝されるなど、すそ野は広かった。しかしその後、安価な中国製品に押され衰退、一般的な形のつまようじを国産材で製造しているのは、今では国内でわずか2社に。そのうちの1社、菊水産業株式会社の倉庫や事務所が火事で全焼したのは、代表取締役 末延秋恵氏が4代目に就任してわずか40日後のことだった。しかし社員やパート従業員の力と幅広い支援を受けてすぐさま再建に動き、期限が迫っていた正月用品もほぼ予定通り納品するという離れ業をやってのけた。末延氏は「地場産業を守るためにも、つまようじ作りを夢のあるものにしたい」と、変わらず前を向いている。

※①クロモジ:クロモジは、クスノキ科の落葉低木。枝を高級楊枝の材料とし、楊枝自体も黒文字と呼ばれる。枝は箸に加工される場合もあるほか、抗ウイルス作用が知られ、葉を含めて茶外茶にも使われる。また香料の黒文字油がとれる。

社長就任直後に火災。それでも国産つまようじにこだわり、再建の道を歩む

燃え盛る倉庫を前に、出荷の迫った注文への対応に頭を巡らせ、1か月後に出荷再開



2021年10月9日。土曜日で社員やパートさんらは休みだったが、8月下旬に4代目に就任したばかりの末延氏は事務所に向かっていた。前方に煙が上がるのを車から見て、稲刈り後の畑の藁焼きの煙かなと思ったが、近づくにつれ炎が目に入り、大切な事務所と倉庫が燃えているのを目の当たりにした。離れた田んぼで行っていた藁焼きが藁を伝い飛び火したのだ。消防に通報するとともに煙に包まれている事務所に飛び込み、パソコンや大事な文書類を運び出したが、それも3回が限度。駆けつけた消防隊員に「せめて工場だけは燃やさんといて」と頼んだ後は、燃えていく事務所と倉庫を見守るしかなかった。しかし、気持ちが折れることはなかった。

社長就任直後に火災。それでも国産つまようじにこだわり、再建の道を歩む

火災のあったその日のうちに仕事の事を考えていました。燃えている最中も、注文を受けていた正月商品などについて「あれどうしよう」と考えていましたね。スタッフも全員現場に駆けつけてくれましたが、みんな前向きでした。燃えてしまった材料の調達やパッケージ、袋の印刷を改めて頼んで、1カ月後の11月初めには出荷が始められました。また工場にあった替えのきかない唯一無二の大切な機械も、水損はしたものの何とか使えました。
当時ツイッターのフォロワーが4.4万人いたのですが、火事の報告ツイートが3.8万リツイートされ、フォロワーの人たちが心配していることがニュースで取り上げられると、食料品や文房具などたくさんの支援と励ましの物資を送っていただきました。中には、応援したいからクラウドファンディングをしてほしいという声があり、自分は正直あまり気が進まなかったのですが、300万円を目標に始めたところ1,220万円以上もの支援が寄せられて、工場の改修等に使わせていただき、本当に助かりました。


北海道産白樺と国内産の黒文字は譲れぬ一線。フランスの和菓子店でも使われる


河内長野市でつまようじの生産が始まったのは明治時代。当時は材料のクロモジが豊富にあって、黒文字楊枝作りが農家の副業として広がった。このころはすべて手作業で削っていたが、大正時代に白樺つまようじの機械生産が始まってからは、国内生産量の95%を河内長野が占めるほどになったという。菊水産業の創業は1960年だが、それ以前に末延氏の母方のひいおじいさんが家内工業として始め、おじいさんが独自に今まで手作業だった黒文字ようじの機械を開発し量産体制を確立させた。

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当社で作る一般的なつまようじの原材料は北海道産のシラカバを使用しています。建築には向いていないと聞いていますが、よくしなり、においが強くないこともあって、つまようじには最適だそうです。シラカバがよく採れる北海道ではつまようじ専用のシラカバ加工が一つの産業として根付くほどでした。でも今は、国内でも仕入れ先は北海道の1社だけに、中国産が入ってきて国内のメーカーが軒並み廃業したり中国に生産を移したりしたためです。もう一つ、和菓子を食べる際に使われるクロモジはクスノキ科の木で、いい香りがして抗菌作用があります。国産の黒文字楊枝は、和菓子店の多い京都の卸商に出荷しているほかEC販売等、フランスの和菓子店とも取引きしていて使われているんですよ。


Webデザイナーからの転身。機械による黒文字楊枝作りを復活、自ら原材料の伐採も


末延氏は子どものころから、祖父母の家に遊びに行っては製造現場をよく見ていた。その祖父母の家が、火事の後、事務所や倉庫になっている。高校生のころから祖母の介護をしていたこともあって、高校卒業後は専門学校を卒業し介護福祉士の資格を取得、介護の道に。その後Webデザイナーをしていた2014年、おじいさんから3代目を継いだ叔父が社長のときに、専務として入社した。

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親族の集まりで、叔父があと5年から10年以内に会社をたたもうと思っていると話すのを聞いて、大好きだったおじいさんが育てた会社がなくなるのが嫌だという気持ちが湧き上がってきて、それなら後を継ごうと。何も知らなかったんですがね。祖父が生前「昔みたいにやっぱり国産でやりたいな」と言っていたのを思い出し補助金を申請してみたら通ったので、まず昔おじいさんが開発した機械を元に黒文字楊枝製造機機械を開発しました。黒文字の原木を探し山主さんとあって採取してくれる人を探したり、自分で山に入り伐採したりとかしたうえ、府のファンド事業で商品づくりのプロセスを学び、3年かけて新しい商品化にこぎつけました。さらに消費者に名前を知ってもらうために「菊水」というブランドも打ち立てました。この名前は菊水産業株式会社から取ったもので、近くの千早城を拠点に活躍し、おじいさんがとても好きだった※②楠木正成の家紋にちなんだものなんです。

※②楠木正成家紋:南北朝時代後期から室町時代始めの頃、後醍醐天皇に忠義を尽くした楠木正成(くすのきまさしげ)。武家にはそれぞれ家紋がありますが、楠木正成は「菊水」というものを使っていた。


多種類の独自商品を扱うECサイトも国産材使用の製品のみ。職人の手作りにこだわり


EC販売も始めサイトも立ち上げ、国産白樺ようじと国産黒文字楊枝だけでなく、竹製品や箸・しゃもじ・おろし器・木製弁当箱・スプーン・麺すくいなどその他にも多くの商品を販売しているが、すべて国産品で職人が制作したものだ。

Amazon 商品紹介ページ
Yahooショッピング 商品紹介ページ

社長就任直後に火災。それでも国産つまようじにこだわり、再建の道を歩む

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高齢化や需要の減退、跡継ぎ問題などで職人さんも減ってきてるのですが、少しでも木製品のモノづくりの良さを知ってもらえればと思っています。
当社は現在自社の国産材つまようじ製造が2割、残りがOEM、他に中国製品の卸も一部行っています。ただ原材料確保の問題がありますし、機械を動かすのも大変です。とてもデリケートでだれもが動かせるものではありません。故障したら部品もスペアもありません。廃業した会社の機械を譲り受けてその部品を使ったりしていましたが、それもいつまでも続きません。製造環境はとても厳しい状況ですが、つまようじ作りはずっと守り続けてゆきます。まだまだやりたいことはいっぱいあって、デザイナーさんと色々取り組みを進めてるんです。
    

国産つまようじを守りながらも広がる活動の幅。さらなる活躍に期待


もちろん火事は大きな痛手だったが、取引先は飲食関係が多いだけに、コロナ禍の影響の方が大きいという。しかし、転んでもただでは起きない末延氏。コロナ禍で感染防止に神経質になっている点に着目し、つまようじの原材料を使った「つまようじ屋の非接触棒」を開発販売して大きな反響を呼んだ。さらに行動力と人のつながりが多彩な末延氏の活動はつまようじだけにとどまらない。2020年には、日本の伝統と文化を海外にも伝えたいと、和菓子や泉州タオル、堺のお茶屋さん等の地場産業の会社などとともにマレーシアでお茶会イベントを開催。今年7月にも同じくマレーシアのクアラルンプールにある「pavilion」で日本のモノづくりと和菓子、着物ファッションショーなどのイベントの日本運営事務局を務めた。またSNSにも力を注いでおり、つまようじをキャラクター化した「つま子」を考案しツイッター上でしゃべらせるなど、SNSでも活躍させている。現在ツイッターのフォロワーは有名企業を含めて5.7万人に増えており、5年後10年後にどんな分野にひろがっているか、とさらに期待はふくらむ。

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2年前マレーシアで行ったお茶会イベントでマレーシア在住の日本人イベンター会社の社長と知り合いになりました。その際にマレーシアでは日本の文化・伝統紹介と称して沢山のイベントが行われているが、実際はほとんどが中国人による開催のもが多いと言う話を聞いていました。なので今回7月に行ったイベントでは日本企業のとりまとめを行いました。日本の地場産業、モノづくりを海外に伝える橋渡し的な存在に少しでもなれたらと思っています。
そして最終的な目標は地場産業であるつまようじ製造を夢のある仕事にしなければならないと考えています。そのためにもいろいろなことを始めていますが、地域の人にも魅力を感じてもらい、地場産業の火をたとえ細々としたものであっても守っていきたいんです。ただ一方では、地場産業・モノづくりのみに縛られず、自分が面白いと思えること、みんながワクワクするような事をやりたいと思っていますので、それに向けてまだまだいろんなことにチャレンジしていくと思います。つまようじを守るためにも。

そう語る末延氏は、つまようじ生産という河内長野の地場産業を守り続けるための色々なアイデアが国産つまようじと同様にしっかりとしなり続けていました。

菊水産業株式会社
本社:〒586-0085大阪府河内長野市高向248
オフィシャルサイト:https://kikusuisangyo.co.jp/

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