創業100年。作家とのつながり生かし、新しいアートファンの掘り起こし狙う
株式会社カワチ / 代表取締役社長 河内 卓也氏
画材や額縁を商って100年。大阪の美術文化を下支えしてきたカワチ(大阪市中央区東心斎橋)だが、新型コロナウイルスの影響はやはり大きい。
来店客が減り、一部店舗の閉鎖を余儀なくされたが、河内卓也氏の目は前を向いている。強みはこれまで培ってきた約300人の作家とのコネクション。
河内氏は、「アートに関心がある人もない人も、作家とのつながりをつくってもらうことで、新しい商機を創造したい」と話す。
「大大阪時代」の息吹を、アートのカジュアル化が進む現代に
「大大阪時代」と呼ばれた、大阪が光り輝いていた時代があった。
大正時代後半から昭和初期にかけての短い期間ではあったが、人口や工業生産額などで東京市(当時)を抜いて日本第一の都市になり、経済や文化が花開いただけでなく、住む人の気持ちも晴れやかさと高揚感に溢れていた。
その時代に誕生したのが御堂筋や大阪城天守閣・中之島公会堂などだ。
カワチが生まれた1920年といえば、まさにその時代。当時、国内最大規模のホルベイン画材に勤めていた卓也社長の祖父、俊さんが独立して開業した。8年後に心斎橋に移転後、長く「心斎橋のカワチ」として知られてきた。
当時は芸術や文化も大阪、特に心斎橋に集中し、画廊もたくさんありました。戦時中には、うちの店で藤田嗣治の作品20点を預かっていたこともあります。もっとも、空襲で焼けてしまうという被害に遭いましたが…。
今は仕事でも何でも東京集中。特に若い人がみんな東京に行ってしまい、とても悔しい思いをしています。
一方で、アートの世界自体がすごく様変わりしています。若い人の間ではアートがカジュアル化し、それまでの画廊ではなくSNSを通じて有名になる人も出てきています。
デジタル化が進み、価値観やアートが多様化している時代に、画材店としても新しい形を追求して、かつての息吹を甦らせたいですね。
敷居を低く、体験型店舗で客層を広く
そうした変化を見据えて取り組んできたのが、店の敷居を低くすること。カワチの店はどこもオープンな造りで、気軽に立ち寄れる雰囲気を醸し出している。
扱っている商品も画材や額縁に限らず、文房具や漫画・建築模型…さまざまな紙類など実に多彩。そこで重視しているのが、作家とのふれあいとお客様自身の体験だ。
絵画というのはイラストや漫画と違い、大衆感があまりなく、ディープにはまった人の世界という印象があったと思うのです。でも、それでは広がりがありません。幅広くアートに関心のある人に来てほしくて、画材屋さんらしくない店づくりを意識しています。
店ではアートを体験してもらう手段としてワークショップや展覧会を開くなどして、作家さんと触れ合える機会も多くつくっています。アートのすそ野を広げるとともに、多くの作家さんを知っていただくことで、作家さんを応援する力になれればと考えています。
実は、初代も画家たちとネットワークを築いて画材の販売と普及に努力しました。この作家さんとともにという姿勢は、今も一貫しています。
オリジナル商品で「暮らしにアートをプラス」して
同様の狙いで力を入れているのが「プラスデザール」。「あなたの暮らしにアートをプラスする」というコンセプトの下、絵を描かない人にも楽しんでもらえるさまざまなオリジナル商品を提案している。
「do Art.」シリーズでは、マトリョーシカやこけし、紙芝居など平面でなくいろいろな形のものに絵を描いた商品を販売しています。切り絵専用用紙もあります。
また、「Art style」シリーズでは3Dキャンバス用フレームや切り絵専用額縁、小さな切手用額縁などの商品を企画・開発しています。こうした商品づくりにも若い作家さんに協力してもらっています。
今や大量生産の時代ではありません。自分だけのものを持ちたいと思う若い人たちの欲求に応える商品を準備しています。
コロナ禍で再発見したアートの力
100周年に水を差すように襲ってきたコロナ禍。それでも、目指す方向にブレはない。多くの作家がデザインした「感染予防ポスター」をWEB上で公開し、無料でダウンロードできるようにした。「消毒液ご自由にお使いください」「間隔をあけてお並びください」などの言葉とともに描かれたさまざまなタッチの絵は、文字だけよりも親しみやすい。
http://www.kawachigazai.co.jp/poster/
「アートの力で少しでも明るく!」をコンセプトに、作家さんに随時参加していただいています。こうした活動を通じて、作家さんと企業を結び付けられたらなと考えています。また、発表の場のなくなった作家さんの作品をネット販売する仕組みも作りました。
経済の再建と比べて芸術文化は後回しにされている感が否めませんが、アートにはさまざまな効能があります。コロナ禍で外出自粛中に家族で塗り絵をしてすっきりしたという声を聴きましたし、小さい子が絵を描くと集中力がつくことが明らかになっています。独創性を養ううえでも大いに役立ちます。これからのAIの時代を生き抜くには独創性が欠かせません。
東京一極集中とはいえ、大阪には独特の熱い気質があります。大阪に根を張って頑張っている人を、さまざまなかたちでバックアップしていきたいというのが、私たちの願いです。
株式会社カワチ
本社:大阪市中央区東心斎橋1-18-24 クロスシティ心斎橋ビル2階
オフィシャルサイト:http://www.kawachigazai.co.jp/
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