間もなく創業100周年を迎える、シール・ラベル業界のトップランナー



株式会社OSPホールディングス / 代表取締役社長 松口 正 氏

                                                                                                 

株式会社OSPホールディングスは、シール・ラベル業界のリーディングカンパニーである、大阪シーリング印刷を中核とするOSPグループの持ち株会社で大阪市天王寺区の企業。同社の歴史は古く、昭和2(1927)年に松口浮出紙工所として創業した。現在は創業者の孫にあたる松口正氏が3代目社長として、経営を担っている。

間もなく創業100周年を迎える、シール・ラベル業界のトップランナー

創業当時はお取引先である印刷会社さんから預かった印刷物に凹凸を付け、彫刻のように模様や文字を浮き上がらせる印刷加工が事業の柱でした。これは現在「エンボス加工」と呼ばれるもので、この浮き出し作業の多くはレッテル(※1)と呼ばれていました。やがて事業を拡大し創業からほどなくしてシーリング印刷部門を併設しました。

※1 レッテルとは 商品名、文字などを表記して、商品に貼りつける紙の札のことを指します。 オランダ語の 「 letter 」 が語源となっています。

それから長らくシーリング印刷が主な事業だったが、昭和30年代に入ってさらなる発展の転機を迎える。

そのころまだ日本には紹介されていなかった、糊(のり)のついたラベルのサンプルを海外から取り寄せ、何度も失敗を重ねて開発をしました。その結果、日本国内で連続して製造する特許を取得したんです。シール・ラベルは、現在の切手のようにでんぷん糊を乾燥させ、水につけて活性化させて貼るのが当時の技術でした。今のように粘着性のあるシールは当時はまだ使われていませんでした。それを製造方法を含めて、日本国内に初めて紹介したのが我々なんです。


間もなく創業100周年を迎える、シール・ラベル業界のトップランナー


取得した特許はあえて独占をせず、シール工業組合に分権し、同業他社も使える状態にした。これはまさに、先々代の慧眼(※2)であった。

※2 慧眼(けいがん)とは物事の本質や裏面を見抜く、すぐれた眼力。

まずはこの新しいシール・ラベルを世の中に広めることが大切だろうと考えました。この技術はすでに、欧米では紹介されていました。またシール・ラベル印刷業界は中小企業が多いので、大手の印刷会社が独占すると広がらない。業界全体が発展しなければいけないので、これは私たちが守らなければならないと、先々代は考えたんです。


ないものは作る、自分たちで作る



このときを機に同社はさらに業績を伸ばしていくが、業界のトップランナーになった理由の一つに独自性がある。その独自性とは、ないものは作る。なんでも、自分たちで作るという精神。

シール・ラベルの製造方法が変化すると機械も変わります。ところが日本にはまだそれに適した機械がなかったので、欧米から輸入したものを使っていました。ですが、それではなかなか利益が生まれないので、自社で印刷機を作ろうということで開発に着手しました。

印刷機を自分たちで作り上げただけでは、とどまらなかった。

間もなく創業100周年を迎える、シール・ラベル業界のトップランナー

当時、ラベルは手で貼っていましたが、印刷機によって連続してラベルが作れるようになったので、今度はラベルを貼る機械を作ろうと決めました。その次の段階では、タック紙(※3)というラベル用の原紙製造を自社ではじめました。また製造以外でも、デザインの制作もできるように部署を作りました。さらにデザインを制作する際に必要な写真を社内で撮影できるようにスタジオも作りました。つまりシール・ラベルに関わることは、川上から川下まで一連を自社対応できるようにしたことが成長の大きなきっかけでしたね。

※3 タック紙とはシールやラベル、ステッカーなどの印刷用資材で、裏面に粘着剤が塗布されている紙です。表面基材、粘着剤、剥離紙の3層で構成されており、バリエーションも豊富です。


厳しい時代に就任した33歳の若社長



間もなく創業100周年を迎える、シール・ラベル業界のトップランナー

昭和30年代から60年代にかけては現在の礎を築き、足下をより強く固めていった時代。そして松口氏が3代目社長に就いたのは、元号が変わった平成5(1993)年。ときを同じくして、その数年前まで日本中が好景気に沸いていた時代が、突然終わりを迎えた。バブル経済の崩壊である。業績は減収減益。当時33歳の若社長は、厳しい時代に就任した。

来年66歳なので人生の半分、社長をしているんですよ。この間は社会背景も厳しく、まさに失われた30年です(笑)。そのなかでの生き残り策となると、世の中は価値よりも価格が優先されていましたので、どうすれば安く提供できるかがテーマの30年間でしたね。

松口社長が、奮闘した“失われた30年”を振り返る。

そういう社会背景のなかで、社内でもいろんなことを変えていかないといけませんでした。合理化やコンピュータの導入は早くから着手しましたし、IT化も積極的に導入しました。大手の一流企業に教えを請うこともありましたね。でもいちばん苦労したのは、従業員の考え方を変えることでした。

間もなく創業100周年を迎える、シール・ラベル業界のトップランナー

社の歴史が長いだけに、古くからの社内風土が根強く残っていた部分もあった。それでは不況下で、生き残ることはできない。設備を変えるのは機械を入れ替えれば済むが、人の考え方を変えるのには相当な困難が伴う。それでもやるしかなかった。

間もなく創業100周年を迎える、シール・ラベル業界のトップランナー
人事・総務が取り組み、いろいろと教育の機会を作りました。そのたびに私は『各企業・社会はこうなるから、世の中はこういう方向に行くよ』とか、『それを具体的にするためには、こうしてほしいんだ』といったことを従業員に言っていましたね。現場によく顔を出して、意見も聞きました。そういうことを重ねていって、徐々にみんながわかってくれたんです。


“失われた30年”から、次の時代に向けて



約30年を人づくりと文化を作ることに情熱を注ぎ、新しい社内風土を作った。そうして今、日本経済はようやく次のフェーズに足を踏み出そうとしている。次の時代に向けて、OSPホールディングスはなにを目指していくのか。

我々が提供している製品の7割が食品関連ということもありまして、人口の減少が今後、間違いなく事業に影響を及ぼします。今はその比率を変えていこうと物流や新しいパッケージにチャレンジしながら、海外戦略も進めています。そしてそれとは別に考えていることがあります。

それは社内にとどまらず、社会に目を向けたものだ。

「働くことに勇気のいらない会社」そして「生きることに勇気のいらない社会」を作ることを目指しますと、従業員に話しています。最近はSNSで誹謗中傷をはじめ、理解し難いことが増えています。生きることに勇気がいる社会は、ダメなんですよ。会社もそう、働くことに勇気がいるような会社はダメです。我々は当然、勇気のいらない会社にする。その延長に、勇気のいらない社会にしましょうという考えがあるんです。グループにはOSPハートフル株式会社という障がい者を雇用する特例子会社もありまして、障がいを持つ方とも一緒に働いていきたい。我々は「成長の機会は平等に」そして「変えられない個性は公平に」扱う会社にしますと掲げています。

松口社長の話は、熱を帯びて続く。

SDGs(※4)についても、環境問題に偏重していると感じることがあります。そもそもSDGsには17の項目がありますが、総じて言えば、誰もが勇気のいらない社会にしましょうということだと思うんですよね。我々はその延長線上に、生活者を豊かにできるパッケージを提供したい思いがあります。日本で培った技術やノウハウを世界に広め、今度は世界で得た知見をまた新しい発想として展開していく。そうすることで、日本の生活者を豊かにできる。我々はパッケージ屋なので、それがどのようにすればパッケージで貢献できるかを考えています。

※4 SDGs(持続可能な開発目標)とは、国連が2015年に採択した、2030年までに持続可能でより良い世界を実現するための17の目標です。これらの目標は、貧困の撲滅、教育の質向上、気候変動対策など、幅広い分野にわたります。


間もなく創業100周年を迎える、シール・ラベル業界のトップランナー

100周年は通過点、さらにその先へ



生活者を豊かにする。OSPホールディングスは自社の製品やサービスなどを通じて、それをどう具現化するのか。

今考えていることのひとつが、環境と人の豊かさの問題です。eコマース(※5)はもう日常になり、それありきで社会は動いています。ただ、荷物が配送されてくる際に、不要なくらい大きい箱の中に、小さな商品が入っていたりしますよね。これって環境面において、どうなんだろうと思うんです。そこで今、環境に負荷をかけない製品の開発をしています。ある部分的なコストだけに着目するのではなく、トータルでとらえた場合にどうか?という見方を大事にしています。

※5  Eコマース(EC)とは、インターネットなどのネットワークを介して商品やサービスを売買するビジネスモデルや取引形態を指す言葉です。英語の「Electronic Commerce」の略で、日本語では「電子商取引」と訳されます。

間もなく創業100周年を迎える、シール・ラベル業界のトップランナー

新たな取り組みは現在の社会問題を解消し、強いては人々の生活を豊かにすることにつながると松口社長。

購入する商品は、もともと箱に入っていますよね。先ほども述べましたが、必要以上に大きな箱で配送をしても、それは空気を運んでいるようなものです。荷物を運ぶ際に、今の日本では積載率が40%ぐらいなんですよね。それを効率良く配送できるパッケージを開発して80%にすれば、配送者の労力は半分で済む。人手不足の解消にも役立つでしょうし、そういった工夫で社会の問題解決にもつながると思います。生活者が自由に使える時間、つまり新しいパッケージを通じて、豊かな生活を届けていきたいと考えています。


間もなく創業100周年を迎える、シール・ラベル業界のトップランナー

3年後には、創業100周年を迎える。間近に迫った100周年と、さらにその先への展望について語る。

100周年については、これまでは価値より価格に重きを置かざるを得ませんでしたが、価値を重視する変化点が100周年だと考えています。そのときには全従業員が、価値を売る大切さを当たり前のように考えてくれるようにしたいですね。100周年はあくまでも通過点でその後、中長期的には海外事業の展開も視野にあります。そして来年のことですが、2025年に開催される大阪・関西万博の運営参加サプライヤーとして物品協賛します。また大阪府と大阪市が出展する「2025年日本国際博覧会 大阪ヘルスパビリオン Nest for Reborn」にも物品協賛します。同パビリオン内のリボーン体験で使用する、RFID(※6)リーダー・RFIDタグ・RFIDタグ入りリストバンド(リボーンバンド)です。本社がある大阪で開催される万博の成功に、お役に立ちたいと考えています。

※6 RFID(Radio Frequency Identification)とは、電波や電磁波を用いて、タグの情報を非接触で読み書きするシステムです。RFIDタグとリーダー(読み取り装置)を使用し、モノや人を識別する自動認識技術として、さまざまな分野で活用されています。

間もなく創業100周年を迎える、シール・ラベル業界のトップランナー


松口社長は冗談が好きで、明るく快活なお人柄。足下を見つめながらも、先見の明を持つ人物でもある。バブル崩壊後の厳しい時代を生き抜いたタフな社長は、節目の年を過ぎても第一線に立っているにちがいない。

株式会社OSPホールディングス
本社:大阪市天王寺区味原本町6-8
オフィシャルサイト:https://www.osp-holdings.co.jp/



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