立体造形看板を大衆文化に育て上げた、気負わない社長の生き方

オオサカジン運営事務局

2020年08月24日 18:36

株式会社ポップ工芸 / 代表取締役 中村雅英 氏



壁から飛び出す恐竜の頭、大きな寿司をつまむ大きな手、アーケードにつり下げられた巨大なフグやタコ――。街中のいたるところで目にするようになったのが、立体造形看板だ。本物そっくりに、ときに特徴を誇張して人目を惹くようにできているため、宣伝効果は抜群。独学で学び、今や大阪・ミナミをはじめ国内はもとより、海外でもその作品が見られるほどになったポップ工芸の中村雅英氏に、その魅力を聞いた。





ガレージで始めた看板屋さん。金龍ラーメンの龍が転機に


看板屋を始めたのは1986年。守口市の小さなガレージで普通の平面看板を作っていたが、最初の転機が訪れたのは97年。仕事でつながりのあった人から突然、立体造形看板の依頼を受けた。それが、道頓堀にある金龍ラーメンの看板になっている巨大な龍だった。

依頼は「龍を作ってほしい。ただし、子どもも見るので怖いものはダメだ」というだけ。もちろんノウハウはないし、材料も何を使えばいいのかさえ全く分かりません。ペンキ屋で聞いたらFRP(繊維強化プラスチック)がいいというので、型を発泡スチロールで作ったら、溶剤の樹脂で溶けてしまいました。
 型を金網にして作っていったのですが、ただ壁に掛けるだけでは工夫がないということで、龍が身をくねらせて壁の中を貫く形にしました。結局、2カ月かかりましたが、どこかで面白さも感じていました。


巨大なマンモスで「TVチャンピオン」優勝!


その後も、平面看板を主にしながら、依頼を受けて、提供された原画やスケッチを元に、立体造形看板を年に1、2個作るという時期が10年ほど続いた。しかし、どっちつかずになると思って、立体造形看板1本に切り替えた。それから数年後、思いがけないチャンスが訪れた。

「TVチャンピオン」という番組に出ないかという誘いがテレビ局から来ました。発泡スチロール王選手権の回です。そのころには発泡スチロールが溶けない樹脂があると教えてもらって、型はすべて発泡スチロールで作っていました。色付けはもっぱらエアブラシですが、業者に聞きに行っても門前払い。発泡スチロールのカットに使う熱線なども含めて、我流で試行錯誤と工夫を繰り返しました。
 テレビでは大きい方が目立つ。審査員を見上げさせようと考えて、台座を含めて4メートルの巨大なマンモスを作りました。ライバルは2メートルのサイでしたから、大きさのインパクトで勝ったと思いましたね。




目立つのが第一。遊び心を加えて親しみやすさを生む


その言葉通り、見事優勝。おかげで会社へのアクセスは急増したが、依頼にはそれほどつながらなかったという。ただ、番組で他社のやり方を見て勉強させてもらったと言い、現在は、看板に限らずフィギュアやモニュメント、創作家具などあらゆる立体造形物を一貫して製作している。

道頓堀にはうちで作ったものが10体以上ありますね。インバウンドでにぎわったついこの間までは、堺筋から道頓堀に入る観光客が、立体看板ごとに足を止めては写真を撮っていく姿をよく見ました。
元禄寿司さんの場合、最初はお皿に10貫乗せただけのデザインだったのですが、ネタ1貫を手でつまむような形にしました。道頓堀という猥雑なところですから、目立つものにしたかったんです。文楽の目も動くようにしました。
 看板ですからまずは目立つこと。そこに遊び心をちょっとまぶすと大阪らしさも出てきます。金龍の龍も目がクリっとして、怖くはないし、親しみやすいでしょ。
 最初は形にこだわっていました。しかし、仕上げに色を塗ることでリアルさは出ます。今では、形のウエートは4割くらいかなと思っています。




無料造形教室で作る楽しさを広める


これまでに作ったのは1000体にものぼる。ドバイやタイ、中国にもポップ工芸製の立体造形看板が掲げられている。さらに、ハリウッド映画の全国宣伝用の巨大なヒーロー像やゴジラも。
大きな発泡スチロールを包丁でバッサリ削り落として形を作る様子は、氷彫刻を見るようだ。そんな作業場を常に開放しており、作る楽しさ、魅力を体験してもらいたいと、無料造形教室も開催している。

最初は若い業者向けに始めたのです。私が取り組み始めたころに、誰も教えてくれなかったから、教えられるものは教えてあげようと。その後、子ども会などから声がかかり、今は団体で希望される方に教えています。
私も子どものころ、図工は好きでしたが、必ずしも芸大で学んだ人がうまく作れるとは言えません。むしろプラモデル作りが好きだったという人の方が、早くできるようになりますね。


立体造形看板はだれにも通じるアート


定時に出て定時に帰るサラリーマンが嫌で始めたという看板業。始めたころは半分働き半分は旅に出るという生活を続け、今も「本当は隠居したい」とこぼす中村社長の口調に気負いはないが、やってきたことには大きな自負がある。

技術と発想は感動を生むものですから、立体造形看板は一つのアートだと思っています。しかも、出来上がったものは何も難しいものではなく、赤ちゃんからおばあちゃんまで一目見たら分かります。その文化を作ったのは自分だという思いはありますね。
道頓堀をうちの看板で埋め尽くしたいですね。





株式会社ポップ工芸
本社:〒581-0875 大阪府八尾市高安町南6-2
オフィシャルサイト:http://zoukeikanban.com//


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