働く場を快適空間にリフォームすることで、活性化と幸せづくりを目指す

株式会社吉武工務店 / 代表取締役 吉田丈彦 氏

正直「工務店」というと、地元で職人さんがいて、事務所も少し古めかしいイメージを浮かべる方がおられるかもしれません。でも東大阪市にある株式会社吉武工務店は、本社がモデルルームを兼ね、一歩中に入ると、(※1)無垢(むく)の木の香りがお出迎えをしてくれます。代表取締役 吉田丈彦氏は事業所やオフィスを木のぬくもりのある快適空間に生まれ変わらせることで、働きやすさや創造性を高めることが出来るとの考えから、他社とは一線を画したオフィスリノベーションを中心とした事業で業績を伸ばしている。創業者の父との確執を乗り越えて家業を立ち直らせた吉田氏は「オフィスが変わると社員のモチベーションがアップしますよ」と話す。そして、古民家をリノベーションすることで田舎暮らしを楽しんでもらうノウハウを提供する新たなプロジェクトも始めた。そこには企業再生に軸足を置きながらも、伝統建築を残し自社の技術を引き上げようという狙いがある。

(※1)無垢(むく)の木:無垢の木とは、自然の木をそのまま切り出した加工をしていない木材のことで、心にも体にも優しい素材です。

働く場を快適空間にリフォームすることで、活性化と幸せづくりを目指す

大手ゼネコンの現場監督を経て、自信満々1人で工務店を立ち上げるも


吉田氏は大学を卒業後、大手ゼネコンに入り、現場監督としてマンションや変電所、ベンツのショールームなどさまざまな物件の建設現場を仕切っていた。長男として父の工務店を継ぐのが当然との思いがあり、そのための修行のつもりだった。しかし、ゼネコンでの仕事を経験した吉田氏と父親の間では、考え方に大きな差があった。

小学校の時から父のトラックに乗って現場に行ってましたから、家を継ぐのに何の疑いもありませんでした。ただ、田舎から出てきて一人親方の大工として出発し、1965年に仲間を集めて工務店を始めた父は、やり方が昔かたぎと言うか、建築についての考えが僕とは違うし、会社は自分のものという人でした。自分は自分のやり方で勝負したいと考えて1998年、ゼネコンを退職し、自宅の1室を使って1人で「丈工務店」を始めたんです。


働く場を快適空間にリフォームすることで、活性化と幸せづくりを目指す

上から目線にだれも振り向いてくれず、大赤字のスタート


吉田氏が丈工務店を開始した当時、ゼネコンの現場監督を務めてきたという自信もあったが、それがかえって災いした。上から目線のやり方にだれも振り向いてはくれない。どうやって仕事をとってきたらいいのかすら分からなかった。ただ父からは一切応援はなかった。大工は父の会社から来てもらったが、その時もけっこうなお金を支払った。

ひと言で言って経営を知らなかったんですね。ゼネコン時代の協力業者から紹介してもらったり、下請けの下請けのような仕事まで請け負ったりしましたが、1年目は大赤字。それでも、1人だけなので経費が他社に比べあまりかからないため、相見積もりで勝負すると、けっこう契約が獲れるようになっていきました。2年目からは立て直して黒字が続くようになりましたね。


深まる父との溝。しかし、助けてくれたのは父の時代からの固定客だった


父の会社を継いだのは2004年。その4年前に母親が亡くなって以来、父が仕事へのやる気をすっかり失って業績が見る見る落ち、数千万円の債務超過に陥っていた。中小企業同友会に入って、知り合いになった経営者にも父に対する不満をぶちまけるなどして、父と子の間の溝はさらに深まっていった。しかし、会社の建て直しに力を貸してくれたのは、父の時代からの古い固定客であった。

働く場を快適空間にリフォームすることで、活性化と幸せづくりを目指す

父のファンだった方々が、私が会社を継ぐと、立ち上がってくれたのです。「親父さんには大変お世話になった」という声もよく聞きました。お客様が知り合いを紹介してくださった理由は、現場出身だった父の時代から、自社施工を徹底して「大工の顔が見えて信頼できる工務店」だったからだと思います。これがお客様に安心感を与え、現場との情報伝達がスムーズにいくという実務上のメリットも生んでいました。そんなこともあって、何やかや言っても、おやじはやることをちゃんとやっていたんだなと、少し見直す気持ちになりました。もちろん、この状態を何とかしなければと考えていた職人さんたちの努力もあって、黒字を重ね債務超過も解消できました。


オンリーワンの工務店を目指し、行きついたオフィスリノベーション


しかし、(※2)好事魔多し。順調に黒字を続けていた吉武工務店だったが、2009年、失注が相次いで大赤字になってしまう。とにかく注文がとれず、仕事が激減。そこで吉田氏が考えたのは、二番手ではダメ、自分の強みを持ってオンリーワンになることだった。

(※2)好事魔多し:物事がうまく進んでいる時ほど、意外なところに落とし穴があるという事

その前から、あちこちの会社に出入りさせてもらって気づいていたのは、どこもオフィスはごちゃごちゃして女性用トイレもないところも。特に建築業や製造業は男の世界でしたから、女性の働きやすい環境などは見向きもされなかったのです。どこともに、機械にはお金をかけるがオフィス環境の整備にはお金をかけない。でも、オフィスは起きている時間の半分はいる「第二のわが家」みたいなものですから、オフィスの環境が仕事の質を、さらには人生の質を変えるはず。機能性や利便性を追求するだけではよくないと思って、考察を重ねた結果、オフィスの環境として大切なのは①健康快適②創造性を刺激③癒しの効果、という3点に行き着いたんです。

働く場を快適空間にリフォームすることで、活性化と幸せづくりを目指す

木と畳の間を活用して、癒しの空間づくりを図り創造性もアップ


この3つの要素を軸に、吉田氏はまず、自社建物の大幅なリノベーションに取り組んだ。最大の特徴は、木をふんだんに使ったこと。事務所の机はヒノキの1枚板、隣には掘りごたつ式の畳の間があり、女性社員専用の更衣室兼休憩所も。床はもちろん壁もキャビネットも板張りで温かみと居心地の良さが一目見て伝わってくる。すると、会社自体がモデルルームとなって、多くの経営者らが訪ねてくるようになった。

働く場を快適空間にリフォームすることで、活性化と幸せづくりを目指す

このサービスを始めたきっかけは、「社内に畳の空間を作ってくれないか」というデザイン会社からのご依頼でした。最初は疑問に思ったのですが、デザイナーにとって大切なのはアイデアを生み出すこと。畳の空間をつくることで、デザイナーがリラックスでき創造性を刺激するような場を作りたいとの狙いだったようです。カフェやリビングにいるような雰囲気の中で仕事をすれば、新しい何かが生まれる。それはデザイン会社に限ったことではありません。このサービスを続けるうちに、意外な変化が現れだしました。社員が集まりやすくなっただけではなく、メディアが取材に来たり、求人のエントリーが増えたりしていったのです。人が集まるようになって、それに伴い職場が活性化するようになったのです。

保育園や保養所にも拡大。古民家再生プロジェクトにつながる


そして同社の快適空間づくりは、オフィスや工場に限らず、保育園にも広がった。待機児童解消の政策の効果で保育園の新設が相次ぎ、そこにそれまでの経験を生かした癒しに加えて安全性を取り込んだ、温かくて子供たちが安心して過ごせる保育園が生まれていった。取り組みはさらに広がる。福利厚生のための企業の保養所の提供だ。

働く場を快適空間にリフォームすることで、活性化と幸せづくりを目指す

働く場を快適空間にリフォームすることで、活性化と幸せづくりを目指す

もともとうちの社員が気兼ねなく過ごせる保養所があったらいいなと考えて、2018年に淡路島で古民家を買い上げてリフォームしたのです。小さいころから見てきた木組みの家が好きだったことから、古民家を選びました。保養所が持てるような会社は大企業ばかりですが、社員が集える場所は中小企業にも必要です。半年間かけてリフォームした保養所は社員にも人気でした。3年後にテレビで紹介されたら買いたいという申し出が殺到、これはビジネスになるとひらめいて、現在では奈良県の御杖村(みつえむら)で新たな古民家再生に取り組んでいます。「Yoshitake村御杖」と名付けたこのプロジェクトは個人向けで、ここを舞台に構造見学会や田舎暮らしのサポート・古民家リフォーム無料相談会などを行っています。古民家再生のポイントはピカッと光るポイントをつくること。そうすれば、役目を終えた時に転売がしやすくなります。そういったノウハウや選び方などをホームページなどできめ細かく紹介しています。


若い女性社員が広報活動の主役。規模拡大より大切なのは社員満足度


吉田氏は自社のリノベーションで女性専用部屋を設けたように、女性目線も大切にしている。力を入れているSNSなどを通じた情報発信も、若い女性社員が中心となっている。その一環として始めた社外報「Yoshitake通信」には手掛けたオフィスリフォームの具体例が豊富に紹介されており、これを見た人からの問い合わせや注文も入るようになったという。

Yoshitake通信

働く場を快適空間にリフォームすることで、活性化と幸せづくりを目指す

実は、2022年にM&Aで大失敗をして、私自身の考え方が大きく変わたんです。それまでは、会社を大きくしたら給料が上げられる、そのためには規模を大きくしないといけないと思い込んでいましたが、無理やり大きくしたらダメだと気付かされました。現在は少数精鋭で、今ある仕事をきちんとやっていくことが重要、大きな黒字を出さなくても、少しずつ成長し、仲良くやっていければと考えるようになりました。社員満足度を上げなければ顧客満足度も上がらないと、つくづく教えられましたね。 


働く場を快適空間にリフォームすることで、活性化と幸せづくりを目指す

そう語る吉田氏の趣味はマラソン。もう数えきれないほどの大会に出場し完走を果たしている。そんなマラソンで完走をするように、ゴールに向かってしっかり走り続けることが、会社が目指すところと重なっている。

株式会社吉武工務店
本社:大阪府東大阪市池島町1-6-52
オフィシャルサイト:https://www.yoshitake.ne.jp/

社長インタビューとは?

社長インタビューは、大阪で活躍する企業の経営者の思いやビジョン・成功の秘訣などを掘り下げる人気コンテンツです。 商品誕生および事業開始秘話から現在までの道標や、経営で特に意識をされているところ、これからの成長において求める人材… 様々な視点から、企業様の魅力を発信致します。現在、大阪府下の中小企業様を120社以上の取材を通じ、「大阪 社長」「大阪 社長インタビュー」といったビッグワードで検索上位表示の実績があります。取材のお申し込みについては、下記よりお問合せください。


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