社会の役に立ちたい!夢を紡いだカバン物語

サンワード株式会社 代表取締役 池田智幸氏

カバン、袋物の縫製メーカーとして元々はOEM(他社ブランドの製品を製造すること)メインだったものの、10年ほど前からゴミを減らすために規格外になって産業廃棄物になった消防用ホースからカバンをつくるというビジネスを始めたサンワード株式会社。
流行を追いかけるのではなく、『世の中の役に立てるもの、誰かが笑顔になってくれるもの』を生み出すために日々ものづくりに励んでいます。
人と人とのコミュニケーションを大切にしながら、障がいを持ったみなさんとの共同企画商品の開発、発展途上国応援商品の展開など、未来へ続く環境を考慮した物づくりで誰もが笑顔になれる商品をつくり続けているサンワード株式会社 代表取締役 池田智幸氏にお話を伺いました。

社会の役に立ちたい!夢を紡いだカバン物語


消防用ホースをおしゃれで丈夫なバッグに!


ちょっとした織り目のキズでも、規格外品として産業廃棄物になる消防用ホース。捨ててしまうのはもったいない…丈夫な素材を上手く活用できないか…ということで、ショルダーバッグやボストンバッグへのリユースを始めました。今や当たり前となったSDGsですが、持続可能な社会を実現するために自社でできることとして、約10年前から取り組んでいます。

消防用ホースは、少しでも厚みが違ったり傷がついていたりすると規格外品となり、産業廃棄物として破棄されてしまいます。破棄するにも費用がかかる上、使わずに捨てるのはもったいない…ということで、丈夫で耐久性、耐水性に優れた素材を活かし、『らうらうじ-second hose-』を立ち上げました。


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らうらうじとは、平安奈良時代の言葉で「上品」「清らか」「美しい」という意味で、産業廃棄物を回収し、リサイクル・リユースして清らかで美しい地球を取り戻しましょうという意味が込められているそうです。

元々は海外に出すためにひらがな表記にしたんです。ただ、発売当初は国内で引き合いがあったので、そのまま国内に展開していくこととなりました。らうらうじは様々なブランドを展開しており、一番新しいものは『RAU-RAU-G HAITETSU(らうらうじハイテツ)』です。

これはOsaka Metroの引退車両の部品である、つり手や連結器のジャバラを再利用し新たなアイテムに商品化する『OsakaMetroクリエイト×廃車再生プロジェクト』で、3月23日から発売を開始しました。地下鉄車両は30〜40年で引退となるのですが、少しでも廃車車両からゴミを減らしたい!ということで、つり革の手すりと連結器のジャバラを回収させていただいて、カバンへとアップサイクルしています。ジャバラの生地は、少し重いのですがとても丈夫。カバンの部材にはぴったりなんです。


社会の役に立ちたい!夢を紡いだカバン物語

『らうらうじブランド』には、環境に考慮した再生型製品だけでなく障がいを持つ方との共同企画商品もあります。障がいのある方が木材から、手作業で一つひとつ丁寧につくったボタンを装飾したバッグ。ダウン症の女性が描いた絵をプリントしたバッグやポーチなど、おしゃれな製品を世に送り出すことはもちろん、これらの活動は障がいを持つ方の自立支援にも繋がっています。

消防用ホースでつくったカバンにタグをつけるような軽作業は、元々障がいを持った方が働く作業所にお願いしていました。
作業所で働く方との繋がりはありましたが、そこまで深く首を突っ込んでいた訳ではなかったんです。
しかし消防用ホースのカバンを販売して数ヶ月後、東北大震災があったんですよね。企業として見て見ぬ振りはできない、ただ大きい会社さんほどの支援金はない、自分たちにできることはなんだろう…と考えていた時に、震災地の障がいを持つ方の状況を耳にしました。
施設は元々土地を使って野菜などをつくり、それを売ることでお小遣いにしていたものの、原発事故の関係で一切土地が使えなくなり、国からの補助金以外が入らなくなり…健常者の方も困っていますが障がい者の方がもっと大変な思いをされていることを知ったんです。


震災後、数十か所の施設を直接まわって現状を確認された池田氏。そこで出会った福島県須賀川市の作業所のひとつが木を削る機械を持っていることを知り、一緒に何かをつくろうということで作業所の方々とのものづくりが始まりました。そこで『モンガ・クナップ』(スウェーデン語で「たくさんのボタン」という意味)というブランドが、東日本大震災で被災した東北に『ものづくりで笑顔を届けたい』という想いの元、立ち上がりました。

社会の役に立ちたい!夢を紡いだカバン物語


ぬくもりのあるボタンをつくる、という仕事を作業所の方と一緒に考えました。近くの家具屋さんの余った木材を使用している為、木の種類が違うので、色が違うボタンが出来上がるんです。出来上がったボタンは定期的に購入させていただき、バングラデシュに送りフェアトレード商品(※1)としてカバンに装飾してもらい、完成後百貨店で販売。「応援」という形でやらせてもらっています。

(※1)フェアトレード商品:フェアなトレード、「公正な取引」を意味します。 公正な取引とは、発展途上国の生産者によって作られた製品が適正な価格で継続的に取引され購入することで、生産者の生活を支援するという意味が込められています。



障がい者の資質とものづくり


滋賀のサンワード野洲工場の近くには作業所が多いのですが、お付き合いがあった中のひとつの作業所でダウン症女性が描いた絵を拝見させていただきました。その絵の構図や色使いに感動してしまって。そこですぐに一緒にものづくりをしましょう!と。生地にその絵をプリントしてカバンやポーチをつくり、『らうらうじ-YUKA-』として販売をしています。

その後、京都のギャラリーで原画展をした際はご本人にも来ていただいて物販もして…たくさんの方に来場していただきました。来て下さったのは障がいのある方が身内にいらっしゃるという方が9割でした。いろんなお話をさせていただいたのですが…障がいを持ったお子様を持たれている方は、お子様の未来を真剣に考えられているからこそこういった取り組みはやっていかないと、と改めて感じましたね。ただ自分たちは民間企業で利益を追求していかなければならない。
『いいことやってるね』ではなく『うまいことやってるね』といってもらわないといけないので。
早急に結果を出せるビジネスモデルを構築していくのが今の課題ですね。


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これらの様子を見た別の作業所から、うちにも絵の上手い子がいて…と声がかかって益々縁が広がっています。
『持っている才能』と『僕たちのノウハウ』を一緒に形にしていくのが大前提なので、デザイナーさんと同様、顔写真とプロフィールを出せる方、親御さんにご了承いただいた方ならデザイナーとして契約という流れでさせてもらっています。
ただ、障がいを持ったお子様の活躍を世に知ってもらうことをためらう親御さんもいます。
オープンに前に出てくることができる風土に今後整えていくのが今の日本の課題だと感じますね。



「このブランド、この商品を買ってよかった!」をつくる


フェアトレード商品の開発、SDGs、リユースなどが叫ばれるようになり時代が大きく変わりつつある昨今。ここで疑問に思うのが、OEMだけでも企業として成り立っていたにも関わらず、そもそもなぜ自社ブランドを展開することになったのか?
ここについて詳しくお話を伺いました。

OEMの仕事は、お客様に言われたことをその通り作る仕事。もちろんものづくりをする上で基準は必要なので、例えばロゴが5ミリずれているからアウト!というのはわかります。ただ、実際手に取る方がどれだけ喜ぶかを考えた時、基準からほんの少しずれているだけでだめになるOEMの仕事はちょっと違うなという思いがありました。とはいえ、自社商品をつくるにしてもクライアント様の商品を邪魔するものはつくれない、じゃあどうするかと考えた時に、企業の本質である社会への貢献を第一に考えたものづくりをしたいと思ったんです。そんな時に消防ホースの話がやってきました。

1年かけて商品化し、できたカバンは百貨店の催事で1週間で約200万円売り上げました。店頭に立って『人が持っていないカバンが買えてよかった!』『これ何でできてるの?』というお客様の声を聞いて、お客様が笑顔になるものづくりをしていれば自分たちもやりがいがある!という実感のもと、OEMと同時進行でやりたいことを重ねてきたんです。
OEMは発注起業様次第なので、いつまでたっても自分たち主導の仕事ではないとコロナで気付けたからこそ、自分たちで発信できて自分たちでつくれるものはこれから力を入れていこう、と力を合わせ売り上げを増やしてきているところです。


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「障がい者支援をしたい」国立大生の応募


サンワードは企画部のような専門部署がないため、社内全員で話し合いながら商品のデザインは決めていきます。特に女性の意見を大切にしながら、たくさんの危機を乗り越えてきた経験を踏まえ、今後の将来ビジョンを伺いました。

工場は新卒、本社は基本中途採用をして新しい社員を迎えています。一度、年度の途中で営業職が欲しくて募集をかけたんですよね。そしたら、『SDGsにかかれる仕事がしたい』と国立大学の子がやってきてくれたんです。でも、国立大の子がうちに来るのはもったいない…と思って採用を見送ったんですよね。
その後あるマーケッターの方から『今SDGs(※2)に一番敏感で考えている方は、生まれた時から平和な時代を生きていない、環境に対する意識がめちゃくちゃ高い、自分ひとりで考える機会も多いZ世代(※3)だ』という話を聞いて。Z世代向けにSDGsを語っていった方が良いって言われて、採用すればよかった!って後悔しました(笑)。
面接だからいいことを言っているのかと思っていたらそうではなくて、お金ではなく、本気でやりたいことをやっていきたい子たちがこれからは必要ですね。

(※2)SDGs:持続可能な開発目標とは、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。17のゴール・169のターゲットから構成されている。
(※3)Z世代:概ね1990年代中盤から2010年代序盤までに生まれた世代のことである。生まれながらにしてデジタルネイティブ(=生まれたときからインターネットが空気や水のように、あたりまえの環境として存在)である初の世代。


障がい者との自由な共生空間


今は自社ブランドをもっと皆様に知ってもらうべく活動中ですが、ちゃんと結果を出して行きたいと思います。そしていずれは若い方が集まり勉強できる気軽な空間をつくりたいです。内装は障がい者アート、提供するコーヒーはオーガニック、パンは障がい者施設のパン工房のパン、店員はお客様対応できる障がいを持つ方、SDGsに絡む商品を陳列販売・・・等々。人の気持ちが温かくなり、笑顔いっぱいな空間をつくっていって、全国に広げて行きたいです。もちろん1社では出来ないので、一緒にやってくれる会社を探しながら広げていきたいですね。できれば大阪府下か滋賀県野洲の工場近くで始めたいです。お金も時間もかかるかもですが、できたら楽しいですね!



新聞・雑誌・テレビと様々な媒体に引っ張りだこの池田氏。
多くの人が興味関心をもち、事業を応援してくださっているからこそ、構想中の空間が現実となる日もそう遠くなさそうですね。これからどんな商品が生まれてくるのか、楽しみです!

社会の役に立ちたい!夢を紡いだカバン物語


サンワード株式会社
大阪市天王寺区生玉町2番3号 小出ビル2階
オフィシャルサイト:https://www.sunward-beban.co.jp/

社長インタビューとは?

社長インタビューは、大阪で活躍する企業の経営者の思いやビジョン・成功の秘訣などを掘り下げる人気コンテンツです。 商品誕生および事業開始秘話から現在までの道標や、経営で特に意識をされているところ、これからの成長において求める人材… 様々な視点から、企業様の魅力を発信致します。現在、大阪府下の中小企業様を120社以上の取材を通じ、「大阪 社長」「大阪 社長インタビュー」といったビッグワードで検索上位表示の実績があります。取材のお申し込みについては、下記よりお問合せください。


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