中国と日本の橋渡しの実績を元に、アフターコロナ時代の新ビジネスを描く

有限会社アカシアコミュニケーションズ / 代表取締役 黒瀬道子氏

急激な経済成長で世界における存在感を飛躍的に高めた中国。日本にとっても、経済と安全保障面で無視できない存在であるだけでなく、中国からのインバウンドは、アフターコロナ時代においても大きな比重を占めることになるだろう。そんな中国にいち早く関心を持ち、中国人と日本人の橋渡し事業を進め、中国人向けの新聞「関西華文時報」を20年近く発行しているのがアカシア・コミュニケーションズの黒瀬道子氏。中国をビジネスパートナーに据えた黒瀬氏に、今後の日本と中国の関係や事業展開などについて聞いた。

中国と日本の橋渡しの実績を元に、アフターコロナ時代の新ビジネスを描く


在日中国人の生活情報誌としてスタートした「関西華文時報」


「関西華文時報」は2002年の創刊。18年間の同紙の歴史は、その間の中国の変貌ぶりを如実に示し、記事の内容も時代に応じて変化してきた。黒瀬氏は3つの時代に分けて説明する。

初期は、中国はまだ発展途上。中国人は日本で搾取されるという苦労を重ね、留学生はアルバイトに明け暮れていました。そんな在日中国人に役立つ情報を提供するのが、創刊の大きな目的でした。チケット案内、行政書士や飲食店紹介、結婚相談などを多く取り上げ、在日中国人のお悩み相談といった内容でしたね。


中国経済が成長するとともに中国人の社会的地位も上がってきたのが中期。国内製造業も安価な労働力を求めて中国へ相次いで進出し、産業の空洞化が指摘された時代だ。

経済代表団が大量に来日するようになり、中国の企業や自治体が日本企業向けの広告を打つようになりました。日中間のセミナーや各種イベント、中国への企業誘致説明会なども増えた時期でしたね。


中国と日本の橋渡しの実績を元に、アフターコロナ時代の新ビジネスを描く


訪日中国人の急増で存在感を高め、「影響力のある華文メディア」に選出


後期には中国からのインバウンドが急増。2015年に499万人で訪日外国人の国・地域別でトップになって以降、首位を譲らず、19年には959万人に倍増。訪日外国人の3割を占めるまでになった。

中国人ウェルカムという空気が広がり、富裕層だけでなく中間層も普通に日本を訪れるようになって直接対話が進みました。個人レベルの経済活動が増え、マンションの購入や転売、中国で人気の高い化粧品や日用雑貨を購入して中国で販売するといった人も多くなりました。これに伴い、日本の百貨店や不動産会社からの中国人向け広告の出稿量が増えました。


月2回発行、タブロイド判で40数ページのボリュームと多彩な記事内容を誇る「関西華文時報」は、2018年には中国国内で「世界で最も影響力のある華文メディアTOP100」に選ばれた。日本では3紙しかなく、関西では唯一だ。

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中国映画をきっかけに中国に傾斜


黒瀬氏が中国に興味を持ったきっかけは中国映画だった。中でも記憶に残るのが「芙蓉鎮(ふようちん)」。1960年代に吹き荒れた文化大革命の嵐の中で、紅衛兵に痛めつけられながらも、強く生きる女性を描いた作品だ。中国映画は中国の歴史や付き合い方を学ぶかっこうの素材になるとともに、進路決定に大きな影響を与えた。

たくさんの中国映画を見て、中国人のメンタルや思考回路が日本人と全然違うのを面白いと思いましたね。
バブルがはじけて就職氷河期を迎えていた時代です。そのまま就職するのも面白くないと思って、ワンクッション置くために、中国に遊学したのです。ちょうど、今や中国を代表する映画監督である陳凱歌(チェン・カイコ―)や張芸謀(チャン・イーモウ)らの活動期とぴったりはまって、映画に一段とのめり込み、多くの中国人と付き合ううちに中国語の語学力が急激に伸びました。私には中国語が向いているんだと思いました。



通訳・翻訳やイベント運営も。「中国人の生の声を一番聞いている」ことが力に


そんな経験を経て、中国に特化した仕事をしたいと思うようになり、北京電影学院に留学。2年間、中国の大学で日本語講師をしたり通訳や翻訳の仕事に携わったりして、中国の経済界、映画界との人脈を拡大。帰国後、個人事務所を立ち上げ、2002年、アカシア・コミュニケーションズを設立した。

会社としては「関西華文時報」の発行のほか、通訳・翻訳業、出版業、中華圏向けの広告やSNSを利用したプロモーション、販促サポートイベントの運営などを行っています。
いろいろな活動を通じて思うのは、日本人は中国人との付き合い方が下手、というより分からないということ。インバウンドブームで急に中国の一般大衆と触れ合うことになった日本の社会では、中国人に対して「声が大きい」「日本のマナーを知らない」「押しが強い」といったネガティブな声も少なからず上がりました。でも立場を変えれば中国人も日本人に違和感を覚える面は多々あります。ですから、中国人相手にビジネスをするなら、日本流を押し付けるのではなく、サービスを中国人向けにカスタマイズする必要があります。
そうした両者の間で、営業代行や業務提携の仲立ちの役割を務めてきました。私たちは、日本人の中で中国民衆の声を一番生で聞いていると自負しており、私たちだからこそお役に立てると思っています。


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アフターコロナ時代の日本の武器は医療・介護・教育


コロナ禍で中国との観光目的の往来はゼロに等しくなっているが、中国人にとって、距離的に近い日本は気軽に訪れることのできる国。米中関係がかつてなく厳しくなっているだけに、今後一層日本が選ばれやすくなるとみている。

日本には医療や介護、教育などで、中国では持ちえないスキルと実績があります。それを目的として日中間を往復する往来中国人も増えています。既に、大阪市内で中国人向けの医療・美容の拠点をつくりましたが、今後さらに拡充していく方針です。
コロナ禍で中国人だけに頼っていたところは潰れていっています。だからこそ、アフターコロナのインバウンドは、日本の強み、魅力をより強く発信していく必要があり、そうしたお手伝いもできたらと考えています。



有限会社アカシアコミュニケーションズ
オフィシャルサイト:https://kansai-chinese.com/


撮影:アカシア・コミュニケーションズが医療法人政明会春次医院と提携して手掛ける外国人向け健診センターにて(春次医院内)

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