ニーズを読み取り、新業態を開拓し続ける じっとしていない会社

株式会社ナコム / 代表取締役 西村 直晃氏
父から受け継いだものづくり精神を活かし、手動式自動販売機製造、冷凍食品の卸販売、業務用食品の卸と、時代のニーズに合わせた業容変更を経ながら約50年間、「冷凍食品」でレジャーホテル(※1)の発展を支えてきたのが東大阪に本社を置く株式会社ナコムだ。その細やかでかゆいところに手が届くものづくりは、業容変更をしても一貫している。2015年に代表取締役に就任した西村直晃氏は、2021年に高齢者向けの新しい食のサービスを立ち上げた。さらに新しい自社製品の開発に取り組み、2024年の3月には、独自の介護食を開発、販売を開始する。さらなる挑戦に挑む西村氏に話を伺った。
※1 レジャーホテルとは、ファッションホテル・ブティックホテル・カップルズホテル等と同じく、いわゆるラブホテルに類似するホテルの別名のこと。

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ティッシュの手動式自動販売機から発展したものとは?


じっとしていない会社なんです

開口一番、西村氏が言ったのはこんな言葉であった。西村氏の父は板金職人だ。下請け加工ではなく、自らのアイデアでものづくりをしてきた。

Q.お父さんはどんなものを作っていたのですか?
父は、人に言われてやるのが好きじゃなかったので、常に自分で考えてものづくりをしていました。当時は板金技術を生かして駅のトイレ横に設置するためのティッシュの自動販売機※2)を製造していました

※2 ティッシュの自動販売機:小さなレバーを下ろすと、ティッシュが1個落ちてくる。形は一般的なポケットティッシュと同じだが、サイズはやや大きめ。

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手動式自動販売機は、ティッシュだけでなく、ライターの自動販売機、ホテルの旅館などに設置するための剃刀用もあった。
板金技術があったので、手動式自動販売機の完成品を製造して、自動販売機を売るだけでなく、中身の商品補充もしていました

この手動式自動販売機の開発が株式会社ナコムの現在の原点となっている。この開発があったからこそ、レジャーホテルとの縁ができる。というのはテッシュやライターがあまり売れなくなった頃、レジャーホテルの部屋に避妊具の自動販売機を導入することになったのだ。
レジャーホテルでは、当時カップラーメンくらいしか部屋で食べるものがなかったんですが、食事のサービスをしたいから考えてもらいたいと相談を受けました

その要望に応える続けた結果、レジャーホテルの食のプロデュースへと大きく業容変更をしていくことになる。


業務用食品卸に業態転換!食のプロデュースでレジャーホテルの発展を支える



2000年頃から冷凍食品の卸の方が主流になってきたんで、手動式自動販売機の製造を止めて、2004年、業務用食品卸に業態転換をしました

大きな決断だった。

レジャーホテルは食に詳しいわけではなかったので、メニューを作って欲しい、料理の写真も撮って欲しい、メニューの構成を考えてほしいと、様々な要望が出てきました。非対面なので、メニューを見ただけでどんな料理が分からなければならないですし、冷凍食品を盛り付けるので盛り付けたときにおいしそうに見せるための写真が必要でした


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こうして、要望に対応していく中で、レジャーホテルの食のプロデュース会社へと進化していくこととなる。3分で完成する調理レシピ、小ロットに対応する食品卸やオリジナル商品の提案、オリジナルのメニューブックの作成、厨房設備の見直しから定期的なメニュー開発まで行うようになっていった。
西村氏が父の元で仕事を始める前は、製造メーカーの海外事業部に所属していたが、海外転勤の指令が出たときに前職の会社を辞めることとなる。
そんな海外勤務の話が出たのが退職のきっかけなんですが、父の会社はアイデアが生かせる会社だから、やりがいがあると会社に戻る決断をしました

2009年、当時世間はリーマン・ショックの真っ只中であった。
そんな大変な時期だから、メニューをタダで作ってくれとか、無茶を言ってくるところもありましたが、最終的にはそんなうちが作ったメニューが強みになり、顧客が戻ってきてくれることになりました。その結果、お客さんのすみ分けをすることもできたんです


「ほっこDELIブランド」で介護事業へ



2015年に代表取締役に就任した西村氏は、レジャーホテルの食のプロデュースに加え、もうひとつの柱となる事業展開に着手した。高齢者向けの食のサービスである。

Q. 介護食分野に参入されたきっかけは何だったのでしょうか?

レジャーホテルの食のプロデュースはもちろん素晴らしい仕事なんですが、以前から社会貢献の仕事をして、社員のやりがいをもっと大きくしたいと考えてました。そんな中、高齢者向けの施設の勉強会に参加したことがきっかけでした。社会課題の仕事がしたいという思いと、マーケットに今の事業が生かせると感じたんです。最初は、機械を導入して冷凍食品のリパック(※3)事業をスタートさせました。冷凍食品をバラピッキング(※4)は今までもやってきていたので、小規模のデイサービスの配食にも対応が出来ました

※3 リパック:小分け・袋入れ替えの作業
※4 バラピッキング:出荷する商品の梱包箱を開封し、1ピース単位で集める方法
2021年に「ほっこDELI」というブランドを立ち上げ、高齢者施設向けに冷凍食品の配食サービスを開始した。

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これまでの介護食の概念を覆す 見た目も味もそのままの介護食



介護食の世界は競合他社も多く、比較されやすい。西村氏は、独自商品の開発に取り組み始める。
介護の現場で管理栄養士の岩本恵美先生(※5)と出会って、先生が作る介護食に驚かされたのがきっかけなんです


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※5 岩本恵美 管理栄養士。同志社女子大学食物学科管理栄養士専攻卒業、大阪ガスに料理講師として入社。給食委託会社やケアハウスの給食業務に携わり平成18年から特別養護老人ホームフィオーレ南海に入職し、「やわらか食=やわ楽」を開発、現在に至る。また、地域で開催される、介護食・嚥下食(※6)の講習会の講師として、「やわ楽」の普及に努めている。 
※6 嚥下食(えんげしょく)とは、飲み込みや咀嚼(そしゃく※7)といった嚥下機能の低下がみられる場合に、嚥下機能のレベルに合わせて、飲み込みやすいように形態やとろみ、食塊のまとまりやすさなどを調整した食事のことを言います。
※7 咀嚼(そしゃく) とは食べ物を噛み砕いて唾液と混ぜ合わせ、やわらかく飲み込みやすい食塊(しょっかい)にすることと定義されます。
実際の料理を見た時の驚きは、これまでの介護食の概念を覆すものだったという。単に柔らかく、咀嚼力が落ちた人のために食べやすくしただけの介護食、嚥下食ではない。目で見て美味しい、食べて美味しいを追求した食べたくなるものだった。

ミキサーで柔らかくしただけでは見た目も悪いですが、岩本先生は、ペーストした魚の身に焼き魚の皮を貼りつける工夫をされていて、見た目は焼き魚そのものでした

ただ、このやり方はそのまま踏襲しても施設の現場でつくるには手間暇が掛かりすぎた。

Q.商品化にはどうやって取り組まれたのでしょうか?

商品化に向けては、岩本先生に指導いただきながらウチの調理にたけている社員や管理栄養士の社員が苦労を重ねながら主体的に試作品をつくりあげてくれたんです

アイデアを出し合い、何度も試作を重ね、試食を繰り返した。うまくできたと思っても解凍したら形がくずれてしまうこともあった。それならば、くずれない方法はなにかを模索。こうした努力を重ねた結果、ようやく納得のいく嚥下困難者向けの見た目を再現した冷凍食品が完成したのである。
すぐに工場に話を持ちかけましたが、できないと断られました。それなら、自分のところでやるしかないと。事業再構築補助金を受けることができたので、2023年にセントラルキッチンを作りました

こうして、噛まなくても舌でつぶせ、見た目も味も栄養も考量した嚥下困難者向けの冷凍食品が自社で作ることができるようになった。例えば、「やわらかとろっとビーフステーキ」は、見た目はステーキと同じ、焼き目もついている。ソースはムース状層とソース層の2段階構造になっているので、食べる人の状況に合わせて手元で調整が可能だ。

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世の中にはこんな介護食を求めている方はたくさんおられる。現在のメニュー内容は、やわらかとろっとビーフステーキ・やわらかとろっと豚の生姜焼き・やわらかとろっと鶏の照り焼き・やわらかとろっと鯖の味噌煮・やわらかとろっと鯖の煮付けの5種類だ。
介護の現場だけでなく、自宅で食べたい層にも拡げていく予定である。発売予定日は、2024年3月15日に決まった。
答えのない仕事をしていかないといけないので、アイデアを出すのが楽しいと思ってもらえる食に関心のある方がわが社に来てくれると嬉しい
と西村氏。
創業以来、常に困りごとを何とかできないか、アイデアを出し続けてきたものづくりの精神は今も変わらず受け継がれ、進化し続けている。

株式会社ナコム
本社:大阪府東大阪市加納5丁目2番8号
オフィシャルサイト:https://www.nacom.jp/


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