「面白い」をとことん追求する試みの数々。 社員軸での会社経営を目指す3代目社長の「継想(けいそう)」

うめだ印刷株式会社 代表取締役社長 藤本潤 氏

1964年の創業から東住吉区で60年近く事業を続けるうめだ印刷株式会社。藤本潤氏は同社の3代目の社長にあたる。

うめだ印刷といえば、2017年になにわ大賞(※)特別賞を受賞した超地元密着型ノート『coconon(ココノン)』を制作・販売している企業だ。関西テレビ「よ~いドン!」を始め様々なテレビ番組で何度となく取り上げられている。
(※)なにわ大賞:1996年設立のなにわ名物開発研究会(大阪で頑張る「メーカー」「流通」「サービス」「コンサルタント」「クリエーター」など業種・業態、ついには「業」さえも越えたヒト・モノ・コトのネットワーク組織)が運営。大阪ーのいちびりさん(市振り=リーダーシップが語源)を募集し、当会より賞をも~ていただく趣向。ユニークな団体や個人の活動の堀り起こしとネットワークづくりに貢献している。(なにわ名物開発研究会H.Pより)


「面白い」をとことん追求する試みの数々。  社員軸での会社経営を目指す3代目社長の「継想(けいそう)」


『coconon』ブランドから発行されたノートはすでに11エリアにわたる。ノートだけに留まらず「面白い」にとことんこだわった印刷物をリリースし続けている。

30歳までうめだ印刷の社員でもなかった彼がどうして3代目社長に就任することになったのか?
そして、『coconon』をはじめ個性的な商品はどのようにして生まれたのか?
うめだ印刷に隠された様々なヒミツについて、藤本氏にお話を伺った。

一人のSEが印刷会社の3代目社長に至るまで


うめだ印刷に藤本氏が入社したのは2002年のこと。それ以前の彼は印刷機を扱う輸入代理店でSE(システムエンジニア)として勤務しており、うめだ印刷は大きな取引先の一つにすぎなかった。転機は2001年のこと。実は藤本氏は数年前に、所属していた印刷機の輸入代理店から独立したシステム会社に移籍していた。しかしそのシステム会社がなんと2001年に倒産することになったのだ。

「どうしようか?」と悩んでいた藤本氏のもとに数社からのオファーがあった。しかし一番に声をかけてくれたのは、うめだ印刷の創業者であり、当時の会長の梅田氏だった。
声をかけてくれる企業が数社ある中で、藤本氏はそれでもうめだ印刷からの誘いを受けることにした。その時を振り返って、彼はこう語る。

何ごとも9割は運やと思うんです。あとの1割は勘!

自分では変えられない大きな流れのことを「運」と藤本氏は捉えている。幸運も不幸もどうにもできないからこそ、今おかれている現状を受け入れて前に進む。当時の決断も彼にとっては9割が運であり、残り1割の経験に基づく勘によるものだったのだろう。

入社してしばらくは同社内でSEとして勤務していた藤本氏のもとに、さらに運の流れが訪れた。2006年には「役員にならないか?」という誘いを受け、2008年には2代目社長の辞任により3代目社長の席に就くことになる。

「面白い」をとことん追求する試みの数々。  社員軸での会社経営を目指す3代目社長の「継想(けいそう)」


創業社長である会長からある日突然「キミ、社長するか?」と言われて、「ちょっと待ってくれ!」というのが本音でした。その話をいきなりされたのが金曜のこと。土日を挟んで月曜には結論が欲しいと言われたので焦りましたね。
妻とも話し合いましたが、よくわからないまま「僕でよかったら」と返事をしてからの引き継ぎはそれは怒涛の1ヶ月でした。それまではSE職として社内で誰ともほとんど話をしないような立場にいたので、顧客を知ることから、社内の状況を知ることなどひたすらお客様回りをしながらゼロから業務を覚えましたね。

ゼロから業務を覚えるという相当の負荷を背負った姿を社員の多くは好意的に見てくれていたが会長とは、意見が違い対立することもあった。会社の経営権は会長にあったため、会長に反対されれば通らない。そんな状況の下で「もうええわ」と社長職を降りようと考えたこともあったという。

そんな中、会長が体調を崩し会社から離れることになった。そして社員から雇われ社長を経てうめだ印刷の実質的な経営者になった藤本氏は、自らの経緯を振り返って会社の経営方針を見つめ直した。
会社都合ではなく、社員都合で会社を大きくしていきたい!

つまり、会社が大きくなったら自分達の生活もよりよくなるという未来に向けたビジョン。そして社員それぞれの仕事への熱量をうまく生かして、社員主導で成長する企業にしたいと考えた。

社長より上に位置づけられた理念、「継想(けいそう)」


藤本氏にとってうめだ印刷は自分が一から創り上げた企業ではない。社員の代表という立場で社長職になったと捉えていた彼は、経営を学ぶにつれて「会社の理念を作らなくてはならない」と思うようになった。
会社をまとめていくために、会社の存在意義を明確にするために、社長の独断ではない軸が必要だと考えたのだ。

そうして悩みに悩んで、出来た理念が「継想(けいそう)」
印刷という仕事を通じて、想いを伝えていきたい。そして、人・地域・仲間といった横のつながりだけではなく、過去から現在、未来へと時間を越えて伝え続けたい。そんな藤本氏の思いが込められた言葉だ。

理念は社長の僕よりも、会社にとって大事なものなんです。

そう言って藤本氏は笑う。藤本氏の代になって生み出された理念「継想」は今や、うめだ印刷の社員全体の社内文化となっており、後の就業規則や給与体系の一新にもつながっていった。

「面白い」をとことん追求する試みの数々。  社員軸での会社経営を目指す3代目社長の「継想(けいそう)」


あえて真逆を狙う!地元密着すぎるノート『coconon(ココノン)』


会長から会社の経営を引き継いだ藤本氏は、自分だからこそ出来ることを模索し、新たな顧客層を開拓するべく様々な場へと足を運んだ。大阪府中小企業同友会からのつながりで参加した産業交流フェアもその一つだ。東住吉・平野エリアの企業が集まるフェアで企業からの受注業務中心だったうめだ印刷の場合、出展ブースに置いて販売できる商品が何もないという事実に気づいた彼は愕然とした。

たまたま同じフェアに参加していたコーヒー豆屋さんから「ノートでも作ってみたら?」の一言に、ノート制作のアイデアを考えるようになりました。普通のノートを作ったところで、売れないし何より面白くない。時代はグローバル化だからこそ、あえて真逆のど・ローカルを狙ってみよう。あえて勉強に使えないノートを作ってみようとね。

そうして生み出されたのが、超地元密着型ノート『coconon(ココノン)』だ。当初は子どもに街の情報をヒアリングするはずだったが、不審者扱いされてしまうこともあり、方向転換。とにかく社員が街を歩きながら、目についたものを、見方を変えて何か面白いものとして地図にしたものをノートの表紙にした。

表紙の地図はとにかく実際にそのエリアを歩いてみないと意味がわからない表記が多い。子どもたちが歩けるエリアを想定しているため、散歩のお供に『coconon』1冊があると街の思いがけない魅力が見えてくるだろう。

表紙に限らず、ノートの中身も遊び心が盛りだくさんの仕様になっている。

 ・イメージキャラクターのラテン風おじさん『coconon』の一言セリフやプロフィール
 ・丸消しゲームやパラパラマンガで遊べる余白コーナー
 ・裏表紙の『coconon』おもしろ街スポットピックアップ


一度見たら忘れられないキャラクター『coconon』のような社員がうめだ印刷に実在するのかを藤本氏に尋ねてみたが、残念ながら空想上のキャラクターとのことだ。社員が描いてくれた落書きのようなイラストをもとに、設定が次々と肉付けされていったのだという。

「面白い」をとことん追求する試みの数々。  社員軸での会社経営を目指す3代目社長の「継想(けいそう)」


『coconon』は当初「住道矢田(すんじやた)マップ」のみ制作して産業交流フェアのブースで販売したが、冊数が少なくサンプルに間違われたこともあり、他シリーズもどんどん増やしていくことになった。

現在うめだ印刷の売上の中で物販は1割も満たない。しかし『coconon』のユニークな魅力に目をつけたメディアからの取材が相次ぎ、知る人ぞ知る「面白いノートの会社」としてうめだ印刷の名が世に知られるようになっていった。『coconon』以外にも面白いメモやノート商品を数々生み出しているうめだ印刷。今後は様々な商品をパッケージ化して、オンラインで注文しやすい体制も整えていく予定だ。

「おもしろい」ことを追求し続ける ~広報誌『sanjiyata692』~


うめだ印刷の面白さは、物販の商品に留まらない。これまでに5号発行されている無料の広報誌『sanjiyata692』にはとことんおもろいものを作りたいという藤本氏のこだわりが詰め込まれている。

『sanjiyata692』は会社の広報誌なのに、うめだ印刷の案内はほんの少しだけ。誌面の8割は住道矢田(すんじやた)という街を独自の視点から切り取った地図とコラムという構成です。たとえば夜の公園を取り上げ、すべり台の角度なども計測してマップにしてみたり、別の号ではかっぱの出没情報をインタビューも交えて取り上げたマップにしてみたり。一見バカバカしいと思えるような企画に全力で取り組むことが大事なんです。

利益にならない広報誌に、どうしてこれだけの情熱を注ぐのか?問いを投げかけたところ、藤本氏は何でもないことのようにこう答えてくれた。

妥協したらつまらないでしょ。だから、やるならとことん“面白く”しないと!


「面白い」をとことん追求する試みの数々。  社員軸での会社経営を目指す3代目社長の「継想(けいそう)」


うめだ印刷のこれから ~印刷会社としての未来を描く~


斜陽産業の印刷業界で、藤本氏も「会社を強くするためにはどうしたらいいか?」をよく考えるという。

『coconon』ノートなど物販を手掛けることですでに小売業としての業態に一歩踏み出しているうめだ印刷だが、これからの未来を考えるとさらなるサービスが必要だろう。
藤本氏の趣味の一つが、未来年表を描くこと。これからの未来がどう変わっていくのかをイメージしながら、次に打ち出す手を社員と一緒に考えていく。それが今のうめだ印刷のやり方だ。

これからの時代、物を持つことには価値がなくなっていきます。だから、僕達うめだ印刷も印刷業だけではなく業態を変えていくチャレンジが必要だと思うんです。WebやDX(デジタルトランスフォーメーション)が持てはやされていますが、それらは手段にすぎないと思うんです。僕達だからできることをこれから模索していきたいですね。



うめだ印刷株式会社
〒546-0022 大阪市東住吉区住道矢田6-9-2
オフィシャルサイト:https://umedainsatu.com/




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