木村石鹸工業株式会社 / 代表取締役 社長 木村 祥一郎 氏
大学時代の仲間数名と有限会社ジャパンサーチエンジン(現 株式会社イー・エージェンシー)を立ち上げ。以来18年間、IT関連サービス、プロダクトの企画や開発に従事。2013年6月にイー・エージェンシーの取締役を退任し、大正13年創業の家業を継ぐため木村石鹸工業株式会社へ。
2016年9月、4代目社長に就任。
起業からの社会人
学生時代は家業やこの業界に正直なところ関心が持てませんでした。かといって就職を考えた際もどこかの企業に勤めたり、「商売」という概念を持って働くイメージがありませんでした。そこで価値観の合うサークル仲間と会社を立ち上げるわけです。
立ち上げ当初の1995年といえばネットワークが「個人」まで普及するきっかけとなったWindows 95の発売時期。まだ「インターネット」がダイレクトにビジネスと結び付くことが容易に想像できない時代。我々は若さを担保に「失敗しても同じ価値観の若者が集まってやっていることだから」と、不安もありませんでした。しかし現実は創業して2年経った頃もアルバイトをしていた気がします。
社会人経験の無い学生が集まった会社の一歩目
━━━ 「実績のないところ」から実績を作り出さなければならない。
当時は営業ルートもないので「新規営業」をかけようにも「飛び込み営業」なんて誰も経験ありません。そこで考えたのが...
「全員参加」の営業
先方担当者よりも多い人数 6人で飛び込み営業です(笑)今となっては笑い話ですが、真面目さが伝わって逆に好感を持って頂いた方もいらっしゃいました(笑)
そもそもIT企業なのでWEBを使ったインバウンド営業が主な顧客獲得手法だったので、この「飛び込み営業」はビジネスの上で「度胸」をつけるには貢献したのかもしれません。そんな会社の歩みから事業伸長は加速し、5年、10年で結果を出してきました。
父は私の会社が成長していく過程を横目に、事業承継は半ば諦めていたのかもしれません。そこで事業承継を親族ではなく外部の人材に頼ることしました。
"外様大名"が実践したこと
40才を迎えようとしていた頃になると前職の事業がようやく落ち着き、年齢的なこともありますが実家や家業のことが気になっていました。
18年間経営に携わったIT企業から家業に専念することを決意します。
イー・エージェンシー時代は
━━━ 働いていて、楽しい人と働ける
それが意味するところは
「いい会社である」ということ。
創業時からのポリシーを貫いてきた自負もあります。ところが「木村石鹸工業」は既に出来上がった組織。信頼関係も築けていないところに私が入ってもおそらく同じような感覚は得られないと思っていたのです。
「職人 vs IT異端児」のような洗礼を受けるだろうと覚悟していました。
でも意外だったことに...
みんなが「あたたかく」迎えてくれたのです。
それは父の人望の厚さも関係していますが過去に外部人材の事業承継問題があり、
「ようやく直系が戻ってきた」
「あの頃の木村石鹸がもどってくる」というホッとした感覚もあったのかと。でも、わたしは父とは違うので全く同じようにはできませんがね(笑)
「特定企業に依存しない強い会社」をつくるために
先ず取り組んだのは既に「出来上がっている中のこと」よりも「見せ方」です。
我々のもつコンセプトを可視化するために、会社ホームページ、パンフレットなどを刷新しました。
当然、ホームページのリニューアルについては前職のイー・エージェンシーに発注しました。内情を知っているだけに担当者は、やりにくかったんじゃないかと思いますが(笑)
そして自社ブランドの開発にも力を入れ、役職に関わらず全員で行う
「アイディア出し」で数々の新製品を開発しました。
現場で「みつかる」新人教育
「新入社員」には「基本的に何でもやりなさい」と伝えています。
じぶんの
「やりたいこと」
じぶんが
「できること」
他人から
「期待されること」
仕事って、この三つが重なりあうところで活躍できたら幸せじゃないですか?
しかし新人は
「なにもかも未経験」
当然できることが少ないので
「やりたいこと」をみつけるために暫くいろんなことをやればいいじゃないか?
そんなことがきっかけで新しい評価制度を設けました。
弊社ではその期間を
「ルーキー」期間として5年(27歳まで)は、やりたいことを磨いていく。
自動昇給するので給与の事を考えずに能力を高める。
そのうち
「やりたいことがみつかる」
「能力が高まる」
周囲から期待されて「やってほしいことが多くなる」
その結果、その能力の価値を提供することができるポジションへ。
自己申告型給与制度への切り替え
ルーキー期間を離れれば、自分で「やりたいこと」を申告して自分で給与を設定できます。制度切り替え当初はどういうリアクションが返ってくるのか少し不安もありましたが、結果的には社内でいい反響が返ってきました。
「仕事」で自分がどういう貢献を果たすか?
その貢献がどういう価値をもっているか?
そんなことを「自分で考える」機会は、いわゆる「一般的な評価制度」ではなかったんじゃないかと。
制度に従って会社と相談することはありますが、自身で考えることは自律性につながります。特に若い世代に、こういう取り組みは意味があると思います。私自身も前職で会社を立ち上げた当初「会社勤めをしたことがない」立場です。しかしクライアントから「見積もり書」を求められれば、自分の
「価値に対する対価」を試算しなければなりません。
若いときこそ
「考える」機会を増やして経験を積むことが重要だと思います。
木村石鹸工業の組織改革
「自律型組織にしたい」という理想は「ティール」って言葉が出始める前から意識していました。基本的に社員は
「おとな」であって、周囲と協調してやっていけるという性善説が前提となります。究極的には「管理」という概念を無くしたいのです。
━━━ そのために社員はどんな環境や施策が必要か?
「自分たちのできることで会社が変わっていく」ことを体現していけば、全員参加の理想的な会社組織になるのではと考えています。
※「ティール組織」とは
フレデリック・ラルーが2014年に著書『Reinventing Organizations』で提唱した組織理論で「目的に向かって、組織の全メンバーがそれぞれ自己決定を行う自律的組織」のことを指す。
木村石鹸工業は老舗企業の歴史・経験値を活かし、盤石の姿勢で時流を捉え、変化を生み出す組織づくりで創業100年を目指す。
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