価値創造サイクルの「観光まちづくり」で、日本文化を紡ぐ

バリューマネジメント株式会社 代表取締役 他力野淳 氏 

文化財を保全のために利活用する


日本国内に約150万棟あるという歴史的建造物。今そのほとんどが、老朽化や財源不足のために維持困難な状況に陥っている。そんな文化資源喪失の危機を、ビジネスの力で解決するのがバリューマネジメント株式会社(大阪市北区)だ。

価値創造サイクルの「観光まちづくり」で、日本文化を紡ぐ



同社は、歴史的建造物の保全と収益化を同時に行い、その建造物が持続可能な収益サイクルを身につけ、自走できるようになるまでの経営全般を代行するという独自のビジネスモデルを持つ。
実際に手掛けた案件は、経営の傾いた老舗料理旅館を婚礼式場にした「鮒鶴京都鴨川リゾート」、遊休施設をレストラン&バンケットにした「大阪城西の丸庭園 大阪迎賓館」、廃業後放置されていた酒蔵を宿泊施設にした「竹田城 城下町ホテル EN」など。創建当時の内観・外観に極力手を加えず、時代のニーズに沿ったコンテンツでソフト部分のみ再構築し、客足の絶えない人気施設として建造物を甦らせる。

ビジネスモデルの特長は、保全と収益化に係るマーケットの分析・プランの策定・プランの実行・収益サイクルの黒字化・黒字化した収益サイクルの定着といった一連の業務を全て自社で行う点にある。マネジメント力・マーケティング力・実践力など複合的なスキルがないと成立しないモデルのため、業界内で唯一無二の存在となっている。
クライアントを大別すると、民間・神社仏閣・行政の3者。相続税の負担過多、檀家・氏子離れによる寄付金の減少、人口減少による税金の減収などを理由に、所有する建造物の維持に窮した依頼者から、連日相談の声が寄せられるという。
こうした多様な案件を取りまとめ、進むべき方向を指し示し、その価値を論理的にかつ情熱的に語り、最終的な決断と責任を引き受ける人物が代表取締役 他力野淳氏だ。
同氏は、「人は、失った後に大事なものに気づくが、本当は失う前にそれに気づかなければいけない」と事業の根底にある切実な想いを語る。その想いの原点について、現在の事業展開を今後の展望と共に聞いた。

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“施設単位”から“まち単位”へと広がる事業


2005年、他力野氏を含む3人のメンバーで設立したバリューマネジメント株式会社。歴史的建造物の保全による社会貢献を目的とし、使われなくなった旧邸宅を結婚式場へ再生させる事業からスタートした。その後着々と実績を積み、今では従業員900名規模の企業に成長している。直近では、どのような事業に取り組んでいるのだろうか。

現在は“施設単位”から“まち単位”へと事業範囲を拡大させ、過疎化によって衰退するまち全体の再生・保全などを行っています。都市部と比較すると、地方は施設が小さく立地的にも集客しにくいというデメリットがありますが、個別の1棟ではなくエリア内の10棟を1単位で捉え、面積=収益という比例関係にある施設ビジネスを成立させています。
最近では、愛媛県の大洲市と観光まちづくりにおける連携協定を結び、大洲城天守閣に宿泊できる日本初の『キャッスルステイ』などをスタートさせました。
今後、大洲城周辺地区の再生にも着手し、観光客を呼び込める魅力的なコンテンツを増やしていく予定です。
集客によってその土地にお金が落ちるようになれば、参入する事業者が増え、同時に新しい雇用も生まれます。その結果、地域のGDPが向上し、永続的なまちの活性化につなげることができます。大洲市で実践するこの『まちをマネタイズする』ためのフローをフォーマット化し、他の地域でも活用できるよう進めているところです。
また、まち単位で事業展開するようになりましたので、国や自治体との連携が強まりました。
自治体の議会へ参加したり、行政機関へ社員を出向させることも仕事のひとつとなっています。私たちは、税金に頼らない民間企業ならではの視点を持ち、しがらみや利害関係のない第三者的立場から発言しますので、どんな課題にも比較的円滑に介入することができます。これは私たちの強みだと言えるでしょう。官民連携は事業を進めるうえで大変重要なポイントになりますので、国・自治体のカウンターパートナーとしての役割を、今後さらに強めていこうと考えています。

歴史的建造物の保全からスタートし、今やまち全体の保全にまで取り組むようになったバリューマネジメント。その業務範囲は幅広く、文化財の取扱い・施設内レストランの運営・地域雇用の促進・ステークホルダー間の調整・まちづくりのためのマスタープラン策定など、日に日にその数が増えている。

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まちづくり事業の原点


他力野氏の事業の原点には、阪神・淡路大震災での被災経験があるという。
1995年1月17日 兵庫県淡路島北部を震源として起こった最大規模の地震は、当時他力野氏が住んでいた神戸のまちを一瞬にして惨状に変えた。震災を通じ、他力野氏は何を感じ、何を考えたのだろうか。

昨日までの当たり前が突然無くなってしまった現実を前に、ただ自分の無力さを感じました。まちの復旧作業にも当たりましたが徒労しか得られず、生活のために給水車を待つような日々が続きました。当時、大学を卒業したら何かビジネスを始めるつもりでしたが、生活を守ることさえままならないのに、社会に通用するビジネスなどできるはずもないと思い直しました。起業時期を30歳に修正し、20代の間は自分が成すべき事業について徹底的に考えることにしました。


失った神戸のまちは戻らない。失う前にしておくべきことは何だったのか。失ってしまった今できることは何なのか。自問を繰り返した末、他力野氏は「まちの中心地にあり、経済活動の中核にもなるホテルという場所を活用し、まちや社会の活性化に繋がる事業をする」という構想にたどり着いた。そしてここで得たビジョンが、他力野氏の展開する事業の原点となる。

進むべき方向を掴んだ他力野氏は、ホテルマーケットに関れることを理由に、大学卒業後リクルートに入社した。入社後は、創刊間もない「ゼクシィ」にて営業を担当し、営業先のホテルから業界の仕組みや施設運営について学んだ。その経験は、後に施設ビジネスをすることになる他力野氏にとって、大いに役立つことになった。

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人に重きを置く


Windows95の登場、マザーズの開設、新規公開株の過熱などを背景に、IT系を中心としたベンチャー企業が次々生まれた1990年代後半から2000年代初頭。この時期、他力野氏もベンチャー企業に身を置いていた。そこで抱いたある違和感が、「人に重きを置く」という経営方針を決めるきっかけとなったという。それはどんな違和感だったのだろうか。

起業前に、事業立上げを経験しておきたいと考え、リクルートからデジットというベンチャー企業に転職し、関西支社長として立ち上げを成功させました。当時はインターネット黎明期。その波に合わせて誕生したベンチャー企業が、世の中に溢れていました。
どこのベンチャーも成長を最優先するため、頻繁に従業員が辞め、事業拡大の度に経営陣が総入れ替えとなるような人事が当たり前という状況。私はそんな光景を見て、それは違うのではないかと違和感を抱きました。人は事業を大きくするための道具ではないはずです。
不要と判断した人材は切り捨て、少数気鋭のプロ集団として事業を成功させることもできますが、私は多くの人の共感と協力によって、その人たちと共に自分の事業を成功させたいと考えました。そしてそれを自分の会社の事業方針にしようと決めました。人に重きを置いて経営する、これは今も変わりません。


そんな経営姿勢は、「働きがいのある会社ランキング」への上位ランクインや、インターン応募者7000名という人数の多さに自ずと反映されている。

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また、自社採用した人材だけでなく、再生事業先の既存社員の雇用も一手に引き受けるという。事業者の安易な参入によって、地域で受け継がれてきた文化が形骸化してしまうことほど悲しいことはないが、地域の従事者を継続的に雇用すれば、そうした事態を防ぐことにもつながる。


「日本の文化を紡ぐ」という理念


バリューマネジメントは、「日本の文化を紡ぐ」という理念を掲げている。
“文化”とは、他力野氏にとってどのようなものを指すのか。

文化とは、時代を越えてずっと必要とされ続けているもの、またその証のことを指します。
江戸時代の人は、急須でお茶を淹れて楽しみました。現代人は、ペットボトルに入れたお茶を楽しむようになりました。表層的・視覚的な違いはありますが、お茶を楽しむという本質、つまりお茶文化は、時代を越えて必要とされ続けているわけです。
その背景には、お茶という文化をペットボトルに変えてでも守っていこうとした人の意志があります。文化を守ろうとする人の意志は、その文化を育んだ土地への愛着や誇りを醸成させる源にもなります。ですから、地域の人たちの文化に対する意識を育むための土壌を作ることも、まちづくりをする私たちの役目だと考えています。文化財にまつわる古い文献を読み解き、その内容を地域の人に伝えたりするのもそのひとつとなるでしょう。



サスティナブル・ツーリズムへ


他力野氏は、内閣官房観光戦略実行推進室 歴史的資源を活用した観光まちづくりのユニットメンバーでもある。
今後さらに城・神社仏閣・名勝などを保全のために活用し、日本の有形無形の文化資源を魅力的に国内外へ発信し、低炭素社会化などの環境課題に対してはサスティナブル・ツーリズム(※)の推進をしていくという。

(※)サスティナブル・ツーリズム:「持続可能な観光」。国連世界観光機関では、持続可能な観光を「旅行者、産業、環境および地域コミュニティのニーズを満たしつつ、現在と将来にわたる経済・社会・環境への影響を十分に考慮した観光」と定義している。


価値創造サイクルの「観光まちづくり」で、日本文化を紡ぐ


これからも、社会の課題と向き合いながら事業を進めていきます。社会の課題を解決するために何ができるか。それを考えることが私たちの手掛ける事業の起点です。企業というのは、社会の課題を解決させるためのひとつの形態にすぎません。大事なのは、世の中に必要とされることをする、ということ。
今、世の中から必要とされないように見えるものでも、本質的な価値を持つものであれば、時代にアジャスト(調整)させることで、再び必要とされるものとして甦らせることができます。
『価値あるものをマネジメントの力で』という社名には、そんな意味を込めています。



バリューマネジメント株式会社
本社:大阪府大阪市北区大深町4-20 グランフロント大阪タワーA17F
オフィシャルサイト:https://vmc.co.jp/

社長インタビューとは?

社長インタビューは、大阪で活躍する企業の経営者の思いやビジョン・成功の秘訣などを掘り下げる人気コンテンツです。 商品誕生および事業開始秘話から現在までの道標や、経営で特に意識をされているところ、これからの成長において求める人材… 様々な視点から、企業様の魅力を発信致します。現在、大阪府下の中小企業様を120社以上の取材を通じ、「大阪 社長」「大阪 社長インタビュー」といったビッグワードで検索上位表示の実績があります。取材のお申し込みについては、下記よりお問合せください。


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