遺伝疾患情報を家系図に! 1億人の予防医学を目指す近畿大学発ベンチャー

プラクス株式会社 代表取締役 坂上博俊 氏

うちはがん家系だから――こんな会話を耳にすることが多い。しかし、せいぜい祖父母から3代くらいのがん体験を元にして言っているだけで、必ずしも医学的な裏付けがあるとは言えない。
ただ、遺伝性の病気は数多く、家系における遺伝性疾患の実態を知ることには意義がある。そうした遺伝医療情報を収集して体系化する「医療用家系図システム」を開発したのが、近畿大学発ベンチャーのプラクス株式会社(八尾市)。
代表の坂上(さかうえ)博俊氏
「ゆくゆくは日本人を一つの家系図にし、1億人の予防医学に役立てたい」と、広げる夢は大きい。

遺伝疾患情報を家系図に! 1億人の予防医学を目指す近畿大学発ベンチャー


小耳症で生まれた体験が人生の進路を決めるきっかけに


坂上氏は生まれた時、左耳が耳たぶしかなかった。小耳症という先天性の病気だ。小学生の時、全身麻酔で3回の手術を受け、外耳道を開けて人工鼓膜を埋め込んだことで、音が聞こえるようになる。その体験が坂上氏の進路を決めることになった。

耳のせいで小さいころからいじめられることが多かったです。いじめに対する防御術として、人と違うものが必要だ、人と違うことをしていいんだと思うようになりました。父方、母方ともに起業していたこともあって、僕も自分で仕事を始めたいという考えが自然と芽生えていました。自分の手術体験から医師になりたいと思ったのですが、大学進学を前に近畿大学から特待生での入学の声がかかったのです。耳の手術で親に経済的負担をかけていたので、授業料免除がありがたく、これに応じました。


実学重視の大学で出会った遺伝家系図システム


近畿大学では、これからは情報の時代、医療にも役立つと考えて理工学部情報学科を選択。そこで出会ったのが森山真光准教授。企業や学内からの依頼を受けてソフトウェアの作成に携わっていた。その中に理工学部生命科学科と医学部からの依頼として遺伝家系図のテーマがあった。

近畿大学は実学教育に力を入れており、世の中に役立ってこその研究という考えが強いんですね。森山准教授も「人の役に立つ研究をしよう」が口癖でした。僕の思いも同じで、遺伝家系図のテーマを知ったとき、これこそ僕がやるべきことだと思いました。
ちなみに、「プラクス」という社名は実学を意味する「PRACTICAL SCIENCE」から採っています。


遺伝疾患情報を家系図に! 1億人の予防医学を目指す近畿大学発ベンチャー


解明進む病気と遺伝子の関係。遺伝情報の集積が適切な医療に役立つ時代


ゲノム解析技術の進歩で、病気と遺伝子の関係は急速に明らかになりつつある。どの遺伝子に変異や傷があればどんな病気になりやすいかが解明されてきている。その中には、親から子に継がれる遺伝情報もあり、それらが遺伝性疾患を引き起こすことになる。医療用家系図はこうした遺伝情報を世代を超えて収集し、迅速な診療と適切な治療法の選択に役立てることを目的としている。

個人の医療情報は病院が管理していますが、個人情報保護などの問題もあって外には出しません。それなら個人が管理し医療従事者と共有することで、医療に役立つようにすることが大切だと考えています。実態としては、患者さんの了解のもと、医師が患者さんの家族らを集めて情報収集しています。すでに10病院と提携していますが、基本的にはかかりつけ医がやるのが望ましいと思います。


遺伝疾患情報を家系図に! 1億人の予防医学を目指す近畿大学発ベンチャー


情報管理を徹底すると同時に、SNSなどで発信強化へ


医療情報は個人情報であるだけでなく、使い方によっては倫理的な問題も生じる。遺伝性疾患のために婚約が破棄されるといったケースも実際に起きている。それだけに情報を暗号化するなど、 情報管理には最大の配慮が必要になる。

確かに、医療情報の収集というのはリスクもありますが、一方で遺伝性疾患の恐れがあれば発病を避けるためにきちんとした生活をしようとするなど、ポジティブな面もあります。
問題なのは知らないこと。原発や飛行機と同じように、安全性と危険性を同時に知らせる必要があります。そのためにも大学と連携し勉強会などを開催したり、スマホアプリを開発してSNSなどで広げたいと考えています。


学生による初めての大学発ベンチャー。大学の後ろ盾の大きさを実感


プラクスのもう一つの大きな特徴は、近畿大学発のベンチャーであること。大学発ベンチャーとは、大学で開発した技術や研究成果を活用して事業化することで、近畿大学では「近大マグロ」が有名である。

大学院のときに起業しようと大学に相談に行ったら、学生発のベンチャーは過去に前例がなく、現時点では学内に支援する枠組みもないために、今すぐに資金を援助することはできないと言われました。ただ、特許の使用料を融通していただけるということで、大学と共有している特許の使用料はとても安くしてもらっています。
その時の条件が、在学中に起業することだったので、慌てて審査を受けて認めてもらいました。
問題は資金でしたが、「東大阪ものづくり専攻」を受講して、大学院での研究を続けながら企業の仕事に携わっていましたので、企業からの給料と子供のころから貯めていたお小遣いを合わせて起業資金に充てました。
大学の後ろ盾があることはありがたいですね。病院や医師らに話を聞いてもらいやすかったですし、大学の研究成果をフィードバックできるのも大きいです。


「大阪トップランナー育成事業」に認定。まだまだ広がる可能性


医療や健康分野において新たな需要創出が期待できると評価されて、2020年度大阪市の「大阪トップランナー育成事業」に認定された。しかし、事業はまだまだ可能性に満ちている。
病気には遺伝要因だけでなく環境要因も大きく影響する。生活習慣病やがんなどが、乱れた食生活や運動不足・喫煙習慣などでリスクが高まることはその代表例だ。
坂上氏はそういったところにも視点を当て、新たな取り組みを進めようとしている。

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たとえば、八尾は枝豆が有名ですが、枝豆を頻繁に食べているからこんな病気が少ないといった地域性を見いだせるかもしれません。薄毛になりやすい男性の頭髪や女性の肌についても集積した情報をビッグデータとして活用できるようになったら面白い結果が出る可能性があります。医師からは家庭環境もデータに入れてほしいと言われており、まだまだ拡充できる余地があります。保険会社や健康保険組合、健康企業宣言の会社と連携して、医療費や保険料の割引を受けられるようにすることも可能かもしれません。
さまざまな形で患者さんの利益につながるよう、取り組んでいきたいですね。



プラクスは現在、八尾市の住宅街にある一戸建て家屋をオフィスにしている。
GAFAに代表される世界的ベンチャー企業の多くは倉庫やガレージといった空間から生まれている。
将来「医療用家系図システム」が当たり前に活用され、この地が伝説の地となることを願いたい。


プラクス株式会社
本社:〒581-0847 大阪府八尾市東山本町1-6-9
オフィシャルサイト:https://pracs.co.jp/


 

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