大手が寡占する鉄鋼の業界に 個人で挑んだ創業社長

日世通商株式会社 / 代表取締役 平野浩一 氏
大阪市中央区に本社を構える日世通商株式会社は、鉄鋼製品を取り扱う鉄鋼商社として1998年に創業した。社を興したのは、現在も代表取締役を務める平野浩一氏。学校を卒業後に鉄鋼商社に入社したのが、この世界に足を踏み入れるきっかけだった。とはいっても、もともと鉄鋼業界を志望していたわけではなかったのだという。

大手が寡占する鉄鋼の業界に 個人で挑んだ創業社長

たまたま、なんですよ(笑)。入った会社が鉄鋼関係で、なんか面白そうだなとは思っていました。でも本当に、ただそれだけでしたね

深い動機があって入社したわけではなかったが、仕事は面白かった。経験を積み重ねるうちに実績を上げ、業界内でも認められる存在になっていった。しかし入社から15年が経ったところで、突然に会社が解散する。同業他社からの誘いもあったが、平野氏は一念発起して独立の道を選んだ。

自分で新しい道を拓いていくのが、好きだったんです。前職でも海外輸出などの道を、自分で拓いていっていました。そんなこともあって私についてくれているユーザーさんもいましたし、独立してもなんとかやっていけるのではないかと思いましたね

とはいえ鉄鋼を扱うとなれば、大きな額の資金が必要になる。先日までいち会社員だった人間にとって、鉄鋼業界での創業はそう簡単なものではない。そんな創業期を支えたのは、周りからの温かい支援。

大手が寡占する鉄鋼の業界に 個人で挑んだ創業社長

鉄鋼は、お金のかかるビジネスなんです。当時の私は資本金があるわけでも、だれかから引き継いだものがあったわけでもありませんでした。そんな状態でも仲間のみなさんや取引先のみなさんが与信の肩代わりをしてくれたりと、すごく助けてくれたんです。あの当時のことは、今でも忘れないですね。みなさんとは、今でもお付き合いをさせていただいています。人とのつながりがあったからこそ、立ち上がりが上手くいったんだと思います

個人で鉄鋼業界に乗り出すためには、資金以外にも難関があった。今も大きく変わってはいないが、鉄鋼は大手による寡占状態にある。ここに船を漕ぎ出すために平野氏がとったのは、実直な手法だった。

小さい規模から始めるにあたって、最初に考えたのはどうやって周りと差別化するか。とてもじゃありませんが、同じ土俵では戦えませんから。だったらあとはもう、人で売るしかないじゃないかと。細かいサービスだとか、人柄だったりを強調する。要は、人が鉄を売るということです。ただ鉄を売るのではなくて、人柄で鉄を売るというような手法でやっていきました


大手が寡占する鉄鋼の業界に 個人で挑んだ創業社長

さらに大手との差別化を打ち出すにあたって、もうひとつこだわったのはスピード感だ。

大きな船は小回りが効かないし、動き出すまでにも時間がかかります。それに対して我々は、極端に言えば小回りの効くモーターボートを多数用意して、『突っ走れ!』という感じですよ(笑)。そうすることで、大手にできないスピード感が出せる。なにをもって差別化するかを創業してから何十年も追求してきて、これは今も変わりません


リーマンショックの荒波を乗り越え、
3つ目の柱となる製造業を立ち上げた



平野氏が先頭に立って牽引した日世通商社は順調に業績を伸ばし、創業から2年後の2000年に法人化。海外との取引も活発に行うなど成長を続ける。そして2006年には新たに、株式会社エコメタルを設立した。

エコメタルの主事業は、リサイクル鉄鋼原料の販売です。鉄というものは優れもので、リサイクルできるんですね。最近になってSDGsだとか脱炭素、やれカーボンニュートラルだなんだと言われていますが、今までは鉄を再生利用したようなものは鉄じゃないと言われていたんです。なのに今は大手の高炉メーカーや鉄鋼メーカーですら、『鉄はリサイクルするべき』『我々はリサイクルされた鉄を採用します』と言い始めています。そういう点で我々の取り組みは、時代の一歩先を行っていたかなと思っていますね

鉄鋼資材の輸出入から始まり、リサイクル鉄鋼原料の販売とビジネスを拡大してきた日世通商社にとって、近年の悲願でもあったことが2012年に達成される。それが3つ目の柱となる、株式会社エコパイプの設立である。エコパイプ社が行う事業は、各種鋼管の製造。同社の設立によって、自社の傘下にメーカー機能も持つことになった。

貿易という商売は、いわば右にある在庫を左に売ること。しっかりした仕入れ先としっかりした販売先があって、上手く回転していればそれでいいんです。リスクは少ないですし。単純に右から左にモノを売る商社の仕事は一見するとノーリスクなのですが、外的要因で環境に変化が起こってしまえば、流通の弱さが表面に表れて一気にリスクが出てくる。それを考えれば、使う人から作る人になるしかないよねという考えに至りました。もちろんトレードもしながら、そういう部門をひとつ立ち上げようと。製造部門はいずれやりたかった、会社としてのひとつの目標でもありましたから


大手が寡占する鉄鋼の業界に 個人で挑んだ創業社長


平野氏が製造に手を伸ばしたのは、かねてから自分たちで物作りをしたい思いを持ち続けていたのと同時に、現実的な危機に直面した経験も大きい。

2009年の、リーマンショックですよ。あれが起こったときに1kg130円まで上がっていた鉄の値段が、半分以下にまで下落したんです。当時の我々は事業規模が大きくなっていたので、それなりの在庫を抱えていました。在庫にある鉄は130円くらいで買い付けていたもので、それを今度販売するとなれば50円になる。もう、とんでもない状態ですよ。リーマンショックは素材産業、とくに我々のような鉄鋼業界には影響が大きかったです。我々自身にも反省すべき点はありましたし、同時に商社の仕事の弱点も痛感しましたね


“人が鉄を売る会社”
創業の精神は揺るがせない



エコパイプ社も順調に業績を伸ばし、大阪・南港にあった工場では手狭になったため、2022年2月に滋賀県東近江市に移転して新たな工場を開設した。本体が行う輸出入業を軸にリサイクル鉄鋼原料の販売、鉄鋼製造メーカーと、鉄にかかわるひと通りの事業を自社で行える輪が完成した。描いていた構想が形になった今、平野氏はこれからその輪を大きく広げていくことに注力する。

大手が寡占する鉄鋼の業界に 個人で挑んだ創業社長

事業の主幹たる鉄鋼は基礎資材ですから、なくなるものではありません。そのなかで我々はトレードとモノ作りに携わり、そしてもうひとつ言えば、今後は協業にもチャレンジしたい。たとえば建設部隊を立ち上げてみるとか、プロジェクトチームを立ち上げるとかですね。そうやって環境にいいビジネスモデルを作りながら、その輪を少しずつ大きくしていきたいと考えています

「それと」と言って、平野氏は話を続ける。
我々は人で勝負する会社ですから、社員満足度の高い会社にしたい。事業を円滑に展開することももちろんですが、それと同じくらいか、あるいはそれ以上に従業員が満足して働ける会社であることを追求していきます

2000年の法人化から、まもなく四半世紀を迎える。今後の50年、100年を見据えても、創業の精神である“人が鉄を売る会社”を揺るがせることはない。

大手が寡占する鉄鋼の業界に 個人で挑んだ創業社長

それはこれからも変わりませんし、我が社の経営の幹です。私としては次の世代、その次の世代ぐらいまではある程度、目星をつけたい。そんな次世代、次々世代へと創業時からの我が社の精神を受け継いでいくのも、私の役目だと思っています

この先、今以上にAIが活用される時代になったとしても、人にしかできないことは多くあるはずだ。従業員の今と未来を大切に守りながら、どんな時代になっても必要とされる会社でありたいとの思いを胸に、平野氏は自社の未来を切り拓いていく決意でいる。

日世通商株式会社
本社:大阪市中央区平野町4丁目6番16号 グロッツ・ベッケルトビル4階
オフィシャルサイト:https://nissei-trading.com/

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