mahora・OGUNO…“ひとを想うノート”を通して「開け、ノートの未来」。
大栗紙工株式会社 / 代表取締役 大栗康英 氏
ノートなんて、どれもそれほど大差はない――そう思われていたノートの世界に、障がい者の視点で切り込み、「OGUNO」のブランドで新しいノートを世に出し続けている大栗紙工株式会社(大阪市生野区)。
発達障がい者が使いやすいようにと考え出されたmahora(まほら)ノートはグッドデザイン賞や日本文具大賞などを受賞。
障がい者以外にも受け入れられるようになっている。
「開け!ノートの未来。」をコンセプトにさらなる新製品の開発とユーザー拡大を目指す代表取締役 大栗康英氏はmahoraを通じてノートにはさまざまな期待があることを知った。
“ひとを想うノート”づくりの話を聞いた。
大手ブランドノートで業績伸ばすも・・
大栗紙工は1930年に創業。当時の主力商品は小型帳簿だったが、1963年に承継した2代目が帳簿からノートに転換。
表紙と中紙を糊で固める無線とじノートの機械を次々に導入し、安定した高い技術力で、大手ノートメーカーの有名ブランドノートのOEM生産で年間4000万冊製造するまでになった。(1990年頃)
大栗氏は1996年に父を継いで社長に就任する。
印刷工程で罫線の一部が切れる罫切れをチェックするカメラシステムを導入するなど、さらなる品質安定を図った。
無線とじは二つに折った紙を積み重ねることにより、隙間に糊が入って強度が上がります。
ただ、糊付けを均等にしなければならないなど高い技術も必要で、機械に頼りきりではダメなんです。
クライアント様の要望に沿って注文を忠実にこなすことで信頼を得てきました。
でも、少子化などの影響で、大手メーカーさんからのノートの受託量も、最盛期の半分くらいに減っています。
既存のノートが使いづらいと感じている発達障がい者がいることに衝撃
それまでの受注生産から脱皮して、自社でノートを開発するという新しい領域への挑戦は、ある偶然から生まれた。
2019年、大栗氏の妻が、プレスリリースの書き方を学ぶセミナーに参加。
そのときの講師が発達障がい者の支援活動を続けていることを知る。
大栗紙工がノートを製造していることを知った講師から逆に、発達障がい者が既存のノートに使いづらさを感じていることを知らされる。
そして、発達障がい者にも使いやすいノートは作れないかと相談を受けたのだ。
ノートを使いづらいと感じている人がいることなど思いもよりませんでした。
発達障がい者には様々な特性があって、たとえば、欄外の日付欄が目について気が散るとか、罫線は濃いとそれにとらわれすぎる、紙の色や光の反射などでも使いづらいという人もいるのです。
試作品造りを始めましたが、デザイン制作用のパソコンソフトを使いこなせる者すらおらず、当時は手探り状態でした。
発達障がい者の支援をしている一般社団法人UnBalanceさんのご協力を得て、当事者の人達の声を聞きながら、試行錯誤を重ねました。
紙の色や罫線、デザインに試行錯誤を重ねて誕生した「mahoraノート」に反響続々
半年後、ようやく試作品が完成した。
色は光の反射を抑えて目にやさしいラベンダーとレモンの2色。
罫線は点罫なども試した末、刺激が少なく行の識別がしやすい太い線と細い線を交互に配したものと網掛けの2種類に絞った。
試作品を一般社団法人UnBalanceの協力を得て100人ほどの障がい者に使ってもらって反応を聞いた。
それを元にさらに改良を加えた末、2020年2月ついに、mahoraノートを発売。
新聞やインターネットで紹介されると、障がい児の母親らから問い合わせが相次いだ。
ちなみに、「まほら」は「まほろば」の元となった大和言葉で、「住みやすい場所」「素晴らしいところ」を意味し、発達障がいの人を含めた多くの人に、心地よく使ってほしいとの願いを込めた。
実は、発達障がいの方や発達障がいのお子さんのいる親御さんの中には、「不満だけどこれしかないので仕方なく使っている」「子どもの気が散らないよう自分で手作りしている」という方も多かったんです。
それだけに大変喜んでいただきましたし、自分たちが作ったノートがこんなに喜んでもらえたということで、社員たちもうれしく、励みになりました。
その後も障がいを持つ方々の声を聞き取って、色はミントを加えて3種類にしました。
大きさもB5,B6,B7,A6判ノートに加え、A4シートも増やして発売開始1年後の2021年2月には36種にラインナップを拡大しました。
現場では「大事なことだからメモをとっておきなさい」ということが多いのに、大きいノートだとそうした使い方がしづらいということで、胸ポケットにすっぽり入るB7判を製品化しました。また授業ではいつもA4判のコピー用紙を配布し使っているという支援学級の先生のご要望に応えA4シートも製品化しました。
ペイ・フォワードmahoraプロジェクト
発達障がい者が使いやすいようにと作られたmahoraノートだったが、そのシンプルなつくりが逆に「かわいい」と評判を呼んで、女子中学生ら障がい者以外の購入も増え、売り上げは3年足らずで10万冊を超えるまでになった。
大栗氏はさらに、表紙のデザインを変えた箔押しデザインのmahoraノートを1冊買うと、発達障がいを中心とした障がいを持つ2人に、1人1冊ずつ合計2冊のmahoraノートが届く「ペイ・フォワードmahoraプロジェクト」を始めた。
実は、mahoraノートの中紙は通常のノートより10%程度厚いので、消しゴムで強くこすっても破れたり、しわになったりしにくいという特性もあるんです。こんなmahoraノートをもっと知ってもらい、もっと使ってほしいと考えたのがこのプロジェクトです。もともと表紙は発達障がい者が受け入れやすいように、ほとんど中紙の罫線を印刷しただけでしたので、かわいい植物や景色を周囲に箔押しすることでちょっと高級感が生まれ、また可愛い仕上がりになっていると思います。
プロジェクトを通じて、既に3,000人を超える障がい者の方にmahoraノートをお届けしていますが、支援に賛同していただく人が増えれば、尚嬉しいですね。
小学校とタイアップしたオリジナルノートを開発。学習意欲向上と先生も納得
mahoraノートを通じて、創業当初からあった「使う身になって作りましょう」という心構えが、より鮮明になり、ユーザーの「あったらいいな」の想いに応えようとする姿勢は、大阪府立中之島図書館とのタイアップや、奈良県の帝塚山小学校のオリジナルノートの共同開発へと結びついていった。
中之島図書館のものは、表紙に図書館の外観をデザインした小ぶりの絵を配しています。mahoraノートがシンプルなデザインだからこそ、いいアクセントになりました。
帝塚山小学校さんとのきっかけは、mahoraノートの新聞記事です。
記事をご覧になった先生が訪ねて来られ、自習用のオリジナルノートの作製を依頼されたのです。
子どもの学力向上のためには、子ども自らが興味関心を持って取り組むことが大切という思いから、進んで使いたくなるノートが欲しいと考えられたようです。
先生方と協力して、学年に応じて使いやすい罫線の種類やスペースを工夫し、紙を目に優しいアイボリーの色にするなどして1年がかりで完成しました。
子どもたちは、上のページに絵を、下のページにアサガオの観察記録を書き込んだり、関心のある一つのテーマについて自分で調べたことを絵入りで百科事典風にまとめたりと、自由な発想で使いこなしているようです。
先生からは、意欲的に取り組む児童が増えたなどという声をいただいています。
廃棄米を活用した紙で作ったノートに続いて、新製品のアイデアもいっぱい
大栗紙工独自のノートは他にもある。
廃棄米を活用した新素材で作った「サステナブルパッド」だ。
環境意識が高まる中、フードロス削減を目指した奈良の老舗企業が、紙の材料に米を混ぜて生み出した「kome-kami」を使ったものだ。
さらに、今も尚ノートの新しい未来を開く新製品の開発に打ち込んでいる。
サステナブルパッドは厚めの紙ですので、ノートとして使っていただくだけでなく、メッセージカードとしてもご利用いただけます。しっとりした手触りで、とても書き心地のいい紙です。そして、今考えているのは、小学生に使いやすいノートです。
ストレス無く勉強に集中できるノートをという要望が以前から寄せられており、今までの小学生向けノートにとらわれないものを出していきたいですね。
大栗紙工のノートブランド「OGUNO」。
その案内パンフレットの最終ページには、こう書かれている。
ノートはまだまだ変わっていける。使うひとのことを想うと変わっていける。
「あれ、このノートってどこか違うよね」
と、売り場で目が合ったら、それはきっと“OGUNO”です。
大栗紙工株式会社
本社:大阪市生野区巽北3‐15‐7
オフィシャルサイト:https://og-shiko.co.jp/
OGUNOブランドサイト:https://www.oguno.jp/
肉体的にもタフな業界で、常に働きやすさを追求する、ホンネ社長の思い
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