不易流行(ふえきりゅうこう) それは不変で本質的なものの中に、新しい変化を取り入れていくことを意味します!

株式会社舞昆のこうはら / 代表取締役社長 鴻原森蔵 氏

                                                            

近頃、糖質ダイエットなどの影響もあって白米を食べなくなっています。お米を毎日2合以上食べていた高度経済成長期までは、肥満や糖尿病の方はほとんどいませんでした。私は、白米を主食に一汁三菜の食生活に戻ることで、肥満や糖尿病などの生活習慣病が減るのではないか、食生活の歴史を振り返り、現代の食生活に生かす工夫をすること「不易流行」が、健康長寿の秘訣と考えています。

不易流行(ふえきりゅうこう) それは不変で本質的なものの中に、新しい変化を取り入れていくことを意味します!

そう話すのは、株式会社舞昆のこうはら 代表取締役社長鴻原森蔵氏。同社は大阪市住之江区東加賀屋に本社を置き、ごはんのお供として全国的な人気を誇る発酵塩昆布「舞昆(まいこん)」を中心に、昆布を活用した食品やサプリメントの製造販売を行っている。鴻原氏は「ごはんおかわり!」と元気な声が飛び交う食卓が減っていることを嘆きつつも、こう言葉を続けた。

そうは言っても、時代の流れやお客様の声を反映させながら事業を変化させていくことは大変重要です。2021年に私たちは『美和堂(びわどう)』というブランドを立ち上げ、新しい食の提案をスタートさせました。私はこれを、舞昆におけるバージョン3.0の展開として位置付けています。

鴻原氏の言う「バージョン1.0~3.0」とはどんなものなのだろうか。事業変遷とともにその具体的な展開について伺った。

バージョン1.0:お客様の声から誕生した発酵塩昆布



「舞昆のこうはら」は、1961年に先代の鴻原正一氏が大阪でコンブの佃煮を商品化した。小粒のしい茸とコンブを甘辛く炊いた「しいこん」が、京都の漬物・紀州の梅干しと並んで大阪のちゃぶ台の定番に。1960年代の食卓では、毎週300gの「しいこん」を買い求めるお客さんが並び、大阪の食文化に欠かせないものとなった。その後、米の消費は60年代をピークに下降し「ごはんのお供」であるコンブ佃煮の消費も減ってきます。鴻原森蔵氏が入社した平成元年は、牛肉の輸入自由化もあって、食文化が欧米化し飽食の時代といわれるようになり、米の消費量は創業当初の半分にまで落ち込んだ。
私は学生時代とんこつラーメンのスープづくりをしていました。その経験から、ガスの直火釜にレンガを貼ることで余熱で炊けるように工夫して、ホタテなどの魚介類と昆布をコトコト煮込むことで旨味をぎゅっと染み込ませた塩昆布を生み出しました。その商品がなんと農林水産大臣賞に輝きました。それはもうご飯を何杯でもおかわりしたくなる美味しさなんです。

そこで、食文化の歴史を調べていくうち鴻原氏は白米こそが生活習慣病の少なかった時代の健康食だと確信するようになる。

不易流行(ふえきりゅうこう) それは不変で本質的なものの中に、新しい変化を取り入れていくことを意味します!

先代の創業当時はレンガのかまどで炭火の炎による直火仕込み製法の超とろ火で6時間煮炊きをおこない、その製法で汁気が無くなり柔らかい食感になるまで煮詰め、昆布のうま味や栄養を余すことなく染み込ませることができるようになりました。

舞昆を贈り物にもらったお客様から電話でお取り寄せいただくようになり、贈答品としても使われ、その評判は全国区になっていく。鴻原氏は平成7年に代表取締役に就任。全国的なニーズを取り込むためにカタログ通販に本格的に取り組む一方、店舗も出店し事業拡大を着々と進めていった。
そんなおり、鴻原氏は、馴染みのお客様が店をのぞき込んでいることに気が付いた。「何かございましたか」と伺うと
“こうはらさんの塩昆布があると、主人が美味しくてごはんを食べ過ぎてしまう。食べ過ぎは健康に悪いと言ったら夫婦喧嘩になってしまい、それ以来買うのを控えているんです”と言われるんですね。美味しすぎて夫婦喧嘩になるとは…、どうしたものかと考えました。そこでひらめいたのが“発酵”です。食品は発酵させると栄養価が高くなり健康に良いと重宝されるようになります。味噌や納豆がそうですよね。同じように、発酵によって昆布の栄養価を高めれば、お客様の“健康に良くない”という悩みを解消できるのではと考えました。
まずは、世の中に昆布を発酵させた事例がなかったので、酵母を探すところから始めました。試行錯誤しながら見つけたのがアケビの花が持つ酵母です。なかなか安定して発酵させることができなかったので、途中から大阪府立大学の協力を得ながら開発を進めたんです。最終的に、パイナップル・リンゴ・発酵玄米・桑の葉・菊芋などの発酵原料も加え、美味しく健康的な発酵塩昆布を完成させることができました。この発酵昆布に黒舞茸を合わせて作ったのが『発酵塩昆布・舞昆』です。私はこれを、舞昆のバージョン1.0の段階と呼んでいます。

不易流行(ふえきりゅうこう) それは不変で本質的なものの中に、新しい変化を取り入れていくことを意味します!

その後、美味しさと栄養を追求して作った発酵塩昆布「舞昆」は、5年間で100万食を売り上げる事業開始以来の大ヒット商品となる。


バージョン2.0:機能性を高めてさらに健康的な商品へ


舞昆の成功を機に、鴻原氏は機能性を付与した商品の開発に注力する。
2020年に入ってから、舞昆の発酵原料に枇杷(びわ)を加えてさらに機能性を高めました。この段階の舞昆を、私はバージョン2.0と呼んでいます。枇杷が発酵すると血糖値の上昇を穏やかにする効能があるといわれるコロソリン酸が生成されるんです。ですから、バージョン2.0の舞昆とごはんと一緒に食べれば、自ずと血糖値への気遣いができるというわけです。

また鴻原氏は、昆布を発酵させた腸活サプリ、ヌルヌルをレモン味にし腸内環境を整えるデルデルドリンクなどを作って、馴染みのお客様に試飲いただいたそう。そんな商品アイデアはどのようにして思いつくのだろうか。

不易流行(ふえきりゅうこう) それは不変で本質的なものの中に、新しい変化を取り入れていくことを意味します!

商品のほとんどは、親類やお客様の声をきっかけにして作っています。足が痛くて歩きにくいというお客様や、耳鳴りがひどくて電話が苦痛だという方、アトピーやうつ、認知症などもご飯を主食にすることで予防することができるのではないかと考え、白米を食べる習慣になってもらいながら、舞昆に薬効のある素材を加えて発酵できないかと考えるのです。商品開発の始まりは、いつもお客様の声からですね。
馴染みの常連客の声がきっかけとなって看板商品の舞昆も作られたことから、身近な人の悩みや困りごとに寄り添う鴻原氏の親身な気持ちが「舞昆のこうはら」の商品作りの原点になっている。


バージョン3.0:舞昆のノウハウを活かした新ブランド「美和堂(びわどう)」


2021年6月、鴻原氏はJR環状線福島駅前に、舞昆の新しい屋号で「美和堂」を開業させた。舞昆と並ぶ主力商品が「おかずのお供」をコンセプトにした「おかずジュレ」だ。ダイスカット状のアワビ・フカヒレ・牛みそ・海老チリ・野菜を加えたとろみに、昆布と椎茸・帆立など魚貝類の旨味を濃厚に含ませたジュレソース。常温保存可能なレトルトパウチで販売。このジュレを料理に加えるだけで、美味しさが2倍になり、料理にかける贅沢な“味変”が楽しめる。具が増える・旨味が増える・のど越しが良い。

不易流行(ふえきりゅうこう) それは不変で本質的なものの中に、新しい変化を取り入れていくことを意味します!

ごはんを食べなくなった平成以降の世代に向けておかずが主食のポジションに置かれているために極端に炭水化物や食物繊維・ミネラルが不足しがちです。これでは腸内環境が悪く、便秘がちで、脂質やビタミンなど腸内細菌が作り出せず、どうしても食事のバランスが悪くなるんです。
そこでおかずの“お供”を作ろうという発想で生まれたのが「おかずジュレ」です。主食を美味しくするための“お供”というコンセプトは、ごはんのお供の舞昆に対峙しますね。また、おかずの味付が貧弱だとごはんが進まないという側面もあるので、おかずを濃厚に美味しく食べてもらい、“ごはんが食べたい”と思ってもらえるよう、旨味を凝縮しました。舞昆とは違った米食へのアプローチだといえるでしょう。これが舞昆のバージョン3.0の段階です。


バージョンNEXT:さらなる昆布の可能性を求めて



鴻原氏は美和堂の店舗の2階で経営塾を始め、小売店舗の経営ついてノウハウを伝え、商品開発のイロハも提供している。
経営塾では、開発・製造・販売を一貫して自社で行う私たちの経営手法なども伝えています。コロナ禍によって業態転換を迫られている飲食店や街中にある小売店舗の経営者の方に、食品小売という新たな販路を開拓するきっかけにしてもらいたく、さらに経営塾で学んだことをすぐに実践できるよう、美和堂をビジネスモデルとしたのれん分けを考えています。店舗オーナーのお店の地域に根ざした伝統食材や伝承料理のご当地舞昆をそのお店と一緒に開発して、地元市町村のふるさと納税返礼品にも掲載します。地域のイベントにも出店し、地域の名家として地元自慢の味として受け継がれる老舗になるような、のれん分けオーナーを募っているんです。

不易流行(ふえきりゅうこう) それは不変で本質的なものの中に、新しい変化を取り入れていくことを意味します!

次々と事業に変化を加えていく鴻原氏。求める人材も変化してきているのだろうか。

専門分野にこだわらず、お客様の生活に関わるさまざまな領域にも踏み込んでいける人材を求めています。例えば管理栄養士として入社した社員には、食事の栄養以外にも運動や睡眠といった生活全般に対する見識を身につけていただく為に抗加齢※1指導士の資格も取得してもらってますし、開発担当者であれば、サイエンスに裏付けられた商品開発にも目を向けてもらっています。

※1抗加齢医学(アンチエイジング医学):抗加齢(アンチエイジング)医学とは、疾病の医学が対象としていた「病気の治療」から、「健康な人のさらなる健康」を指導するプラスの医療で、究極の予防医学です。元気に長寿を享受することを目指す理論的・実践的科学ともいえます。

現在「舞昆のこうはら」では食品分野だけでなく、昆布発酵成分をバイオ発酵させた化粧品・インク・化成品・ゴム等多角的な商品開発を行っている。今後さらに幅広い展開を目指していると鴻原氏は話す。

不易流行(ふえきりゅうこう) それは不変で本質的なものの中に、新しい変化を取り入れていくことを意味します!
これからは、昆布のヌルヌルに魚の卵と昆布の種を仕込み、大阪湾の海底に流しこんで、昆布の森を作って海を豊かにしようという研究にも取り組んでいます。昆布由来のバイオプラスチック※2などは、石油系資材の使用量を削減するのに役立ちます。また、紙ストローを補強するのに昆布のヌルヌルを染み込ませた開発にも取り組んでいます。北極や南極に近いところほど未利用の昆布があります。せっかく昆布が光合成で炭酸ガスを固定化してるのに、未利用のために海底で分解され炭酸ガスに戻っているといったもったいない状態が続いていました。家畜や養殖の飼料だけでなく建築や土木、燃えないリチウム電池の副原料として、またひび割れしないセメントなど、食品以外にも使用することによって、炭酸ガスを固定化させるなど環境に優しい素材にもなりうるでしょう。
また私たちは鳥取県にある自社の農地で稲作をしていますが、精米をするときにたくさんの米ぬかが出ます。米ぬかを昆布と発酵させた機能性素材も開発しています。やりたいことが多くて、寝ている時間がもったいなく、短時間で熟睡して体力を回復できるサプリも作って実験をしています。

※2バイオプラスチック:バイオプラスチックとは、植物などの再生可能な有機資源を原料とするバイオマスプラスチックと微生物等の働きで最終的に二酸化炭素と水にまで分解する生分解性プラスチックの総称です。

そんな昆布の無数の可能性を語りながら、鴻原氏は優しく微笑んだ。
江戸時代、蝦夷地(北海道)から北前船に乗せて天下の台所・大阪に届けられた昆布は、鍋のダシのあと醤油に煮詰めたご飯のお供として盛んに食べられた。その後世界も認める「UMAMI(旨み)」として、和食の基本となる重要な食材となった。令和時代に入った今、「舞昆のこうはら」は昆布を発酵させ、バイオと融合させて、昆布そのものの可能性をさらに広げようとさまざまな挑戦を始めている。
大阪からさらに新しい昆布文化を発展させる。これが舞昆のこうはら流"不易流行"なのだ。

株式会社舞昆のこうはら
本社:〒559-8502 大阪府大阪市住之江区東加賀屋1-3-40
オフィシャルサイト:https://115283.jp/
舞昆動画ギャラリー:https://www.maikon.jp/movie/
舞昆のれん分け事業継承:https://mbp-japan.com/osaka/maikon/column/5104401/




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