技術力をベースに、SDGsを意識した社会に役立つ企業を目指す

オオサカジン運営事務局

2023年04月14日 09:30

富士電子工業株式会社 代表取締役社長 渡邊弘子氏

                                                                

クッキングヒーターでおなじみのIH(電磁誘導加熱)。熱効率がよく電力消費量が少ないこのIHを利用した「高周波焼入」の熱処理設備の製造や応用技術の開発に取り組んでいる富士電子工業株式会社(八尾市)は、創業時から技術へのこだわりが強く、業界で確固たる地位を築いていながら、新たな挑戦を続けている。
2008年に社長に就任した代表取締役社長 渡邊弘子氏が力を入れてきたのが、ダイバーシティー経営(※1)でありSDGs(※2)だ。



(※1)ダイバーシティー経営:多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供する ことで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営のこと
(※2)SDGs:2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。17のゴール・169のターゲットから構成されている。


中でも強く意識しているのがつくる責任
自分たちの技術や製品が本当に顧客や社会の役に立っているのか、常に問いかけながら更なる成長を目指している。

顧客に応じた製品開発で高い評価。元気なものづくり企業として注目浴びる


富士電子工業の創業は1960年。電気・電子工学を学んだ代表の渡邊弘子氏の父が設立する。
数年後には電磁誘導加熱装置の開発に着手し、創業から10年後に半導体化に成功。さらには、金属の表面処理装置の開発や新たな焼入技術を確立し、独自の技術研究所を開設するなど、新技術の開発に打ち込んだ。
これらの成果は、経済産業省の「元気なモノ作り300社」、「ものづくり日本大賞 優秀賞」など多くの受賞に結び付いた。

「焼入」とは、金属を高温に熱した後、急冷させる熱処理のことで、金属を硬くし、耐摩耗性や引っ張りに対する強度を向上させることができる。焼入を必要とする製品は自動車や船舶用シャフトやギヤー。電車のレール、ドリルなどの切削工具・スパナをはじめ多岐にわたり、モノづくりには欠かせない技術だ。同社はさまざまなタイプの焼入装置を開発、提供してきた。

製品によって熱処理の方法や要望はさまざまで、当社はお客様企業のニーズに沿った設備を開発・納品してきました。
家でいえば注文住宅のようなものです。ニーズにお応えするのはもちろんですが、その中でもいかにして精度の高い安定した方法を確立するか、お客様にとって使いやすいものにするか、監視がしやすく長期間安定して使用してもらえるかなどに注力してきたことで、高い評価を得ることができました。
お客様からのご相談に応じて、問題解決のための試作品作りも行っており、そこから量産加工や装置製作へ移行するケースもあります。


渡邊氏はアパレル会社で2年間勤務した後、同社に転職する。
総務、営業を経験し、2008年に社長に就任した。
社では女性初の営業担当として多くの企業と付き合う中で、自社の技術や製品に対する理解を深めるとともに、顧客が抱える悩みや問題点に通じるようになったことから、自分で計画を立てたことを自分で進めたいという思いが強まり、自ら社長に手を挙げたという。

働きやすい会社にしたかったし、公平性を高めたいという思いがありました。
そのために最初に取り組んだのが、多様性を重視するダイバーシティ経営です。社員の働き方改善を推進し、長く就業してもらえる社員を増やすとともに、妊娠・出産・復職時における支援に取り組むことを目的に、現在も女性活躍推進法や次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の5カ年計画を2022年4月に策定して取り組んでいます。具体的には、女性の主任職以上の割合を、現在の15%から社内の男女比率とほぼ同等の20%以上にすることを目標に挙げています。



カーボンニュートラル(※3)を目指す、時代にマッチしたIHに自信


2010年代後半から力を入れているのがSDGs(持続可能な開発目標)だ。
気候変動や環境劣化、繁栄、平和と公正など、人類が直面するグローバルな諸課題の解決を目指して国連が制定したもので、17の目標を掲げている。その7番目の目標が「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」であり、13番目が「気候変動に 具体的な対策を」。
産業界では温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の排出削減に、あの手この手で取り組んでいるが、IHはこの点で一般の電気炉に比べて大きく貢献しているという。
(※3)カーボンニュートラル:温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味する。


IHですから、使用時のCO2排出はゼロです。さらに、IHなら必要な箇所のみ加熱できますので、普通の電気炉より省エネルギーで環境にやさしいと言えます。それだけでなく、当社では環境保護活動を推進するため、環境マネジメントシステムを構築して、環境教育を通じて全従業員が環境保護への意識を日々新たにするよう取り組んでいます。
お客様に対しては、ガス炉やバーナーからIHに転換しないかと言う提案はしていますが、普通の電気炉にも温度管理がしやすいなどの良さはあります。ですから、私たちは炉メーカーとIHメーカーが争うのではなく、一緒にやれるはずだと考えて両者のハイブリッド掛け合わせによって生み出されるモノを提案しています。長所を生かし合えば面白いものができると考えているのです。
新しいものに取り組むのは刺激があって面白いもので、私自身、面白いモノでないとやる気が出ないし、楽しくないと知恵が出ないタイプなんです。(笑)


3Dスキャナ3次元測定機


独自のクラウドサービスで、予防保全に注力


最近力を入れているのがIoTだ。インターネットに接続されていなかったさまざまなモノが、ネットワークを通じてサーバーやクラウドサービスに接続され、相互に情報交換する仕組みのことで、モノのインターネットとも呼ばれる。同社ではFD-ioTと名付けた独自のクラウドサービスシステムを構築して顧客との情報共有やいち早い問題解決に役立てている。

FD-ioTには、装置の稼働状況の可視化、装置診断の定期レポート、遠隔修理サポート、予防保全・予知保全、生産管理支援の5つの特徴があります。お客様の工場から電圧や周波数、加熱・冷却時間などの実際値データを自動的にクラウドサーバーにアップロードして情報を共有するとともに解析を行う仕組みです。
中でも、重視しているのが予防保全です。
蓄積したデータから故障の兆候を読み取って、大事に至る前に保全に役立てるのです。
予防ができれば当然、修理にかかる費用が削減できますし、機械を止めるとしても必要最小限の時間にとどめられますので、お客様にとってもメリットが大きいと考えています。
今後、FD-ioTでIoT化をさらに進めていくつもりです。


FD-ioT図


外部講習での学びの機会を提供。海外展開の再稼働も


社長になって取り組んできたことは他にもある。
企業広報や採用活動の刷新強化。これらはそれぞれに着実に成果を出してきたが、海外強化策だけは、コロナ禍で後退せざるを得なかった。技術力の高さから、今では海外から多くの問い合わせが再開されている。

また、渡邊氏は製造業の女性社長の集まりである一般社団法人「ものづくりなでしこ」(2016年設立)では、設立当初から代表理事として現在までその任にあたっている。
会員は現在全国で約180人にのぼり、勉強会や意見交換会を続ける一方、2025年の大阪関西万博も視野に入れた計画を模索している。

会社の紹介のためにYouTubeを始めました。コロナ禍で会社訪問できなくなった人向けにつくったのですが、WEB工場見学としても利用してもらっています。
海外との取引は約20カ国にのぼり、それまでの2割から4割に拡大したのですが、コロナの逆風で一旦休止しました。
それでもホームページは日本語のほか、英語、中国語、韓国語、スペイン語の5カ国語版があり、現在問い合わせや商談が再開してきました。海外向け事業は再度強化していきたいと考えています。

この他、毎年新卒を採用していますが、希望する新入社員を大阪府工業技術大学講座に通わせ、理系の大学の一般教養課程で学ぶような内容の勉強をしてもらっています。
技術にこだわる当社の大きな力に育ってくれることを期待しています。


製造メーカーがひしめく八尾は全国でも著名なエリアだ。
そんな中にある富士電子工業は技術力とダイバーシティ経営で、抜きん出るリーディングカンパニーだ。




富士電子工業株式会社 
本社:八尾市老原6丁目71番地
オフィシャルサイト:https://www.fujidenshi.co.jp/


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