有機野菜の本当の「おいしさ」それは次世代の健康への架け橋

株式会社KIMIYUGlobal / 代表取締役 松本達也 氏

人の体は、その人が食べたものと飲んだものでできています。人は呼吸だけで栄養を摂ることはできないですし、光合成で養分を生成することもできない。だからこそ、日々何を食べているかがとても大切なんです。

有機野菜の本当の「おいしさ」それは次世代の健康への架け橋

そう話すのは、株式会社KIMIYUGlobal(キミユグローバル)代表取締役 松本達也氏。同社は※①無農薬※②無添加※③無化調をコンセプトに、現在大阪市内で6店舗の飲食店を経営している。農薬や除草剤を使用しない農法は、安心・安全な野菜の収穫だけでなく、土壌や周辺河川の浄化、ひいては海洋汚染の抑制にもつながり、その循環が人の健康も促進させる――という松本氏のビジョンのもと、2018年には自社農園で※④有機野菜の栽培を開始。今年は医療法人と共同で、※⑤未病をコンセプトにした野菜販売サイトも開設予定。もともと無農薬や無添加にこだわる飲食店をするつもりではなかったという松本氏。どのようにして現在のスタイルを確立していったのだろうか。事業の変遷とともに伺った。

※①無農薬:農薬を使わずに米や野菜などの植物を栽培する方法。
※②無添加:加食品表示の基本的なルールである「食品表示法」や同法に基づいて設定された「食品表示基準」では、「何らかの食品添加物を使用していない」ことを「無添加」としている。
※③無化調:むかちょうとは旨み調味料(化学調味料)を使わないことをいう。
※④有機野菜:有機野菜とは農薬や化学肥料を使わずに栽培したもの。正確には、農林水産省が定めたJAS規格に適合していて、有機JASマークが付いた野菜を指す。
※⑤未病:「未病」とは、発病には至らないものの軽い症状がある状態。五臓六腑がつながっているという考えが根本にあり、軽いうちに異常を見つけて病気を予防するという考え方。


起業の経緯


単純に飲食が好きだったんです。おいしいものを食べるのも作るのも好き。人が集まって楽しめる空間が好き。それが飲食業で起業しようと思った一番の理由ですね。おいしいのはもちろんですが、体にいい料理を提供したいという想いは開業前から強くありました。私が無毛症という先天性の疾患を持って生まれたことが大きく影響しているでしょう。これは原因不明の疾患で、何がどう作用して発症するか解明されていません。だからこそ、人の体に取り込まれる食べ物にはちゃんと配慮しなくてはいけないと考えました。

「無毛症」とは、頭皮または全身に生まれつき毛が生えないことを症状に持つ希少疾患を指す。遺伝子変異が原因とされるが解明に至っておらず、現在も明確な治療法は確立されていない。松本氏には生まれた時から髪の毛がない。両親は松本氏のために治療先を探して全国を奔走したが、これといった方法は見つからなかった。体はいたって健康なのに、見た目が少し人と違う―。少なからずコンプレックスを持っていた松本氏。転機となったのは、大学生時代の留学経験だった。

大学生時代にアメリカに留学したんです。そこは金髪・黒髪・パンチパーマ・スキンヘッドと、みんなそれぞれ違うことが普通の世界でした。髪だけではく肌の色も違う。それも当たり前。私が抱いていた劣等感は一気になくなり「髪の毛がない」ということを自分の個性として認められるようになりました。でも「なんで自分がこういうふうに生まれたのか」という問いは残りました。

なぜ自分は、特異な体質を持って生まれてきたのだろうか。自身の体に対する問いは、のちに松本氏が事業を展開するうえで大きなテーマになった。

山下農園との出合い


大学卒業後は商社に就職しました。商社とメーカー(農家さん)との納得しがたい利害関係を目の当たりしながら4年半で商社を退職。その後起業のための経営ノウハウを学ぶためコンサルティング会社に転職しました。IT部門の配属でしたが同時に飲食業のクライアントも担当したので、飲食店経営についても学ぶことが出来ました。そんな自分の事業の方向を模索する中、高知で「山下農園」を経営する※⑥山下一穂さんの本に出合ったんです。有機農業を思想としてではなく、ビジネスとして実践する山下さんの経営に共感し、ご本人に直接話を聞きたくなり、すぐに高知まで足を運びました。

※⑥山下一穂:昭和25年に高知市に生まれ、高校時代バンド活動にのめりこみドラマーとして銀座や新宿等のクラブ、ディスコに出演。その後帰郷。学習塾で教師として働く。30代半ばからしばしば体調を崩すようになり、自然と無農薬野菜等の体によい食べ物に目を向けるうになる。そして40歳の時に実家を継ぎ、家の前の90坪程度の畑で家庭菜園を始めたことが 有機農業の道へ進むきっかけとなった。その後、48歳で新規就農。「同じつくるならいいものを」と当初から有機農業にこだわり有機野菜に携わる。2017年11月ご逝去
<著書>
2004年6月出版「超かんたん・無農薬有機農業」
2012年2月出版「無農薬野菜づくりの新鉄則―No.1農業塾の塾長が教える!家庭菜園で有機栽培する最新ノウハウ42」

有機野菜の本当の「おいしさ」それは次世代の健康への架け橋

山下一穂氏は、収益性向上と環境保全を同時に実現させる「超自然農法」を提唱した有機農業の先駆者。有機農業を持続可能な産業として成立させるために、自身で考案した同農法を実践。それを著書に記した。松本氏は「自然を尊重しながら土を育て、健全で美しい作物を栽培する。そのうえで農家の収益性向上も実現する」という山下氏の視点や考え方に強く惹かれた。

電話をすると快く訪問を受け入れていただきました。現地では実際に山下さんの農園を見させてもらい、山下さんと一緒に畑を歩いていると、生えていたミズナを「食べてみ」と渡されたんです。それがめちゃくちゃおいしかった。ハーブの香りがして甘いんですよ。本当においしいものはこうやって作られるんだと、その時の感動が今の事業の方向性を決定づけることになりました。

なんでこんなにおいしいの?」「それは有機野菜だから」という文脈を持つ飲食店にしようと松本氏は考えた。知識としてではなく、体験として「おいしさ」を伝えられる力を持つのが有機野菜だと、山下氏から渡されたミズナが教えてくれたのだ。この力を使って、おいしくて体にいい料理を提供する飲食店を世に広めていこうと松本氏は決心する。

3年目の迷い



松本氏は、開業後も“本当のおいしさ”を追求し続けた。近郊の有機農家を訪ね、自分の足でよいと思える野菜を探し回った。調味料の原材料表示を注意深く見て、何かわからないものが含まれるものは使用しなくなった。すると自然に無農薬・無添加・無化調の料理を提供する現在の店舗スタイルが形作られていった。

市販のドレッシングは自家製ドレッシングに切り替え、原材料に添加物が含まれる調味料は使わなくなりました。起業して3年目くらいには、全ての料理が無添加・無化調になっていましたね。ただそれと同時に悩みも生まれました。化学調味料であれば料理経験の浅いスタッフでも“それなりの味”に仕上げることができるし、原価も抑えることができます。その反面、有機野菜や無添加のものを扱うには料理人の腕が必要だし、価格も安くはない。「無農薬・無添加・無化調の店」というのは、個人店のビジネスモデルとしては魅力的ですが、店舗展開を考える私の考えには不向きかもしれないと悩みました。


有機野菜の本当の「おいしさ」それは次世代の健康への架け橋

自身の事業に迷いを感じ始めた松本氏は、盛和塾や倫理法人会といった経営者が集まる会に参加するようになった。そこには、自分と同じように悩みながらも、真摯に経営と向き合う経営者たちの姿があった。

経営者の方々と関わることで、自分の信じるやり方でいいんだと思えました。利益追求や事業拡大のために、自分の信念を曲げる必要はない。有機野菜や無添加調味料は、人工的な操作がないためコントロールが難しい。それでも本当においしいものを提供するならば、今のスタイルで間違っていないと確信しました。

松本氏は「無農薬・無添加・無化調」のコンセプトを変えず、店舗展開に挑戦し、評判は人づてに広がり、3店舗・4店舗・5店舗と着実に事業を拡大していった。

自社農園をスタート



店舗展開は順調だったが、事業が大きくなるにつれ、松本氏は自分の想いがスタッフに浸透していかない不安を感じるようになった。

有機野菜の本当の「おいしさ」それは次世代の健康への架け橋
店舗が増えたことで、私とスタッフの間に温度差ができるようになりました。私は仕入れ先となる有機農家さんのところへ行くので、生産者の想いを理解する機会が多くありました。でも現場で忙しく働くスタッフにはそうした機会がほとんどありません。私たちの店は自然由来のデリケートな食材を多く扱うため、スタッフの理解がないと店でバラツキが出て全体的な味の統一感が出しにくくなってしまいます。なぜこうしたスタイルの店をしているのか、メンバーにしっかりと共通の理解をしたうえで事業に携わってほしい。そのために何ができるかと考えて始めたのが「自社農園」なんです。

有機野菜の本当の「おいしさ」それは次世代の健康への架け橋

そんな中、松本氏は八尾市にある「東山ベジブル」のオーナー大西氏にコンタクトを取り、休耕地となっていた畑の一部を借りる形で自社農園をスタートさせた。大西氏は、初回面会時に作業服と長靴姿で現れた松本氏の姿を見て、「この方なら野菜に対しての想いもわかってもらえそうだ」と思い取引を快諾したという。現在は「東山ベジブル」で収穫した野菜の取引もしている。

店で提供する野菜を、100%自社農園のものにすることは考えていません。自社農園の主な目的は社員、アルバイトのスタッフメンバーの体験と知識強化です。さらに、今ではお客様の農業体験の場としても活用しています。また「自社農園の野菜を提供するレストラン」というブランディングは、競争の激しい飲食業界において他社との差別化にもなりますし、また野菜は自社農園だけで完結させることなく「東山ベジブル」さんや全国の有機農家さんからも仕入れるようにしています。有機野菜の場合JAさんの全量買い取り適応外となって、農家さんの販路が不安定なため、おいしくて体によい野菜を作っておられる農家のみなさんを応援したいんです。今は事業の拡大と同時に、農家さんの収入拡大をお手伝いすることも目指しながらこのビジネスモデルを広め、農業活性化に繋がるようなコンサルティング事業を進めようと考えています。

日本には「有機野菜」としての認定を受けなくとも代々無農薬野菜を栽培してきた農家や、あえて認定を受けない小規模有機農家などが多数存在し、松本氏はそうした農家とのつながりをとても大切にしている

未病と食をつなぐ新たな展開



今年に入り、松本氏は新たなチャレンジを進めている。
実はとある医療関係者と共同で、近々有機野菜の通販サイトを開設する予定なんです。食を通じて未病を推進することをコンセプトにした新しい取り組みです。これから遺伝子に対する治療も進んでいくでしょうが、そもそも治療を受けなければならない人を減らすことができないかと考えています。食べたものの影響がどこでどう現れるかは非常に特定しにくい。私のように、原因を特定できない疾患が突然現れることもある。人の体は、その人が食べたものと飲んだものでできています。事業を通じ「おいしくて体にいいもの」を提供し、健全な体を次世代につないでいく。それが私の使命だと考えています。

有機野菜の本当の「おいしさ」それは次世代の健康への架け橋

農林水産省は、国際基準を満たす有機農業を2050年までに農地全体の25%、100万ヘクタールにまで増やすことを目標に掲げている。また、有機農業に移行することが難しい農家は、農薬や化学肥料の削減に取り組んでもらい、農業全体での農薬の使用を50%、化学肥料を30%削減するとしている。かなり高い目標設定だが、「SDGs(持続可能な開発目標)」の実現を目指す世界的な動きが、日本の有機農業促進を後押しする形になっている。試行錯誤を重ねながら自身の事業を切り開いてきた松本氏、今、新たな追い風が吹き始めている。

株式会社KIMIYUGlobal(キミユグローバル)
本社:〒530-0023大阪市北区黒崎町12-11
オフィシャルサイト:https://kimiyu.co.jp/

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