未来を切り開いたフライパンの物語 価格競争から価値独創へ

藤田金属株式会社 / 代表取締役社長 藤田 盛一郎 氏

未来を切り開いたフライパンの物語 価格競争から価値独創へ

「ほんとに、ここ数年でいろいろ変えてきましたね。
こんなに変われるんだっていうくらい」

そう言って笑顔を見せるのは藤田金属株式会社 4代目代表取締役社長 藤田盛一郎氏(本社八尾市)。同社は1951年に創業、フライパン・鍋・ポットといった金属製家庭用品の企画開発及び製造を行ない「暮らしを豊かにする金属」というスローガンのもと、近年はオーダーメイド式フライパンや取っ手着脱式鉄フライパンなど次々とヒット商品を生み出しておられます。2年前に刷新したというロゴ入りキャップとユニフォームのTシャツ姿でカフェ風に改装した社内を軽快に闊歩する藤田氏。それは何か新しいことを始めようとする気概と、周囲を明るく和ませる雰囲気を持ちあわせている。ただ「最初から順風満帆な道を歩んできたわけではない」と、そこにはどんな紆余曲折があったのだろうか。

デフレ渦巻く苦境からのスタート


未来を切り開いたフライパンの物語 価格競争から価値独創へ

2003年、藤田氏は大学卒業とともに藤田金属へ入社した。2000年代初頭というと、長引く景気低迷や新興国製の廉価品流入などを背景に物価が下落、巷ではハンバーガーを59円で売るファストフード店や、1万円が相場だったフリースを1900円で売り始めたアパレルメーカーなどに人が殺到するような時代だった。
藤田氏は、入社早々目の当たりにした熾烈な価格競争についてこう振り返る。

「どこに行っても値段を叩かれる。売れる商品を作ればすぐに中国製の安価な類似品が出回る。こちらの希望価格はどんどん値崩れを起こす。この業界、夢ないなぁ…て思いましたね。『あんたがこの会社の社長になるんやで』って物心つく頃から創業者の祖父に言われ続けていたので、自分の代になったら事業を拡大しておっきなビルも建てて…、と最初はそんなふうに考えてたんですが、業界の状況を知って思い直しました(笑)」


かつて“ものづくり大国”として世界を圧巻した日本の製造業が、日ごとに衰退していく姿を直視すること。それが22歳の藤田氏に与えられた最初の課題だった。

脱・価格至上主義市場のための試行錯誤


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品質・性能だけでは通用しない価格至上主義の市場から脱しなければ、会社を存続させることはできないと悟った藤田氏は、商品の新しい売り方を模索し始めた。
そのひとつが、2009年に発売した「冷え~るタンブラー」だった。
アルミのヒヤッとした質感や保冷効果が好評で、とんとん拍子で全国のさまざまな店舗に並べられるまでになった。
「何万個売ったかな。思いのほか、反響がありました。これを機に雑貨専門店やギフト専門店への販路開拓にも成功しました」

タンブラーの販売を通じ、付加価値の提案次第で売れる商品は作れるのだという手ごたえを得られたが、比較的模倣しやすい特長だったので、翌年には安価な輸入品に取って替わってしまった。
しかし藤田氏は挫けず、新たな商品開発にチャレンジを続けました。
そして2015年に完成させたのが、「フライパン物語」と名付けたカスタマイズ式フライパンだった。

ニッチな市場で刺さる価値を売る


「フライパン市場の大半を占めているのは、焦げ付き防止のフッ素加工を施した、アルミ製の軽くて安価なフライパンです。それに対し鉄製フライパンのシェアは5%弱。そういう市場なんです」

「フライパン物語」は、この5%のニッチなニーズに向けて作られた。鉄製フライパンのユーザーは、料理を美味しく仕上げることができる特性や使い込むほどに風合いを増す質感など、便利・効率・価格ではない部分に購入価値を見出す傾向がある。
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そんなこだわり志向のユーザーにとって、 材質や色などを自分の好みに組合わせ、「世界に1つのだけのフライパン」としてカスタマイズできる「フライパン物語」は、この上なく魅力的な商品となった。
その結果、藤田氏が想定していたより速いスピードで「フライパン物語」は売上を伸ばし、販売3か月後には1万本単位の法人受注も入る大ヒット商品となった。

他社が模倣困難な独自の強み


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「フライパン物語」の強みは、何といっても1,040通りものカスタマイズバリエーションにある。これを可能にしているのが、企画開発・材料調達・加工・検品・出荷・販売など、特殊塗装以外を全て自社で行う一貫生産体制だ。
「社内で全行程を把握できるので、作業や改善スピードが速いっていうのはありますね。あとは価格のバランス。分業先の賃金上乗せがないので、商品コストを抑えることができます」

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また、鉄製フライパンの重さを軽減する「ヘラ絞り加工」や、事前に熱処理を施し空焼きを不要にする「ハードテンパー加工」といった独自技術も、他社にとって模倣困難な藤田金属ならではの強みになっている。
それらの加工技術は、藤田氏の父・俊介氏や弟2人を含め、総勢17名という少数気鋭の職人たちの卓越した技からなせるもので、お客様に喜んでいただけるものを作り続けている。

異業種間の共創で掴んだ新境地


「ただ、いい時は続かないです。絶対。逆風が吹いた時のために、何かしておかなきゃいけない。だからいつも次の新商品について考えてますね」

藤田氏は「フライパン物語」の好調な売上に甘んずることなく、すぐに次の商品について思案し始めた。
そんな時に出会ったのが、プロダクトデザインを得意とするクリエイティブユニット「TENT(テント)」だった。
当時、双方ともに新商品開発パートナーを探しており、出会いは必然的とも思えるほどのタイミングだった。
話し合いによって決まったのは、「“つくる”と“たべる”を1つにする」をコンセプトとして、調理後そのままお皿として活用できる、取っ手着脱式鉄製フライパンの共同開発だった。
その後商品化までに2年の歳月をかけたという。その間どんな試行錯誤があったのだろうか。
「持ち手部分がむちゃくちゃ大変でしたね。一番強度が必要だし、慎重に作らないといけない。あとは重さに耐えられなくてお皿部分がグニャって曲がったりもしました。途中、完成させるの無理かもしれないと思いました。でもお互いやり始めたからには、、、パートナーがいなかったら、やめてたかもしれないです(笑)」

試作・再考・試作・再考。その繰り返しが、徐々に商品を洗練させていった。
そして2018年、商品名を「FRYING PAN JIU(フライパンジュウ)」とし、ついに藤田金属とTENT初の合作となる鉄製フライパンができあがった。
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ビジュアルは、広いフチのある鉄製プレートに、着脱式の木製取っ手が付くという非常にシンプルなもの。無駄な装飾がない分、素材の質感や形状のディテールがよく見える。実際に触ると機能的でなめらかな操作が心地よく、“道具は使われてこそ美しい”と「用の美」を説いた柳宗悦氏の思想を彷彿させるところがある。

◇柳宗悦(やなぎ むねよし)
柳 宗悦は、民藝運動を起こした思想家、美学者、宗教哲学者。名前はしばしば「そうえつ」と読まれ、欧文においても「Soetsu」と表記される。


新しいビジネスモデルの獲得


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デザイナーであるTENT(テント)との共同開発を通じ、藤田氏は異業種間共創を通じてひとつの商品を作るという新しいビジネスモデルも作り上げた。
「これからも異業種コラボは増えると思います。たとえば、最近作った鉄製の卓上ランプは、新しくエンジニアの方に入ってもらいました。各分野のプロの方に入ってもらった方がお互いの強さを活かして商品開発できますし、単独で考えるより絶対いいですね」

広がる国際的な視野


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藤田氏は「FRYING PAN JIU(フライパンジュウ)」の持つ可能性を確かなものにするため、ドイツやフランスの国際展示会などに出展した。
フランスやドイツの展示会で、いい反響をもらうことができました。このフライパンなら賞を獲りに行けるかもしれないと思い、そのあと世界3大デザイン賞のレッド・ドット・デザイン賞とiFデザインアワードに出品し、ダブル受賞も果たしました」
国際的な舞台で名前を広める機会を得たことでブランディングが図れ、海外からの受注も増えています

◇レッド・ドット・デザイン賞
ドイツ、エッセンのDesign Zentrum Nordrhein Westfalen(ノルトライン=ヴェストファーレンデザインセンター)が主催する国際的なプロダクトデザイン賞である。プロダクトデザイン、デザインエージェンシー、デザインコンセプトのジャンルにおいて賞が存在する。1955年に創設されたこの賞はデザイナーと製造業者に応募資格があり、受賞者は年に1回開催されるセレモニー (Ceremony) で賞を授与される。受賞プロダクトはエッセンの歴史的なツォルフェアアイン炭鉱業遺産群の構内にある「レッド・ドット・デザイン・ミュージアム」に展示される。


◇iFデザインアワード
ドイツ・ハノーファーを拠点とする、デザイン振興のための国際的な組織インダストリー・フォーラム・デザイン・ハノーファー(iF)が1953年から主催し、毎年全世界の工業製品等を対象に優れたデザインを選定する。iFデザイン賞はIDEA賞(アメリカ)、レッドドット・デザイン賞(ドイツ)と並び「世界3大デザイン賞」と呼ばれている。プロダクト、パッケージ、コミュニケーション、サービスデザイン、建築、インテリア/建築、プロフェッショナルコンセプトの7つのカテゴリから優秀デザインを討議し、各分野の年間優秀デザインを表彰する。


今後の展開


2020年11月、藤田氏は正式に代表就任した。
会社のトップとして、どのような未来を眺めているのだろうか。
「今は小規模事業者として世界に挑戦する、というのを目標にしてます。いや、最近は世界よりもっと広く宇宙を目指そうって言ったりしてます(笑)。あと、パッと思いついて始めようとしているのが、移動式フライパン販売カーです。公園のイベントとかお祭りとか、地域のイベントに入り込んでいきたいです。万博にも出展したいし、目標はいろいろありますね。それと今一番したいことは、2年前に施設に入った祖父に今の会社を見てもらうこと。実はコロナにより施設から出られなく、祖父はまだ改装後の新社屋を見れてないんです。すぐ忘れるかもしれませんが、見てほしい。新しくなった会社で一緒に写真を撮りたいんです」

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現在藤田金属では、ショップ併設のオープンファクトリーや、工場内映像のYouTube配信など、商品だけでなく会社そのものを通じてのコミュニケーションも開始しており、社内は一層活気づいている。
藤田金属の枠にとらわれない挑戦に、これからもまだまだ目が離せそうにありません。


藤田金属株式会社
本社:〒581-0035 大阪府八尾市西弓削3丁目8番地
オフィシャルサイト:http://www.fujita-kinzoku.jp/


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