艦船用のボルト・ナットの製造から始まり 独自技術で唯一無二の存在に

株式会社竹中製作所 / 代表取締役社長 竹中佐江子 氏


株式会社竹中製作所は昭和10年に艦船用のボルト・ナットの製造を行う会社として、大阪市港区で創業。現在は東大阪市に本社を構え、創業時からのボルト・ナット製造を柱として事業を展開している。物作りの街にあって他社とは異なる特徴は、独自開発の技術を持っていることだ。

同社の主力製品のひとつは、タケコートシリーズ。これはボルト・ナットに特殊な樹脂加工を施したもので、その特徴はきわめて優れた防錆・防食能力を持つこと。橋梁や石油採掘などの過酷な環境をはじめ、地下鉄や化学プラントなど、高度な安全性と耐久性が求められる構造物で用いられている。そんな製品の成り立ちについて、代表取締役社長 竹中佐江子氏にうかがった。

艦船用のボルト・ナットの製造から始まり 独自技術で唯一無二の存在に

私の祖父が創業者で、艦船用のボルトを作ることから始まりました。その後はオイルショックやプラザ合意による急激な円高などに見舞われて、輸出が非常に苦しくなったんです。当時から輸出が非常に多かったのですが、それが半分くらいになってしまいました。それまでの一般品を大量に生産して販売するやり方では厳しくなり、同じボルト作りにしても、やり方を変えようということで大きく方針転換をしました。そこで研究と開発に力を入れ、生み出したのがタケコートシリーズです


艦船用のボルト・ナットの製造から始まり 独自技術で唯一無二の存在に

タケコートを市場にリリースしたのは、1980年代半ば。当時竹中氏は社には在籍しておらず、商社に務めていた。

私は3人姉妹の長女で、3代目社長だった父親は、私に竹中製作所への入社を望んでいませんでした。ところがある日、父親の態度が一変し、入社する2~3年前から私に打診してきたのです。やっぱり家業なので『私、知らんよ』とも言い切れませんので、いろいろと考えた末に入社したのが2009年です

入社後は総務や経理、人事関係を経て、社の屋台骨であるボルト事業の営業を経験。商材は違えど前職で経験のある営業に携わるうち、今まで以上に仕事に、会社にのめり込んでいった。そうして2016年社長に就任。当時会社は創業80年を数え、社歴40年以上の社員もいた。ゆえに、古い体質が染みついていたのも事実。その体質とは、指示されたことには真面目に徹するが、自らは発展的な提案や意見はしない。昭和の製造業のままでいる社に竹中氏がまず手掛けたのは、社内改革だった。

私がここに来ていちばん驚いたのが、会議の中身なんですよ。リーダー以上の一定レベルの役職者が毎月、会議を行います。そこで決められた報告はみんなきちんと行うのですが、意見交換が全然ないんです。質問もない。言われたことを言われた順番に言っていって、あとはお葬式かなというほど静かなんです


誰も自分の意見を言わない
「こんな会議ではダメだ!」



こんな会議はおかしいと、入社してすぐに思った。
「意見や提案を出したり、なにかを考える。自分が会社を良くするには、どうすればいいのか。そういう思考が、なかったんです。『そういうことは経営者が決めるんでしょ。私らは、言われたことをやるんです』みたいな体制だったんです。これはちょっとまずいなと思って、自ら行動してもらうような活動をやり始めました」
その活動の目的は、社員たちの自発的かつ能動的な行動を促すこと。
各グループのリーダークラス以上を月に1回程度集めて、懇話会を開きました。より良い竹中製作所になるために、竹中製作所が持続的成長企業になるためには、こんなことをする必要がありますよねといったことがテーマです。例えば、CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)や、ES(Employee Satisfaction:従業員満足度)の向上。あるいは主体性の向上などテーマをいくつか出して、それに対してグループごとに取り組んでもらったんです。テーマに沿っていたら、どんなやり方でも構わない。自分たちで考えて取り組んでもらって、私はあれこれ言わないと

活動の発表会を、2~3ヶ月に一度くらいのペースで行った。すると徐々に社員たちの姿勢に変化が表れてきた。

艦船用のボルト・ナットの製造から始まり 独自技術で唯一無二の存在に

当初から発表されたことに対して、私はほとんど否定しませんでした。ちょっと外れていようが、まずは自分たちで考えて行動してねという趣旨で、だんだんと社員から『こうしよう、ああしよう』という意見が出てくるようになりました。発表会の中身も、だいぶとこちらが思っていたようなことが出るようになってきています。各社員が自分で会社を良くすることを考えてやっていることが、こちらにも感じ取れるようになりました。

竹中氏が社内改革に着手したのは、社の将来を考えてのこと。
『独自製品や差別製品で、他社との差別化を図って利益を出しましょう』という考えは浸透していたんです。だけどこれから成長していくためには、利益を出すだけがいい会社ではないでしょうと思うんです。私はテーマとして、持続的成長企業を掲げています。今は良くても来年、再来年、さらに5年後、10年後も会社が良い状態にあるとは限りません。しっかり時代のニーズなどを察知して、それに対応できる会社にならないといけない。そのためにはやはり、みんなが自分で考えて行動することが大事なんです


ボルト・ナットだけではなく、
電子機器部門でも独自技術を発揮する



ボルト・ナット事業とともに、現在の竹中製作所のもうひとつの柱になっているのは電子機器事業。平成元年に社内ベンチャーのような形でスタートしたこの事業、今では40名の社員が在籍、社の売り上げの約3割を占めるまでに成長した。とくにパワーエレクトロニクスの分野で、強みを発揮する。パワーエレクトロニクスとは、パソコンやスマホが電気を信号として使うのに対し、電気を動力として使うテクノロジー。電気を使ってモーターを動かすのも、パワーエレクトロニクスだ。

艦船用のボルト・ナットの製造から始まり 独自技術で唯一無二の存在に

パワーエレクトロニクスは、得意分野ですね。中小企業で開発から設計もやって、モノ作りもできるところはほとんどなくて、うちくらいなんですよ。モノ作りだけ、設計だけをする中小企業はあります。大手さんにとっては何ヶ所かに依頼するより、1ヶ所で開発から設計までやってくれるほうが当然、楽ですから。大手さんも、採算が合う量産品は自分たちでやられます。でも100個未満など小規模のものは、自分たちでやられても利益が出ない。そういう単位の依頼が、うちに来ます。技術力があって開発から設計、モノ作り、品質保証までできることが、電子機器事業部の強み。順調に伸びてきていますし、今後も発展の一途ではないかと思っています

ボルト・ナットと電子機器の両輪で走る竹中製作所だが、竹中氏は将来を見据えて新たな取り組みにもすでに着手している。

海外工場の第1弾を、アラブ首長国連邦に作りました。ボルトの輸出先のお客様が、中近東に多いんです。現地は砂漠地帯では昼間の気温が50℃もあったりするうえに、朝晩の寒暖差が激しい。それにプラントが海沿いにあるので、塩害で腐食が非常に激しいんです。現地のお客様にはタケコートを輸出していたのですが、日本で作って船で運んでと納期が1ヶ月半はかかってしまう。それに日本の鋼材を使っているから、価格も高い。それで性能は違いますが、近隣諸国の類似品を使われるようになって、この10年くらいはすごく注文が減ってきたんですよ

艦船用のボルト・ナットの製造から始まり 独自技術で唯一無二の存在に

このまま放っておけば、重要な顧客からの注文がなくなってしまう。渦中にある危機を乗り越えるため、竹中氏はすぐに行動に移した。

それで即納体制ができるよう、2016年、アラブ首長国連邦に工場を出しました。鋼材を現地で調達して、コーティングも現地でする。鋼材やボルトなどは現地のものを仕入れているので値段は安く、タケコートという弊社オリジナルのコーティングのクオリティはそのまま。それでいて、納期は早い。お客様からの要求に答えてくれたということで、あらためてその地域の注文が取り返せつつあります。これを機に近隣諸国の仕事も増やしていきたいですし、それも含めてこの先は海外展開が重要になる。今後はアジアを中心に、これから発展する国をどんどん開拓していこうと考えています


社内改革で現代に即した社風にアップデート
これからは「持続的成長企業」を目指す



昭和10年に創業した社は、2023年11月に88周年を迎えます。「持続的成長企業」をテーマに掲げる竹中氏にとって、迫る100周年はあくまでもひとつの節目。そこが到達点ではなく、150名あまりの社員を束ねる女性経営者の目は、さらなる未来を見つめている。

国内ではこれまでに考えられないほどの猛暑になったり、海外では大規模な山火事が発生したりと、今の世界には気候変動をはじめとした環境問題があります。そうなっているのはCO2の増加など、いろんな問題が積み重なっていると思うんです。次世代のためにそういうことを食い止めるのは、今の私たちの責任でもあります。弊社の製品作りにおいても、環境に良い作り方をしないといけない。

艦船用のボルト・ナットの製造から始まり 独自技術で唯一無二の存在に
とくに今後、海外展開を進めるうえでは、環境問題に配慮する姿勢をアピールすることはマストである。

そのとおりです。海外に力を入れていくなら、環境に良い製品であることはキャッチフレーズというか、他社との差別化にもなりますしね。ここはぜひ、推進していきたい。とはいえ性能を落とすわけにはいかないので、環境に配慮したと口で言うのは容易いですが、なかなか難しい話です。イチから手探りでやっていかないといけませんので、時間はかかるかと思っています。それでも、そういう方向にしていかないといけない。簡単なことではありませんが、これからやっていくべき事ですし、やりがいのある取り組みと捉えています

就任と同時に社内に沈殿していた古い体質に新しい風を吹かせ、昭和の製造業にとどまっていた社に、今とこれからの時代に対応すべくアップデートを施した。竹中製作所を持続的成長企業へと発展させるべく、竹中氏は舵を切り続ける。

株式会社竹中製作所
本社:〒578-0984 東大阪市菱江6丁目4番35号
オフィシャルサイト:https://www.takenaka-mfg.co.jp/

社長インタビューとは?

社長インタビューは、大阪で活躍する企業の経営者の思いやビジョン・成功の秘訣などを掘り下げる人気コンテンツです。 商品誕生および事業開始秘話から現在までの道標や、経営で特に意識をされているところ、これからの成長において求める人材… 様々な視点から、企業様の魅力を発信致します。現在、大阪府下の中小企業様を120社以上の取材を通じ、「大阪 社長」「大阪 社長インタビュー」といったビッグワードで検索上位表示の実績があります。取材のお申し込みについては、下記よりお問合せください。


同じカテゴリー(東大阪市)の記事画像
ニーズを読み取り、新業態を開拓し続ける じっとしていない会社
賃貸住宅の入居後のクレームが激減!賃貸設備取替市場のオンリーワンをめざす会社
「染 食 還」を創る、サスティナブルの最前線企業
働く場を快適空間にリフォームすることで、活性化と幸せづくりを目指す
一度食べたらもう一度食べたい!川浦農園のイチゴは記憶に残る味
地域を愛し愛される 革新的な和菓子店
同じカテゴリー(東大阪市)の記事
 ニーズを読み取り、新業態を開拓し続ける じっとしていない会社 (2024-02-09 09:30)
 賃貸住宅の入居後のクレームが激減!賃貸設備取替市場のオンリーワンをめざす会社 (2024-02-02 09:30)
 「染 食 還」を創る、サスティナブルの最前線企業 (2023-08-18 10:00)
 働く場を快適空間にリフォームすることで、活性化と幸せづくりを目指す (2023-05-19 09:30)
 一度食べたらもう一度食べたい!川浦農園のイチゴは記憶に残る味 (2023-02-17 09:30)
 地域を愛し愛される 革新的な和菓子店 (2022-12-16 09:30)