葵スプリング株式会社 / 代表取締役 青戸宣暁 (のぶあき)氏
ボールペンのペン先、パソコンのキーボード、炊飯器やジャンプ傘に自動車、、、、、。
そんな何気ない日常生活や更には飛行機やロケットなど宇宙産業にまで「バネ」はこの世で、欠かせない存在である。
ものづくりの町、八尾市を拠点に
グローバルなバネ(スプリング)メーカーとして成長を続けている会社がある。
1953年の創業の
葵スプリング株式会社だ。
バネ製造をメインに、二次電池部品、家電、自動車、電子部品、農機具、医療器具など様々な分野でメーカーのものづくりに貢献してきた。欧州の自動車部品メーカーの量産認定工場にも登録されている。
葵スプリング株式会社の
代表取締役 青戸宣暁氏は、2017年に代表取締役に就任。
就任後は、社員のモチベーションアップのための職場環境の見直しを始め、日本ではここにしかないという最新鋭設備機器の先行導入など、思い切った経営改革を行い、今では
オンリーワンのオーダーメイドバネメーカーへと邁進している。
三代目代表 青戸宣暁氏に未来を見据えた、ものづくりへの思いを伺った。
積極的な社内環境改善が、社員のモチベーションアップへ
葵スプリングに伺って、まっ先に目に留まったのがユニホームである。ちょっとカッコいいのだ。
2024年1月にデビューしたばかりの新しいユニフォームだ。
全従業員へアンケートを実施し、75%の従業員が
「ユニフォーム改善希望」という結果を受け、ユニフォームの一新を決断した。
今までは”ザ・作業着”という感じだったんですが、今回のユニフォームデザインにはかなりこだわり、また新しくデザインしたロゴも併せて入れました。
見た目だけでなく、通気性が良くて動きやすいという機能面も重視しました。折角なので帽子と安全靴も一新しようという事になり、満足のいくものを揃えました。
コストは今までの倍はかかりました。しかしながらテンションは10倍上がりましたね(笑)。
新ユニフォームは役員にも着てもらいたいと、青戸氏も自宅からユニフォームで出社している。
機械の導入、高品質のバネの供給を優先してきた葵スプリングであったが、丁度コロナ禍の3年ほど前から
社員のモチベーションアップを目的に、社内アンケートを行い職場環境の見直しを開始した。
ユニフォームの一新だけでなく、工場内の床の修繕、トイレ、水回りなどのリフォームなど社員の声を聞いたからこそ細かい箇所の改善ができたという。
こうした改善は、社員に
付加価値の高い仕事をしてもらいたい、そのためには誇りを持って仕事をしてもらいたいという思いあるからだ。
機械の断捨離
青戸氏は大学卒業後、製造メーカーに就職する。そして26歳の時に葵スプリングに入社した。
入社するまでは会社の経営状況はまったく知らなかったという。
おやじ(現・取締役会長)は、会社のことを息子には言わないタイプだったんです。入社して初めて「まあまあ儲かってるやん!」と思ったくらいです。(笑)
入社したときは、ちょうど中国に進出していた時だったので、中国担当としてよく出張しました。おやじは、現場主義の技術屋の人間でしたが、僕は技術畑ではなく数値が得意な方で、おやじとはタイプが違うんですね。
コロナ禍期、技術的に断ったバネへの挑戦
コロナが猛威を振るう4か月間くらいは売上が月平均から30%ほど減少したという。そのとき、青戸氏は社員を集め、ある図面を出した。
それは、過去に製作できなくて、仕方なく注文を断ったバネの図面だった。
当時と違って、今は最新鋭の機器と技術力のある(仕事に飢えていた)社員がそこにはいた。
社員へ開発に必要なお金を出すから、失敗してもいいから当時断った図面のバネを作ってくれと提示しました。
僕はじっとしていられないタチなんです。この時期、時間もあった。今がチャンス!
やれることは今やらないとダメだと思っていましたね。
社員も青戸氏の提案にすぐに動き始め、
その難題のバネの開発に取り組み、ついに作り上げた。
そのお陰で
他社が出来ないものでもやってみる、新しいことに取り組む風潮が出来ていった。
青戸氏は、更に設置してる
製造機械の見直しにも着手した。
断捨離からの事業拡大
機械の稼働状況を見直して、不要なものを処分をする。そのことで空きスペースができる。スペースが出来れば、最新鋭の機械を導入することも可能だ。
これ迄は取引の無い業界や企業から、新素材・新用途に関する高度な部品の製造の話が来たとしても、関西ではその製造ができる機械がどの会社もほとんど導入されていなかった。
新しい大型の機械の導入が必要だった。
青戸氏は、導入に踏み切る決断をする。
大型の最新の機械を入れるためには、既存の機械を処分しスペースを確保する必要があった。
そのために機械の入れ替え、つまり断捨離をしまくったそうだ。
機械を置く場所は限られています。この機械は使用していない、この機械が無くてもできるだろうと、捨てたり、売却したりとずいぶん機械を整理しました。
前に進むためには古いものを捨てなくてはなりません。
こうして常に最先端技術を追求するために、定期的に設備投資・更新を行っている。
新しい最先端の機械を導入し、
「一貫したオートメーションの追求」というミッションを掲げ、人による作業をできるだけ機械化している。
難しい依頼の最後の砦として
2024年には日本で2社目となる最新鋭設備の大型機械の導入を行った。
導入してるもう1社は誰もが知っている大手企業だ。
これにより、他社ができない
高品質の精密バネや複雑な形状のバネが独自の技術で自動生産できるようになった。
最新鋭設備の大型機械の先行導入は、かなりの挑戦です。びっくりするくらいのお金を使ってます。どこでもがやれるようなことをしていたら、未来はありません。うちは機械先行型です。
最新の機械があれば、機械に応じた仕事が来ます。
プレイヤー(製造者)が少ないニッチな業界の中でさらにニッチな分野に入り、オンリーワンのものを作りたいんです。
「葵(スプリング)に丸投げで任せられる」。そんな会社にしていきたいですし、常にそこに向かっています。
どこでも作れるバネであれば、見積もりを出して価格競争をしなければならない。めちゃくちゃ難しいバネだからこそ、うちの出番だと青戸氏はいう。
オンリーワンであれば、必ず仕事が来る。
バネ業界は、需要の多い汎用部品には競争相手も多い。しかし他社が出来ない
複雑な形状のバネの一貫生産ができれば、信頼性も高くなり、お客様の利益に貢献できる。
葵スプリングの製造工程の
内製率(※1)は、90%を超えている。
(※1)内製率:自社の製品を構成する部品のうち、外部に委託・発注せず自社が製造・制作した部品が占める割合。
最新設備を揃えることは大切ですが、新規の仕事を受注するのも、設計も、検査もすべて人です。作業は機械に任せられるので、技能士が機械のプログラムや治工具(※2)の設計、製作に専念できるので生産効率を向上させることができます。
(※2)治工具:加工、組立、検査などの各製造工程で使われる治具や取付け具、切削や作業をサポートする道具の総称。
一番大事なのは人材。ものづくりが好きな人材を採用して、自前で育てる社内風土に改革するため2023年から新卒採用にも着手した。
常に前を向き続け、新しいことに取り組む青戸氏の姿勢は、差別化が難しいと言われるバネ業界でその価値が認められ、お客さんからの要望に最大限応えている。
「バネなら葵さんへ」
「バネのことで困ったら葵さんが解決してくれる」
そんな声があちこちで聞かれるようになっている。
青戸氏の挑戦はまだまだ続く。