働き手不足の訪問看護業界で SNSから70人の従業員を採用し得た社長。その奥にある思いとは!?




株式会社ARIA / 代表取締役 宮崎大輔 氏

                                                            
働き手不足が問題になっている訪問看護業界で、SNSでの発信を通じてコストゼロで70人の看護師を採用した社長がいる。それがNewGate訪問看護ステーション(※1)を運営する株式会社ARIAの代表取締役 宮崎大輔氏だ。宮崎氏は“大ちゃん”のハンドルネームで、Instagramのアカウント(※2)を開設。医療業界にまつわるユニークかつ本音の発信が大変好評で、業界トップクラスの2.2万人のフォロワーを獲得している。宮崎氏も、もともとは医療業界の出身者であった。

※1  訪問看護ステーションとは、病気や障害のある方が住み慣れた自宅や地域で療養生活を送れるように、訪問看護サービスを提供する事業所です。訪問看護師や保健師、助産師、理学療法士などが所属しており、事務所を拠点に利用者の自宅や施設に出向いて看護やリハビリ、生活援助などのサービスを提供します。

※2  https://www.instagram.com/newgate_daityan/

働き手不足の訪問看護業界で SNSから70人の従業員を採用し得た社長。その奥にある思いとは!?



専門学校卒業をして21歳から看護師としてオペ室で勤務していたのですが、25歳で辞めました。医療業界は年功序列が激しかったり、若いうちにどれだけ頑張っても、なかなか結果が評価されないんです。昇進を目指すにしても、10年も20年も同じ職場で勤務し続けないと難しい。そんな環境でこの仕事をあと40年くらい続けるのは正直キツいなと思い、辞めることにしました

その後は営業職や、ウェブの業界で働いてきた。そのころに個人で開設し、看護師時代の経験などをネタにしていたSNSが評判を呼ぶ。それがきっかけになって、ARIA社を立ち上げることとなる。

コロナが流行ったころSNSで情報発信を始めて、ショート動画で少々バズったんです。フォロワーさんも、複数のSNSをトータルして6万人くらいになりました。看護師のころから訪問看護ステーションをやってみたい思いはあったのですが、実際にやるきっかけがなくて……。だけどこれだけ多くの看護師さんに見られているのなら、このフォロワーさんたちが働きやすい職場を作って、いっしょに何かできたら面白そうだなと。そう思って、訪問看護ステーションを立ち上げたんです


働き手不足の訪問看護業界で SNSから70人の従業員を採用し得た社長。その奥にある思いとは!?

宮崎氏は事業を立ち上げるにあたり、自身の経験を反映した。理不尽な年功序列や頑張っても評価されないなど、医療業界の負の面を反面教師にする。
作るからには自分が嫌だったり、キツかったと思っていた環境にはしたくなかった。年功序列もそうですし、正しく努力した結果が評価される場所にしたいと思っていました。僕は辞めてから気付きましたが、看護師って価値のある、そして誇れる仕事なんですよ。その反面、職場で辛い思いをしている人や、人間関係に悩んでいる人が多かったり。そういったことで、困っている人も多いんです。そうではない職場を作れたら、あのころの自分のような人間でも、働き続けられるビジョンが描ける。そういう場所として、NewGateを作りました


立ち上げ期にSNSで20人を採用
訪問看護サービスは小児に力を注ぐ



医療業界はどの職種も採用難の問題を抱えているが、ARIA社は立ち上げ期に20人の採用に成功。そのツールになったのが、Instagramを中心としたSNSである。

働き手不足の訪問看護業界で SNSから70人の従業員を採用し得た社長。その奥にある思いとは!?

今もそうですが、スタッフの募集はすべてSNS経由で行っています。SNSの発信内容は、かなりエンタメに振り切っていて、真面目なコンテンツは少ないんです(笑)。ただ、事業所案内とか採用募集のライブ動画では、年功序列ではないとか、待遇を良くするといったこと、それに仕事に打ち込める環境であるとか、努力した結果が評価されるといったことを訴えています。僕が今まで病院で経験してきた嫌なことが払拭できるような職場にしていきたい思いをエンターテイメントに寄せて発信して、それに共感してくれる人たちが集まってきてくれている印象ですね

人材募集にコストがかからなかったことと、それ以外にも、SNSを通じての採用活動にはメリットがあったという。
コストがゼロなのもすごく大きいですが、理念やビジョンに共感してくれる人が入ってくれるので、そこがいちばん強いかなと思っています。採用ができても、思っていたのと違うとなりがちなんですよ。だけどすでにSNSで見てくれてるので、僕と会ったときに『SNSで発信していた、大ちゃんと同じですね』と言われることも多いんです。ギャップが少なく入職してくれるのは、すごくありがたいですね

サービスは全年齢が対象だが、とくに小児に力を入れている。大阪の訪問看護ステーション数は全国1位だが、そのなかで小児に対応しているのは、ごくごくわずか。宮崎氏は支援を必要としながら、これまで届かずにいた声に進んで耳を傾ける
大阪府全体で訪問看護ステーションは1,700ヶ所くらいありますが、そのなかで小児を看られるとアピールしている事業所はネットで検索しても4~5ヶ所くらいと、極端に少ないのが実情なんです。僕らのサービスも全年齢が対象ですが、15歳未満のお子さんが7割以上おられまして、小児には本当に力を入れています。小児訪問看護といえば医療的ケア児や重症心身障害児が対象と思われがちなのですが、弊社は自閉症やADHDといった発達神経症のお子さんに対しても訪問看護のサービス提供を積極的に行っているんです


働き手不足の訪問看護業界で SNSから70人の従業員を採用し得た社長。その奥にある思いとは!?

宮崎氏は小児に対して訪問看護サービスが利用できることは、保護者らに意外と知られていないのだという。SNSは、それを知らしめるためにも活用している。
そういったお子さんを抱える世のママさんたちは、訪問看護ステーションが使えるのを知らないところからスタートしているんですよね。実は使えますし、こういう使い方もできるんですよということも、SNSで発信したりしています。それを通じて『今まで困っていたけど、こういう医療サービスが使えるんだ』と気付いた人たちが利用者になってくれています

現在は事業の立ち上げから、およそ1年半。スタッフも増えていくなど、順調に歩んでいる。そのなかで今後の、まずは短期的な目標についても訊いてみた。
今後は目先の3年で、スタッフの総数を100~150人くらいに増やしていきたい。それはなぜかというと、僕らが掲げている『笑顔あふれる自分らしい人生を』の理念を、ともに追ってくれる人が多いほうがが絶対にいいからなんです

この理念はもちろん地域の利用者にもかかる言葉だが、宮崎氏自身は従業員に対して、100%の気持ちを込めて作った言葉だという。その一方で、事業を継続していく社会的必然性も認識している。

働き手不足の訪問看護業界で SNSから70人の従業員を採用し得た社長。その奥にある思いとは!?

訪問看護ステーションは、だいたいどこも10人未満くらいで運営しています。今の段階から大きな立ち位置に食い込んでいかないと、淘汰されてしまうんですよね。そうなってしまったら、長く続けられない危険性が高まってしまう。『こんな訪問看護ステーションをさがしてたんです』と利用してくださる方がいらっしゃるので、なくすことはできません。そのためには、それなりの規模感が必要になってくる。なので、まずはしっかりと拡大していって、土台を固めていくことが大事だと思っています


利用者に、さらなるサービス拡充を
働き手に、いっそうの環境改善を



長期的な視点では小児に、より力を注ぎながら、横へと拡大させていく構想もある。
全国的に見ても小児を対象にした訪問看護ステーションが少ないので、頑張って出店していきたい。それに訪問看護事業だけではなく保育園やデイサービスなどや、小児に関連するほかの福祉事業にも挑戦していきたいと思っています。ただ事業を拡大するには施設を作ったりと、まとまった資金が必要になるんですよね。融資を受けるにしても、しっかりとした実績がないといけない。なので今の訪問看護の業態で従業員150人くらいの組織基盤を作り、そこで信用を積み重ねながら資金調達をして、次に新たな施設などを作っていけたらと考えています
現在は大阪府全域と兵庫県西宮市、今年10月には福岡にも進出し、計8ヶ所の拠点を構える。今後は事業所を全国規模でさらに増やし、利用者へのサービス拡充を図るとともに、医療従事者の環境改善にも手を差し伸べる。

働き手不足の訪問看護業界で SNSから70人の従業員を採用し得た社長。その奥にある思いとは!?

看護師、セラピストの人たちに『こんなふうに働ける場所があったんだ』『ちゃんと評価される職場があったんだ』『互いを高め合える人間関係がある職場があったんだ』という衝撃を与えられるのが理想ですね。地域に貢献していったり、小児の利用者さんをより多く支えていくことは当然です。だけどいちばんは今、看護師やセラピストとして頑張ってる人たちに対して、僕らが運営する施設で働いたら、また違ったキャリアを歩めるのではないか。そういう、新たな選択肢とキッカケを与えていきたい。そのためにも、もっと事業規模を大きくしていきたいと思っています
31歳の若き経営者は、これまで訪問看護サービスが行き届いていなかった小児の分野に手を差し伸べる。それとともに「これが当たり前」と医療業界で蓋をされていた理不尽を打ち破り、医療従事者が本来得るべきやりがいや待遇を彼ら・彼女たちの手に届ける。その思いを両手に携え、これからの道を進んでいく。


株式会社ARIA
本社:大阪市中央区久太郎町3丁目1-6 伊藤佑ビル大阪本町7階
オフィシャルサイト:https://new-gate.jp/




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