肉体的にもタフな業界で、常に働きやすさを追求する、ホンネ社長の思い
株式会社 三心 / 三反田 悟 氏
株式会社三心(サンジン)は、家屋・建物の解体業を主な事業とする大阪の企業である。
もともとは社長である三反田(みたんだ)悟氏が、個人事業として始めた。
22歳のときに解体工事を請け負う会社に勤めていて、5年くらい経ったころに『もう自分でやっていけるな』と思って独立しました。
もちろん始めから順調にいくはずはなくて、最初のころは解体工事をしながら、なんでもやっていましたね。
解体の仕事は基本的に、不動産業者さんや工務店さんから注文を頂くんです。不動産屋さんの依頼もさまざま。駐車場の雑草を抜いてくれだの、管理されている倉庫の雨樋が詰まってるから見てきてくれ!と夜中に電話がかかってきたり。『何でもします!』と言って、本当に何でもしていましたね。

独立し、個人事業として始めてからのおよそ2年は、そうして地道に仕事を取り続けていた。それを誠実に行うことで信用は高まり、事業が軌道に乗り始めたことで2018年に法人化。そのタイミングが、株式会社三心にとってひとつの転機だった。
2018年は6月に大阪府北部地震が発生し、9月には非常に強い勢力の台風21号が上陸。近畿圏は立て続けに災害に見舞われ、多くの建物が損壊した。
あの時は建物の解体費用はかなり値段が上がって、僕らのような小さい会社にもいろんなところから声がかかって請け負っていました。だけど、ちょっと冷静になろうと。今、仕事をいただいてる会社をしっかりと見極めて、この特需のような状況が終わっても、つながるであろうという会社との取引を優先することにしたんです。当時の同業他社は普段の2~3倍くらいの値段で工事を受けていましたが、僕らはそれをせず、通常よりも少し高いけど適正価格の範囲内の値段を出していました。
そうしたことで取引先が大幅に広がりましたので、今振り返るとあそこがターニングポイントのひとつだったかなと思います。
「言い方は良くないかもしれませんが……」、本音をさらけ出す
そんな三反田社長に、解体の仕事のやりがいを訊ねた。
僕が職人で実際に作業してるときは、建物があったところが更地になって『終わったな』って感じることですかね。
と話したあとに、「だけど……」といって言葉をつなぐ。
現場の職人から始まって会社を興すまでになった社長はてらうことなく、本音をさらけ出す人物。
ちょっと言い方は良くないかもしれませんが僕、解体工事にそれほど思い入れはないんですよ。そのことは、社員全員が知っています(笑)。やっぱりプライベートが第一で、仕事はその次。社員にも、この仕事にやりがいを見つけて欲しいなどと言ったことはありません。仕事は手段じゃなくて、プライベートを充実させるための目的なんです。社員は体を動かすのが好きとか、体育会系の人の方が肌が合うとか、そういうコたちが集まってきています。みんなこの会社が好きとか、ここで働いてる人間がいい、待遇や福利厚生がしっかりしているといったところに惹かれているんだと思います。
さらに、本音語りは続く。
解体の仕事は面白くないですよ、多分(笑)。それに、はっきり言ってしんどいです。しんどいもんは、しんどい。これは、変えられないです。夏は暑いし、冬は寒い。そのなかで体を動かして、そこにさらに埃と騒音も加わる。楽しいわけないじゃないですか。うちに入ってこようとしている人にそれを隠す必要はないですし、入ったらみんながわかることですから。そこに『やりがいが、やりがいが』とかぶせても、意味はないと思います。

待遇と福利厚生を厚くし、建設業界で珍しい週休2日制の実施
肉体的にも負担の大きい業界で働く社員のため、三心がとくに力を入れているのは待遇面と福利厚生。
年2回のボーナスはもちろん、月給も基本給は業界標準より高くしています。有給も法律の基準通りに消化させていて今、労基署(労働基準監督署)の人が来てもまったく問題ありません。あとは週休2日制に向けて今年から導入したのですが、連休がない月はどこかの土曜日を休みにする。それで年間の休日を7日増やしました。もちろん、給料は変わりません。あとは2年前くらいから、お盆、ゴールデンウィーク、年末年始は超大型連休として9~10日間を休みにしました。
そのほかにも資格取得のための費用を会社が負担し、重機の免許所得のために現場を離れている間も出勤扱い。また禁煙治療が無料で受けられたり、提携している会社近くの銭湯に無料で入れるなどユニークなものもある。そして次に実現させたいのが、完全週休2日化。
建設業って土曜日も仕事なんですよ、基本的に。大手ゼネコンでも中堅ゼネコンでも、土曜日も仕事だったりするんです。梅田とか都心部に行けば、土・日でもタワーマンションの建設とかの工事をやっていますよね。でもこれだけ身体を酷使する仕事だからこそ、週休2日が必要。そう思っているので、完全週休2日に向けて今は頑張っているところですね。
とはいえ建設業界でこれを行うのは、発注元が土曜日も動いているのに下請けが休めるのかなど、越えなければならないハードルがいくつもある。それでも従業員の働きやすさを最優先に考え、これを越えていく決意でいる。
現場の都合上、土曜日に休めるのかっていうところのせめぎ合いみたいなものは、確かにありますね。建築業界は今でも、1日の日給×出勤した日数が月給になる日給月給ということが多くあります。うちは月給制にしていますし、もちろん社会保険も付けている。月給制で休みが増えれば、日当単価で割ると日当が大きく上がることになるじゃないですか。そのためにも、これは早く実現させたいと思っています。

より利益を残すために、多角経営にも着手
株式会社三心は解体業に始まり、今では医療に福祉、介護、さらには飲食と多角的な経営に乗り出している。
その意図と狙いを問うと、ここでも本音の答えが返ってきた。
さっきも話しましたが、僕は解体業にそれほど愛着があるわけじゃなくて、お金を稼ぐとか生活を豊かにする、社員の生活も家族も豊かにしていくことに興味があるだけなんです。なので今の自分が持っているスキルや知識を使ったり、関わってくれている人に協力を仰いで、よりもっと利益を残せる仕事や業態がないかと思って、いろんなことに挑戦しているだけなんですよ。
すべての根源にあるのは売り上げを上げて、利益を残したい思いだと言う。考えをストレートに表す言葉に、人によってはがめついなどと苦い顔をするかもしれない。だが経営者としては、至極真っ当な考えだ。

そのためには、解体業だけでは視野が狭い。解体業で100億円とか売り上げている会社もありますが、僕らがすぐにそうなるのは、なかなか難しいんじゃないかと。もっと最短ルートで他に何かないのか、いろんな業種を見ていきたい。もしかしたら自分の正解は、建築業のなかにはないかもしれないとも考えていて、今は手探り状態な感じですね。

幼少期から児童養護施設で育った
三反田社長は2歳から15歳までを、児童養護施設で過ごした。ナイーブな話題かと思われ質問するのを少々ためらったが、それでも話を向けた。
施設にいた小学生くらいの頃は、『なんで自分だけ』などと思いました。でも今となっては、プラス要素でしかないですね。
プラス要素とは、なんだろう。
以前に、こんなことがありました。大きい不動産屋の社長さんをご紹介いただいて、ご挨拶に伺ってうちの会社のパンフレットをお渡ししたんです。パンフレットには僕の育ちのことも書いていて、それを読んだ社長さんが『若いときから苦労してきたんやな』と仰いました。情に厚い社長さんだったので、それでこっちにぐっと心が寄ってきて、そこから僕の育ちの話を広げていく。そうするうちに『頑張ってきたんやな。うちの仕事もやってみるか』と言ってもらえました。もう、プラスしかないじゃないですか。強力な営業ツールですよ(笑)。
自身の生い立ちが今の自分に暗い影を落とすことはないと、明るく笑い飛ばす。とはいえ、物心がついたころに周りと環境が違うことについては、いろいろ思うところはあった。
当時はありましたね。お金が無かったので、みんなが駄菓子屋に行ってお菓子を買ってくるのを指をくわえて見ているしかなかったし、欲しいゲームやカード、文房具なんかも買えませんでした。あのころは常にお金があったら、お金が欲しいなと思っていましたね。だから漠然とお金持ちになろう、社長になろうと、小さいながらに思っていました。それが今でも、根底にあるという感じですかね。

短中期で目標を立て、それをクリアすることを繰り返していく
最後に、株式会社三心としての今後の目標を聞いた。まずは3年程度の短期目標について。
週休2日制は、3年以内に実現したいと思っています。これを言い出してもう1年半くらいか、もしかしたら2年くらい経ってるかもしれません。
その間に大型連休を取り入れて有給を増やし、今年から始まった年間休日を7日増やしたりと前には進んでいます。なので、いけるかなという予定で頑張ってやっていますね。
その先の5年や10年などの中長期については、こう考える。
中長期になると、売り上げの話になってきますね。福利厚生と待遇が充実して週休2日も実現できてとなると、さらに売り上げや利益を拡大して、更なる働きやすい環境を作っていこうと思っています。その循環をしっかり作ってしまえば、きっと採用も上手くいくと思うんですよ。僕や職人みたいに脳筋(脳みそまで筋肉⇒考えるよりも先に体を動かす性格や行動)の人間ばかりじゃなくて(笑)、ITを使いこなせるコとかが出てきたら違う角度から建築業界に面白い風が吹き込めたり、社内にもいい変化が起こりそうに思うので。
とはいえ、長期の目標はあまり立てないという。
僕の場合は、短中期が多いですかね。経済環境は変わるので、絶対に。この4~5年でもコロナ前とコロナの最中、コロナ後でいろんなことが変わっていますよね。不動産市況もそうですし。長期の目標は、あまり意味がないと僕は思っています。短中期くらいで目標を立てて、それをしっかりとクリアすることを繰り返していくことですね。
今も三反田社長の頭のなかには、新規事業のアイデアがあるという。
思いついたらすぐに行動に移したいタイプだが、今は足下を固める時期だと自制している。
とはいえ行動派で本音を隠さない三反田社長のことだから、ほどなくして次の動きを見せることだろう。
解体を生業にしながらも、様々に事業領域は築き上げていく。

株式会社 三心
本社:大阪市生野区南巽4‐8‐29
オフィシャルサイト:https://mitanda-s.com/
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