アイオン株式会社 / 代表取締役社長 小西紀行 氏

PVAスポンジというスポンジ素材を中心に製造しているアイオン株式会社は、前身の会社時代も含めて、約70年の歴史を積み重ねてきた。そのPVA＝ポリビニールアルコールスポンジにはさまざまな特徴があるが、最大の特質は吸水性と保水性に優れていること。そしてアイオン社には洗車後の吸水に用いる「プラスセーヌ」というクロスがあり、この商品は世界での累計販売枚数が1億を越えるロングセラーだ。そんな社の成り立ちを、代表取締役社長 小西紀行 氏が語ってくれた。

弊社のスポンジ事業の歴史は古く、1952年にカネボウグループとしてスタートしました。その後、1962年に鐘淵紡績株式会社と合併し、翌1963年にプラスセーヌを発売。国内、及び海外でもかまぼこ型のケースに入れて販売しており、今でも高い人気を博しています。それから時間とともに数々の製品を世の中に届けてきて、現在では半導体製造に欠かせないブラシローラーや、ハードディスクの製造に必要な砥石なども手掛けています。1999年にカネボウより化成品事業を株式会社ソフト99コーポレーションに営業譲渡し、社名をアイオン株式会社としてスタートしました

小西氏は親会社である、日東化学株式会社（現在のソフト99コーポレーション）に1983年に入社。54歳だった2014年アイオンに営業役員と兼務で就き、2019年に社長に就任した。

アイオン社の基幹事業は「吸水・洗浄」「濾過」「研磨」「生活資材」の4つ。そこから生み出される製品は大きく分けて産業用と家庭用の2種があり、その比率は産業資材が約70％、家庭用商品が約30%となっている。

産業用としましては、半導体などの洗浄に使われる高性能な吸水スポンジ。我々はブラシローラーと呼んでいます。これとハードディスクの製造に必要不可欠な砥石などが主なものです。とくに半導体で使われているブラシローラーのメーカーは世界に数社しかなく、アイオンともう1社で80～90%のシェアを占めています

「真面目な会社」その風土を、
トップは今後どう醸成していくのか

家庭用製品は前述した「プラスセーヌ」をはじめとしたカーケア分野以外にも、吸水クロスなどのホームケア、ペットのシャンプー後の拭き取りタオルなどのペットケア、スポーツタオルや冷感グッズなどのスポーツ＆ヘルスケアの分野で商品を展開。優れた吸水力と簡単に使える手軽さから、これを読まれている方のなかでも、愛用しているという人も少なくないだろう。

こちらのPVAスポンジは、ポーラスマテリアルと呼ばれており、容積の約90％が網目状に細かくつながりあう連続の微細な気孔から成り立つ多孔質体であることを特長としております。それゆえに、優れた吸水力を発揮します。弊社製品の有用性を、まだご存じでない方もいらっしゃいますが、そんな方々にぜひとも他社では真似のできないポーラスマテリアルの高い吸水力を伝えていき、お客様の需要創造に答えたいと考えております。また自社で工場を持って製造販売しているのは、国内では弊社だけ。これは、私たちの大きな強みです。供給においての優位性は高く、お客様からの信頼と期待は高いものと思っております

2022年11月には、新工場となる第3工場が完成。投資額は当時の売り上げの約1/3に相当したが、小西社長は思い切ってプロジェクトにゴーサインを出した。

着手したのは、私が社長に就任した2019年でした。それまでは、構想ができては頓挫を繰り返していたのですが、誰かがどこかで決断しないと無理だろうと思い、私が決断しました。結果的には、いいタイミングでしたね。もし今から同じものを作れば、資材や人件費が高騰しているので、建築費が倍くらいになると建築会社さんに言われましたから。またこれはとても大きなプロジェクトでまだフル稼働に達しておりませんが、この新工場をお客様からの信頼と取り組みの強化に、つなげていきたいと考えています

約300人の従業員がいる会社の風土について訊ねると、「真面目」だと小西氏。

おかげさまで優秀な人材が揃っていて、会社としてのポテンシャルは非常に高いと感じています。従業員のみなさんは、本当に真面目。お客様が仰られたことに対しては、とても丁寧に親切に対応してくれている。今後は社内でもっと意見具申ができる環境を作っていければ、さらに発展すると思っています。そうすれば、お客様にもっともっと喜んでいただける商品をお届けすることができますから

そんな真面目な会社の風土を、トップは今後どのように醸成していくつもりなのか。

私としては、社内でコミュニケーションの機会を増やしていきたいと考えます。そうすることで思考の質に変化が生まれ、能力と意識が高まると信じています。また思いを伝えるのは大切であり、必要なことです。だからこそ、社員のあいだで会話ができる環境を作っていきたいです。そこから生まれてくる有益なものは、きっとたくさんあると思っています

社内文化の改革に手を差し入れた
トップが考える、社の未来

前身時代も含めると約70年のあいだに、自然と形を成してきた社内風土がある。社員は文系出身者と理系出身者が混在する。畑違いの者がひとところに集まるからこそ、コミュニケーションが大事だと小西氏は考える。

我々は古い会社、どちらかといえば縦の文化です。営業は営業、工場は工場、製造は製造と縦並び。ここに私は横串を差し込んでいって、新しい文化を作っていきたいと考えています。営業は営業だけではなく、営業と製造・開発・生産など。それらすべてにおいて、横の関係で、他部門にも発言できる。そういった考え方をみなさんにお願いして、そのためのプロジェクトを立ち上げて、もう3年以上になります

そして小西氏はプロジェクトリーダーには、30代の若手社員を任命したという。それは明確な意図と、ねらいがあってのものだ。

若手社員は我々の世代とは異なる発想の転換ができます。そして頭も柔らかいです。それで生まれた製品はいくつもありますし、商品のネーミングも我々では想像がつかないものが出てくるんですよね。『これをやってください』と指示されてやるのではなく、若い方が自分たちで作って、最後まで責任をもってやってくれる。私はそれが、会社の大きな強みになっていくと思っています

根底からすべてを変えるのではなく、良いものは残しながら、新しい風を吹きこむ。小西氏はいわば、社内文化の改革に手を差し伸べたのである。そうして社を統べる者に　短期、そして中長期的な目標を訊いた。

まず短期的には今、半導体市場はとても活況です。データセンターが増えてきていまして、ハードディスクの製造には我々アイオンの砥石が不可欠です。そこをひとつの基準として、海外比率を高めていきたいです。同時に国内においては先ほどお話しましたように、我々の製品の有用性をご存知でない方がまだまだいらっしゃいます。それをお客様に伝えて、ご理解いただくことで、短期的には国内外ともに発展していくと感じています

中長期的に気にかけるのはやはり、多額の投資をした新工場。

今の稼働率はまだ10%くらいで、未実装の場所もあります。膨大な規模の工場でして、未実装の場所に関してはすでに図面を作っています。おそらく5～10年後には稼働率が高まり、今の売り上げの半分近くとは言いませんが、それに近いくらいの製造をできる要素が充分にあります。ここを大切に育てていくことが大事ですね

小西氏は在任中、なにが達成できていたら、そしてどういうものを残せれば成功だったと思えるのだろうか。

やはり社員のみなさんのあいだに横串がどんどん刺さっていって、活発な意見具申ができる会社になっていること。もちろん長い歴史で培われた、縦の串も必要です。それを残しながら横の串が刺さっていくと、さらにワンランク上のいい会社になると思っています。もうひとつは、第3工場の本格稼働。ここがフルに近いくらい稼働できるようになると、会社全体も、働くみなさんの気持ちもガラッと変わってくるでしょう。私の役割は在任中、それらを形にすることだと認識しています

そう考える小西氏は、社の縦・横のコミュニケーションによる新たな発想こそ、アイオン社の将来に結びつくと見据えている。

アイオン株式会社
本社：大阪市中央区谷町2-6-5（ソフト99ビル4階）
オフィシャルサイト：https://www.aion-kk.co.jp/