糸から縫製まで、全ての技術が大阪にある。危機を乗り越えた「町工場ビジネス」

三恵メリヤス株式会社 専務取締役 三木 健氏(次期代表)

驚異的な技術や知見を持つにも関わらず、人知れず廃業していく町工場が増加している。
グローバル化に伴い元請け先の業態転換や海外進出が加速し、経営安定に見合う受注量を確保できなくなっていることが大きな理由だ。日本の高度経済成長を支えてきた下請け制だが、経済環境や人口構造の変化した現代ではうまく機能しなくなっている。
今はもう昔と違い、「町工場は下請けとして黒子に徹する」という時代ではなくなりました。これからは自分たちの誇るべきモノづくりを自分たちで発信し、工場としての認知度を自分たちで高めていくことが必要。どんなによい製品を作っても、買い手の購入選択肢の中に入らなければ無いも同然だからです。主体的に事業展開していかなければ、激変するこの時代を生き抜くことはできません。
町工場はもっと前に出て、工場の名前で指名を受けるくらいにならないと。


と話すのは、繊維産業の街として栄えた大阪・中崎町で1926年に創業した縫製メーカー 三恵メリヤス株式会社 専務取締役 三木健氏だ。

糸から縫製まで、全ての技術が大阪にある。危機を乗り越えた「町工場ビジネス」

2017年に三木氏は地元企業6社とともにファクトリーブランド(※1)「EIJI(エイジ)」を立ち上げ、素材と製法にこだわり抜いたTシャツを開発。発売と同時に製造に関わる町工場の個性や想いも発信し、その価値に共感したユーザーから多くの支持を得ることができた。
「町工場ビジネスには可能性がある」と言葉に力を込める三木氏。
来期4代目代表として、その辣腕が期待されている。
大ヒットした高級Tシャツ「EIJI」の開発経緯や今後の展望について聞いた。

(※1)ファクトリーブランド:その名の通り工場(factory:ファクトリー)が立ち上げたブランドのこと。
通常、アパレル業界内の工場(縫製工場)とは基本的にメーカーからの発注を受け、下請け的な形で存在する。工場が自ら市場に流通、つまり小売りしていること。



町工場の衰退、熟練技の衝撃


三木氏が三恵メリヤスに入社したのは2014年。大学時代に同じ大学の仲間とともに留学支援事業を手掛けた。
オーストラリア・アメリカ・カナダ・イギリスと次から次へと拠点は順調に拡大していた。

そんな時、代表取締役社長で父親でもある三木得生氏から「そろそろ帰ってこないか」と電話が入る。
父からの事業の後継ぎの電話であった。
この勧誘は三木健氏(以降三木氏)が入社するまでに、実に1年半にも及んだ。

30歳手前という頃でした。順調に事業を拡げている時だったので大変迷いましたが、最終的には三恵メリヤスという会社、そしてそこで働いてくれている人たちに対する想いの方が勝り、事業を継ぐことを前提に帰国することを決めました。


帰国後、三木氏は実際に工場で働く職人の熟練技を見て衝撃を受けた。

全くの業界素人でしたが、「これはすごいことをしている」というのが一目でわかりました。
職人の圧倒的な技術力に衝撃を受けたほどです。

あえて旧型ミシンを使い、人の手で繊細な調整を加えながら一枚一枚丁寧に仕上げていくんです。
スウェットパーカーの縫製を初めて見た時は感動さえ覚えました。シンプルな形状で、一見すると普通のパーカーと何ら変わらないんですが、触ると抜群に柔らかくて心地いい。
通常は耐久性を重視して石油系原料の縫い糸を使いますが、当社は着心地良さを優先してコットン糸を使います。それだけで袖口に手を通した時の印象が全く異なるんです。また、作業効率を良くするために前身頃と後身頃を両脇で縫製する方法が現在主流になっていますが、当社は筒状の布を使い背中で縫製する方法を取ります。
縫い目が肌に当たるストレスを軽減し、着る人がリラックスできるようにするためです。


糸から縫製まで、全ての技術が大阪にある。危機を乗り越えた「町工場ビジネス」


三恵メリヤスは「効率優先の量産商品は作らない」ことを経営方針とし、本物志向のユーザーから一定のニーズを確保できていた。
しかし三木氏は、ほどなくして繊維産業全体の脆弱さを痛感することになる。

日本に帰ってきて間もなくして、長く付き合いのあった染工場が倒産してしまいました。
あわてて探した染工場もボイラーが破損して廃業。次に依頼した先も火災に遭い、事業を撤退してしまったんです。繊維産業の仕事は、紡績、染色、裁断、縫製など細かく分業化されていて、どこか一つが途切れたら自社の事業も成り立たたなくなるのです。
立て続けに起こった閉業を目の当たりにして、「このままでは業界そのものが存続できなくなる」と、大きな危機感を抱きました。
また、素晴らしい技術を持つ職人がいるにも関わらず、それを活かす場が人知れずなくなっていく状況を何とかしたいと強く感じました。


糸から縫製まで、全ての技術が大阪にある。危機を乗り越えた「町工場ビジネス」


最高の技術と最高の素材で作るTシャツ「EIJI」


90年代からアパレル市場はグローバル化が進み、安価な輸入商品が同市場を占有。輸入浸透率は増加の一途をたどり、2014年には90%を超えていた。日ごとに厳しくなる環境下をどう生き抜いていけばよいか。
思案した三木氏は、数珠繋ぎの分業体制をプラスに方向転換し、各分野の技術力を集結させた最高品質のTシャツを作るアイデアを思いつく。
このアイデアの背景には、入社後の三木氏の何もできない素人目線から来る“余裕”が大きかった。

私たちの強みは、
人の手だからこそ繊細で高度な加工技術を実現できること。
分業体制だからこそ、それぞれが担う分野の技術の磨き上げに集中して、超一流の技術にまで押し上げることができること。

この強みを最高品質の素材を使って表現しようと試みたのが「EIJI(エイジ)」です。


三木氏の提案は、無謀といえるほど高い品質を求めるものだった。
希望通りに作ろうとすれば採算が全く合わない。しかし絶対的な品質の差を出さないと、「自分たちの技術力」を伝えることを目的とした「EIJI」の意義がなくなってしまう。
三木氏は最上級レベルの技術で仕上げてほしいと懇願し、各町工場の職人の協力を仰いだ。
熱意にほだされた職人たちとの間で次第に結束が強まっていき、2年の歳月をかけたのち「EIJI」を完成することができた。

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11の社名入りのタグ ~EIJIに集結させた町工場力~


同ブランドは「一生着られるTシャツ」をコンセプトに掲げ、何がプリントされているかよりも、「着心地や素材の良さ」をとことん追求した。
生地には世界最高峰のオーガニックコットン「アルティメイトピマ」を100%使用。
一般的なTシャツは20・30番手(※2)の糸を撚(よ)るが、同品は80番手と極めて細い糸を撚り、上品な柔らかさと美しい光沢を引き出す。通常の倍にあたる40ゲージ(※3)で編み込むことで、洗濯崩れや襟よれを起こしにくい耐久性も持たせた。
生涯補償を約束し、ほつれや破け、首の伸びが気になる場合は修理依頼できる。

背中のタグには、三恵メリヤスを含め製造に関わった計11社の地元工場名を印字
購入者と工場間の直接的なコミュニケーション創出につなげることを意図した。
サイズ展開はXXSからXXLまでの7種類。
パターンオーダーやフルオーダーを依頼することもできる。

(※2)「番手」:毛番手や綿番手、麻番手がある。三恵メリヤスは糸番手である。1kgの重さで1kmの長さを「1番手」とする。 1kgの重さで2kmの長さになる糸は「2番手」。 つまり、1番手は2番手よりも太い糸ということになる。
(※3)「ゲージ」:繊維業界の「ゲージ」とは、「編んだ時の1インチ間の編み針の数」。
数字が大きくなるほど、編み目の細かい生地になる。
因みに「加工されて生地になったときの1インチ間のニットの数」では無い。
これは、ほとんどの生地が加工する工程で、横方向に縮むためである。


糸から縫製まで、全ての技術が大阪にある。危機を乗り越えた「町工場ビジネス」


初回はクラウドファンディングを活用して販売した。
価格は一万円以上と通常のTシャツより高値だが、価格に見合った価値があると好評を経て、その後百貨店催事などにもたびたび出店するようになった。

現在は海外展開の拡大を視野に入れ、ニューヨークを拠点に輸出販売にも注力する。

現在の売上げ3分の1は海外部門が占めています。
世界規模で見ると、繊維産業はまだまだ成長市場。ニッチ市場を狙っても十分なボリュームが見込めます。今は欧米が主な取引先ですが、経済発展に伴い新興国でのニーズも伸びると予測しています。


糸から縫製まで、全ての技術が大阪にある。危機を乗り越えた「町工場ビジネス」

町工場をつなぐ、ブランド・コミュニティの展開


今後について、三木氏はブランド・コミュニティ(※4)の展開を構想する。

長年培ってきた技術と知識を資産にして、新たな展開を切り開いていけるはずです。
たとえば「EIJI」をブランド・コミュニティとして捉えれば、「○○工場で愛用する裁ちばさみ」「○○工場の職人が使う同ハンガー」といった商品展開があってもいい。
魅力的な情報発信をするようになれば、自ずと人が集まって人材不足も解消されます。町工場ビジネスには十分に光があり、可能性があります。


(※4)ブランド・コミュニティ:ブランドのファンの間で社会的な関係でつくられた集合をもとに、特定化された、地理的な制限がなくつくられたコミュニティであり、特定のブランド化された商品やサービスを囲んだコミュニティ。


来年4代目社長となる三木健氏。
100年企業を見据え、その目には町工場の明るい未来が見えている。

糸から縫製まで、全ての技術が大阪にある。危機を乗り越えた「町工場ビジネス」



三恵メリヤス株式会社
大阪市北区中崎西2-3-28
オフィシャルサイト:https://www.sankei.fm/
「EIJI」サイト:https://eiji-o.jp/



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