古参ひしめくバルブ業界を、独自のスタンスで 生き抜く創業30余年の“新参者”
株式会社コンサス / 代表取締役社長 土井靖士 氏
バルブは外観や機能は変われど、基本構造は紀元前から不変である。普段は表立って意識することはないかもしれないが、社会インフラを陰で支える重要な機器のひとつである。住之江区に本社を構える株式会社コンサスはステンレス製バルブをはじめ、各種バルブとその付属品の製造・販売を主事業とするバルブメーカー。1989年に設立されてから30余年と、短くはない時間を重ねてきた。しかし代表取締役社長 土井靖士氏に言わせれば、バルブ業界において30余年の歴史は深いものではなく、むしろまだまだ新参者。だがこの歴史の浅さは、同社の特徴でもあると言う。
歴史の浅さが生み出す強み
製品的な特徴よりも、企業として弊社のいちばんの特徴は、歴史が浅いことだと思っています。というのもバルブ業界はものすごく古い業界で、創業150年以上は当たり前、100年企業が目白押しなんです。古い業界なので新規参入がほとんどなく、高度経済成長期に既存のメーカーが流通網をきっちりと作り上げました。メーカーがあって代理店があって、販売店があるという流れですね。そのかたちで広まり、インフラを支えてきた業界なんです
土井氏はそう語る。社の歴史の浅さは特徴であると同時に、強みでもあると捉えている。
歴史がないがゆえに販売も流通網も、既存のところに気を遣うことなくやれます。商品開発においても、いいものをサッと取り入れられる。そういったことができるのは、弊社の強み。これは歴史や伝統がないからこそ、できるのだと捉えています。100年、150年とやってこられている先達の企業があるなかで、同じことをやっていたら太刀打ちできないこともあると思うんですよね
ニッチ市場で差別化を図る
100年以上も続けてきた老舗企業が満載のレッドオーシャン(※1)で、コンサス社はどのように独自性を発揮しているのか。
※1レッドオーシャン:レッドオーシャンとは、競争相手が市場に非常に多く、競争が激化している状態を指します。 多くのライバル企業が血で血を洗うような、激しい戦いを市場(海)の中で繰り広げていることから、レッドオーシャン(赤い海)と呼ばれています。
弊社には『ややこしいこと、面倒くさいことから始めましょう』という社風があります。お客さんが困っているものから商品作りをすることも、そのひとつです。既存の製品でもお客さんのところでちょっと改造したり加工したりとか、本来とは違う特殊な使い方をしているケースが多々あるんです。我々がお客さんのもとに営業行って気付いたのは、相談を受けるほとんどが、自社で使うには自分たちの手で加工する必要があるということでした
製品開発は、イチからでなくていいんです
そうした声を聞いて、既存の商品にモディファイ(※2)を加えたものを製品化して客先に持っていく。
そうすると、お客さんは喜んでくださいます。それでその場で『余分に作ったので、これをホームページに載せたり、カタログを作って売ってもいいですか?』と窺うんです。そうするとみなさん『もちろん、いいよ』と言っていただけるので、モディファイした製品の使い方をホームページやカタログに載せると、日本中で同じような使い方をしている人たちや困っている人たちがネットで検索して見つけてくださるんですよ※2モディファイ(modify): 修正する、(少し)変更するという意味。パーツの一部を加工するようなときに使用する用語。
他社が生産している汎用品(※3)では適応しない環境や、ニーズに合わせて製品に手を加える。そうした少し角度をつけた商品開発が、コンサンス社が得意とする分野だ。
※3汎用品:字義通りの意味は「汎用の製品」「汎用性のある商品」といった意味。多くの場合は、「特注品」「特殊用途の製品」に対比して、一般消費者向けの商品のことをいう。
▼モディファイ(modify)された製品
製品開発に関して社内には、基本的にイチからするのではなく、『既存の商品をモディファイしよう。お客様のニーズに合わせ、ちょっと変えよう』と言っているんですよ。みなさんはゼロから出発するのが開発だと思われているかもしれませんが、僕は開発は足し算ではなく掛け算だと考えています。そういうスタンスで開発した製品が、けっこうお客さんのニーズに当てはまるんですよ。何千年にわたって、世の中にバルブがあるという歴史を重ねてきたわけですから、今さら新製品の開発をやったところで世の中が劇的に変わることはないでしょう。弊社が作るものは、お客さんの困りごとに寄り添って開発する、そういう製品だと思ってます。今はネット検索が充実していて、バルブの特殊な使い方が見つけやすくなっています。困りごとがあって検索していると、それに対応した製品がここにある。それが弊社のキャッチコピーである『あったらいいなが、ここにある』の所以なんです
ネット検索からつながったところと新たな取引が始まることも、当然ある。モディファイした製品を納品する際に汎用品のセールスをするなどの取り組みで、コンサス社は順調に業績を伸ばしている。
経営者としての襟を正す、住吉大社の「初辰(はったつ)まいり」
コンサス社は先代社長である土井氏の父親が設立。当初はメーカーではなく、商品を仕入れて海外に輸出する商社のようなスタイルだった。大学を卒業後の土井氏は父が興した会社には入社せず、大手一般消費財メーカーで営業職に就いた。それからしばらくして、業績を上げ続けるコンサス社を手伝ってくれないかと父に頼まれました、また当時の勤務先より東京転勤の打診があり、ちょうどその時に結婚を決意したことも同時期に重なりました。今しかないと思って父の申し出を受け入れることを決断しました。
しかし入社直後に円高に見舞われ、そこからなんとか業績を回復するも2008年に起こったリーマンショック、2009年には自社の九条工場の火災消失、さらには父親が癌に罹患したことが判明するなど、次々と試練が降りかかった。そんなまさに渦中の2011年に、土井靖士氏はコンサンス社の2代目社長に就任した。
もう本当に、私はすごくいろいろな経験してきたと思うんです。しかも、想定外のことばかり(苦笑)。リーマンショックもそうですし、工場の火災もそう。でも振り返ってみたら『どないか、なったな』とは思います。その当時は必死だったかもしれないですけど、人間って忘れるものなんですね(笑)
そんな土井社長はトップに就任して少し経ったころから、今でも欠かさぬ あることを続けている。それは住吉神社の「初辰まいり(※4)」。毎月最初の辰の日(※5)に4つの末社を巡礼し、商売の発達を祈るというものだ。なかでも楠珺社で授かる、“初辰猫”の置物を集めることが人気になっている。奇数月は左手をあげた「人招き」の小猫が、偶数月は右手をあげた「お金招き」の小猫が授けられる。4年間休まずに参拝し続けて小猫48体を集めると中猫1体と、さらに中猫1体と小猫48体で大猫1体と交換してもらえる。大猫をペアで揃えるには24年かかるのだが、土井氏はすでにこれを手にしている。
※4初辰まいり:住吉大社といえば商売発達・家内安全の初辰まいり。通称「はったつさん」。商売発達のために遠方から訪れる人も多く、早朝から大勢の参拝客でたいへんにぎわいます。種貸社、楠珺社、浅澤社、大歳社の四社をそれぞれにお参りするのが慣わしとなっている。
住吉大社 初辰まいり
※5辰の日:辰の日(たつのひ)は、日に割り当てられた十二支が辰にあたる日のことで、12日に一度巡ってきます。辰の日の風習には、住吉大社の初辰まいりなどがある。
最初に初辰まいりにいったときは、会社が苦しい時期でした。僕は住吉区の出身で、子供のころからよく知っている住吉大社に商売繁盛の神様がいると妻に教えられて、ふたりで行ってみたんですよ。そうしたら、けっこうな数の人がお参りに来ていました。それを見て『商売をしていて、シンドいのは自分だけと違うんや』と、変な安心感もあったんです。それから『商売はシンドいけど、頑張らなアカン』と思って、自分を奮い立たせるためにもという気持ちで始めたんです
参拝の際に神様に向かってするのは、会社の経営報告
実をいうと、前の月の売り上げをまず報告をしているんです。普通なら業績報告は会計士の先生にするものですが、僕はいちばん最初に初辰まいりで神さんに報告しているんですよ。それを続けているうちに数字に対する意識も変わっていきましたし、会社も上手く回っていますしね
始めたころは神頼みゆえ、お願い事ばかりしていた。そうして参拝を続けるうちに、神社内で出会う人と顔見知りになり、そこで聞いた言葉が腑に落ちた。
神社で掃除しているおばあちゃんに、こう言われたんです。『神さんはお願いごとばっかりされてたら、シンドなんねん。神さんの前では、報告と決意を表明するもんなんやで』と。それに続けて『神様の前で決意表明すると、最後には背中を押してくれるから。自分の①報告②感謝③決意を言いなさい』と教えていただきました。それを聞いて、なるほどと思ったんです。初辰まいりでその3つの報告を始めてから業績が良くなりましたし、『もう、やめたらアカンわ』と思って、今も続けています(笑)
そんな土井氏が続けている「初辰まいり」の様子が2023年5月31日(水)深夜24:26からMBSテレビ「イキスギさんについてった」(※6)で放映されます。
※6イキスギさんについてった:この番組は、ジャニーズWESTのメンバー1人が一風変わった超個性派のお店に“行き過ぎ”ている、そしてその人自身も突き抜けており“イキ過ぎ”ている常連さんを「イキスギさん」と称え、イキスギさんが通うその超個性派店を紹介! そしてそれだけでは終わらず、ジャニーズWESTのメンバー自らがカメラを持ち、イキスギさんに単独で密着取材、その人生を掘り下げていく!関東はTBS、関西はMBSで放送。
MBSイキスギさんについてった
TBSイキスギさんについてった
そうした経験を通じて、得られた思いがある。
経営者は、信仰心を持たないとアカンと思っているんです。宗教じゃなくて、感謝の気持ちや信じるものを持つという意味でね。シンドいことがあったときに普段から信仰しているものがないと、だれも助けてくれない。だから、信仰心は持つべきだと思っているんです
mustとcan、wantが重なり合うところが社の未来
バルブ業界内では新参者かもしれないが、その業界でコンサス社は、これからも歴史を積み重ねていかなければならない。経営トップはそれを見据え、自社の中長期展望をこう語る。
わが社の将来ビジョンについては自分のなかで定義があります。それはしなければならないマスト(must)と、できることをするキャン(can)、なにがしたいかのウォント(want)が重なったところだと考えています。マストが強ければ義務的になるし、キャンばかりなら簡単、ウォントとばかりをやっていると夢物語になってしまう。それが重なり合ったところが、弊社の未来だと思っています
口調は冷静に。一方で言葉の熱は社の未来を思い、徐々に温度を高めていく。
そのうえで私がこの会社をどうしたいかといえば、現在の弊社の社員は日本と台湾で70名ちょっとなんです。社員がもっともやりがいを感じるのは、おそらく100名ほどの規模。それ以上となってくると、やり方を変えていかないといけない。でも私は、大きな会社にしたいとは思っていないんです。100名ぐらいの規模で営業利益率が10%残る会社だったら、社員の幸せに私の目を行き届かせながらやっていける。だから、そういう会社にしたい。自分が楽をしたいのなら、M&Aをやって売るのが簡単なのかもしれません。でも社員の生活を背負っているのだから、無責任にだれかに渡せないじゃないですか
そうした意思を持ちつつ、次の世代へと社を継承する考えもトップの頭のなかにある。
私自身の社内でのフットワークは軽くあり続けるつもりですが、社外向けにはそろそろ次の世代に移していくことを考える時期だと思っています。今、私が同行営業に行くと、周りの雰囲気が堅苦しくなって本音が出てこないんですよね。ふらっと『気軽に話をしましょう』というつもりで行っても、すぐにどこかの部屋に通されますから(苦笑)。昔は倉庫とかでの立ち話で、困っておられる本音のお話がきけたのに、通された部屋でお茶を飲みながら話しても、中々それは出てきません。なのでそのあたりを若手社員に上手く伝えてゆきたいんです。次の世代に私が培ってきたことを教えることも、これからの自分のやるべきことだと考えています
100年以上もの歴史を重ねる先達が大きな道筋をつけた業界にあって、コンサンス社は独自のやり方で我が道を行く。いずれ土井氏から次代へと継承されても、この『あったらいいなが、ここにある』のスタンスに変わりはないだろう。なぜなら、それがコンサンス社のアイデンティティであるからだ。
株式会社コンサス
本社:大阪市住之江区新北島7丁目1番82号
オフィシャルサイト:https://www.consuss.co.jp/
タグ :株式会社コンサス
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