被災者の「困りごと」に寄り添う心が発端!付加価値の高いダンボール製品で社会貢献をめざす

マツダ紙工業株式会社 代表取締役社長 松田和人 氏

2011年に東日本大震災が起きたとき、経営不振に見舞われながらも、ボランティア活動を継続した社長がいた。それが、東大阪でダンボールケースや紙器の製造販売を手がけるマツダ紙工業株式会社 代表 松田和人氏だ。
当時の苦境を乗り越えた今は、長年培ってきたものづくりの技術やノウハウを生かし、ダンボール製のチェスト(整理ダンス)や学習机など、ユニークな商品を次々と世に送り出している。
震災からちょうど10年が経った今、あらためて当時の経緯やボランティア活動が事業に与えた影響、現在の想いなどを聞いてみた。

被災者の「困りごと」に寄り添う心が発端!付加価値の高いダンボール製品で社会貢献をめざす

被災地を想い、東大阪から東日本へ駆けつけた侠気


東大阪からみた東日本は、距離的にも心理的にも遠い場所である。
震災直後の被災地の様子を見て、何か手助けをしたいと思っても、行動に移すことは容易ではない。実家や母校があったり、故郷であるならいざ知らず、縁もゆかりもない地であればなおさら。
松田氏にとっても同様だが、”困っている人を放置できない”先代譲りのボランティア精神に背中を押される形となった。

東日本大震災が起きた時、何か役に立てることはないかと考えた私は、先代である父がかつて阪神・淡路大震災の被災地へ間仕切り用ダンボールを届けていたことを思い出しました。
東日本大震災の避難所でもプライバシーの確保が問題となり始めていることを知り、現地の役所に電話して、支援の意思があることを伝えました。現場も混乱していたため、すんなりと支援が受け入れられることはありませんでした。知合いの議員や運送会社との交渉も行き詰まり、「これでは埒が明かない」そう感じた私は社員の力を借りて自ら現地へ間仕切り用ダンボールを届けることに決めたのです。


被災者の「困りごと」に寄り添う心が発端!付加価値の高いダンボール製品で社会貢献をめざす


「困りごとの解決」に端を発し、新たなダンボール製品を次々と開発


松田氏は東北出身の社員を連れて被災地へ駆けつけた。
避難所へ行くたびに耳にするのが「衣類を入れるものがない」、「着替えをするのが恥ずかしい」、「トイレで授乳している」などの“困りごと”。
長引く避難所生活を少しでも改善したい思いから、ダンボール製のチェストや簡易トイレ、女性用更衣室、授乳室を開発しては次々と現地へ搬送した。
津波に施設が押し流された保育所へは、不足した幼児用机をダンボールでこしらえて届けた。
震災から1年が経つ頃には、復興を願って行われたイベントで「ダンボール大相撲トーナメント」を企画し、大いに盛り上げた。
いつしか現地には噂を聞きつけたマスコミ数社が集まり、松田氏の支援活動をテレビや新聞で取り上げるようになった。被災者からは喜びや感謝の声が数多く寄せられた。

被災者の「困りごと」に寄り添う心が発端!付加価値の高いダンボール製品で社会貢献をめざす
被災者の「困りごと」に寄り添う心が発端!付加価値の高いダンボール製品で社会貢献をめざす


今でも大切に保管していますが、避難所で暮らしていたお年寄りの方から、後日感謝の思いを綴った筆書きによる丁寧なお手紙をいただきました。とてもありがたく、こちらが励まされる思いでした。
当時は社員にろくなボーナスも出せないような経営状況のなかでスタートしたボランティア活動。正直なところ、経営者として正しい行いなのかと何度も思い悩んだ時期がありましたが、喜んでくれる人がいることを知り、支援を続けていこうと奮い立ったのを覚えています。


ダンボールケースは本来、商品を輸送する際のハコ(外装)でしかなく、消費者からありがたがられるものではない。
ところが、被災地に届けたダンボール製品は、利用者に喜ばれ、次第に世間からの注目や関心を集めるようになった。

ダンボール製品の購入希望者が相次ぎ、思いも寄らぬ展開に


最初は、避難所生活を簡便にすることを目的として行われた商品開発だったが、日が経つにつれ、一般ユーザーから思いもよらぬ反響が出るようになった。
例えば、ダンボール製チェスト。「軽くて持ち運びやすい」、「万一、倒れても危険でない」といった理由から、高齢者や単身赴任者からの購入が相次いだ。子供向けにデザインを改良した整理ダンスなどもに好評だ。

ボランティア活動に乗り出す前から、ダンボールの製造販売だけではなく、第二、第三の“事業の柱”が必要だとは考えていました。BtoBからBtoCへ事業の幅を広げ、オリジナル製品の開発にも着手したものの、販路がなく、行き詰っていた時期。
被災地支援のなかで誕生したダンボール製品の“余波”により、新事業が活性化したことは事実です。
幼児用デスクはずっと私の頭の中にあったアイデアの1つですが、被災地でのニーズをきっかけに開発が進み、具現化することができました。


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産学連携により、ダンボール製品のラインナップが充実!


近年では、松田氏の母校でもある近畿大学と産学連携で行なった商品開発も実を結んでいる。
その1つで最新作となるのが、エコな携帯型飛沫対策ボード『ファイルdeガード』である。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、教育現場での子どもたちの身の安全などを危惧する親心に寄り添い、共同開発を進めた商品。
カバンからさっと取り出し机に広げるだけで、いつでもどこでもパーソナルスペースが確保でき、食事の際の飛沫対策はもちろん、周囲の視線を遮ることで集中力が高まる効果も期待される。ボードの内側には付箋を貼ったり、ノートやプリントを入れたりすることも可能。軽量で持ち運びにも便利で、学校生活や人が集まる場所での飲食の際での利用がおすすめだ。
東日本大震災の支援を通じて生まれたオリジナル製品は『DanRism』としてブランド化し、インターネット通販や百貨店などの催事場で購入できる。

被災者の「困りごと」に寄り添う心が発端!付加価値の高いダンボール製品で社会貢献をめざす


最後に、現在の想いや今後のビジョンをうかがった。

若い頃は会社を大きくしたい、売上伸ばしたいと考えたものでしたが、東日本大震災でボランティア活動を行ったことを機に、社会に生かされていると強く感じるようになりました。
困っていることに力を貸していると、周りが応援してくれることを体感しました。
目先の利益を追い求めなくても、世の中に役に立つものを作り続けていれば、会社は潰れないんだという自信も持つことができました。
世の中に役立つ会社であり続けることを目標にすると同時に、社員がこの会社で働いてよかったと思える組織作りに励んでいきたいと思います。



マツダ紙工業株式会社
本社:〒577-0827 大阪府東大阪市衣摺5丁目10-15
オフィシャルサイト:https://matsuda-siko.com/



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