2020年08月24日 18:36
依頼は「龍を作ってほしい。ただし、子どもも見るので怖いものはダメだ」というだけ。もちろんノウハウはないし、材料も何を使えばいいのかさえ全く分かりません。ペンキ屋で聞いたらFRP(繊維強化プラスチック)がいいというので、型を発泡スチロールで作ったら、溶剤の樹脂で溶けてしまいました。
型を金網にして作っていったのですが、ただ壁に掛けるだけでは工夫がないということで、龍が身をくねらせて壁の中を貫く形にしました。結局、2カ月かかりましたが、どこかで面白さも感じていました。
「TVチャンピオン」という番組に出ないかという誘いがテレビ局から来ました。発泡スチロール王選手権の回です。そのころには発泡スチロールが溶けない樹脂があると教えてもらって、型はすべて発泡スチロールで作っていました。色付けはもっぱらエアブラシですが、業者に聞きに行っても門前払い。発泡スチロールのカットに使う熱線なども含めて、我流で試行錯誤と工夫を繰り返しました。
テレビでは大きい方が目立つ。審査員を見上げさせようと考えて、台座を含めて4メートルの巨大なマンモスを作りました。ライバルは2メートルのサイでしたから、大きさのインパクトで勝ったと思いましたね。
道頓堀にはうちで作ったものが10体以上ありますね。インバウンドでにぎわったついこの間までは、堺筋から道頓堀に入る観光客が、立体看板ごとに足を止めては写真を撮っていく姿をよく見ました。
元禄寿司さんの場合、最初はお皿に10貫乗せただけのデザインだったのですが、ネタ1貫を手でつまむような形にしました。道頓堀という猥雑なところですから、目立つものにしたかったんです。文楽の目も動くようにしました。
看板ですからまずは目立つこと。そこに遊び心をちょっとまぶすと大阪らしさも出てきます。金龍の龍も目がクリっとして、怖くはないし、親しみやすいでしょ。
最初は形にこだわっていました。しかし、仕上げに色を塗ることでリアルさは出ます。今では、形のウエートは4割くらいかなと思っています。
最初は若い業者向けに始めたのです。私が取り組み始めたころに、誰も教えてくれなかったから、教えられるものは教えてあげようと。その後、子ども会などから声がかかり、今は団体で希望される方に教えています。
私も子どものころ、図工は好きでしたが、必ずしも芸大で学んだ人がうまく作れるとは言えません。むしろプラモデル作りが好きだったという人の方が、早くできるようになりますね。
技術と発想は感動を生むものですから、立体造形看板は一つのアートだと思っています。しかも、出来上がったものは何も難しいものではなく、赤ちゃんからおばあちゃんまで一目見たら分かります。その文化を作ったのは自分だという思いはありますね。
道頓堀をうちの看板で埋め尽くしたいですね。