「食を通じたまちづくり」で大阪から日本を元気に!
株式会社RETOWN / 代表取締役 松本 篤 氏
―――株式会社RETOWNを立ち上げた経緯を教えてください
株式会社RETOWNを創業したのは2004年ですから今年で16年目です。起業のきっかけとなったのは大学1年生のころに経験した阪神大震災。震災後、飲食店が自粛ムードの中アルバイトをしていたお店が他のお店よりも早く営業を再開しました。
お客さんが来るのか不安でしたが、実際は震災の前と比べて3倍ものお客さんが来店してくれて、めちゃくちゃ盛り上がりました。
早期に営業再開することについては賛否あり、「まだ不謹慎じゃないか」という意見もありました。でも、多くの方々が集まったのは、みんなが「騒げる場所」を求めていたからだと思います。暗い神戸のまちの中で、そのお店の周りだけ灯りがともったような光景が目に焼き付きました。
「あ、ここから神戸の街が復興していくんやな」
そういう景色を想像していました。
そして「1軒のお店でも街を変えていくきっかけになるんだ」と体感し、この業界で起業することを決意しました。
―――これまで事業を始める過程で苦労したことはありますか?
いや、めちゃくちゃありますよ。(笑)
正直なところ最初からいいスタートをきった事業は案外少ない気がします。じわじわ微調整をしていきながら良くしていくイメージですね。
なかでも一番難しいと感じたのは現在進行形でもある食材の流通に関わる仕事です。メディアでも報じられている通り苦しい生産者も少なくないのが現状です。
そこで「食の問題の根っこ=食材流通の仕組み」と考えました。我々商売人は自分で作ったサービスや商品の売り値を自分で決めることができます。その一方で一次産業の生産者は自分で作った物の値段を自分で決めることができません。例えば、生産に1,000円かけて作っても競りにかけると600円でしか売ることができない。それが現状です。市場を通すことで生産することに集中できるなど、生産者さんにとって良い部分もありますが、値決めをすることが出来るという選択肢を持つことも大事だと考えています。
そこで、産地と都市部にある飲食店を直接繋ぐような仕組みを作るために試行錯誤しています。頭の中ではやるべきことは見えていますが、それを実現するには我々だけでは完結できないこともあり、生産者側にも協力してもらうことが必要不可欠です。
―――飲食人大学はどのような課題を解決するために始めたのですか?
設立した当初から飲食業界専門の人材紹介事業をやっていて、月間100人、200人という人が職を求めて登録するのですが、飲食業態全体を見ると人材不足が叫ばれています。
求職者が多いのにも関わらず人材不足という矛盾した現象が起きているのです。その原因を掘り下げると、店側も誰でも採用するわけではないということです。
店側には求めるスキルがあるので、それを満たしてないと採用には至りません。
―――店側が求めるスキルとは何ですか?
たとえば10年、15年飲食業界に勤めていても包丁を使えない人は少なくありません。飲食業界は分担制だったり、機械化されていたりと、包丁が要らないキッチンを作り、誰でもできるお店づくりをすることで多店舗展開&スピード展開を可能にしているわけです。
とはいえ、ある程度包丁を触れる方のニーズは高いです。そのニーズと実際に流通している人財とのギャップがあると感じ、短期間でそのギャップを埋めるための実践的な学校が作れないかというところから飲食人大学がスタートしています。
学ぶ期間は3ヶ月間。失業保険受給期間に合わせて、貯金のない方でも通える学校にしました。
3ヶ月で寿司職人を育てるっていうと「寿司をなめてるんか」とよく怒られますが、決してそういう訳ではなく、我々は3ヶ月で超一流にするというよりは雇ってもらえるレベルに持ち上げることを目標としています。職人の世界では魚を触らせてもらうまでに皿洗い3年と言われます。しかし現実的には数多く魚に触ったほうが上手くなるのが速いのです。それができるからこそ修行して3ヶ月でミュシュランに選んでもらえる店を作れたりするわけです。
職人が10年、20年かけて身に付けた技術って人に教えるハードルが高くなります。
しかし3ヶ月で技術を身に付けた人たちは、ある意味下の子に教えるのも抵抗がないっていうか、良くも悪くもそこに対して執着心がないです。
また、まだ未熟だという自覚があり、新しいものを取り入れることに柔軟です。これは意図していたわけではありませんが、柔軟性のある職人さんが育つという副産物になりました。
飲食人大学の卒業生の進路の一つとして、我々は卒業生が学んだ技術をすぐに活かせる場所を作るため、福島に「鮨千陽/ちはる」をオープンしました。「鮨 千陽/ちはる」は毎年店長が変わります。しかし、それでもずっとミシュランのビブグルマン(Bib Gourmand)に選んでもらえるのは、ある一定以上の人財を輩出しているという我々にとってはひとつの目安になっています。
TUGBOAT TAISHOについて
―――新事業「TUGBOAT TAISHO/タグボート大正」について教えてください。
2020年1月に開業予定の複合施設「タグボート大正」が建つ尻無川沿いは、河川区域で法的に建物が建てられる場所ではなかったのです。しかし港湾局の出身でもある前任の大正区長さんは「水都大阪の水辺を盛り上げていかなければ」と考え、規制緩和のために当時の橋下大阪市長に直談判をしてこの場所を「準則特区」にしました。そこから大正区が予算を付けて、民間企業に委託し夏場限定のバーベキュー場を作ったり、社会実験を経てプロポーザルが行われました。「大正区独自のコンテンツを集め賑わいを生み出す」「舟運事業(船の事業)を行う」という条件のもとで食・音楽・ものづくり・船・宿泊施設を組み合わせた私たちのプロジェクト案を採用してくださいました。
―――舟運事業とは、具体的にどのようなことをされるのですか?
舟運事業に関して我々は「水都大阪と言うからには一つの移動手段として確立させたい」と考えています。
世界的な水の都と言われるところは移動手段として船が使われています。大阪に関してはなかなかそれができない。なぜなら橋の低さ、船着場利用の申請の複雑さなど多くの課題があるからです。
また、船を交通手段として利用することを考えると、既存の交通機関との乗り継ぎがよく、なおかつ、2~30分ぐらいで海に出ていけるような場所でなければ機能しません。
我々が運営する天満橋にあるGreen Caféはちけんや店は電車との乗り継ぎは良いですが、そこから海へ出ていこうと思うと約1時間もかかります。
一方、大正区は電車でのアクセスもベイエリアへのアクセスも良く、USJへも20分で行くことができます。
そういった大正区の立地の魅力を活かして「水辺のターミナルタウン」という新たな役割を持たせていきたいと考えています。
―――TUGBOAT TAISHOをどのような施設にしていきたいですか?
TUGBOAT TAISHOの具体的なコンテンツを決めるにあたり、「水辺」「ものづくり」「リトル沖縄」という3つの大正区の要素をベースに「つくるが交わる」というコンセプトを軸として進めました。
ものづくり、食、音楽、アートなど様々なジャンルで活躍する方々がここに集い、交わることで化学反応が起き「大正ってなんだか面白い」と感じていただける空間をつくりたいです。
大正区の魅力を地域の方々にも再認識していただき、さらに区外の方々にも発信できる施設にしていきたいと考えています。
現在と将来における株式会社RETOWNの役割について
飲食の分野で言えば、地元に根付いた職人さんをしっかり育て、地元の食材を使いこなして食文化を育てていくことです。
飲食人大学で教えているのは江戸前の技術ではありますが、江戸前の技術と産地特有の食材を組み合わせて独自のお寿司の文化を作っていくことで観光資源にもなります。
例えば、江戸前ならぬ「ハワイ前の寿司」、「沖縄前の寿司」などがあり、江戸前の技術×地元の食材という変化は実際に起こっています。外国人観光顧客の中には滞在中にその地域でしか食べられないお寿司を食べ歩く方もいらっしゃいます。
食べることは、旅の主な目的のひとつですからね。料理の技術を持ち込んで産地独自の食材と掛け合わせることで、地域の食文化のレベルを上げていきたいと思っています。
また、最近ではまちづくりというキーワードをよく耳にしますが、正直儲かる産業ではないです。だからまだまだ参入してくるプレイヤーも少ないのが現実です。行政が予算を出して、それをベースに地元の人たちが動くというニュアンスで受け止めている方も多いですが、そのプロセスだと行政の予算が終わればプロジェクトも途切れます。
当然、我々も一部行政の補助金、助成金のお世話になることもあります。しかし、それは一時的なもので、スムーズにスタートするための「きっかけ」でしかありません。最終的には自立しなければ事業は存続できません。
我々の役割はまちづくりの中でもリスクをとって汗をかくところを自分たちで担って行きます。持続可能な事業を成立させまちに灯りをともすこと、地域の産業を育てていくことがミッションだと考えています。
株式会社RETOWN
代表取締役 松本 篤
本社:〒544-0034 大阪府大阪市生野区桃谷5丁目5-37 いくのパーク講堂棟3F
オフィシャルサイト:http://retown.co.jp/
肉体的にもタフな業界で、常に働きやすさを追求する、ホンネ社長の思い
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