美容界の新市場 “メンズビューティー” に挑む「シンビシン」代表の信念とは

株式会社シンビシン 代表取締役 宇多 淳 氏
2030年には、ファンデーションで肌を整えることがビジネスマンの身だしなみになっているでしょう。
5年前は男性の脱毛なんて考えられませんでしたが、今や普通のこととして受け入れられている。同じように、メンズメイクも近い将来“普通”になるんです。


美容界の新市場 “メンズビューティー” に挑む「シンビシン」代表の信念とは


そう話すのは株式会社シンビシン 代表取締役 宇多 淳(ウダ アツシ)だ。
同社は大阪市浪速区に本社を構え、BtoB向け美容商材の卸売事業を展開している。
2013年の創業以来、美顔ローラーや美髪ドライヤーなど新規性の高い商材をいち早く取扱い、美容業界の新市場開拓に貢献してきた。そんな宇多氏が次に狙うのが“メンズメイク”市場だ。
今年5月には男性用ミニメイクセット「THE.N.B.P HOMME」を発売。男性が気軽にメイクを体験できる「メンズビューティーカフェ」の開設も並行して進めている。
未開拓市場の男性美容に対し、宇多氏はどんな可能性を見出しているのだろうか。事業の変遷とともに聞いた。


起業初年度に1アイテムで年商3億達成!


宇多氏が美容の世界に足を踏み入れたのは“縁”だったという。
学生時代は美容業界ではなくテレビ業界に憧れ、大学卒業後はテレビ番組制作会社の美術部門に就職した。
大阪芸術大学の放送学科を卒業後、テレビ番組制作会社で美術制作に携わりました。次第に広告業界にも興味が湧き、転職して広告代理店で営業や顧客分析も経験しました。その後ベンチャー企業に転職するのですが、そこで初めて美容業界を知ることになり、取り扱うことになったのがたまたま美容系商材だったんです。


転職先のベンチャー企業では、美容室向け顧客管理システムを販売した。前職の経験を買われ営業リーダーとなった宇多氏は、持ち前の向上心と責任感で会社からの目標以上の月1,000万円という高すぎるほどの売上げ目標を自身に課した。
全国各地を回りながら、目標達成のために美容業界のあらゆることを徹底的に勉強する日々が続いた。業界への深い知見が功奏し、宇多氏は順調に売上げを伸ばしていった。
しかし知見を深めれば深めるほど、ある疑問を抱くようになる。
お客様にとって最適な商品が他にあるとわかっていながら、売上げのために自社商品を勧めなければならない。これで本当によいのだろうか?これが自分のしたいことなのだろか?と問うようになりました。


顧客にとって最適なものを勧めたい。本当によいものを提案したい。そんな想いが宇多氏に湧き上がり、それが起業へのきっかけとなった。

美容界の新市場 “メンズビューティー” に挑む「シンビシン」代表の信念とは創業の頃の宇多代表

卸売りであれば自社商品に縛られず、お客様にぴったりの商品を提案することができる。
そう考えた私は、2013年に美容商材を専門に扱う商社『シンビシン』を立ち上げました。
『シンビシン』という社名は、『新しい美容』『震える感動を与える美容』『真の美容』という3つの『シンの美容』を提供し、お客様の『心(シン)』を上向きにしたいという願いを込めて名付けました。最初に扱った商材は美顔ローラーでした。付き合いのある取引業者から『こんな商品があるが売ってもらえないか』と声を掛けられ、ご恩を返す気持ちで引き受けました。当時まだ美顔ローラーは市場に出回っておらず、『何それ』という反応が返ってくるような商品たったので、引き受けたもののどうやって売ろうかと思案しました。



世間に認知されていない商材をどう売るか。宇多氏が思案しているとタイミングよく大物女優を起用したテレビCM放映が始まった。美顔ローラーは飛ぶように売れるようになり、起業初年度に売上げ3億円を達成した。宇多氏はこの経験から、潜在ニーズのある商品を先行して販売すれば、市場の競争優位性を確立できるのだと身をもって知ることになった。

美容界の新市場 “メンズビューティー” に挑む「シンビシン」代表の信念とは


取扱い商品は約1万5000点に


宇多氏が商品を選ぶ際、最も重視しているのが顧客インサイト(顧客に対する深い洞察や直感)だ。顧客と対話を重ねる中で顧客の課題や願望を見出し、それを商品販売に反映させる。
お客様は一人ひとりさまざまなニーズを持っています。ですから当社の取扱商品も必然的に増えていきました。現段階で1万5,000点以上の商材があるでしょう。お客様が何を求めているのか知るために、私自身がたびたび店舗に赴いて話しを聞くこともします。ちょっとしたお話しの中に、事業に活かせるヒントやアイデアがあるからです。まずは何よりもお客様の声を大切にし、そこに収益性、市場性、デザイン性、それに私の直感や感性も加えていきます。


美容界の新市場 “メンズビューティー” に挑む「シンビシン」代表の信念とは

近年はSNSからの情報収集も積極的に行っている。美容に詳しいユーザーとSNSを介してコンタクトを取り、得られた情報を商品開発に生かすこともある。また自社アカウントで情報発信を行い、デジタル時代に応じた顧客接点の強化も図っている。


メーカー、商社、地域ディーラーの3業態体制へ


美容業界は独特の商流を持つ。
「メーカー⇒卸商社⇒地域密着型ディーラー⇒理美容サロン」の順に商品が流れ、店舗販売にまでに2つの中間流通業者が介入する。理美容室は全国に約36万件(厚生労働省調べ)と膨大(参考までにコンビニエンスストアは約5万6,000軒/2020年)で、メーカーが各店舗と直接取引するのは極めて困難だからだ。また理美容室からの注文は1点だけなど小ロットの場合が多く、卸商社がメーカーから仕入れた商品をさらに小口化し、地域密着化した地域ディーラー(販売店)が存在する。
私たちは商社のポジションを中心に事業を展開していますが、地域ディーラーとして取引を行うこともあれば、メーカーとして自社開発商品を販売することもあります。膨大な数の商品を扱っていますが、それでも顧客ニーズに合致する商品が見つからない場合があるからです。
通常は商習慣に倣って業態間を横断することはしません。しかし私たちには横断型業態の立場を取る必要がある。
「お客様が真に望むものを届ける」ということを使命にしているからです。ですからお客様の声に近づくためにディーラーにもなりますし、それを形にするためにメーカーにもなります。


「お客様にとって最も良い商品を提案したい」という宇多氏の真っ直ぐな想いが、メーカー、商社、地域ディーラーの3業態の機能を持つ独自のビジネスモデルを創り出すことになった。


次世代美容界をけん引するメンズビューティー


宇多氏は新たな市場として、“メンズビューティー”の開拓を始めている。今年5月にはメンズ向けのオールインワンコスメ「THE.N.B.P HOMME」を販売した。

「THE.N.B.P HOMME」は、ファンデーション・アイシャドウ・ヘアシャドウ・プライマー・リップバーム・パウダー・アイブロウなど10アイテムを集約した男性用の携帯ミニ化粧台です。フタ部分にミラーが付いていて、どこでもメイク直しができます。見た目にもこだわり、持ち歩きたくなるようなスタイリッシュなデザインに仕上げてあります。ただ今の段階では”販売“よりも”認知“を優先しています。”男性がメイクをする”という新しい価値を発信して世間の注目を集めること、それがこの商品を販売した一番の目的です。


美容界の新市場 “メンズビューティー” に挑む「シンビシン」代表の信念とは
美容界の新市場 “メンズビューティー” に挑む「シンビシン」代表の信念とは


宇多氏は、メイク方法を知らない男性に対してまず必要なのは“教育”だと話す。

人は自分にとって価値があるのかわからないものにお金を払うことはしません。今はまだコンシーラー(※)が何かわからない男性が大半。ですからメイク商品を販売するだけでなくメイク方法を指南することも重要なんです。そのために「THE.N.B.P HOMME」の販売と並行して「メンズビューティーカフェ」の開設も進めています。美容室の一角にメイクブースを設置し、カフェを楽しむような気軽さでメイクを体験できるようにしています。メイクの魅力や価値を教え伝えなければ「メイクがしたい」というニーズは生まれません。
(※)コンシーラー:一般的に、シミやニキビ跡、クマや赤みなど、ファンデーションだけでは隠しきれない肌の色ムラをカバーしてくれるコスメのこと。


迷ったら、その先に「笑顔が見える」方を選ぶ


メンズメイクのように、未開拓市場には魅力もあるがリスクもある。
商社であれば商材が売れなかった場合、大量の滞留在庫を抱えるリスクがある。

これから売り出す段階の商品を「100%売れる」という確信を持って仕入れることはありません。在庫を抱えるリスクを考えると、やはり判断に迷う場合もあります。
そうした時、私はその先に人の笑顔が見えたら「やる」と判断します。この商品を世に送り出せば、こんな人たちが喜ぶだろう、あんな人たちが笑顔になるだろう。そういうイメージが見えたら、たとえ利益にならないとわかっていても私は「やる方」を選びます。


そういって宇多氏は笑顔を見せる。
経験と感性と理論的思考で戦略を練り、迷ったら「笑顔」が見える方を選ぶ。
その言葉からは「お客様が真に望むものを届けたい」という宇多氏の信念に裏付けられた経営美学が垣間見れた。



株式会社シンビシン
大阪市浪速区元町1-5-7 ナンバプラザビル8階
オフィシャルサイト:https://www.b-shin.com/






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